第330話 エピローグ①
ようやく本章のエピローグです
長いので2つに分けました
ブロマイン帝国との戦争で終始した1年が終わり、次の年がやってきた。
2か月近くかけてメルクリウス騎士団を領地まで連れ帰った私リーズは、学園の生徒たちを全員連れて、ボロンブラーク騎士学園に戻った。
そして学園が再開されると、その初日に全校生徒を講堂に集めた。
そう、私はもうすぐ最高学年の3年生。そしてこの学園の生徒会長を務めることになったのだ。
去年はダーシュ生徒会長のサポート役として副会長を務めたが、今年は戦争で生徒会長選ができなかったためそのまま持ち上がりで生徒会長になった。
副会長にはシュトレイマン派のクロリーネ様と、中立派のカレン様にお願いし、今日の朝礼が新生徒会の初仕事となる。
そして朝礼も滞りなく終了して、生徒たちを解散させようとしたその時、講堂の舞台に突然魔法陣が展開すると、女子生徒たちがぞろぞろと転移してきた。
黒いとんがり帽子が可愛い、初めて見るデザインの制服だったが、着ている女の子はよく知っている顔だったので、どこの学校かはすぐにわかった。
彼女たちは魔法王国ソーサルーラにある魔法アカデミーの生徒で、お兄様の嫁だ。そして一番最後にお兄様が転移して来ると、魔法陣が消え去った。
「突然こんなところに転移して来て、どうしたの?」
お兄様はキョロキョロと辺りを見渡し、ここが学園の講堂だと気づいてびっくりしている。
「リーズ、お前のいる場所に飛んだだけなんだが、まさか朝礼をやっていたとはな・・・でもまあ、ちょうどいいか」
そう言って頭をかいているお兄様の周りには、セレン姉様とネオン姉様、フリュ様、マール先輩といういつもの4人に加えて、ほとんどしゃべったことがないけれど、ジューンさんとエレナちゃん、そしてフリュ様の侍女のフィリアちゃんがいる。
これだけ色んなタイプの美少女が揃うと最早壮観というしかないが、私の隣にいたクロリーネ様がお兄様に駆け寄った。
「アゾート先輩! ついにシリウス教概論のテストを合格したのですか!」
「そうなんだよ、クロリーネ! やっと50点とれて合格したんだ。これで俺もシリウス教マスターだな」
まさかお兄様がシリウス教のテストで0点以外をとるなんて!
私がそう驚いているとネオン姉様が、
「何がシリウス教マスターよ! あまりにもひどい点数だったから、最後は二択問題にしてあげてなんとか50点が取れただけでしょ!」
2択なら私でも50点が取れそうだ。
ズルして合格させてもらったことがバレて、バツの悪そうなお兄様が頭をかきながら、
「やっとシリ概の追試が終わって、今度は魔法アカデミーの単位を取らなくちゃいけないから、またすぐに魔法王国ソーサルーラに帰るけど、今日はアージェント国王の王命を伝えるにここに来たんだ」
「じゃあ!」
「ああ、ようやくだ」
クロリーネ様がとてもうれしそうにお兄様と話をしているけど、あの二人が何の話をしているのか私には全く分からない。
大体、あの二人は仲が良過ぎるというか、弟の婚約者に手を出したらそれこそお兄様の大嫌いなNTR案件になるというのに、何を考えてるのよ!
だがそんな私の心配を無視するかのように、クロリーネさまはお兄様の後ろに整列した7人の女子たちの列に加わってしまった。
・・・まさか、クロリーネ様って!
そんなハーレム野郎のお兄様に対し、とても懐かしいヤジが生徒たちから飛んできた。
「アゾート、ひっこめーっ!」
「何しに来やがったんだ男子生徒の敵めっ! しかもまた美少女が増えてるじゃねえかよ!」
「早くアージェント騎士学園に帰りやがれ! そしてうちの学園にはもう二度と来るんじゃねえぞ!」
相変わらず男子生徒に不人気なお兄様だ。だがお兄様はとてもうれしそうに、
「おおっ、AAA団のみんなも戦死せずに、しぶとく生きていたか! なんかこの罵倒も久しぶりに聞くと実家に帰ってきたなーって実感がわいて、感慨深いものがあるよな」
なぜか嬉し涙を流して制服の袖で拭くお兄様は、罵倒されて喜ぶドMのようだった。
「それでお兄様、さっき王命を伝えるためにここに来たとおっしゃいましたが、どうしてお兄様がそんなことをする必要があるの。そんなの宮廷貴族に任せておけばいいのに」
「本当だよな・・・。でもこれはアージェント国王の命令で、この学園のみんなには自分の口から話した方がいいってさ」
「自分の口からって・・・じゃあその王命はお兄様絡みってこと?」
「そうだ。でもお前にも関係のあることだから、よく聞いておくんだぞ、リーズ」
そしてお兄様は、講堂にいる全生徒たちに向かって王命を伝えた。
「えーっと、今からみんなに王命を伝えます。今回のブロマイン帝国との戦争の結果、メルクリウス伯爵支配エリアがアージェント王国から切り離されることになり、新たに「メルクリウス=シリウス教王国」として独立することになりました」
このお兄様の発言で、罵倒一色だった講堂のみんなが唖然となり、一瞬で静まり返った。
ていうか、何よ今の話は?!
