第36話 攻略不可能、噂のダンジョン
夏休みが明け、いつものメンバーにフリュオリーネを加え、いつもの食堂で食事をしていた。
こんなにのんびりとした日常を過ごすのは久しぶりだ。
休み前は何して遊ぼうかいろいろ考えていたのに、内戦が始まってそれどころではなくなったのだ。
結局、ダンジョン探索もできなかったしな。
「そういえばダン。夏休みに言っていた面白そうなダンジョンって、どんなやつだ。もう行ってきたのか」
「ああ、あれか。お前が好きそうなクエストだったので、とってある。古代魔法文明関係だ」
「面白そうだな」
「実は最近ギルドでも話題になっているクエストで、まだどのパーティーも依頼を達成できていないんだ。それでクエストのランクがどんどん上がっていき、昨日ついにランクAのクエストになってしまった」
「魔獣が強いのか」
「それもある。序盤からやたら強い魔獣が出てくるようなんだが、名のあるパーティーでも第13層より先にはどうしても進めないらしい」
「というと」
「なんでも魔法の障壁があって、強引に進もうとすると突然体が真っ二つになって死ぬらしい」
「・・・・・」
なんか恐いな。
「ただ例の古代の祭壇らしいものもあって、また新しい魔法を手にいれるチャンスかもしれないぞ」
知覚魔法か。あれは新入生歓迎ダンジョンというイベントで行った「エッシャー洞窟の古代魔法遺跡発掘」というクエスト中に得たものだ。未発見の魔法を入手できるチャンスがあるのなら、是非行ってみたい。
「その魔法の障壁に近づかなければ平気なんだろ。新魔法だけでも入手しておきたい。みんなで行ってみるか」
「よし行くか!本格的な攻略にはある程度まとまった休みを使った方がいいが、それまでは週末ごとに少しずつ進めてもいいと思うぞ。問題はパーティーメンバーをどうするかだな。ランクAのクエストになってしまったから、どこかのランクB以上のパーティーに入れてもらえるよう交渉しなければならないな」
「じゃあ早速、放課後にギルドに行って情報収集とメンバー探しから始めるか」
「ちなみにだな、俺は夏休みにクエストをいくつかこなして、ランクCに上がったぞ。マールもだ」
「それはよかったな。俺たち夏休みは戦争以外何もしていなかったから、まだDのままだよ」
「で、結局お前たち全員クエストに参加したいと」
放課後ギルドに集まった俺たちを見て、ダンがげんなりした。
集まったのは、俺とネオン、カイン、マール、セレーネ、フリュオリーネ、それにネオン親衛隊の姿もあった。さらにはパーラとアネットまでもが。
なお、ギルド協定により伯爵以上の上級貴族はギルドを利用できないため、ダーシュとアレンは不参加だ。
ユーリはそもそもダンジョンが嫌いらしい。
「ギルド協定って何だ?」
俺の疑問に窓口嬢が答えてくれた。
「ギルドは冒険者の互助組織で、クエストの報酬で生活が成り立つように支援しているものなの。貴族は強い魔力を持っているので、魔導師としてパーティーメンバーに加わってくれると助かるのだけど、単独でクエストを乱獲されると他の冒険者の生活が成り立たなくなる。だから、王国と協定を結び、伯爵位以上の貴族はギルドを使用できないようにしたり、なるべく貴族単独のパーティーを作らせないようにしているの。まぁ中には身分を偽ってギルドに登録している貴族もいるけどね」
「なるほど。ありがとう受付嬢さん。・・・・・じゃあ、初めての人はギルド登録からだな。しかし全部で21名か。こんな人数を入れてくれるランクBパーティーなんてあるのか?」
そこへ後ろから、この夏ずっと行動を共にした、馴染みのある声が聞こえた。
「よう、アゾートじゃないか、無事だったんだな」
「少佐。そちらこそご無事で」
サー少佐とはフェルーム領で別れて以来だ。
