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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第321話 陥落

 エストヴォルケン基地司令部のアイゼンシュミット大将は、魔族の新魔法によって防御拠点が一撃で粉砕されたことをユルゲン中将から報告されると、力なく椅子に沈み込んで天井を見上げた。


「そうか・・・また新魔法か」


 日々エスカレートする魔族の魔法攻撃に、これまでは帝国の工業力を結集させなんとか凌いで来た。だが今回の件で、帝国の魔導技術ではこれ以上の対応は不可能だと悟ったアイゼンシュミット大将は、一言そう呟いた。


「従来の常識では、魔族は魔力こそ我々より強いものの新魔法を開発する能力はなく、日々進化する帝国の魔導技術を持ってすれば、近い将来には魔界を制圧し聖戦に終止符が打たれると信じられてきました」


「そうだな・・・だが実際にふたを開けてみればこの有り様だ」


「はい、今回の新魔法は破壊力もさることながらその構造が従来のものと全く異なることが分かりました。斥候の報告では、防御拠点を破壊した新魔法は60名以上もの魔将軍クラスの魔力を一つにまとめ、砲弾を撃ち出すことにのみ使用してその破壊力としてます。この報告に基づけば、我々の平均的なメテオの破壊力を1とした場合、魔力量や岩石と鋼鉄の違いも加味してその破壊力は300~500に相当するでしょう」


「・・・だとすれば我々にはもはや打つ手なしだな。原理的には魔族の人数を増やせば増やすほど、いくらでも攻撃力を増すことができるし、魔石の魔力も利用できるようになれば一体どうなるっ!! こんなもの人間がどうやっても勝てるわけないではないか」


「・・・ではどうなさいます。このまま徹底抗戦をするか、それとも・・・」


「・・・万に一つでも敵の新魔法に対抗できるとすれば、ゲシェフトライヒのクリプトン枢機卿を頼るしかない。彼らとの連絡はまだつかないのか」


「現在帝都南方にも魔族の大軍勢が進駐し、帝国南部と北部は完全に分断されています。そのため新兵器の供与どころか南海方面軍自体が死兵となっている上、全土からの物資補給や兵力補充も行えていません」


「そうだったな・・・。つい先日まで兵力で圧倒していた我々は、気がつけばいよいよ崖っぷちまで追い込まれている。誰の戦略かは分からんが、敵ながらあっぱれと言う他はないな」


「・・・おそらくは帝国軍きっての名将、アージェント方面軍ヘルツ中将あたりの発案かも知れませんが、魔族と手を組む決断をした策謀家のネルソン大将か、もしくはクロム皇帝自ら発案されたものか・・・」


「おそらくその辺りだろう。だがここまで戦ってきた感じでは、王国海軍の作戦指揮にも刮目すべき点が山ほどあった。案外、魔族側が提案してきた戦略にクロム皇帝たちが乗っかった可能性も大きいな」


「そうですね・・・ですが一番恐ろしいのは、次々と新魔法を産み出してくる魔族の技術陣です。我が帝国をも凌駕する魔導技術さえなければ、ここまで追い込まれることもなかったはず。現にその魔族もかなりの損害を被っており、新魔法を使って紙一重の勝利を積み重ねてようやく実現できたこの戦況なのですから」


「・・・逆に我々はこれだけ力を尽くしても負けてしまうというのなら、神はこの聖戦の勝者として魔族と融和派をお選びになったのかも知れないな」


「では彼らに降伏いたしますか」


「・・・ああ。だがこのまま基地を明け渡しても芸がない。どうせ負けるにしてもそれなりの形を整えてからとするか」






 王国海軍は、最初の敵防御拠点をレールガンで攻略してから丸二日をかけ、ついに眼前にエストヴォルケン基地を捕らえる位置にまで到達した。その間、彼我ともに少なくない損害を数え、王国海軍の兵力は当初の5万から3万5千にまで討ち減らされていた。


