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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第323話 クリプトンvsクリプトン

 ジューンと共に港町トガータに到着した俺は、重い脚を引きずりながら転移陣のある帝国軍基地へと向かった。ここから帝都ノイエグラーデスに転移するわけだが、ちょうどセレーネも帰ってくる頃なので、嫌でも彼女と顔を会わせることになる。どれだけ怒られるのか想像もしたくない。


 だがちょうどその時、懐にしまっていた通信の魔術具に反応があった。


「はい、アゾートです」


「・・・こちらルカ・クリプトンです。やっと安里君に連絡が取れた件!」


「ルカか、久しぶりだな。今どこにいるんだ」


「・・・エステルタール基地です。これからゲシェフトライヒに向かおうと思うのですが、安里君に時間があるならちょっとだけ手伝ってもらおうと思ったのでござる」


「俺がか? うーん・・・わかった。お前たちの作戦には興味があるし、クリプトン枢機卿は敵の大物だ。この俺が一緒について行ってやってもいいぞ」


「・・・やった! じゃあ、中間地点にあるツェントルム基地で待ってますので、そこから一緒に転移しましょう」


「了解した」


 俺は通話を切るとそのまま帝国軍基地へと向かい、工作員に行き先をツェントルム基地と伝えた。


 ルカ達の作戦に興味があるのは本当だが、セレーネが怖すぎて帝都に帰りたくない俺は、渡りに船とばかりにゲシェフトライヒに付いていくことにした。





 ツェントルム基地に到着した俺は、先に到着していたルカたちと転移室で再会した。そこにはルカ達3人娘に加えて、なぜか俺の母上もいた。


「どうしたんですか母上。プロメテウス城で留守番をしていたのでは」


 ブロマイン帝国への進軍にあたり、領地から当主家が一人も居なくなるのはどうかという理由で、母上を一人残して来たのだが、どうやら退屈だったらしい。


 そこへちょうど三人娘がロディアン商会の会頭に相談するため城下町プロメテウスを訪れたところ、会頭から母上に話が行って、会頭の代わりに母上が三人娘と一緒に敵地に乗り込むことになったらしい。


「ロディアン商会の正式な代理人としてこの私がついて行くので、商会としての決定と契約事務をその場でやってあげられるわよ」


 俺が滅多にプロメテウス城に帰らないので、実質的に母上がメルクリウス領の代官であり、商業ギルドや有力な商人たちとのつながりが強い。中でも相場戦で戦ったロディアン商会とは今では良好な関係を築いており、母上はかなり信用されているらしい。


「助かるよ母上。まだ具体的に何をやるのかは聞いてないが、経済戦を仕掛けるなら即断即決が必要な局面がたくさんあるはずだ」


「そこは任せて。作戦内容は後でルカちゃんたちから話しがあると思うけど・・・そんなことよりちょっと聞きたいことがあるの」


 母上の声のトーンが一段階低くなった。


 え? 何これ。


 ひょっとして、怒ってる?


「あなた、ルカちゃんたちまで嫁にしようと考えているんでしょ! 一体何人娶れば気がすむのよ。いい加減になさい!」


 三人娘をこの俺が?!


「違うんだよ! それはこいつらが勝手に・・・」


 ひょっとしてこいつら、人の母親に余計なことを言いやがったな!




「初めましてお義母様。わたくしジューン・テトラトリスと申します。この度アージェント国王の命により王族の籍から抜けて、神使徒アゾート様がシリウス教国での神事を滞りなく行えるよう、巫女として一生お仕えすることとなりました。不束者ですが末永くよろしくお願いいたします」


「しまったっ! ジューンが勝手に自己紹介を始めやがった・・・」


「アゾートっ! これは一体どういうことなのっ! いくら当主だからって、親に相談もせずに勝手に嫁を増やさないでちょうだい! ただでさえエメラダさんたちが乗り込んで来てメルクリウス家が後宮みたいになってきたってリーズがぼやいているのに、あなたはこの状況を本当に分かっているのっ!」


 セレーネに怒られるより先に、母上に怒られた。


「いやそれはわかってるんだけど、不可抗力というか俺の知らないところで勝手に嫁が増殖していくんだ。助けてくれよ、母上~」


「何をバカ言ってるの、この子は! 嫁は勝手に増殖なんかしません! どうせあなたがロクでもないことをして、お嬢さんを泣かせた結果なんでしょ」


「ぎくっ!」


「ほうらやっぱり! ごめんなさいねジューンさん。この子がバカだからご迷惑をおかけしたみたいで」


 深々と頭を下げる母上にジューンは、


「もう済んでしまったことはいいのです。確かにアゾート様からは大変な辱めを受けましたが、純潔を散らされたわたくしが一度は修道院で一生を過ごす覚悟を決めていたところを、ハウスホーファ総大司教猊下と聖女隊の皆様のお話を伺ってこれはとても名誉なことだとすぐに気づかされました。そして猊下がすぐに王宮に飛んでくれて国王陛下とわたくしの婚約者のイプシロン王子に事情をお話しすると、二人ともすぐに理解してわたくしの背中を押してくれたのです。そうして王籍を抜けてシリウス教国の正式な神官となったわたくしは、アゾート様の巫女となるべく洗礼を受けたのです」


 重いっ!


