表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
332/426

第326話 終戦

このエピソードは、令嬢勇者第192話と同じものです。


一番最後に進軍マップを追加しました

(2022.9.29)





 ヴィッケンドルフ公爵の死の真相はこうだ。


 公爵はエストヴォルケン基地陥落の報を受けた直後には既に領都ブラウシュテルン防衛を断念していた。


 またライゼンカナル運河が破壊され南海方面軍からの増援が期待できない中、ゲシェフトライヒでの神官総会が特殊作戦部隊によって妨害され、カルの消息も消えたことから、逆転の目も失っていた。


 これらの出来事で自身の敗北を悟った公爵は、これ以上の抵抗が帝国にとって何も利することがないことを理解すると、数日をかけて身辺整理を行った。


 そして全てが終わると、自分の寝室で毒をあおり、一人この世を去った。


 公爵の枕元に残された遺書には、自らの行動が決して私利私欲から出たものではなく、あくまでも帝国の未来を考えてのものだったこと、そして家族へ向けての謝罪の言葉がしたためられていた。


 帝国元老院議長として辣腕を振るった大貴族としてはとても寂しく、そして静かな最後だった。


 翌朝、公爵の遺体がメイドによって発見されると、ブラウシュテルンの正統政府に残された貴族たちは、公爵の死を公表するとともに全面降伏した。





 それから数日がたった初冬のその日、ここ帝都ノイエグラーデスの皇宮に今回の戦争当事者が集まっての終戦協定締結のための会談が行われていた。


 皇宮の大応接室に急遽設置された会議卓には、上座を全て空席として、その右側にブロマイン帝国皇帝のクロムと皇女リアーネ、そして今回のクーデターの首謀者でシリウス中央教会総大司教となったネルソン大将の3名が並んだ。


 そしてその対面の左側には、アージェント王国陸軍総司令官アウレウス公爵と海軍総司令官シュトレイマン公爵、そして対ブロマイン帝国戦線総責任者であるアージェント国王の名代として、メルクリウス伯爵の3名が座った。


 また帝国と王国の両者に挟まれる形で会議卓の下座に座ったのは、東方諸国の盟主・ソーサルーラ国王と東方諸国連合軍総司令官ローレシア・アスター女王、そしてシリウス教国最高指導者・大聖女クレア・ハウスホーファの3名だった。




 本日締結を目指す終戦協定は、ブロマイン帝国主戦派との交戦を行った戦争当事者(融和派を含む)が、帝国内戦の終了と融和派の勝利確定に伴い、平和条約の締結までの停戦状態の維持と、戦争により生じた加害、被害及び得失した領土等の権利関係を清算することを目的に取り交わされる文書であり、ここで約束された内容は平和条約の中に盛り込まれることになる。


 そのため、協定文書の冒頭に対象となる軍事行動の定義とその全てを停止する旨が明文で宣言された上、平和条約に記載されるべき個別項目が続く形となる。



 その項目の一番最初は各国の国境線の画定である。


 ブロマイン帝国とアージェント王国については既に事前の調整が終わっており、ダゴン平原一帯は両国の緩衝地帯として共同管理を行うこと、それ以外は山脈の稜線を国境とする両国タスクフォースの案がここで追認された。


 ただし、現在王国海軍の占領下にあるエストヴォルケン基地を帝国に引き渡す代償として、港町トガータからルメール鉱山に至る帝国南西部の広大な一帯を、アージェント王国の領土に編入することが決まった。


 次にブロマイン帝国と東方諸国の国境線についてだが、ガートラント要塞以東のうち現在東方諸国連合軍の占領下にある領地を一度東方諸国側に領有権を認めた上で、その後改めて国境線を定めることになった。


 なぜなら、現在占領中の領地に接するのが旧フィメール王国しかなく、このままでは14か国で領地を分割することが出来ないからだ。そのためまず東方諸国で話し合って新たな国境線を画定した後、改めて帝国との間で国境線を画定することとなった。




 次に戦後賠償だが、アージェント王国とブロマイン帝国については既にタスクフォースおいて精査作業が終わっていた。


 有史以来ずっと戦争状態だった両国だが、ブロマイン帝国建国後の100年余りに限定しても一方的に攻め込まれていたアージェント王国側の損害が多大だったため、王国から帝国に要求する賠償金額が巨額になっていた。


