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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第320話 究極兵器

 ブラウシュテルンからこのエストヴォルケン基地に乗り込んで直接指揮を執る軍務大臣・アイゼンシュミット大将は、北海方面軍司令官・ユルゲン中将、参謀長のファンネル大佐たち幕僚と共にアージェント王国海軍の攻勢に必死に防戦していた。


 だが、これまで幾度となく退けて来た陸上戦力の上陸をついに許してしまい、敵に橋頭保を築かれた上にそれを徐々に拡大され、いよいよフォルセン川河口域の防衛線を突破されてしまっていた。




「ファンネル大佐、ここからの敵の進軍経路と本基地までの防衛態勢を確認したい」


「はっ! 軍務大臣閣下」


 大佐は司令部に備え付けられている基地周辺地図を使って説明を始めた。


「まず敵航空戦力についてですが、本基地の防空態勢は万全であり、例の急降下爆撃についてもバリアーを高空に展開することで、被害を減らせることがわかっています」


「海上戦力への防備は」


「水平線の彼方から正確無比に放たれる鋼鉄の弾丸による艦砲射撃は確かに脅威ですが、本基地を直接破壊できるほどの火力はありません。海と空については本基地よりも外にある防衛拠点への攻撃が最大のリスクとなります」


「では本基地に関してはやはり陸上戦力に対する防衛がポイントとなるのだな」


「ええ。火力の総量で考えればそれが理解しやすく、単発の火力では敵航空戦力の急降下爆撃が最大になるのですが一日に何回もできる攻撃方法ではなく、高空にバリアーを展開すればその破壊力も激減するため、戦いを決定づけるものではありません。一方艦砲射撃は手数こそ多いものの5隻の軍艦のみがその兵器を備え付けているだけであり、一撃の破壊力も個人のエクスプロージョンを超えるものではありません。ですのでやはり5万とも推定される陸上戦力が本基地にとっての最大の脅威となります」


「なるほどな。それでは肝心の陸上戦力に対する防御態勢をまとめてくれ」


「はっ! 敵に占拠された河口域海岸線から本基地までの進軍経路は天然の要塞になっており、大軍が一度の進軍しにくい隘路が全部で3か所あります。そこに防衛拠点を設置し敵を迎え撃つのですが、バリアーはあのガートラント要塞で使用されているものと同等程度のものを用意しております」


「・・・ガートラント要塞か。だがあそこと同等以上の防御力を誇ったライゼンカナル運河のバリアーは、たった一機の航空戦力と10数名の小隊の突撃によって破壊されてしまったと聞く。やつら魔族には常識が通用しないことを踏まえて作戦を立案せよ」


「了解しました!」




 敬礼して後ろに下がるファンネル大佐と入れ替わりに、この方面軍司令官であるユルゲン中将が軍務大臣に質問する。


「軍務大臣閣下、ガートラント要塞はどのようにして陥落したのでしょうか。我々の所には他の方面軍の情報が入って来ませんので、彼らの失敗を活かす意味でも可能であれば情報をいただきたい」


「そうだな・・・実はガートラント要塞は陥落しておらんのだ。東方諸国連合軍に突破されたのは、大軍を要塞の東側に投入するための地下通路を敵に知られ、使用されたことによるものだ。どうやらメロア伯爵家のバカ息子が敵に教えてしまったらしい」


「・・・なるほどそういうことでしたか。では東方諸国方面軍は今どうしているのですか」


「要塞の東西の出入り口に連合軍が陣取ってしまい、方面軍は要塞に封じ込まれている。互いの軍勢3万をそこで塩漬けにしている状態だ」


「ではライゼンカナル運河の破壊方法は」


「こちらは先ほど言ったように、魔族の決死隊によって要塞用のバリアーが破られた結果なのだ。本基地で使用されているものと同タイプのバリアーであり、魔族に破壊される可能性は十分にある」