 損耗率30%を超え、兵士たちの体力は極限まですり減っていたが、それでも士気は異常に高かった。


 なぜなら今回の戦争の最終攻略目標であるエストヴォルケン基地がまさに目前に迫っていたからだ。そして帝国軍の士気低下の甚だしさから、末端の兵士たちにすら自分たちの勝利がもう目と鼻の先にまで来ていることが理解できた。


 そんな状況の中、総司令官シュトレイマン公爵は、司令部を最前線まで上げ、兵士たちを鼓舞する。


 そこには電磁誘導レールガンをはじめとする、陸上部隊の遠隔魔法攻撃用魔術具がズラリと並んでおり、照準は全てエストヴォルケン基地に向けられていた。


 またフォルセン川を守る敵艦隊の遥か遠方、水平線の彼方からは、その全砲門を基地に向けたメルクリウス艦隊が洋上に待機しており、基地の遥か上空には急降下爆撃の準備が完了したメルクリウス航空隊が旋回していた。



 シュトレイマン公爵は、空に向けて掲げた右手を基地めがけて振り下ろし、その言葉を発した。


「全砲門、撃て!」


 その瞬間、王国海軍による砲撃が開始された。


 すさまじい轟音ともに発射される鋼鉄の砲弾が、陸上から洋上から、桁外れの力学的エネルギーを持って基地バリアーに殺到した。


 そして上空から投下されるダークマターやエクスプロージョンによる熱エネルギー攻撃も重なり、これら荒れ狂う奔流がエストヴォルケン基地を暴風雨のように襲いかかった。


 だがその基地からも最後の魔力を振り絞るように、アイスジャベリンミサイルの飽和攻撃が陸海空すべての方向へと射出され続けた。


 それはまさに最終決戦という言葉にふさわしい、人類史上見たことのないような激戦、まさに火力と火力のぶつかり合いとなり、両軍のバリアーはみるみる木っ端みじんに打ち砕かれ、戦いの余波を受けた周りの地形が大きく変わるほどだった。


 そして互いの魔力が底をつきかけて来た時、エストヴォルケン基地上空にのろしが上がった。


 それは降伏を意味する信号だった。





 武装解除された帝国兵たちが静かに見守る中、王国海軍の代表を任された孫のジーク・シュトレイマンはジルバリンク侯爵とスピアローガン侯爵、そして俺の名代のロエル・メルクリウスの4人で、エストヴォルケン基地の引渡し交渉に臨んだ。


 ダリウスたちメルクリウス一族の護衛騎士に守られながら、ジークたち4人は交渉場所となる基地司令室に足を踏み入れた。


 指令室の中には、北海方面軍の幕僚たちが全員勢ぞろいしていた。その上座である司令官席にジークたちが腰かけると、その正面に既に座っていた幕僚たちが話し始めた。


「改めて自己紹介をさせていただく。私はブロマイン帝国軍務大臣のアイゼンシュミット大将、そして隣は北海方面軍司令官のユルゲン中将と参謀長のファンネル大佐以下方面軍のすべての幕僚が揃っている」


 ジークも自分たち4人の自己紹介を終えると、基地の引渡しについての話し合いが始まる。


「我々は武装解除に応じ、本基地を引渡すことに異存はないが、無条件という訳にはいかない」


「その条件をお伺いするのが、この交渉における私の役目です。もちろん無制限に要求されてもお応えしかねますが、内容によっては対応することは可能です」


「ではお言葉に甘えて条件を申し上げる。我が方面軍の将兵の命の安全を保障してほしい」


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・他には?」


「以上だ」




 拍子抜けしたジークは、ジルバリンク侯爵たちと顔を近づけて相談したが、帝国軍の意図がつかみきれなかったため、もう一度意図を確認することになった。


「すまないが要求の意図が理解できなかった。命の安全を保障するとはどういう意味だ」


 するとアイゼンシュミット大将以下全員が顔色を変えて沈黙した。そして、


「・・・我々人類のルールでは、停戦の際に捕虜に対する取扱いを決めることになっている。もし敗者に命の保証が与えられなければ、降伏や停戦が意味をなさず戦いはどちらかが死滅するまで続くことになる」