 だが王国側は後述する理由もあってその金額を大幅に減免し、帝国最大の魔石鉱山であるルメール鉱山等いくつかの鉱山の所有権の譲渡を受けることで手を打つことになった。この賠償込みでの先の領地割譲であったが、加えて平和条約の早期締結と発効、交易条件の最恵国待遇を帝国が約束することを条件とした。


 一方捕虜交換については特段の問題もなく、互いに速やかに交換に応じることで決着した。


 次に東方諸国については、帝国元老院からの無理な要求等はあったものの戦時賠償の対象とはならなかった。だが各国の心情面を勘案し、領土割譲において先に記載したような配慮がなされることになったのだ。


 これを受け入れた東方諸国連合軍は、現在拘禁中の帝国軍捕虜を速やかに全員解放することを決定した。




 以上が終戦協定の本文だが、その裏付けとなる戦争犯罪人の処分についてクロム皇帝から報告があった。


 今回の内戦の首謀者であるヴィッケンドルフ公爵は既に自害したが、公爵家は取り潰しとなり分家も含めて成人男子は全て斬首刑、未成年男子は終身奴隷刑、女子は全員修道院送りとなった。


 特に公爵の甥のマルクは帝位簒奪の重罪人であり、公開斬首の上、その遺体を公衆の晒しものにされるという最も重い罪となった。このような残虐な刑罰や、一族への連座を科すのは、反乱や簒奪行為を安易に行わせないための見せしめの意味があった。


 次に主戦派各家だが、クラーク伯爵家にはヴィッケンドルフ公爵家と同じ厳罰が科せられた。それ以外の5家も全て断絶させられた上で、本家と主要な分家は公爵家と同じ厳罰を、それ以外の分家については成人男子は終身奴隷刑、それ以外の女子供は全員平民の身分に落とされた。もちろん領地や財産は全て没収だ。


 そして残りの7家については政治的判断である程度の温情が与えられた。全家門一律2階級爵位を降格させた上に領地も半分以上を没収されたが、貴族の身分は保証され家門の断絶も行われなかった。


 そしてメロア家の処遇については、他家とのバランスや法の適用について法学者の意見が別れたが、最終的にクロム皇帝の判断により次のように決定された。


 すなわち、クロム皇帝のために名誉の戦死を遂げた勇者アランの功績と、クラーク家との戦いの中で非業の死を遂げたメロア伯爵の二人の死に報いるために、メロア伯爵家とその分家は一律無罪となった。


 ただしメロア家の一族であるカミール・メロアは、その作戦行動において帝国に多大な不利益を与えたこと、それがローレシア・アスターに対する私憤に起因することであることに鑑み、カミール本人とその父親及び成人兄弟全員を斬首刑にし、それ以外の女子供は貴族の身分をはく奪して国外追放とされ、メロア家による一切の救済も禁止された。


 軍務大臣のアイゼンシュミット大将については、本来は斬首刑が相当な所をアージェント王国の申し出によって、彼の身柄を王国が引き受けることを条件に貴族の身分剥奪と国外追放に減刑された。


 一方、3方面軍の司令官の処分は懲戒免職のみで、各幕僚も責任をとって全員辞職したものの、それ以上の処分は行われなかった。なぜなら重大な軍規違反はなく、ヴィッケンドルフ公爵の命令に従っただけだったからだ。


 そして最後に、今回の内戦の発端となったレオンハルトとバーツの2名には、マルク・ヴィッケンドルフと同じ公開処刑が科せられることとなった。併せてバーツの生家である騎士爵家にも、ヴィッケンドルフ公爵家と同じ厳罰が科される。



 

 次にアージェント王国側の処分に話題が移る。


 アウレウス公爵から、ブロマイン帝国内に侵入して街や村を蹂躙し、多数の帝国臣民の虐殺を行ったシャルタガール侯爵家、テトラトリス侯爵家、ザクソン侯爵家、ポートリーフ侯爵家の4家、およびこれに加担した貴族家の全てを断絶し、実行犯は男女の区別なく全員斬首刑とすることが発表された。


