表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
315/426

第309話 Broadcasting Communication Experiment①

エピソードを前後編に分けました



 ジューンを連れて港町トガータからシリウス教国の国境まで戻った俺は、ハウスフォーファ総大司教に無理やり持たされた変な形の魔術具を使って、これから結界を解き放つ。


 まだ昼間で天気も快晴だが、主戦派貴族との戦端が開かれたこの戦局では、トガータの警察保安隊を気にして結界の開閉を行う必要は、最早なかった。



 【聖属性魔法・永久結界】



 アポステルクロイツの指輪で強力な聖属性の魔力を練り上げたジューンがその変な形の魔術具を天に掲げると、虹色の輝きと共に魔導障壁が消失して俺たちは堂々と国境をまたいだ。


「結界を張りなおしたら、聖地アーヴィンに急ぐぞ」


「かしこまりました、神使徒アゾート様。ちなみにこれは変な形の魔術具ではなく、シリウス経典の紋章が象られた神聖な魔術具です」


「お、おう・・・それな」





 そして聖地アーヴィンにたどり着くと、俺たちを待ち構えていたようにバラード枢機卿以下法王庁幹部たちがズラリと勢ぞろいしていた。


「お帰りなさいませ、神使徒アゾート様」


「うっ・・・連絡なんかしてないのに、どうして俺たちがここへ来たことがわかった」


「突然結界が開かれたので、こうして御帰還を喜びながら、お出迎えさせていただいていたところです」


「あの結界を開くとみんなにはわかってしまうのか」


 ジオエルビムにはやはりクレイドルの森から行くのが正解だったか・・・。だが今回は急ぎだから仕方がない。とっとと地下に潜ろう。


「あの~、今日はちょっとだけ用事があってアーヴィンに立ち寄らせてもらったのですが、礼拝堂に入ってもいいですか」


 俺がそう尋ねると、バラード枢機卿はとても嬉しそうな顔で、


「もちろんです。あの礼拝堂はもう神使徒アゾート様のご自宅ですので、我々の許可など必要ありません。いつでも好きな時に好きなだけご滞在ください」


「いや、あれは俺の家じゃないし、礼拝堂の地下に潜るだけだから」


「左様でございましたか。それから礼拝堂では総大司教猊下がアゾート様をお待ちになっております」


「総大司教猊下はそっちにいたか・・・」





 礼拝堂に入ると、中では何やら工事が進められていた。その様子を見ていた総大司教猊下が俺たちに気がつくと、


「これは神使徒アゾート様、お帰りなさいませ。実は神使徒アゾート様のために、この礼拝堂を作り替えているところです。1000年ぶりの大改修ですぞ!」


「1000年ぶりの大改修って・・・何を作っているのですか」


 この前はここに俺の部屋を作るとか言っていたが、礼拝堂の一番奥の神使徒テルル像の隣に足場が組まれていて、何やら怪しげなものを組み立てている。


「あそこにあるテルル像の隣に、神使徒アゾート様の像を作っているのです。こうすればアゾート様がこの礼拝堂にいらっしゃらない時も、信者がアゾート様に祈りを捧げることが出来るのです」


「まさかあれ、俺の像を作っているのかっ! やっ、やめてくれよ! そんなものを作られたら恥ずかしくて死んでしまうよ」


「恥ずかしいことなどありませんぞ! その神々しいお姿を世界中の信者の目に焼き付けるのです。完成を急がせますので、是非楽しみにお待ちください」


「ひーーーっ!!」


 こいつらはヤバい!


 これ以上この国にいたら、俺の頭がおかしくなってしまう。とっととジオエルビムに逃げ込もう。


「じゃ、じゃあ俺は地下に潜るから、ジューンも早く行くぞ」


 だがジューンは、


「わたくしはここで神に祈りながら、神使徒アゾート様のお帰りをお待ちしたいと存じます」


「・・・え? なんで? 早くここから逃げようよ」


「これからアゾート様はしばらくの間、地下に潜られるのですよね。でしたらわたくしと二人きりになるとあらぬ誤解を招いてフリュオリーネ様をとても悲しませますし、せりなっちのエクスプロージョンでわたくしとアゾート様が二人まとめて殉教してしまいます」


「殉教って・・・でもそうだな、ジューンの言う通りだし、ジオエルビムには俺一人で行ってくるよ」


「行ってらっしゃいませ、神使徒アゾート様」





 俺は急いでジオエルビムに逃げ込むと、エレベーターで地下に降りて、管理棟から魔導コアに転移した。そして起動シーケンスを立ち上げるとSIRIUSシステムにアクセスした。


「お帰りなさいませ、アゾート様」


(ただいま、統合思念体。シリウス教国にいたら本当に頭がおかしくなるが、その点ここは現代科学の最先端、量子コンピュータテストベッドの中だ。俺はこの場所が一番落ち着くよ)