「それはもちろん理解している。だがあえてそれを降伏の条件に出す意図をお聞きしたいと言っているのだ」


「・・・そ、それは・・・やはり我々は全員皆殺しにされるということなのだな」


 軍務大臣の諦めの言葉を聞いた帝国軍幕僚たちは、顔を青ざめる者、怒りをあらわにするもの、全てを諦め達観する者もいたが、この状況に一番混乱したのはジークたち4人だった。


「いや・・・何か話の前提が大きく食い違っているようにも思うが、もちろん我々は皆さんを皆殺しにするようなことはしないし、最初から捕虜として遇するつもりなのだが・・・」


 今度はそれを聞いた帝国軍が拍子抜けしたような表情になった。


「・・・わ、我々の命を助けてくれるというのか!」


「もちろんそのつもりです。でないと、先ほど大臣がおっしゃられた通り停戦交渉の意味がないでしょう」


 ジークの言葉に、帝国軍の幕僚一同はようやく安堵の表情を浮かべた。その様子にジークはやっとまともな会話ができるようになったと思い、気になっていたことを質問した。


「先ほど大臣は「我々人類のルール」とおっしゃられたが、それまるで我々が人類ではないかのように聞こえました。これはどういうことでしょうか」


 その問いに一同顔を見合わせて困った様子を見せたが、アイゼンシュミット大将が言いにくそうに、


「この停戦交渉の場で我々がこれを口にすることが大きなリスクとなる危険性がありますが、それでもお答えを申し上げる必要があるでしょうか」


「ええできれば。交渉の前提がすり合ってなければ、その後の条件交渉が意味をなさなくなりますので」


「では申し上げます。皆様は魔族ですから、我々人間の常識とすり合わせることから交渉を始める必要があると思っていたのです」


「「「はあ?! 我々が魔族だって!」」」






 アイゼンシュミット大将から、ブロマイン帝国ではアージェント王国がその建国当初から魔界としておそれられ、シリウス教の聖戦の対象として打倒すべき悪であるとされていると告げられた。それを聞いたジークたちはびっくりし、自分たちもただの人間で敬虔なシリウス教徒であることを伝えた。


 認識のギャップが相当大きいことを知った両者は、なぜそのような誤解が生じたのかを話し合った。そして俺が散々聞かされてきた、旧教と新教の違いだの堕天使スィギーンがどうたらこうたらの話が始まった。


 結局この話を突き詰めれば、シリウス教では俺が堕天使スィギーンで魔王だと言うことになり、俺とその子孫であるアージェント王国の王族が聖戦の討伐対象となってしまう。ただしその聖戦自体が後付けの捏造なのだが・・・。


 しかしこんな善良な小市民である俺を魔王呼ばわりするとは、本当に酷い話である。



(・・・ちょっと横から口を挟んで失礼します。俺はアージェント王国のメルクリウス伯爵です・・・なんかうちのご先祖様が魔王呼ばわりされてますが、この場でハッキリと否定させていただきます・・・メルクリウス公爵は魔王でも何でもなく、とても善良な普通の人造人間です・・・魔族ですらありませんのでどうかご安心ください)


 するとアイゼンシュミット大将たちが驚き、


「なっ! 突然頭の中に声が聞こえた!」


「私もです! 何でしょうかこの声は。メルクリウス伯爵と名乗りましたが一体何者でしょうか」


 俺が横から口を挟んだせいで、停戦交渉がめちゃくちゃになってしまった。するとジルバリンク侯爵が、


「アゾート君は少し黙っていてくれたまえ! 帝国軍の皆様には大変失礼しました。今のは我が王国が誇る新型の通信魔法で、今のメルクリウス伯爵というのは我が王国海軍の主力艦・メルクリウス艦隊の所有者です。本日はこの場に出席できないため、この魔法を使って遠隔から参加していた次第です。ご紹介が遅れて失礼しました」