 なんとなくそんな気はしていたが、このジューンはとてつもなく重い女のようだ。




 さて、今から言うのはあくまでも独り言だ。これをもってやれコンプライアンス違反だの、オヤジの理屈の正当化などというご批判は一切受け付けない。


 こほん・・・ここだけの話、通信魔法・ユビキタスでジューンの裸をチラッて見ただけなのに、純潔を散らされたってのはちょっと言い過ぎじゃね?


 それだって、俺が見ようと思って無理矢理みた訳じゃなく、ジューンの視覚情報が強制的に俺に流れて来た結果であって、完全に不可抗力だったしその後すぐ通信を切った。


 セクハラは受けた方がどう感じるかで罪状が決まるから、これ以上の言い訳を公の場ですることはない。だが最後にこれだけは言いたい。


 俺は無実だーっ!


 ・・・こほん。




 さてジューンの重さについては母上もルカ達3人も何かを感じたようで、彼女の身持ちの固さもさることながら、話に出てくるのが国王だの王子だの総大司教だの登場人物が偉過ぎて、何をどうツッコンでいいのか途方に暮れているようだ。


 そしてジューンの長い長い話を聞き終えた母上が、何を質問しようかを散々迷った末、


「シリウス教国って確か、ずっと鎖国をしているあの国のことでしょ。国王の戴冠式の時だけ、新国王の頭に王冠をかぶせに偉い人がやって来る謎の国」


 母上はもちろんシリウス教徒ではないので、シリウス教国のイメージは国王の戴冠式だけだ。


 シリウス教に至っては正月三が日のイベントと勘違いしている節がある。


 もし母上がシリウス教概論のテストを受ければ確実に0点を取ることになるだろう。


 そんな母上に気づいていないのか、ジューンはシリウス教を熱く語り続ける。


「そうです。代々のアージェント国王に王権を授けてきた最高の権威を持つ法王庁と、全世界のシリウス教徒の聖地であるアーヴィン大礼拝堂を有する神の国です。そこで神使徒として君臨されるアゾート様のお世話をするのが、このわたくしの使命なのです!」


 恍惚の表情のジューンに母上は、


「でもうちの子供たちは誰もシリウス教なんかに入会してないし、誰かよその人とアゾートを勘違いしているのでは」


「いいえ、アゾート様は神使徒テルル様以来の神使徒としてシリウス神と直接対話をなされ、聖洗礼ヴェルナーバをお受けになられた・・・」


「テルルって確か、正月に教会でお菓子を配る女の子のことよね。良い子には甘いお菓子をたくさん上げて悪い子には苦い野菜を配る、あの赤い服を着た」


 これは酷い・・・。


 俺も大概だが、テルルが何者かぐらいはさすがに知っていた。だがこの母上ときたら・・・。





 二人の会話は何一つかみ合うこともなく、このまま放っておいても永遠にすれ違ったままだろう。そんな無駄な時間を終わらせるため、ルカ達は話題を強引に変えた。


「ジューンのことはもう放っていて、わたくしたちのことはどうなるのでしょうか。3人のうちせめて一人でも安里君の嫁に・・・」


 すると母上は困ったような表情で、


「・・・実はクリプトン侯爵からも頼まれてるのよ。経済協定をより強固なものにするためには血縁関係を結んだ方がいいと。でも何かの規則でクリプトン家と王族の婚姻は認められていないし・・・あれ? うちは元騎士爵家だから王族じゃないし、あれ何がダメなんだっけ? あ、わかった! アゾートには嫁が多すぎるからね!」


「それについては安里君から、弟のアルゴなら大丈夫だと聞かされてますが」


「あらそうなの? でも、アルゴはまだ騎士学園にも入っていない子供よ。ルカちゃんたちとは年齢差もあるし、本当に大丈夫なのかしら・・・」


「いえいえっ! むしろ年下の方が大好物でごわす。じゅるるるっ・・・」


「だったらあなたたちのうち誰か一人、アルゴのところに嫁に来る?」


「「「イエス、マム! では、わたくしがっ」」」


 そして3人娘は自分がアルゴの嫁になろうと、必死で母上にアピールを始めた。


「お前ら、もういい加減にしろよ! 今からゲシェフトライヒに行くんじゃないのか。工作員の皆さんがさっきからずっと俺たちの無駄話が終わるのを待っていてくれてるんだぞ!」