 そしてこの虐殺に対する賠償金が帝国側へ支払われることになったが、もともと帝国特殊作戦部隊の仕掛けた罠にバカ息子たちが嵌まったことが発端であり、帝国に要求する金額と相殺して先の賠償額となった。


 なお処罰の対象者は全員戦場で討ち死にしており、結果的に刑が既に完了している旨が申し添えられた。


 なお、本件に参加しなかった4侯爵家の子息やその家臣については特に処罰は行わず、貴族としての地位と名誉は保証された。そして成人男子については必要に応じて婿養子に女子はそのまま嫁ぐことが許され、また王国宮廷貴族として仕官することも可能とする、連座制の適用除外とされた。


 これは当主家の命令に反抗し、自らの意思で参加しなかったことに対する報奨の意味も含まれていた。





 以上の内容をまとめた終戦協定の署名をこの9名で行うと、平和条約については出来るだけ早期に締結できるよう努力することが改めて約束された。


 また近い将来に、アージェント王国と東方諸国との平和条約交渉を開始することも約束された。



 そして終戦協定の署名が終わると、今度はシリウス教に関する取り決めが話し合われた。


 まずシリウス教会は正式に非合法化され、帝国では邪神教団として扱われることとなった。逆にシリウス教国への邪神教団認定は取り消され、新教の母体となった旧教として正式に認められることになった。


 またシリウス経典の内容を元に戻し、神使徒テルルが聖洗礼ヴェルナーガを行った地をアルトグラーデスからアーヴィンへと修正されることになった。


 これを受けて大聖女クレア・ハウスホーファから、シリウス教国の鎖国を現時点をもって終了することが発表され、ハウスホーファ総大司教は退位し、自分が後任の指導者に着任したことが改めて報告された。


 また、新教を正式に認知することを表明した上で、聖地アーヴィンを新教の聖地として認めるとともに、新教徒の聖地巡礼も解禁された。


 この聖地巡礼解禁ついては、メルクリウス伯爵だけが強く反対したが、その理由がこの場で明かされなかったため全員に却下され、新教徒による聖地アーヴィン巡礼が各国で推奨されることが決まった。


 またシリウス教会の後継組織も原案通り3組織に分割されることになり、シリウス中央教会はネルソン大将が、シリウス東方教会はメーベル枢機卿が、そしてシリウス西方教会はメルクリウス伯爵がそれぞれ総大司教に就任することとなった。


 これについてもメルクリウス伯爵は当初頑なに固辞していたが、大聖女クレアが伯爵の耳元で何かを囁くと、真っ青になった伯爵が二つ返事で快諾した。





 会談の最後、クロム皇帝から重大な発表があった。


「賢明なる皆様のご尽力により、この大陸の恒久平和に向けてその重要な一歩を踏め出せたものと確信しておりますが、これで戦争が永久になくなったわけではありません。主戦派貴族の残党によるテロや内乱、あるいはどこかに潜んでいるであろう狂信者による聖戦など、いつどんな形で戦争が再開されるのか予断を許しません。また帝国貴族や臣民の中には未だ魔族を恐れ、排除しようという潜在的恐怖感がぬぐいされないのも、また事実です」


 そこで皇帝は一呼吸入れ、会議の参加者を全員を見渡した。そして、


「本当の戦いはこれからであり、帝国としてはこれらの脅威を未然に防止し、発生した後は速やかに対応すべく皇室が矢面てに立って戦う所存です。そして私、クロム・ソル・ブロマインは、ここにいるローレシア・アスターと結婚し、共に大陸の恒久平和を追求すべく戦う皇室を創設することを宣言します。またブロマイン帝国の国名も改め、我が実母の生家からとったランドン=アスター帝国とします」


 そしてローレシアも席から立ち上がってクロム皇帝の隣に歩み寄ると、二人並んで参加者全員に深く頭を下げた。




 その後皇宮のバルコニーに移動した9名は、皇宮広場に参集した帝国貴族や臣民たち数万人を前に一列に並んだ。そしてクロム皇帝から今回の内戦の経緯とその終結が発表されると、ネルソン大将とローレシア、そしてネオンの3人をその隣に呼び寄せた。


