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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第315話 死闘! 嗚呼ライゼンカナル運河

 皇女リアーネが義勇軍壊滅へ向けた最後のトリガーを引く裏で、俺の方もライゼンカナル運河攻略のための補完作戦を発動していた。


 というのも、運河周辺に万全の防御態勢を敷いていた南海方面軍と警察保安隊の連合軍は、さらにフレイヤーによる空襲に備え、エストヴォルケン基地同等の要塞型バリアと対空防御を運河全域に配備したのだ。


 それをユビキタスによる偵察で知った俺は、メルクリウス艦隊航空隊によるエストヴォルケン基地空爆の戦果から逆算し、ここまでに増産したうさぎ30匹とセレーネの火力をもってしても、単独での空爆は失敗に終わると結論付けた。


 ただし火力が全く足りないとうわけではなく、運河のどの地点でもいいのでバリアーの防御力を落とすことができれば、そこから蟻の一穴でバリアーをこじ開けて、運河にダメージを与えることができる。


 そのために、あと数日を費やしてうさぎを増産するのも手としては考えられたが、この超長距離空爆作戦の失敗を見越して用意していた次善の策を、この作戦に組み合わせることにした。


 その次善の策とは、帝都南方に展開中のメルクリウス軍による、ライゼンカナル運河への総攻撃だった。


 俺はアウレウス伯爵に事前に話をして、メルクリウス軍をできるだけ運河寄りに配置してもらっていた。そして敵の防御態勢の増強を知ってすぐ、リーズにも運河に向けて突撃するよう指令を与えていたのだ。


 それを受けたリーズは、軍全体を運河方面に進軍させつつ、クロリーネの空爆のタイミングにちょうど間に合うように、メルクリウス一族の精鋭とドルム騎士団長やエメラダたちフィッシャー家の精鋭だけを集めた決死隊を編成し、帝国軍特殊作戦部隊の支援を受けて運河付近に転移した。






 お兄様からの指示通りにライゼンカナル運河に到着した私たち決死隊は、遥か前方に見える巨大な運河とそれを守備する5万の大軍勢と対峙していた。


 これからこの大軍の中に突撃し、運河を守る強力なバリアーの一角を強引にこじ開けて、クロリーネ様たちの空爆をサポートするのが今回の作戦だ。


 クロリーネ様の空爆が成功すればそれが一番いいのだけど、もしダメでもその時は後続のメルクリウス軍1万の軍勢で、真正面から運河を攻め落とすのみっ!


 私は気持ちを奮い立たせると、決死隊のみんなに向けて号令を発した。


「ドルム騎士団長、ライアン様、カイン様は護国の絶対防衛圏を、エメラダ様、ミリー様、カレン様はマジックジャミングを絶対に切らさないこと! そして私たちメルクリウス一族はエクスプロージョンを撃って撃って撃ちまくるのよ! 全員吐き気がしてもマジックポーションを無理やり胃に流し込みなさい! 魔力が切れた瞬間に私たちはそこで終わりだから!」


 私の号令に分家のオジサンたちやリシアおばさんまでが飲み会の時のように無駄に大はしゃぎをする中、ドルム騎士団長も大声で気合を入れた。


「全員よく聞け! この戦いこそが我々アージェント王国の運命を決する、天下分け目の一戦であるっ! そしてこの決死隊には、かつてのアージェント王国の盾と矛であるバートリーとメルクリウスの直系血族が結集し、さらにアルバハイムの精鋭までが加わった。そんな我々に敗北の二文字など存在しないっ! この戦いに必ず勝利して、ここにいる全員で派手に祝勝会を楽しもうではないか!」


「うおーーーっ! 祝勝会だーっ! 宴会だーっ!」


「誰が最初に敵のバリアーを破壊するか勝負だぞ!」


「負けた奴は、飲み代を全部おごりだからな!」


 ドルム騎士団長の言葉に、うちの分家のオジサンたちのボルテージがついに最高潮に達した。


「じゃあ決死隊は全員、ドルム騎士団長のバリアーの中に入ってね。カイン様たちのバリアーはスーパー・キャビティー・ボム用に使うから、みんな順番はちゃんと守るのよ」


「わかってるってリーズ! 細かいこと言うなよ」


「あんな小さかったリーズも、いよいよ本家のお嬢としての風格が出て来やがったな」


「オジサンたちもリーズにだけは負けないからな! 見ててくれよ俺たちのエクスプロージョンの火力を」


「はいはい、わかったからさっさと出発するわよ!」





 ライゼンカナル運河の守備を任された南海方面軍のランツ少将は、ここを絶対に死守するようにアイゼンシュミット大将から厳命を受けていた。そして最新の対空防御も整えて空からの攻撃に備えていた。だが、