 そう、ここツェントルム基地にはたくさんの工作員がいるのだ。みんな仕事をしているふりをしながら、俺たちの話に聞き耳を立てている。


 俺はみんなの話を終らせると、工作員に頼んで転移陣を起動させた。





 仮設の転移陣室から出た俺たちは、ようやくゲシェフトライヒの地へと降り立った。


 ここはブロマイン帝国南部にある巨大都市であり、南には大きな港があってたくさんの船が行き交っており、街の中心部には大きな城が建っている。


 この街の城主こそが、敵の大物であるブロック・クリプトン。ボルグ中佐の父親である。


 帝国のクリプトン家は神聖シリウス帝国時代に亡命してきたアージェント王国クリプトン朝の王族だが、帝国での貴族の爵位はもっていない。


 彼らはシリウス教会によって保護され、代々枢機卿を輩出する家柄となっていたのだ。


 ではなぜこの巨大都市の城主をやっているかというと、もともとここを治めていたある名門貴族を借金漬けにしたブロック・クリプトンが、担保として領地ごと城を奪い取ったのだ。


 そしてここにあった商業ギルドのトップに就任すると、他のギルド長も全て兼任して街の商工業の全てを牛耳る総帥にのし上がった。


 この地はもともと商工業が盛んであったが、ブロックの経営手腕により10数年後には帝国最大の出荷額を誇る工業地帯へとのし上がった。ここから様々な工業製品と、帝国軍を支える物資が供給されている。


「さあルカ。お前たちはこれから何をやるつもりなんだ。そろそろ教えろよ」


 俺は3人娘に作戦の全容を聞く。


「最終的にはこのゲシェフトライヒをルカ達の町にすること。つまり乗っ取りです」


「マジかよ。でもそんなことすぐにできるわけは」


「もちろんこれから長い戦いになります。ですが、彼らの息の根を完全に止めて二度とアージェント王国の王位に返り咲かないようにするためにはそれしかありません。もちろん、ボルグ中佐ともども物理的に息の根を止めるという方法もありますが、同盟を組んでいる相手にそれをやると、王国と帝国の未来がめちゃくちゃになってしまいます」


「お、おう・・・わかっているなら、それだけは絶対にやるなよ。相手はブロックとその他の本家筋だけにしておいてくれ」


「ですので彼ら本家筋の家督を奪ってしまうのです。金の力で」


「家督を金の力で・・・すごいなお前ら」


「その手始めにわたくしたちの拠点を築かなければならない件」


「そうだよ拠点だよ! それでどこに店を構えるんだ。やるんだろ、商売」


「ええ。まずは港の倉庫を買い取ります。ここにアージェント王国から輸入した商品を保管し、ゲシェフトライヒの市場に売ることから始めます。既にロディアン商会の貨物船がこちらに向かっていますので、安里君にはリアーネ皇女にこの港の入港許可を取ってもらいたいのと、こちらからの輸出品が王国でさばけるようメディウス港、ディオーネ港、ポアソン港の3つの入港許可を今すぐ出してください」


「お、おう、わかった・・・。うちの港はお前たちに使用許可を降ろすから、許可証は母上に書いてもらってくれ。それから皇女リアーネには、俺からすぐに話を入れておくよ」


「ありがとう存じます、安里君。では用件が済んだので、もう帝都に戻っても結構でござるよ」


「え、俺はもういいの?」


「だってまだ戦争が終わってないでしょ。安里くんは新勇者パーティーの本来のリーダーである国王の名代なんだから、帝国との終戦が成立するまで責任を持って現場を統括しないと。全部片付いたら、ゆっくりとこちらを手伝ってください」


「・・・お、お前たち! 随分と見違えたぞ。やればできるじゃないか!」


「わたくしたちはもともとこうなのです。興味があることには徹底して向き合い、それ以外の些事には労力を全く使わない。それがクリプトン家の血筋!」


「・・・言われて見れば確かに、クリプトン家の奴らはこうと決めたらとことん突き進むタイプが多いな。セシルのヤツは美女を口説くのに血道をそそぎ、お前たちは趣味の世界に没頭していた。ボルグ中佐はエルフをはじめとする亜人族の探索を、父のブロックは金儲けで祖父のミストは古代の魔術具だった」


「なぜ安里君がご先祖様のセシル・クリプトンの性癖をご存じなのかは最早問いません。ですがご認識の通り、我らクリプトン一族はこうと決めたら最後までその道を貫きとおす一族なのでござる」


「話はよくわかった。ではルカ、ミカ、モカ、そして母上、この4人でクリプトン王家の末裔どもを破産させてくれ!」





 港に向かって颯爽と歩きだした4人を見送った俺は、ジューンと二人ぽつんと取り残された。工作員が俺に小声で話かける。


「アーネスト中尉、そろそろ帝都に戻られては。皇女リアーネ陛下が定例軍議室で中尉のお帰りを首を長くしてお待ちになってます」


「・・・やっぱり帰らないとダメかな?」


「もちろんです。まだヴィッケンドルフは降伏していませんし、勝利が確定するまでは油断禁物ですよ」

次回、しぶしぶ帝都へ


お楽しみに

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