「改めてこの3人を紹介しよう。左はシリウス中央教会の総大司教に就任したネルソン大将だ。今後我が国のシリウス教は彼が取り仕切ることになる。そして真ん中の彼女はすでに皆も良く知っているローレシア・アスターだ。アスター王国の女王にして魔法王国ソーサルーラの大聖女であり、そして余の妻である」


 だが日ごろからローレシアを自分の妻といってはばからなかった皇帝の発言は、帝都ではすでに有名な話としてその新鮮味が失われていた。


 集まった帝国貴族や臣民は「また始まったな」ぐらいに皇帝の話を聞き流してしまっため、苦笑いを浮かべたクロム皇帝からバトンを受け継いだローレシアが改めて2人の婚約を発表した。


「わたくしローレシア・アスターは、クロム・ソル・ブロマインからの求婚を正式に受け入れて、クロムの伴侶となることをシリウス神に誓いました。これはここにいるシリウス中央教会ネルソン総大司教猊下と」


 そして一呼吸置くと、隣のネオンの手をつないで、


「シリウス教国最高指導者である大聖女クレア・ハウスホーファ猊下のお二人に既にお認め頂きました」


 一瞬シーンと静まり返った皇宮広場は、やがて大きなどよめきへと変わっていく。


 その多くはクロム皇帝の成婚が本当に実現したことへの喜びの声であったが、それと同時にシリウス教国の名が邪神教団を示すものであることは有名であり、その最高指導者が目の前にいることに対する戸惑いの声であった。


 だがそんな帝国貴族や臣民に向けて、ネオンは優しくほほ笑むと、


「シリウス神は、旧教徒も新教徒も関係なく神を信じる全ての者を受け入れます。そして神は常に皆に寄り添い、その言葉をかけてくれるでしょう」


 その次の瞬間、魔力の有無を問わず皇宮広場にいる全ての人々の頭の中にその声が聞こえた。


(・・・いくとし生ける全ての者に告げる。我が名は神使徒ヴェルナーガ、神の御心を地上へ伝える伝道者なり。・・・神の言葉を捻じ曲げ、多くの人々を不幸な戦争へと導いてきた邪教徒カルと彼の率いるシリウス教会は滅びました。・・・これからは目の前にいる彼ら彼女らが、神の教えを正しく伝えてくれることでしょう)



 神使徒ヴェルナーガ。



 それは新教においても、神使徒テルルに聖洗礼を与えた神界の使徒としてその名が知れ渡っており、その神使徒がここにいる全ての人々に直接言葉を発したことは激しい衝撃を与えた。


 それと同時に、帝都ノイエグラーデス全体を覆うかのような巨大な魔法陣が空に現れると、まさにその神使徒がシリウス神をお連れして地上に降臨するかと錯覚するほどの神々しい光が辺り一面に降り注いだ。


「おお・・・神よ!」


 人々は全員地面にひれ伏すと、涙を流しながら両手を合わせて上空に向けて祈りを捧げた。





 そしてクロム皇帝がローレシア女王と並んでバルコニー中央に立ち、その2人を挟んでネルソン総大司教と大聖女クレアが両脇に並び立つと、


「ここに宣言する。ブロマイン帝国は今この瞬間よりランドン=アスター帝国として生まれ変わり、今後は余とローレシアの二人で共同統治を行うこととする」


 そしてネルソン総大司教と大聖女クレアの2人が、錫杖を天にかかげて新帝国の成立を認めると、人々は一斉に歓声を上げた。


「ランドン=アスター帝国万歳!」


「クロム皇帝陛下万歳!」


「ローレシア女帝陛下万歳!」



挿絵(By みてみん)

次回は、終戦と新帝国成立を祝福する舞踏会です。


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この回では一貫してヴェルナーガになってるけど、前はヴェルナーバだったような。
[良い点] ようやく停戦にこぎ着けました。 ローレシアは本当にリアーネの(義理の)妹になりましたね。 アスター王国領は実質的に旧ブロマイン帝国領とともに新帝国領になるのですね。 [気になる点] 1、多…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