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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第318話 エストヴォルケン基地攻略作戦①

 アージェント王国海軍の司令部をメルクリウス艦隊1番艦に移したシュトレイマン公爵は、艦内の格納庫を改造して作戦司令部を設営。ここから全艦に向けて作戦指示を飛ばしていた。


 そしてその司令部では、公爵を筆頭に参謀長でシュトレーマン公爵家次期当主である息子のレオポルトと孫のジーク、クロリーネやスピアたちの父親のジルバリンク侯爵やティアローガン侯爵などシュトレイマン派の有力者が勢ぞろいして軍議が行われていた。


 これに俺とアルト王子もメンバーとして参加していたが、父上やダリウスは自分たちの船なのに軍議にも出ず、アルゴに代理出席させていた。


 二人は艦長なんだから出た方がいいと俺は言ったのだが、メルクリウス家としては当主の俺が出てるし、作戦は頭のいいやつが考えて、決まったら後でジークとアルゴから教えてもらえればいいと言われた。


 まあいつものことだから、好きにさせておいた。





 その軍議の冒頭に、俺はライゼンカナル爆破作戦の戦果について報告した。


(・・・まず最初に戦況の報告をします・・・昨夜、クロリーネ・ジルバリンクとセレーネ・メルクリウスの2名によるライゼンカナル運河への超長距離飛行による空爆作戦は、メルクリウス騎士団の火力支援を受けて見事成功し、運河の一部を完全に破壊せしめました・・・帝国の工業力をもってしてもこの復旧には、最低でも半年から1年はかかるでしょう・・・)


 その瞬間、司令部は大歓声に包まれた。


「素晴らしいぞ、メルクリウス伯爵! これでエストヴォルケン基地攻略が一気に前進する!」


「無限とも感じていた敵艦隊の増援が、これでやっと無くなる!」


「北海方面軍の奴らにとってみれば、今後は大規模な増援が望めないから、一気に士気が下がるだろう」


「あの引きこもり気味だったクロリーネが、またしても大戦果を上げてくれた・・・メルクリウス家に嫁がせることにして本当に大正解だったな。ありがとう、アゾート君」


 興奮冷めやらぬ中、俺はさらに報告を続ける。


(・・・それから帝都ノイエグラーデスの戦況にも変化がありました・・・帝都南平原で仲間割れをしていた正統政府義勇軍20万を制圧し、主だった主戦派貴族たちを捕縛・・・皇女リアーネは9万の融和派義勇軍を得るとともにそれを再編し・・・3万を帝都防衛に残した上で、帝国宰相バイエルが6万を率いて正統政府のある領都ブラウシュテルンへ向けて進軍を開始しました・・・)


 俺のこの報告にシュトレイマン公爵は、


「すると敵の首魁であるヴィッケンドルフ公爵は自分の領地を18万の兵力で包囲されるということか」


(・・・ソーサルーラ国王率いる東方諸国連合軍3万も周辺の敵増援部隊の制圧に乗り出すため、実際には21万の兵力による兵糧攻めということになります)


「21万か・・・途轍もない大兵力だな」


(・・・我が王国とは兵力が一けた違いますので感覚が狂いそうですが、ヴィッケンドルフ公爵は10万の兵力を領都内に引き入れてしまったため・・・籠城戦を長期に戦うだけの食料が確保できていません・・・ですので徹底的に圧力をかけ続けて敵の物資の消耗を強いることで、公爵はエストヴォルケン基地への援軍ではなく、自分達の支援に回さざるを得なくなるでしょう・・・)


「籠城戦も長くは続かないということか。クロム皇帝も大した戦略家だと思っていたが、今の戦況を見ていると姉のリアーネの功績が大きいように見える。戦略の勘所をしっかりと抑えておられるな」


(・・・ブロマイン帝国は優秀な皇帝を輩出するために皇族同士で競い合わせているそうで・・・クロム皇帝は自分のライバルとなる兄弟姉妹のほとんどを粛清して実力でその玉座についた当代最強の皇帝だそうです・・・そして皇女リアーネはそのクロムの最強のライバルの一人でしたが・・・女性ということもあり処刑を免れ、東方諸国の公爵家との戦略結婚の駒に使われることで生き残っていたのです・・・)


「そうだったのか・・・彼女が生きていたことが帝国との同盟につながったわけで、我々アージェント王国にとってはかなり幸運だったということだな。そんな彼女は軍略においても非凡な才能を持ち、今回の正統政府義勇軍に対する完全勝利によって、我々王国海軍の戦いが楽になるということだ」