「ランツ少将、敵襲です! 西方より魔族の集団が出現し、我が軍の中を高速で東に移動しています!」


「・・・なんだその訳の分からん報告は! 敵の数は何人で、攻撃方法は何で、そもそも敵はなぜ我が軍の中を高速で移動できるのだ!」


「・・・魔族はたった10数体しかいないのですが、奴らのバリアーが強力な上に、我々のマジックジャミングが一切効かず、奴らが強力な属性魔法を撃ちこんで来るのです。にもかかわらず、我が方の属性魔法は一切封じられています!」


「そんなバカなことがあるか! 全く信じられんが、その魔族を止めることはできないのか」


「彼らには全く歯が立ちません・・・我々の攻撃手段が何も効果がなく、奴らのエクスプロージョンの威力が、今まで見たことがないほど桁違いに強力です」


「アージェント方面軍式の分類で言うと魔将軍クラスというところか。それが10数体まとめてとなると通常戦力では簡単には倒せないな。だが奴らの行きつく先には運河を覆う要塞型バリアーがある。難攻不落のガートラント要塞のバリアーの改良版であり、奴らの進軍も必ず止まるはずので、そこで集中攻撃を加えて魔力切れを誘うのだ」


「はっ!」





 ドルム騎士団長の「護国の絶対防衛圏」に守られながら、私たちはエクスプロージョンを撃ちまくる。周りはどこを見ても全て敵であり、私たちの行く手を遮る者は、彼らを覆うバリアーごとエクスプロージョンで粉砕していく。


 帝国軍のマジックジャミング下でなぜ私たちが自由にエクスプロージョンを撃てるかというと、エメラダたちのマジックジャミングが帝国軍のジャミングすら消滅させるためである。


 この3家が力を合わせれば、どんな激戦地でも突撃可能な移動要塞の出来上がりだ。だがその快進撃も、ついに止まることとなる。目標地点であるライゼンカナル運河を覆うバリアーに到達したのだ。


 このバリアーは人間の魔力では到底及びもつかないほど膨大な魔力で展開されたもので、あのお兄様とセレン姉様でも空から破壊するのが困難ということで私たちが決死隊を組まされたのだが、お兄様はこの決死隊がバリアーを破壊するための秘策を私に教えてくれていた。


「さあここからが本番よ! ドルム騎士団長は護国の絶対防衛圏をそのまま維持! ライアン様とカイン様の二人は、護国の絶対防衛圏を使ったパイルバンカーを敵のバリアーの一点に集中させて!」


 そう、パイルバンカーとは、フィッシャー騎士学園での最強騎士決定戦予選で、お兄様が心底恐れていたヤンデレのパーラ様が編み出したという、護国の絶対防衛圏を破るための必殺技である。


 これをフィッシャー家最強クラスのバリアー強度を誇るライアン、カイン兄弟がその護国の絶対防衛圏でパイルバンカーを作り、運河の要塞型バリアーの一点を貫くのだ。



 【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】

 【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】



 二人が作ったバリアーは、いつもの半球体ではなく棒状のもので、空間力場で最大に加速されたその先端が、繰り返し、繰り返し、敵バリアーの側面に叩きつけられる。


 ガイン! ガキーン! ガイン! ガキーン! 


 敵兵たちがパイルバンカーを止めようと、私たちに全力の攻撃を繰り出すが、私たちにはどんな攻撃も届かない。


 そんな敵などは完全に無視して、二人はバリアーをこじ開けようと全力でパイルバンカーを放ち続ける。


 そしてついに、



 パキーーン!



 バリアーの物理防御力が局所的に失われ、その一穴がついに開いた。今だ!!




 【火属性固有魔法・太陽の抱擁】



 私はお兄様からもらったアポステルクロイツの指輪を天にかかげると、持てる最大魔力でその火属性固有魔法を放った。さらに、



 【【【火属性上級魔法・エクスプロージョン】】】

 【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】



 リシアおばさんや分家たちが、それに重なるように次々とエクスプロージョンを放つと、それをライアンの護国の絶対防衛圏が覆った。


「総員、全速力で退避! 逃げるわよ!!」


 セレン姉様が考えた、エクスプロージョンの火力を格段に強くする【ゼロ距離・太陽の抱擁 X ゼロ距離・エクスプロージョン】。さらにそれを護国の絶対防衛圏で覆った【スーパー・キャビティー・ボム】で、わずかにこじ開けたバリアーを無理やり広げたのだ。





 俺はクロリーネの思念波にアクセスして、遥か上空からリーズたちの攻撃を見守っていた。


 敵の大軍のど真ん中に突撃したリーズたち決死隊。その周囲に次々と巻き上がるエクスプロージョンのきのこ雲。そして行きついた先に待ち受ける運河のバリアーの一角で、セレーネのうさぎよりさらに何倍も破壊力の増したこの世界最強の爆裂魔法がさく裂した。