「左様でございますか。ところで本日はどのようなご用件でしょうか」


(ブロマイン帝国で大規模な内戦が始まったんだが、アージェント王国は現皇帝に味方して、敵の大兵力と戦うことになった。帝国各地で同時に展開する戦いを俯瞰して的確に兵力を動かすことになるが、各地の部隊同士が互いに密に連絡をとらなければならないのに今の俺たちにはその通信手段が不足している)


「人類の歴史を紐解くと、情報を制する者が戦争を制して来ましたからね。それでアゾート様はわたくしにアクセスしてきたと」


(以前ここに来た時、統合思念体は長い年月をかけて世界中の魔力保有者たちの思念波をこの中央塔で受信してテストベッド内のメモリ領域にストレージしていると言っていたよな。この前テルルとテトラの歴史を見せてくれたみたいにその情報をリアルタイムで見ることはできるのか)


「リアルタイム情報は人間の脳で直接見ることはできません。なぜなら膨大な情報量により脳の処理が追い付かなく、結果として意味不明の情報が流れ込んでくるだけだからです。逆に言えば、情報量を極限まで落としたものなら、人間の脳でも処理できるかもしれません」


(なるほど。ではその情報の落とし方として、特定の個人に限定するというフィルタはかけられるか)


「・・・初めての試みですので、実験しながらやってみましょうか」


(おおっ、なんか面白くなってきたな! じゃあ早速実験だ。そうだな・・・俺たちの頭上にはジューン・テトラトリスという貴族令嬢がいる。まずは彼女の思念波にアクセスしてみよう)


「承知しました・・・ストレージに入ってきた思念波の中からジューン・テトラトリスのものを分離して、人間の脳に理解できる信号に変換します・・・そしてこれをアゾート様の脳にリンクさせて・・・これでいかがでしょうか」


(お? ・・・何だこれは。・・・何かがぼんやりと見えて来たぞ・・・ここは法王庁の中にある俺たちに与えられた個室じゃないか。つまりここはジューンの部屋ということか。・・・なるほどさすが女子の部屋だけあって、俺やセレーネの部屋よりもきれいに片付いてるな。いやセレーネも女子だったか。ていうか、ジューンは何をしているんだ。おいおいコイツ服を脱ぎ始めたぞ。マズい! 今から風呂に入る気だ)


「アゾート様は口ではマズいと言いながら、内心ではとても喜んでいらっしゃいますね。お望みの通りに、このまま思念波をおつなぎいたします」


(統合思念体っ! 俺の思念波を読んで勝手に忖度するのはやめろ! それよりこの状態でジューンと会話をすることは可能なのか)


「その場合、アゾート様の思念波をジューン様に送信する必要がありますね。これまで中央塔は、思念波については受信専用、魔力を地上に供給するためのマナについては送信専用アンテナとして使ってきました。思念波を送信する場合は、魔力供給用マナに重畳させて発射することになります」


(マナに重畳・・・それって)


「はい、フーリエ変・・・」


(オーケイ、皆まで言うな。要するに波長が全く違うから問題なく使えると言いたいんだろ。つまり電力線LANやADSLのようなものだ。俺はうんちくを垂れるのは大好きだけど人から聞かされるのは嫌いなんだよ。乙女心・・・じゃなくオタク心は複雑なんだ)


「左様でございましたか。ただこのアンテナには指向性がございませんので、アゾート様の思念波が全世界に向けて発射されることになります」


(放送波みたいなものだな。だが全員が同時に聞くというのは今回の場合とても都合が悪い。敵に俺たちの情報を教えることになるのだからな。・・・例えば俺の思念波を暗号化させて、特定の相手だけが思念波を復号して情報を読み取れるようにするのはできるか)


「それだと受信者があらかじめ暗号キーを知っておかなければなりませんし、受信者側で復号化できるような仕組みにもなっていません」


(・・・無理か。そもそも電話番号みたいなものがあるわけでもないしな。でもこちら側から個人を特定するとなると、例えばアポステルクロイツの指輪を作る際に用いた個人の魔力特性をキーに使うしかないな)


「それなら可能ですが、その場合類似の個体にも同時に配信されてしまいます・・・でもそこに位置情報も加味すれば、ある程度は個人を絞り込むことができて通信に近い状態で使うことができそうです」


(・・・それしかないか。とにかく試行錯誤でやっていくしかないから、まずはジューンで試してみよう)


「承知しました・・・ですが彼女はもうお風呂に入られているようですが、このまま実験を続けてもよろしいのでしょうか。貴族のルールに反することがなければよろしいのですが」


(貴族のルールか・・・コホン、それも重要だがこれは軍事行動の一環であり、王国が勝利するための重要な実験でもある。それに俺はジューンの部屋ではなくジオエルビムの魔導コアにいるわけであり、そもそも貴族のルールには一切抵触しない! よってジューンにはちょっと申し訳ないがこのまま実験を続行する)