(・・・その通りです。そして現在、帝国中央に布陣するアウレウス公爵率いる王国陸軍が帝国南部からの補給を完全に遮断しており、ライゼンカナル運河の破壊と正当政府義勇軍の壊滅により、我々は劣勢を一気にひっくり返したと言えるでしょう・・・)


「あのアウレウス公爵と共同作戦をするなんて考えても見なかったが、あの兄弟を味方にするとこれほど頼もしいものもないな。だが全体の戦況がここまで好転したのなら、我々が現在戦っているエストヴォルケン基地攻略の戦略的意味はつまり・・・」


(・・・ええ! ここを攻略すれば敵の本拠地であるブラウシュテルンはフォルセン川からの攻撃にもさらされ、領都防衛は完全に崩壊します・・・つまり我々がここを占領した瞬間がチェックメイト、ヴィッケンドルフ公爵は降伏せざるを得ないでしょう・・・)



 俺からの報告の後、王国海軍司令部はエストヴォルケン基地攻略をさらに本格化させるための、最終作戦を決定した。


 それは陸上戦力の上陸作戦を基軸とし、各艦は強襲揚陸艦の護衛に徹して敵艦隊の接近を阻止する。一方フレイヤー全機は上陸作戦に投入されることになり、敵艦隊やエストヴォルケン基地への空爆を全て停止しフォルセン川河口沿岸に設けられた要塞のような堤防と陸地深くまで張り巡らされた防御拠点への攻撃に集中する。


 その結果、メルクリウス艦隊の艦砲射撃の支援は、フレイヤーではなくこの俺が直接行うことになった。





 そして最終作戦がいよいよ開始された。


(・・・という訳だアルゴ。今後はフレイヤーではなくこの兄上が直接指示を出すから・・・お前たち砲術士はちゃんと言われた通りに撃つんだぞ・・・)


「承知しました兄上・・・ですが、兄上は今シリウス教国にいるのでしょう? そんな離れたところからどうやって、フレイヤーの代わりに敵軍艦の位置を正確に知ることができるのですか?」


(・・・実にいい質問だ! 今俺がいるこの場所には世界最速の量子コンピュータと、世界中の思念波や魔術具が発する魔力を、マナを媒介に全て受信する完璧なリモートセンシング環境が備わっているのだ・・・だから敵の軍艦の位置やその一定時間後の到達地点、敵の魔導兵器の軌道計算までこの場で瞬時にできてしまうのだよ・・・すなわち最先端の科学技術によって俺は新世界の神となったのだ! カーッカッカッ!)


 よしこれでアルゴに、兄の威厳を存分に見せつけることに成功したはずだ。


「兄上の説明は相変わらず意味不明ですが、要するに兄上は神になったとおっしゃりたいのですか」


(・・・おっとしまった。新世界の神とか余計なことを言ったため誤解させてしまったが、この世に神など存在しないことはメルクリウス一族なら誰でも知っていることだったな・・・宗教を信じている者には俺が神になったように見えるかもしれないから、誤解されないように気をつけるとしよう・・・)


 威厳どころか逆にバカにされるところだったので、すぐに神の存在を否定しておいた。危ねえ・・・。


「兄上、僕は別にシリウス神の存在を積極的に否定しているのではなく、一族の誰も神への関心がなく祈りも一切捧げていないから、シリウス教の存在を完全に忘れているだけです。でも兄上は一族のみんなと違い宗教が嫌い過ぎるために逆に宗教にとらわれているように見えます」


(・・・何だと? もう一度言ってみろアルゴっ! ・・・この俺様が宗教にとらわれたことなど、これまでたった一度だってないわっ! くそっシリウス教め全く忌々しい・・・エストヴォルケン基地の攻略が終わったら、次のターゲットはシリウス教、お前だ! 俺の銅像など粉々のメチャクチャにしてやるっ!)


「兄上の銅像とは一体何の話ですか?」


(・・・しっ、しまった! アルゴ、なんでもないから今の銅像の話は忘れるんだ。・・・コホン。よし、メルクリウス艦隊出撃だっ!)