(・・・なんなんだ、この爆発のエネルギーはっ! ちょっとコツを教えただけなのに・・・リーズのやつとんでもない破壊力の爆裂魔法を繰り出して来やがったぞ・・・全く信じられん)


「アゾート先輩、あれって本当にリーズ様たちがやったのですか? ・・・爆発の衝撃波が、こんな上空のフレイヤーにまで伝わってきました」


「フフッ、さすがは私の妹のリーズね、なかなかやるじゃないの。でもわたしにはうさぎ30匹があるし、まだまだ一族最強の座は譲らないわよ」


(・・・リーズは俺の妹だよ! ・・・だがバリアーの一部が完全に消滅したのは嬉しい誤算だ・・・よし次のバリアーが展開される前に一気にバリアーの中に侵入して運河に爆撃を加えるぞ! ・・・クロリーネ急降下開始だ!)





 ランツ少将は鉄壁の要塞型バリアーが消滅する様を信じられない思いで呆然と見ていた。


「まさかあのバリアーが破られるとは・・・魔族とはこれほどまでに恐ろしい存在だったのか」


 その時、幕僚の一人が叫んだ。


「ランツ少将! 上空に新たな敵です!」


「なっ! あれはエストヴォルケン基地を攻撃している謎の飛行体・・・アイゼンシュミット大将の読みどおりに、奴らはここも爆撃しようとしていたのだな。よし、やつらをバリアー内に絶対に入れさせるな! アイスジャベリン弾全弾発射!」





(・・・クロリーネ! アイスジャベリンミサイルが来るぞ、気をつけろ!)


「承知しました」


(・・・正面にミサイル接近。右に避けろ!)


「くっ!」


 クロリーネがフレイヤーを右に旋回させた直後に、至近距離をアイスジャベリンがかすめる。


(・・・ギリギリだな。おっと今度は左旋回!)


「んしょっ!」


 再び至近を通過するアイスジャベリンの衝撃波で、フレイヤーの機体が大きく揺れる。


(・・・次は3発同時にこの機体に向かってくるぞ。フレイヤーを大きく右に旋回した後に、その3秒後にうさぎを1匹投下、対空防御陣を破壊しておくんだ。観月さん頼んだぞ)


「任せてよ・・・くっ! 急旋回のGがすごいわね。でもこれぐらいなら何でもないわ。・・・3,2,1うさぎ投下!」





「ランツ少将っ! 敵の飛行体が強力なエクスプロージョンを投下しながら、バリアーの中に侵入してしまいました!」


「くそっ! なぜアイスジャベリン弾が全てよけられるのだ! あれにはターゲットを追尾する魔法がかけられているはず。なのになぜ一発も当たらないのだ」


「本当に信じられません・・・彼らはまるで、アイスジャベリンの軌道が完全に見えているとしか」


「・・・あの超高速かつ誘導型の飛翔体を避けるなんて人間のできることじゃない。あれが魔族、いやもはやそんな次元ではない。まさに神の視座か・・・」





(・・・よし、バリアー内に突入成功だっ! ・・・だが地上に近づいた分だけアイスジャベリンミサイルがどんどん襲ってくるから・・・俺の言う通り正確に操縦するんだぞ・・・)


「承知しました、アゾート先輩」


 それから俺の指示通りに寸分の狂いもなく正確に操縦を続けるクロリーネと、同じく絶妙なタイミングでうさぎを投下し続けるセレーネ。


 俺たちは運河上空を北に沿って低空飛行しながら、片っ端から爆撃して行った。


 うさぎによって破壊されていく運河と、それに巻き込まれる通過中の軍艦。防波堤は決壊し、運河を満たしていた水はその外へ流出して、運河の機能が完全に失われていく。


(・・・ライゼンカナル運河爆破作戦は成功だっ! これでエストヴォルケン基地への南海方面軍の援軍はなくなる・・・)


「ついにやりましたね先輩! ・・・これでわたくしたちの勝利に一歩近づいたのですね」


(・・・ああ! だが俺たちの作戦はまだ終わっていない。・・・ここから生きて脱出するぞ・・・)


「承知しました!」


「安里先輩、うさぎの残りは少ないけど、あとは私が直接攻撃をするから、ちゃんと指示をお願いね」


(・・・了解した。よし行くぞ二人とも。今度は敵の司令部を攻撃しつつ・・・さっきの場所からバリアーの外に脱出するぞ!)




 こうしてライゼンカナル運河爆破作戦は成功した。この戦略的勝利により、運河防衛に失敗した主戦派貴族陣営は、敗戦へと大きく傾くこととなる。

次回はリアーネの帝都防衛戦


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] 誘導機能があるアイスジャベリンを避けるってどういう理屈なんでしょう?アイスジャベリンの誘導は不完全とかでしょうか。 [気になる点] 今メルクリウス家ってロエルやダリウスらと海軍で大砲撃って…
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