奥さんと二人で身を隠していたそうだが、フォスファーの敗戦によりこうして元の生活に戻ってこれたのか。
「「「隊長に敬礼!」」」
ズザっと音がしたかと思うと、ネオン親衛隊とセレーネが敬礼をしていた。
そういえばセレーネもあのブートキャンプみたいなのに参加していたな。
「うむ。お前たちも全員無事で何よりだ」
「「「ハッ!」」」
「・・・・・」
「ところで、可憐な美少女をたくさん引き連れて、こんなむさ苦しいギルドに何の用だ」
「実は「クレイドルの森ダンジョン探索」を受けるために、ランクB以上のパーティーに臨時で入れてもらえないかと思って」
「攻略不可能ともっぱら噂のダンジョンか。みんな一山当てようと躍起になってるからパーティーはいくらでもあるだろうが、この人数はさすがに多すぎるだろう。お前たちは貴族で金はあるんだから、ランクA、Bの冒険者を雇い入れて、新しくパーティーを作ればいいだろう」
「なるほど、それはいい考えですね。少佐にもお願いできますか」
「報酬次第だがいいぞ。俺はBだから条件達成まであと2,3名必要だな。掲示板に募集をかけておけば食いついて来るやつもいるだろう。しかしこれだけのメンバーだ。俺たちみたいなのがいなくても戦力としては十分すぎると思うのだが、ギルドのルールは面倒だな」
「冒険者ランクで言えば、Cが3人で、あとは全員Dですからね。戦力はともかく、学校の部活なのでクエストの達成ポイントが足りないんですよね。2年生のセレーネでもCですから」
俺はセレーネの方をちらっと見た。
「セレーネがランクCか。単純な攻撃力ならランクAを超えてるぞ。それにそこにいるのは、あの時の敵軍の大将じゃないのか」
少佐は、フリュオリーネの方を見た。
「ええ。でも今は彼女も味方で、ランクは俺と同じDです」
「・・・・・」
「そういえばクエストとは関係ないのですが、また銃装騎兵隊の面倒を見てもらっていいですか。戦功の褒賞に賜ったプロメテウス領に銃装騎兵隊を転属させたので、改めて少佐に彼らの指揮をお願いしたいのです。報酬と移動の魔石ははずみます」
「それは願ったりかなったりだ。冒険者との二足の草鞋になるが、これからよろしく頼むよ、領主様」
その後俺たちは、例のクエストの情報収集のため、ギルドの冒険者たちに話を聞いてまわった。セレーネ、ダン、マールにはそれなりに馴染みの冒険者が多く、みんな協力的だった。
得られた情報をまとめるとこんな感じだ。
「クレイドルの森ダンジョン探索」ランクA
依頼内容は、シャルタガール侯爵領東部クレイドルの森に発見されたダンジョン内にある古代魔法文明の遺跡調査の護衛、または第13層にある魔法障壁の突破方法の解明。
ダンジョン入り口の転移陣は、各層攻略者を次の層まで転移させることができる。クラン登録すれば複数パーティーを同時に100名まで転移させることができる。
ダンジョンは王国魔法協会の管轄であり、古代魔法文明の遺物については協会が所有権を有するとのこと。それ以外の財宝については、冒険者の所有を認められるらしい。
方針は決まった。
「クレイドルの森まではかなり遠いので、ギルドの転移陣を使って一度にジャンプするには魔力が足りない。だから最初にプロメテウス領までジャンプして、魔力回復を待ってからクレイドルまでジャンプする」
「そんなことしたら、ダンジョンで魔力が足りなくならないか」
「何時間か休みを取れば自然回復する。全回復ではないが何とかなるはずだ」
「わかった。しばらくは週末ごとに少しずつ攻略していこう。ただまとまった休日がほしいところだが、次の冬休みまでだいぶあるよな」
「それなら、秋の叙勲式を利用しようかと思う」
「叙勲式?」