 だが実際に砲撃支援をやってみると、メルクリウス艦隊5艦の全ての砲撃主に、敵艦やアイスジャベリンミサイルの軌道計算結果を逐一口頭で伝えるのはかなりキツかった。ていうか無理。だからこの仕事はアシスタントの統合思念体に任せて、俺は上陸作戦の方に集中することにした。


 そのメルクリウス航空隊の方はというと、4機のフレイヤと7人のパイロットがいて、さらにその後部座席にメルクリウス一族の攻撃手が搭乗する態勢だ。


 ところでフレイヤーを飛ばすには風、雷、光の3属性が必要だが、一人で全て揃っているパイロットはクロリーネとイリーネ王女だけで、他のパイロットは何か一属性が足りない。


 これを補完しつつ強力な攻撃魔法を放つのが攻撃手の役割だ。そんなマール専用機には、爆撃&魔力供給要員としてアルト王子が搭乗している。




 そして本日の出撃だが、専用機のマール以外の当番はイリーネ王女と、スピア、テリーゼの3人だ。


 このテリーゼは反逆を企てた4侯爵家の一つであるポートリーフ家の令嬢で、イリーネ王女たちの幼馴染でもある。


 ていうかぶっちゃけると、メルクリウス艦隊航空隊のパイロットは、マール以外全員アージェント騎士学園の女子生徒たちだ。


 もともとイリーネ王女やスピアたち王族の姫君は、エリザベート王女やフリュと違って戦闘要員としての頭数に最初から入っていなかった。


 だが王族なのでみんな魔力が強く、しかも少女だからマールとクロリーネが接しやすいため、属性が合致した志願者にはパイロットの訓練を受けてもらった。


(・・・ではメルクリウス航空隊、全機発艦せよ! ・・・目標はフォルセン川河口域から西に5キロ地点の海岸線に展開する北海方面軍の防御陣・・・我が軍の強襲揚陸艦の突入に合わせて支援爆撃を行う)


「「「了解!」」」



 メルクリウス艦隊を飛び立った4機のフレイヤーは西に向けて飛行を始めた。


 眼下にはおびただしい数の強襲揚陸艦と、その周りを護衛する30隻の通常型軍艦が、上陸地点に向けて航行中だった。俺たちはその上空から彼らをあっさり追い越すと、先に上陸地点に到達してエクスプロージョンとダークマターによる空爆を開始した。


 敵防御陣からは当然、新型地対空アイスジャベリンミサイルが発射され、俺はその軌道計算に追われる。


 具体的には俺がリンクしている4機のフレイヤーの3次元位置情報を量子コンピュータ上のアプリに投入し、敵ミサイルの魔力反応の時系列測定値と過去のデータから人工知能により予測値を割り出している。


 ここで予測値としているのは、敵ミサイルが自動追尾の魔法をかけていてフレイヤーとの相対位置により軌道を変えてくるからだ。俺はその予測値の確率分布から最善のフレイヤーの回避運動を彼女たちに指示していく。


(・・・マール機は大きく左旋回、イリーネ機は2秒後に右旋回、スピア機は急減速してミサイル通過後にフルスロットルで上空に退避、テリーゼ機は・・・今だ急加速しろ!)


 各機がタイミングよくアイスジャベリンをかわしていき、ボウガンの飽和攻撃が届かないギリギリの距離まで高度を落として、ダークマターやエクスプロージョンによる爆撃を行う。


 だが俺達の攻撃が研究されたのか、敵の防御陣にはより強力な対空バリアーと、防御陣の砦には魔金属オリハルコンなどの希少金属が大量に使用され、多少の魔法攻撃では傷一つつかなくなっていた。


 であればそんな爆撃など一見無駄に見えるが、俺たちが攻撃してる間は敵も必死に防御に専念しなければならず、それだけで敵のリソースを消費させ上陸作戦の支援としては十分な効果が得られるのだ。


 俺達の爆撃の後方では、砂浜に乗り上げた揚陸艦から騎士たちが上陸し、バリアーを展開しながら浜辺の奥へと突き進む。俺たちの爆撃に邪魔をされて、騎士たちの進軍を阻止するための火力が足りていない。


 つまるところ上陸作戦とは、敵の大軍の中に寡兵で飛び込んで橋頭保を作るという極めて困難な作戦行動であり、彼らに対する支援を俺たち航空戦力と海上戦力でどこまでフォローできるかが成功の鍵となる。


 そしてここまで数回トライしていずれも失敗し続けてきたこの上陸作戦を成功させるチャンスが、ついに今日巡って来たのだ。

次回もお楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無理に攻め落とさずこのままシュトレイマン公爵たちが帝国北方軍を引きつけてる間にビッケンドルフ軍を攻撃すればとも思いましたが、10万がこもる城に21万では兵力が足りないですよね。 [気になる…
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