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第346話 鳥人族の主張

 ゴブリン王国の玉座に座る俺の姿に、ただ唖然とするフリュとヒルデ大尉。


 そしてカンカンに激怒した鳥人族の族長と幹部たちが玉座の前にどっかと腰を降ろすと、早くゴブリン王を呼んでこいと俺に向かって文句を言いだした。


 そんな来客たちを前に、ドン宰相がその巨大な棍棒を地面に叩きつけて声を張り上げた。


 ドゴーーンッ!


「魔王様の前で頭が高い! 全員控えおろうっ!」


 そしてさっきまでフィリアに平伏して、地面に頭を擦り付けていたホブゴブリンたちも、一斉に立ち上がると地面に棍棒を叩きつけた。



 ドゴーーン! ドゴーーン! ドゴーーン!



 カオスである。



 ホブゴフリンたちの迫力に思わずひれ伏してしまった鳥人族だったが、それでも顔を上げた族長が、


「きょ、今日は犬人族への攻撃を急にやめた件で抗議に来た。ゴボス王はどちらにおられる」


 するとドン宰相が族長をギロリと睨むと、


「ゴボスはもう王ではない! こちらにいらっしゃる魔王様が我らの新たな王だ」


 そして怪訝な目で俺を見る鳥人族の族長。


「・・・いやそこに座っているのは人族。ランドン=アスター帝国軍の士官のようだが」


 この族長の言っていることは正しい。俺は犬人族への攻撃を止めるために王のふりをしている、帝国軍のアーネスト中尉だからな。


「黙れっ! ここにおられる方こそ、ゴボス王を倒して我がゴブリン王国の新たな支配者となられた、魔王メルクリウス様である!」


 げっ!


 俺は犬人族と鳥人族ともめごとが片付いたらとっととここを出て行く予定なのに、ドンのやつ、俺が王だと完全に信じきってしまっている。


 脅しが効きすぎたのか・・・。


「ゴボス王を倒しただと!」


 だが鳥人族の族長が信じられないという口調でドンに聞き返す。他の鳥人たちも口々に、


「あの最凶最悪の悪食王をまさか・・・」


「あの暴君を倒せる者など世界に何人もいないはず。それを帝国軍の士官がたった一人で倒せる訳がない」


「ああ、そんなの絶対にウソだ! 我々をここから帰らせるためにウソをついているに違いない。さあ早くゴボス王と会わせてくれ」


 口々に抗議の声を上げる鳥人族たち。


 ていうかあのボスゴブリン、「ゴボス王」っていう名前だったんだな。しかも最凶最悪とか悪食王とか、メチャクチャ評判が悪かった。すると、


「アーネスト中尉、私はカトレアからボスゴブリンを倒したって聞いていたけど、いくつもある巣穴のどれか一つにいるホブゴフリンだと思っていたの。まさか本当にゴボス王を倒しちゃったの?」


 ヒルデ大尉が腰に手を当て仁王立ちになっている。やばっ、あの顔は怒っているのか・・・。


「いや、その・・・一応帝国軍の亜人ルールは守ったつもりで、犬人族への攻撃を止めるようにゴボス王にお願いしたら断られて、それであいつがいきなり攻撃を仕掛けて来たから反撃をしたまでで・・・。ほら、自分の身を守るためならOKって言ってましたよね」


 俺はルール違反がなかったことを必死に弁明する。


 俺が何を恐れているのか。


 そう、南方未開エリアを出入禁止にされることだ。出禁だけは本当に勘弁してくれ。だが、


「アーネスト中尉は本当にあのゴボス王を倒してしまったのね・・・そこまで強いとは正直思っていなかったけど、遠足の優勝者は伊達じゃないってことね」


 よく見ると、ヒルデ大尉は怒っているのではなく、感心した目で俺をみていた。


「どういうこと?」


「この前も言ったと思うけど、このゴブリン王国は帝国軍がマークしていた危険な集団なの。スタンピードを起こす危険性が高く、ミジェロ基地には対鬼人族専用部隊の派遣を要請したところだったのよ」