「俺の男爵位や、フェルーム家の子爵位など、今回昇爵を正式に発効するために、王様から叙勲を受けるんだ。王都まで往復3週間かかるため、その間は学園を休むことができる。今回のパーティーメンバーを俺が王都へ行くための護衛騎士として学園に申請できれば、みんな休める。俺たちなら叙勲式の日だけ王都にジャンプすればいいから、ダンジョン探索に時間をまわせるという仕掛けだ」
「頭いいなお前。そうと決まれば、さっそく今週末から攻略開始だ!」
「「「おーーー!」」」
用事も終わったので、ギルド窓口でメンバー募集の依頼を出して帰ろうとすると、後ろから肩を強く捕まれた。
「ちょっと兄ちゃん、待ちな」
振り返るとガラの悪そうな男たちがニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。
あまり見ない顔だな。この街の冒険者ではないのか。
「かわいいお姉ちゃんをたくさん連れてきて、随分と意気がってるな。悪いことは言わん、姉ちゃんたちをここにおいて、お前たち男は消えな」
「イヒヒヒ。姉ちゃんたちは俺たちが代わりにかわいがっといてやるよ」
俺たち騎士学園生を知らないとは、こいつら余所者か。
ギルドの中でのケンカはご法度のはずだが、こういう場合どうしたらいいのか。
「お前らバカか?この人達はボロンブラーク騎士学園の生徒さんだぞ、お貴族様だ。失礼な口を利いてんじゃねえ」
この街の冒険者たちが押さえてくれたが、
「何がお貴族様だよ。金持ちの道楽でギルドにこられちゃ、こっちが迷惑なんだよ。俺たちは『蒼き旋風のバーバリアンズ』だ」
「なんだって?あの『蒼バリ』か!」
「ランクAパーティーに一番近いと言われている」
「なんでこの街に?」
え?有名人なの、この人達?
ギルド内がザワめき始めた。
「わかったなら、女をおいてとっとと立ち去れ。お坊っちゃんよ」
そういうと男は俺の胸元を締め上げた。
「まあ待てよお前ら。ギルド内でのケンカはご法度だろ。やるなら裏の闘技場でやれ」
少佐が仲裁に入ってくれた。
「そうだな。このガキどもを血祭りに上げて、お姉ちゃんたちに俺たち大人の魅力を見せつけてやるか」
闘技場では、『蒼バリ』の7名のひげ面のオッサンと、俺、ネオン、ダン、カインの4名が対峙していた。
「おいおいおい、いくら何でも4人で勝てると思ってるのか。後ろの姉ちゃん達の力を借りた方がいいんじゃないか」
「女をいたぶるのも悪くねえな。女の相手は俺にやらせろや」
クズめ。
俺はみんなを集めて、どうするか相談した。
俺たちのメンバーが決まり、ギルド職員立ち会いのもと決闘が始まった。相手を殺す以外はなんでもOKで、降参させるか戦闘不能にすれば勝ちである。
また、パーティーの勝敗は、大将が負けを認めるまでつかない。
うちのメンバーは、学園の闘技大会の順位が低い方から、俺、ネオン、ダン、カインの順に出場。そのあとの女性陣はアネット、セレーネ、最後にフリュオリーネと続く。
女性陣はかなりお怒りのようだ。メンバーの選定がガチである。
「では、第一試合はじめ」
一番手は俺だ。
さてランクA間近のパーティーの実力とはどれほどのものなのか。頭は悪そうだが、決して侮ってはいけない。
まずは様子見のファイアーを放つ。
パリン!
ファイアーは確かに発動し、相手に命中したのだがファイアーが弾かれてしまった。
相手は無傷である。
「なんだと?」
「そんな魔法効かねえよ、バーカ」
威力が足りなかったのか。それならエクスプロージョンで。
爆裂魔法が炸裂するも、相手はやはり無傷だった。
魔法自体が無効化されるのか?
「危ねえガキだな。そんな大魔法使いやがって」
無傷だが、冷や汗を流すひげ親父。
それなら物理攻撃だ。超高速知覚を解放し、超速で打撃を繰り出す。
さすがに俺のスピードについていけず、面白いように攻撃がひげ親父にヒットする。
だが無傷。ダメージが通らない。
どういう事だ?