「・・・え? お兄様、今なんて言ったの? うちが独立するって一体どういうことなの」
「簡単に言うと、俺は伯爵から国王に昇進だ。そしてリーズ、お前は王女になる」
「えーっ! わ、私が王女?!」
「そうだ、リーズ王女」
「えーーーっ!」
その後フリュ様から王命の詳細が発表され、講堂の生徒たちはただただ唖然として聞いていた。
どうやらクロリーネ様とアルゴの婚約は王命によって解消され、お兄様の第1側妃になったようだ。
ていうか、公爵家に昇格したジルバリンク家令嬢を側妃にするって、どれだけ偉くなったのよお兄様は!
それにしてもクロリーネ様のあの様子を見てると、この王命を事前に知っていながらずっと私に隠していたのね。あとで根掘り葉掘り聞いてやるんだから。
フリュ様の流れるような説明が全て終わると、もう講堂の生徒たちの中にお兄様を罵倒する人は一人もいなくなった。
それを見て少し寂しそうな表情をしたお兄様が舞台を降りると、クロリーネ様を加えた8人の女子生徒たちを引き連れて、3年上級クラスのみんなとともに講堂を出ていった。
俺は元クラスメイト達とともに教室に戻ると、彼らと話をする時間を久々に持つことができた。
今日俺がここに来たのも、みんなに別れの挨拶をして来いというアージェント国王の粋な計らいだった。
ユーリだけはアージェント学園に在籍したままなのでここにはいないが、あとの全員が誰も戦死せずに揃っていることが、何より嬉しかった。
俺は最初にダンに声をかける。
「よう、久しぶりだな」
呆れた表情だったダンがため息を一つつくと、笑顔を見せて応じてくれた。
「久しぶりにこの学園に顔を出したと思ったら、お前国王になったんだな」
「ああ。自分でもまだ実感がないんだけど」
「しかし国王ともなると嫁も随分といるんだな。俺の知らない女の子も何人か増えているし・・・」
そしてダンは俺の嫁をキョロキョロ見つめて誰かを探そうとしている。
「とうしたんだ、ダン」
「いや、さっきフリュオリーネの説明でさらっと話があったけど、今度お前の嫁になる大聖女クレア様ってあの歴代最高の聖女と言われてる伝説の人だろ。なんでそんなすごい人が究極魔法を使ってまで、お前の嫁になるんだよ。・・・是非お言葉を賜りたいのだが、どの子なんだ?」
そう言ってそわそわしているダンに俺は、
「ダン・・・まさかとは思うが、お前はひょっとしてシリウス教徒なのか?」
だがダンは何を聞かれてるか分からない様子で、
「当たり前に信者だが。逆に、シリウス教徒じゃないヤツがいればお目にかかりたいものだ」
俺とダンは無言で見つめ合う。どうやらシリウス教を信じていないのは、メルクリウス一族だけらしい。
気まずい空気に耐えられなくなった俺は、
「よ、よーし! お前には特別に大聖女クレアを紹介してやろう。ジャジャーン! 彼女だっ!」
そしてネオンをダンの前に差し出した。
ガッカリされるのは確実だが、事実なのだから仕方がない。
そしてネオンを見たダンは、
「・・・アゾート、こいつはお前の弟のネオンじゃないか。女装バージョンだけど」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ええっ!? じょ、女装って、お前ネオンを男だと思ってたのか!」
「いやいや待てよっ! だってネオンはお前の弟だろうが! 男子寮で一緒に暮らしていたじゃないか!」
「いや、それはそうなんだけど・・・」
まさか、ネオンを未だに男だと思っていたヤツがいるとは思わなかった。しかもこんな身近に。
だが、リーズとの政略結婚に絡んでメルクリウス家のことを実家から聞いていたダーシュやアレン、メルクリウス砲兵隊に所属して母上たちから事情を聞かされていたネオン親衛隊の女子たち以外、全員が衝撃を受けていた。
お前ら、そこからかよ!