「派遣要請したのかよっ!」


「でもよくあのゴボス王を一人で倒せたわね」


「・・・確かにあいつ強かったな。あんな巨体なのにスピードもメチャクチャ速くて、ちょっとありえないレベルだったよ。それでもクロム皇帝やセレーネほどではなかったし、ローレシアとは戦ったことがないけど、彼女なら楽勝なんじゃね?」


「比較対象がおかしいでしょ! うちの皇帝と女帝や帝都防衛システムの中の人と一緒にしないでよ!」




 だが今のやり取りを聞いていた鳥人族は、ゴボス王が倒されたことが事実であると理解した。


「わかった。ではアーネスト中尉がこのゴブリン王国の新たな王であることは認めよう」


「別に認めてくれなくてもいいよ」


「それではアーネスト中尉・・・いやゴブリン王よ」


「ゴブリン王と言うのだけは、絶対にやめてくれ!」


「では魔王メルクリウスに頼みがある。直ちに犬人族への攻撃を再開してくれ」


「断る」


 俺は即答するが、


「ではゴブリン王国に差し出した娘たちを返してもらおう。さあ早くここに連れてきてくれ」


「差し出した? やはりあの娘たちはあなたが」


「どうした。犬人族を攻撃するか、娘たちを今すぐ返すか、そのどちらかにしてもらおう」


「・・・あの娘たちなら俺が保護しているが、鳥人族の里に返した後はどうするつもりだ」


「そりゃあ貴重な娘たちだから、若い衆と結婚させて子供を産ませて・・・」


「そんな貴重な娘たちなら、なぜゴブリンなんかに差し出したんだ。俺がここに来た時にはもう・・・」


 俺が言葉を言い淀むと、族長は一瞬悔しそうな顔をしたものの、


「ではすでに報酬は受け取られたということなので、娘たちは返していただかなくて結構。直ちに犬人族への攻撃を再開してください。これは契約です」


「契約・・・」


 かなり胸糞の悪い話だが、ゴボス王と族長の間ではそういう約束がなされたのだろう。俺が犬人族を攻撃することは絶対にないが、ゴブリン王国と鳥人族のトラブルについては無視することもできない。