「ですが、敵航空戦力が使用したあの攻撃でも要塞型バリアーを破壊するには火力が足りないのでは」


「ライゼンカナル運河のバリアーを破壊した決死隊は地上戦力だ。航空戦力は彼らがこじ開けたバリアーの隙間から内部に侵入して運河を破壊しつくしたのだ。これと同じことをこの基地でもやられかねないから、地上戦力には最大限の注意を払うことだ」


「はっ!」





 メルクリウス艦隊一番艦甲板では、アルゴがとある魔術具の最終確認をしていた。アルゴの周りには王国海軍幹部たちが見学に訪れ、その魔術具の動作実験を心待ちにしていた。


(・・・おいアルゴ、準備はできたか・・・)


「はい兄上。兄上の言う通り作成したのでこれで問題なく動くはずですが、これは一体どのような魔術具なのですか? ・・・大砲のようにも見えますが」


(・・・ふっふーん! では聞くがよい。これこそが21世紀の大砲、電磁誘導レールガンだ!)


「兄上。そんな説明では僕だけでなく海軍幹部の誰も理解できません。誰にも伝わらない説明は、何も説明していないのと同じなのですから、兄上はいい加減にそのことを学ぶべきです。自分の世界に浸って満足しているお年でもお立場でもないでしょう、伯爵」


(・・・うっ! アルゴ、お前って温厚そうに見えてハッキリと言うよな・・・リーズの方がまだ可愛げがあるよ・・・)


「姉上はああ見えて兄上の信奉者ですから、兄上の言うことには何でもイエスなのです。それよりこの魔術具はどのようなものなのか早く教えてください」


(・・・はいはい分かりましたよ。これは雷属性固有魔法・アクセラレーションフォースという魔法と同様の効果を持つ魔術具で・・・金属を雷属性オーラで加速し、大砲のように打ち出すことができる。使用者の魔力量に比例して射出エネルギーも増していくので、やりようによってはエクスプロージョンの大砲よりも遥かに破壊力のある砲弾を撃ち出せるんだ)


「なるほど、今の説明ならよくわかりました。兄上も最初からこういう風に説明すれば、無駄が無くなってウザくなくなると思います」


(・・・俺ってウザかったのか。ガクッ・・・)




 アルゴに傷つけられた俺は、半ばやる気を無くしながらもレールガンの実験を進めていく。この魔術具は俺の指示に基づいて、アルゴや王国海軍の支援部隊が手作業で作ってくれたものだ。


 エクスプロージョン大砲の砲弾を射出できるように大型に作っているため、砲身は高価なオリハルコン製で1メートルもあるし、操作部に至っては後方180度に大きく広がった半円状の魔金属でできていて、そこに描かれている魔法陣のどこに触れても魔法が作動するように作った。


 この魔術具の総重量は数10トンを超えるだろう。


 この巨大な魔術具に砲弾がセットされると、アージェント学園の1つ上の先輩であるジーク・シュトレイマンが自身の全力の魔力を漲らせて魔術具に触れた。


 黄色に輝く雷属性のオーラがジークの身体からその魔術具に流れて行くと、手を触れていた魔法陣が黄色く光り輝いた。


(・・・準備OKだ。・・・発射!)



 【雷属性固有魔法・アクセラレーションフォース】



 ジークの魔法が発動すると、砲弾が空気を切り裂くように射出され、弾道軌道を描きながら水平線の彼方へと消えた。


(・・・実験は成功だっ!)


「「「うおーーーっ!」」」


 俺のこの一声でアルゴやジーク、そして見学の海軍幹部一同、父上や他のメルクリウス艦隊一同が一斉に歓声を上げた。


(・・・我が王国海軍は新兵器、電磁誘導レールガンの開発に成功した! ・・・これは雷属性魔力を使用した究極の破壊兵器である・・・アルト王子、これをワームホールで陸上部隊に届けてほしい・・・)


 すると海軍幹部と共に実験の様子を見ていたアルト王子が魔術具の方に歩みよると、


「了解したアゾート。だがこれはかなりの重量だから、陸上部隊の拠点近くまで船を近づけてくれ」


(・・・ということだ父上。この一番艦をフォルセン川河口域に近づけてくれ)