俺はみんなに、大聖女クレアとの前世での馴れ初めや、彼女が俺と結婚するためにこの時代に転生して来たこと、そして前世の記憶を取り戻すまで、セレーネから俺の婚約者の座を奪いとるために男装して俺との同居生活を送っていたことを話した。
その話を聞いたダンは、
「アゾート・・・重い女と結ばれたのが俺だけじゃないことが分かって、少しうれしくなったよ」
そういうダンの背中に隠れていたパーラが、顔を少し覗かせて俺の方を見ている。淑女らしく微笑みを浮かべてはいるが、その目は黒く瞳孔が開いている。
別にお前からダンを取ろうとは思っていないから、その目は止めてくれよ!
「ダン・・・実はパーラのお仲間は、ネオンではなく他にいるんだよ」
俺の嫁には色んなタイプが揃ってるが、基本的には全員が重い女だ。
だがパーラの仲間が誰かと聞かれれば、それはたった一人しかいない。
俺はフィリアをダンの前に差し出した。
「この子はフィリア・アスター。ランドン=アスター帝国の若き女帝ローレシアの妹だよ」
そのフィリアの瞳は、まるでパーラと共鳴するかのように、深緑一色に塗りつぶされていく。
それを見たダンは優しい笑みを浮かべて頷いた。
一言も発しなかったが、「余計な言葉は必要ない。俺とお前は真の親友だ」というダンの気持ちがしっかりと俺に伝わった。
その後は、他のクラスメートたちにも近況を教えてもらった。
ダーシュは結局リーズ争奪戦に決着をつけられないまま学園を卒業することになった。今は来季の学園長の座を巡ってサルファーと争っているらしい。
アレンは卒業と同時にユーリと結婚する。学園の卒業が成人の証であり、結婚可能となるからだ。
アネットは4侯爵家の騒動に巻き込まれて実家が無くなったため、そのままポアソン家の世話になることになったらしい。
カインはフィッシャー騎士団長に就任し、カレンが学園を卒業するのを待って、1年後に結婚予定だ。
パーラはダンとの結婚を父親に認めさせ、ダンを実家の騎士団に就職させた。
それ以外のクラスの女子全員(ネオン親衛隊)は、メルクリウス騎士団の砲兵隊に就職することが既に決まっている。結婚相手は母上が見つけるそうだが、ゲシェフトライヒにいてそんなことができるのか?
なおクラスの男子たちは、それぞれ実家の騎士団に入るらしい。騎士爵の分家だからそれが当たり前だ。
俺はみんなに別れを告げると、嫁たち全員を連れてアージェント国王のいる王都に向けて転移した。
朝礼の片付けをした後、私が2年上級クラスに戻ると、教室はメルクリウス=シリウス教王国の話題で持ちきりだった。
メリア様たちがさっそく私に駆け寄ってきた。
「リーズ王女殿下は結局どなたとご結婚されることになるのでしょうか」
「王女殿下って・・・でも、それは私が聞きたいことよ。お兄様は好きにしろって言ってたけど、本当にそれでいいのかなあ」
「・・・さすがに王女ともなると、結婚相手を自由に決めるわけにもいかないでしょう。アージェント王国とは別の国になるわけですから、うちの王族との政略結婚も視野に入れた方がいいかもしれないですわね。さっきのフリュオリーネ様の話によると、イプシロン王子の婚約者をアゾート様が奪ったそうですし、ひょっとしたらその穴埋めにリーズ王女殿下がご結婚されるとか?」
「ええっ! 穴埋めでイプシロン王子との政略結婚。め、めんどくさそう・・・」
アージェント王国の王族はアージェント王家、アウレウス公爵家、シュトレイマン公爵家の3家を中心に、各侯爵家が王族の分家として名を連ねている。
王族は王族同士で婚姻を繰り返しており、たまにお兄様のような領地貴族の伯爵家と縁談が結ばれるぐらいなのだ。
どう考えてもめんどくさい世界なのだが、メリア様たち3人にとっては私が王族と結婚した方が都合がいいらしく、王族推しの圧が半端なかった。
「リーズ王女殿下は、ランドン=アスター帝国に嫁がれるかも知れませんね」
ヒルダ様が不吉なことを言いだす。
「帝国との国交ができて、皇室との縁談の話が出るかも知れませんし、ひょっとしたら東方諸国の王族との縁談もあるかもしれませんね」
「帝国! 東方諸国! と、遠いなあ・・・」
私は王女と呼ばれるようになって少しうれしかったのだが、この3人の話を聞いてその気持ちが完全に消え失せた。
王女なんて、貴族令嬢以上に政略結婚の駒なのだ。
「だったらまだサルファーと結婚した方がましだし、もう決めちゃおうかな・・・」
さっきからずっと教壇でしょぼんとしていた担任のサルファーが、私の話が聞こえたのかすごく嬉しそうな表情に変わった。
だが3人組が慌てて私の口を抑えた。
「ご冗談はおやめください、リーズ王女殿下!」
次回も続きます
お楽しみに