 鳥人族の抱える問題を少し聞いてみよう。


「では族長。まず状況を確認したいのだが、なぜ鳥人族はいつも犬人族を目の敵にするんだ。犬人族の族長がとても困っていたぞ」


 俺がそう言うと、鳥人族の族長は顔を真っ赤にして怒りだした。


「ふざけるな! 盗人猛々しいとはこの事だ!」





 鳥人族の族長の主張はこうだ。


 あの鉱山を最初に狙っていたのは鳥人族で、多大な犠牲を払いつつ長い期間をかけてドワーフを追い詰めていったらしい。


 だが鳥人族の特徴でもある大きな翼が邪魔をして、小さなドワーフに鉱山の狭い坑道の中に逃げ込まれれば手の出しようがなくなり、敵を降伏させる決め手に欠いていたようだ。


 そこで同じ獣人族である犬人族の協力を仰いで共同戦線を張ったところ、ドワーフを鉱山から追い出してくれたのはいいが、代わりに犬人族に奪われてしまったそうだ。


 鳥人族は、鉱山を明け渡してもらうよう犬人族に再三要求したが全く応じてもらえず、犬人族は鉱山に里まで作って定住してしまった。


 それで頭に来たので犬人族を攻撃したら、魔石を譲るからそれで許してほしいと懇願された。


 もともとは魔石を使って食料の生産性を上げるのが目的だったのでそれで手を打ったのだが、最初は無償だった魔石も、色々な理由をつけてはどんどん値上がりしていった。


 アイツらは楽して儲けて、その分を兵力の増強に当てて鳥人族を牽制し、我々は食料の調達に人手を取られて兵士になどに貴重な人材は回せない。


 そうこうしているうちに国力を完全に逆転されて、魔石は奴らの言い値になってしまった。


 我々はただ必要な魔石が手に入れられれば良かっただけなのに、あの強欲な犬人族は我々からむしり取ることしか考えていない。


 このままでは里の民を養っていけないため、貴重な娘たちを泣く泣くゴブリンに差し出し、犬人族を滅ぼしてもらうことにしたと。


 ゴブリンなら魔石が嫌いだから鉱山を手に入れようとは思わないし、犬人族の女さえ手に入れば、それで満足する奴らだから安心だったという。





 族長の話を聞き終わった俺は、フリュとヒルデ大尉の顔を見た。二人ともうんざりとした表情で、コクリとうなずいた。


「はああ・・・・面倒な話に巻き込まれてしまった」


 犬人族の主張を聞いた時は、鳥人族はなんて酷い奴らだと思ったが、立場が変われば話は違って見える。これは両者を同じテーブルにつけさせないと話が前に進まない。


「鳥人族の話は分かったがここはやはり犬人族の族長も交えて話し合った方がいい」


「断る! 全部あいつらが悪いんだから、魔王メルクリウスはゴブリン兵を率いて犬人族の奴らを攻撃をしてくれればいいんだ!」


 この族長、全く取り付く島がない。フリュ達もこのやり取りで随分と手を焼いていたようだ。


「族長は何か勘違いをしているようだが、話合いと言っても誰が悪いかを決める裁判ではなく、互いに解決策を探るものだ。問題となる事柄をお互いに出しあって相手から条件を引き出し、現状よりましな状態を作っていく。戦争だって相手を全滅させることが目的ではなく、領土や賠償金をせしめる経済活動の一環みたいなものだろ? それと同じことを話し合いで行う、つまり外交だよ」


「魔王の言っていることはさっぱり理解できないし、我々は断固として話し合いには応じん」


 ダメだコイツ。


 このオヤジは完全に意固地になっていて、俺の話を聞くつもりはないらしい。理屈で説得できないのなら脅すか・・・。


「では俺はもうこの件には一切タッチしない。あんたとゴボス王の約束なんか知らねえし、大事な里の娘たちをゴブリンにくれてやるようなクソ野郎の里なんかもうどうにでもなれ」


 そして玉座から立ち上がった俺は、みんなを連れてここから立ち去ろうとした。すると族長が、


「ちょっと待ってくれ! ならゴボス王とのお約束は誰が果たすんだ」


「だからもう知らねえって言ってるだろ。俺はゴブリン王国からいなくなるし、後の事はそこにいるドン宰相に相談すればいいじゃん。ただし今度は何人の娘を要求されるか分からないし、ひょっとしたらそのまま鳥人族の里に攻め込まれるかもな。ウシシシシ」


 すると示し合わせたようにドン宰相が、


「鳥人族の里か。メスの数は犬人族よりも多いから、こっちの方が攻めがいがあるな。あっそうだ、今度は犬人族の味方をして犬人族の娘もいただければ、メスの数がさらに増えておいしいな、ゴブフフフ」


 すると顔色を真っ青にした族長が、


「わ、分かった! 応じる! 話し合いには応じるから、それだけはやめてくれ!」





 俺はカトレアに通信をつなぐと、鳥人族との話し合いをするから犬人族の族長にもこちらに来てもらうよう頼んだ。


 犬人族の族長は二つ返事でOKし、俺たちの軍用転移陣を使ってここまで転移してくることになった。


「・・・アゾートくん、私たちも行った方がいい?」


「ゴブリンの巣穴は薄汚くて臭いから、女子にはあまりお勧めできないな。それよりゴブリン兵が完全に撤収するまでそこを守っていて欲しいし、その後はフレイヤー1番機でみんなをここに運んで来てくれ。この話し合いが終わったら、いよいよ最初の目的地であるエルフの里に行くぞ」


「・・・わかった。じゃあ、話し合い頑張ってね」


 そしてフリュにも2番機をここに持ってくるように言うと、犬人族と鳥人族の話合いを始める。

次回、決着


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2国ではどうにもならない話を第三者が仲裁するのは当然ですね。ただこれ外務省の仕事では。 [気になる点] ゴブリンたちの統治権はランドン=アスター帝国かメルクリウス=シリウス教王国かどちらに…
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