パリン
また、何かが割れる音がした。俺はさらに攻撃を続ける。だが相手は無傷だ。
パリン
「ちょっと待った!」
ん?
「この護符貴重なんだよ、ちょっと攻撃を止めてくれ」
なるほど、そういうことか。
俺は容赦なくファイアーを連射した。
ファイアー パリン
ファイアー パリン
ファイアー パリン
ファイアー パリン
ファイアー パリン
ファイアー パリン
ファイアー ぐわっ
よし、護符が全て失くなったようだな。さらにファイアーを撃ち続けると、ダメージをもろにくらったひげ親父は3発目で戦闘不能となった。
俺の勝ちだ。
「第二試合はじめ!」
ネオンが俺と同じようにファイアーを乱れ射つ。
「お前もか。降参だ降参! こんなの金がいくらあっても足りねえ」
ネオンはあっさりと勝利をつかんだ。これで2勝。
「ちょっと待ってくれ。他のやつらもファイアーを連発するのか?」
『蒼バリ』のひげ大将が恐る恐る聞いてきた。
「いや俺たちはそんなことできない。剣で勝負だ」
「そ、そうか。よし試合再開だ!」
「・・・・・」
ひょっとして、こいつら。
第三試合、第四試合は真っ向からの冒険者らしい闘いだったが、ダンもカインも危なげなく勝利した。
このクラスの冒険者よりも遥かに強いんだな、この二人。
そしていよいよ第五試合、アネットの登場だ。どんな闘い方をするのか興味深い。ちなみに、俺たちは4勝ですでに勝ち越しているが、相手の大将が負けを認めない限り試合は続く。
「やっとお姉ちゃんたちの順番がきた。ここからが本番だウヒヒヒ」
「第五試合はじめ!」
開始早々アネットが唱えたのは魔法防御シールドだった。
キーン
相手のひげ親父が剣を叩きつけるが、バリアーはびくともしない。
そしてアネットの「えい」という掛け声とともに、バリアーが前方に飛びだす。バリアーに押されたひげ親父が後ろへ吹き飛び、バリアーと闘技場の壁の間に挟まれてめり込んだ。
なにこの攻撃、恐っ。
ひげ親父がピクリとも動かず戦闘不能となったためアネットの勝利となった。
ひげ親父たちがドン引きしている。
「さあ次は私の番ね。アゾートによくも乱暴なことしてくれたわね。覚悟しなさい」
セレーネがお怒りだ。
「メチャクチャ美人じゃねーか。これだったら、むしろボコボコにされたい」
「羨ましいなお前、俺に変わってくれよ」
「嫌だね」
セレーネはこのひげ親父たちのやり取りを、汚物を見る目で見ている。
「第六試合はじめ!」
セレーネは初手フレアーを選択。
いきなり相手のひげ親父を業火が包み込む。
その業火が消えることなく、いつまでもいつまでも持続する。
パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、ぎゃあーーー!
試合開始直後からひげ親父がセレーネに一歩も近付くことなく、戦闘不能により敗北。
セレーネの勝利だ。
「よーし、わかった。俺たちの負けだ。おとなしくこの街から出ていくから、」
『蒼バリ』のひげ大将の言葉を遮るようにフリュオリーネが放った中級魔法サンダーストームが炸裂し、ひげ大将の全身に電撃が走る。
ひげ大将は全ての護符を破壊された上に、致死すれすれの電撃を浴びせかけられて失神した。
「アゾート様に対する無礼が、この程度で許されるとは思わないでほしいものね」
扇子型の魔法杖で口許を覆って、氷のような眼差しで侮蔑するフリュオリーネ。
まさに氷の女王であった。
観客席の大声援の中、サー少佐がギルド職員に耳元でささやいた。
「なあ、こいつらの強さは変なランクAのパーティーよりも上だと思うが、それでも例のクエスト受注できないのか?」
「その・・・ギルド本部が決めたルールですので、私どもの判断だけではどうしてもダメなんです」
「せっかくお膳立てまでしてやったのに、しょうがねえなお前らは。まったく」
応援よろしくお願いします。