 ジルバリンク侯爵がうまく説明してくれたため、アイゼンシュミット大将たちもひとまず納得し、会議はようやく落ち着いた。





「すると帝国は、我々を魔族だと思いこんでいたという訳ですね。それはまたとんでもない勘違いを」


 ジルバリンク侯爵が大笑いすると、方面軍の幕僚たちも苦笑いをしながら、


「皆さんが普通の人間で普通に会話ができるとは全く思ってなかったので、いやあ本当に驚きました。それでは我々を捕虜として扱っていただく件はお約束いただけるので」


「言われなくても最初からそうするつもりでしたよ。ではエストヴォルケン基地の引渡しには了承いただけると」


「ええ。ここまで戦えば皆様の戦力も可能な限り削げましたし、これでヴィッケンドルフ公爵への義理も果たせたというもの。そしてこれ以上の戦闘は無駄に兵を損ねるだけで何の意味も持ちません」


「賢明な判断です。ではお約束通り皆さんはこの基地内に拘束し、戦後交渉の中で処遇を決定させていただきます」


「寛大な処遇に感謝いたします」


 そして互いに握手を交わした後、アイゼンシュミット大将以下幕僚たちが次々に拘束されて、指令室の外へと連行されていく。


 だがアイゼンシュミット大将が連れていかれようとしたところを、ジルバリンク侯爵が声をかけた。


「最後にひとつだけお伺いしてもよろしいかな?」


「なんでしょうか」


 アイゼンシュミット大将が立ち止まり、侯爵の方に振り返った。


「堕天使スィギーンがなぜ魔王だと当時の人たちは思ったのでしょうか。魔族というのがエメラルド王国の貴族同士のいざこざを発端として、シリウス経典を曲解して作り上げられたウソだというのは理解できたのですが、いくら魔力が強いからと言って、なぜ彼だけが魔王とされたのかが今一つ理解できないのです」


 魔法協会会長らしく、どうやらジルバリンク侯爵の研究者魂に火がついたのだろう。そしてその質問の答えには俺もおおいに興味があった。


 少し考えたアイゼンシュミット大将は、


「おっしゃる通り、膨大な魔力を持っているだけでは「最強の魔将軍クラス」と位置付けられるだけで、決して魔王とは呼ばないでしょう。ですがこの堕天使スィギーンには古代ルシウス経典やシリウス経典に照らして、魔王と呼ぶに相応しい決定的な理由があったのです」


「ほう! 経典上の決定的な理由とは一体・・・」


 ジルバリンク侯爵が食い入るようにその答えを待った。すると、


「エメラルド王国の滅亡を綴った当時の文献にはこう書き記されていました。「突如この世界にあらわれし堕天使スィギーンは、シリウス神を全否定し『この世に神など存在しない。シリウス教など全てウソッぱちのまやかしである』と宣言。神に対する敵対心を隠さすことなくその膨大な魔力で天をも焼き払う勢いだった」と。とにかくシリウス神やその教義に対する憎しみがすさまじかったと伝えられています」


(・・・ギクッ!)


「アゾート君、何か言ったかね」


(い、いえ・・・それが本当なら恐ろしいなと)


「うむ。キミの言うとおり確かに恐ろしい。シリウス神に対する敵対心を隠さないなど、まさに魔王にしかできない所業だな。・・・アイゼンシュミット大将、貴重なお話に重ねて感謝申し上げます」


 ジルバリンク侯爵が丁重に礼をすると、方面軍の幕僚は全員地下牢へと連行されて行った。





 かくしてエストヴォルケン基地はアージェント王国の手に堕ちた。


 王国海軍は3割の兵力を失ったが、敵艦隊も全て武装解除を行ったため、フォルセン川の南下を妨げる敵勢力は完全に居なくなった。


 そしてシュトレイマン公爵が号令を発する。


「ヴィッケンドルフ公爵の領都ブラウシュテルンに向けて、全軍出撃せよ!」

次回、戦いを終えたアゾートは・・・


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] アージェント王国の勝利はアゾートの功績と帝国が内乱状態だったからが大きいでしょう。つまり例えば100年後に全面戦争したらこうは行かない訳ですね。 [気になる点] いやさすがに善良な小市民で…
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