「わかってるよ当主様。メルクリウス一番艦、フォルセン川河口域に向けて面舵一杯!」






 その後無事陸上部隊に引き渡されたレールガンは、こちらで用意させていた砲台の土台となるトーチカと射出時の砲身となる全長10m以上に及ぶ使い捨てのレールが取り付けられた。


 そしてその砲身が、前方遥か先にそびえ立つ敵防御拠点へと向けられた。


(・・・ターゲットとなる敵防衛拠点は最新の要塞型バリアーで完全防御されている。ここを打ち抜くためにはこの新兵器、電磁誘導レールガンとそれを射出するための膨大な魔力、つまり全員の魔力が必要となる・・・シュトレイマン公爵家、ジルバリンク侯爵家、ティアローガン侯爵家その他かつてのクリプトン王家の血筋を顕現させているすべての貴族は、この魔術具の魔法陣に触れよ!)


 俺の号令に従って魔方陣に触れた貴族、その数なんと65名。


 ジークも含めてほぼすべてのシュトレイマン派貴族が魔術具に全力の魔力を送りこみ、それは臨界点に達した。俺がわざわざ言うまでもなく、この場にいる全員が発射態勢が整ったことを同時に理解し、そしてその言葉を放った。



 【【【雷属性固有魔法・アクセラレーションフォース】】】



 その刹那、砲弾が10mの砲身を一瞬で通過して、超音速にまで加速された砲弾はソニックウェーブだけをこの場に残し、目標に向かって真っすぐ飛翔した。その衝撃波は魔術具を覆ったバリアーを高圧で押し付け、トーチカ全体を大きく揺るがせた。


 あまりの轟音に全員が耳を抑えようと両手を動かすかどうかのほんの一瞬の間に、数km先の目標を覆う要塞型バリアーが防御力を失って消滅し、その次の瞬間には敵防御拠点の一部が粉々に打ち砕かれていた。


 その全てが一瞬に起こった出来事で誰の理解も追いつかず、シュトレイマン派貴族たちが最初に行ったことは、轟音から耳の鼓膜を守ることだった。


 少し落ち着いたところで改めて目標を確認すると、防御拠点が立てられていた崖地がえぐれ、その上に立てられていた砦の半分が消滅していた。


 建物の残り半分からは何かが引火したのか炎が上がり始めて、それからさらに数瞬後にようやく、敵兵が慌てて砦の外へと脱出していく様子が見えた。


 爆音の後の静けさの中で、10mの砲身が摩擦熱で歪んで無残な姿をさらけ出し、ガシャンと地面に落下したのを合図に、ようやくシュトレイマン派貴族から大歓声が上がった。


「うおっ! 敵の砦がバリアーごと消し飛んだぞ!」


「たった一発で、敵陣が木っ端みじんだ!」


「なんてすごい破壊力だ、この魔術具・・・名前なんだっけ?」


「確か電磁誘導レールガンだったかな、さっきメルクリウス伯爵がそう言っていた」


「そうだ、メルクリウス伯爵だ! 彼のおかげでエストヴォルケン基地攻略へ、また一歩踏み出せた!」


「魔法協会特別研究員にして古代魔法の大家が、また一つ大きな偉業を成し遂げたぞ!」


「この魔術具だけじゃない! 彼はあのメルクリウス艦隊やメルクリウス航空隊の発案者であり、我ら王国海軍をここまで引っ張ってきた真の功労者だ!」


「そして、あのライゼンカナル運河爆破作戦を成功に導いた立役者でもある!」


「よし、彼にここまでやらせたのだ。この究極の破壊魔法を武器に、我々自身の手でエストヴォルケン基地を堕とさなければ恰好がつかないじゃないか」


 ここにいる全ての貴族たちが俺への惜しみない賛辞を送りつつ、エストヴォルケン基地に向けて陸上戦力を進める準備を急ぐ。


 そしてシュトレイマン公爵が号令をかける。


「これで我々の進軍を遮るものは何もなくなった! 揚陸艦は順次上陸作業を急ぎ、態勢が整い次第エストヴォルケン基地へ向けて進軍を開始せよ!」 

次回、決着


お楽しみに

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