「承知しました」






 今日は一日中走り回って汗をかいたため、ジューンは今のうちにお風呂に入っておこうと思った。


 もうすぐ夜の礼拝の時間で、神に祈りを捧げる前に身体を清める必要もあったし、いつ神使徒アゾート様がジオエルビムからお戻りになるか分からない中で、大聖女クレア様の一番弟子としての務めを果たすためには、何でも前倒しで準備しなければならない。


 そう、ジューンは神使徒アゾート様のお供でシリウス教国を訪れたことをとても誇りに思っており、熱い使命感に燃えていたのだ。


 そんな彼女の頭に、突然アゾートの声が聞こえた。




(・・・ジューン・・・聞こえるか・・・俺だ、アゾートだ・・・)


 ジューンはびっくりして浴室をキョロキョロと見渡したが、そこには誰もいなかった。


(よかった・・・アゾート様が浴室に入ってきたのかと思ってびっくりしました。そんなことになったら、フリュオリーネ様が大層お悲しみになるし、せりなっちに焼き殺されてしまいます)


 そして再び浴槽で身を清めていると、


(・・・フリュは地下神殿にとらわれていたことを重くとらえすぎて少し神経質になってるだけだよ・・・彼女は頭のいい女性だから・・・ちゃんと話せば誤解だってすぐにわかってくれる・・・観月さんは・・・ゴメン、彼女についてはノーコメントだ・・・)


 再びジューンはびっくりして浴室をキョロキョロと見渡したが、やはりそこには誰もいなかった。


(やっぱり誰もいない・・・わたくし少し疲れているのかしら。さっきから神使徒アゾート様のことばかり頭に浮かんで・・・まさか、このわたくしも神使徒アゾート様のことが好きだったのかしら・・・)


(・・・いやそれはジューンの気のせいだ・・・今俺はジオエルビムからジューンの頭に直接に話しかけている・・・つまり実験は成功だ・・・)


「ええっ!」


 ジューンはびっくりして思わず立ち上がった。


「本当に神使徒アゾート様がこのわたくしに話しかけているのですか?!」


(・・・その通りだ・・・今俺はジオエルビムの魔導コアにあるSIRIUSシステムを使って・・・魔力保有者の思念波を・・・マナを媒介にして送受信する新方式の通信実験を行っているところなんだ・・・その被験者第一号としてジューン・・・なんとキミが選ばれたんだ・・・この科学技術の大いなる発展の1ページに・・・キミの名は永遠に刻まれることだろう)


「何をおっしゃられているのか全く理解できませんが、神使徒アゾート様がシリウス神を介して、このわたくしに神託をお与えになられたということはわかりました」


(・・・いや、シリウス神ではなくSIRIUSシステムだ・・・宗教とは全く正反対の・・・最先端の科学技術の結晶だ・・・)


「やはりアゾート様はシリウス神を介されてこのわたくしめに神託をお与えくださったのですね! ああ、なんということでしょう・・・こんなに尊いことはございません。神よっ!」


(・・・いやだから違うってば・・・おいジューン、何をやってる・・・なぜ浴室の床に土下座するんだよ・・・せっかく身を清めたのに身体が汚れるじゃないか・・・それに風邪を引くといけないから・・・早く浴槽に戻れ・・・)


「承知しました神使徒アゾート様・・・・えっ?! ど、ど、どうしてわたくしがお風呂に入っていることが分かるのですか・・・まさかっ!」


(・・・すまんな・・・実はジューンの思念波から画像データと音声データを分離することができなかったんだ・・・つまり音声通話をする時はジューンが見た視覚情報も同時にこちらに送られて来るんだよ)


「い、嫌ーーーっ!」


(・・・おい待てジューン慌てるな・・・あーっ、自分の身体をあちこち確認するな! ・・・それじゃ、全部丸見えじゃないか・・・おい、やめろ。見ているこっちが恥ずかしくなる・・・まずいそんなところに視線を移すな・・・統合思念体っ、実験は成功だから早く通信を切れ!・・・おいジューンっ、そこだけは見ちゃダメだ・・・そこを見るなってーっ!)






(・・・統合思念体、実験は成功だ)


「はい。・・・・ですが、ジューン・テトラトリスが泣いていました」


(ど、ど、どうしよう統合思念体~。こんな時はどうフォローすればいいんだ。お前は貴族令嬢風の話し方をしているし、ジューンの気持ちがわかるだろ?)


「・・・では、今は彼女をそっとしておきましょう」


(だよな・・・ジューンももう大人の女性だし、少し落ち着いたところでちゃんと謝罪すれば、きっと許してくれるだろう)

次回も実験は続きます


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