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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第300話 和平交渉

 アージェント王国とブロマイン帝国による第一回目の和平交渉が、ダゴン平原東部の勇者部隊と王国軍の激戦地に設けられた緩衝地帯において実現した。


 両陣営からそれぞれ1万人規模の兵力が護衛として周りを取り囲み、その中央には荒野に机といすを並べただけの会場で衆人環視の元、交渉がもたれることとなった。


 王国側からは全権大使のアウレウス伯爵がマーキュリー伯爵、バーナム伯爵を伴い出席。またシュトレイマン派からもジルバリンク侯爵とティアローガン侯爵が、中立派からはフィッシャー辺境伯とアルバハイム伯爵も同席して交渉に臨んだ。


 一方の帝国側は、リアーネ皇帝の名代として特殊作戦部隊ネルソン大将及びシリウス教会の融和派の枢機卿数名と、アージェント方面軍司令官ヘルツ中将以下幕僚がズラリと並んだ。その中には両者の連絡調整を一手に引き受けたフォーグ・アウレウスと中継役を果たしたアルト・アージェント王子、ミカ・クリプトンもオブザーバとして同席してした。


 そして長時間に及ぶ話し合いは、講和条約の骨子と戦後賠償についてお互いの主張をすり合わせるものとなった。


 条約の骨子は大きく3点あり、①両国間の戦闘行為の停止と国境線の画定、②国交の樹立と外交に関する取り決め、③両国民の往来と貿易の開始、関連法制の整備だ。


 ①については、現在内戦に突入した帝国において、主戦派貴族が敗北して融和派の皇帝が正式に皇位につけば、皇帝命令として王国との戦闘行為は終結されることが帝国側から約束された。


 その際の国境線は両国にまたがる山脈の稜線とし、唯一の平地であるダゴン平原一帯は両国の緩衝地帯として互いの領土には組み入れず、両国の貿易路としての機能が持たされることとなった。


 ②については①と同様、融和派皇帝の皇位就任後講和条約を発効させて、お互いを国家として認めた上で大使館を設置して外交関係をスタートさせる。また③とも関係するが、両国の法制度の違いから生じる諸問題に対応するため、タスクフォースを設置して自国の法制度の整備を加速させる。


 ③については陸路の貿易路としてダゴン平原が使われることから、フィッシャー領の領都エーデルを貿易の拠点としてブロマイン帝国に開放する。


 また、海路の拠点として両国の貿易港も互いの国の商人に開放することになり、王国側が開港するのは、北部最大の商都ジェノポリスの他、シュトレイマン公爵家が保有する複数の港と、王国西部にアウレウス公爵家が保有する複数の港、そして王国南部にあるメルクリウス伯爵家が保有するメディウス港、ディオーネ港、ポアソン港だ。


 さらに両国の貿易には一定の関税がかけられることになるが、今後の交渉により品目ごとに関税を変更するための枠組みが両国間に設置されることとなった。



 一方で、講和条件を締結するうえで調整が必要なのは戦後賠償だ。対象はブロマイン帝国成立後の百数十年間の戦争に関するものだが、互いの主張を持ち寄って今後精査するためのタスクフォースを設置することで今回はひとまずの決着を見た。







 さて、そんな堅苦しい交渉事も一段落し、和平交渉で使用されたテーブルの上には、書類の代わりに色とりどりのスイーツや薫り高いお茶が並べられた。


 これからこのダゴン平原緩衝地帯において、歴史上初めての両国政府代表による、夫人同伴での和やかなお茶会が始まるのだ。


 会場には先程よりもたくさんのテーブル席が追加されたが、そのうちのメインテーブルには、アウレウス伯爵夫妻とヘルツ中将夫妻、そしてネルソン大将夫妻が席についた。


 お互いに挨拶を交わして、奥方同士で会話が弾みだしたころ、男3人が集まりこちらも雑談を始めた。


 冒頭アウレウス伯爵が、


「ネルソン大将の奥方は、大層若くてお美しい。美貌を保つ秘訣があれば、是非私の妻にもご教示願いたいものですな」


「いやいやアウレウス伯爵の奥方もとても若くてお美しい。それにここだけの話、実は私の妻は人間ではなくエルフなんですよ」


「エルフというと確か、太古の昔に絶滅した亜人種族だと聞く。帝国にはまだ生き残りがいたのですか」


「ええ。私や部下のボルグ中佐は長年、帝国南方にある未開エリアに赴任していて、エルフの村との交流を仕事にしていました。そして村の族長から娘を貰ってくれと言われて結婚したのが、今の妻なのです」


「なるほどそうでしたか。実はうちの婿殿・・・メルクリウス伯爵が常々、私の娘のフリュオリーネが本当はエルフではないかと疑っておりましたが、なるほど確かにうちの娘とどこか似ていますな」


「フリュオリーネ嬢とは、アルトグラーデスの軍本部でお会いしましたが、彼女といい伯爵の奥方といい、エルフの村に住んでいても全く違和感ないでしょう」


「ほう、その村に行ってみたいものですな」


「メルクリウス伯爵も行きたがっていたので、その時には一緒にご案内しましょう」


「それはいい、是非よろしく頼もう」


「「わっはっはっ!」」





 そんな和やかな雰囲気の中、アウレウス伯爵はいよいよ本題に入る。


「ところでヘルツ中将、正直なところ帝国の内戦では融和派と主戦派のどちらに分がありそうですかな」


 するとヘルツ中将が顎に手をやって何やら思案し、


「兵力の上では圧倒的に主戦派が優勢だが、主戦派であった我がアージェント方面軍が融和派につくことに決めましたので全く勝ち目がないという訳ではない」


「ちなみに兵力差はどれくらいでしょうかな」


「帝国軍は4つの方面軍に分かれていて、仮に3方面軍全てが主戦派につけば15万、アージェント方面軍にも強硬な主戦派貴族がいますので彼らの兵力を3万と見積もれば、私の手元に残るのが12万の兵力であり、差し引き18万が主戦派ということになる。これに帝国全体に配備されている警察保安隊30万が主戦派につけば最大48万の兵力に対し、12万で挑むことになります」


「4倍の兵力差か・・・・もしよろしければですが、我がアージェント王国軍も側面支援を行うことぐらいは可能です」


「側面支援・・・・それは願ってもないことですが、帝国領内に他国の軍勢を引き入れるには皇帝の許可が必要であり即答はできません。ちなみにどの程度の兵力が期待できるのでしょうか」


「ボルグ中佐が我が王国での破壊活動を止めてくれれば、治安維持に回していた兵力5万は拠出できる。それとここダゴン平原に駐留している8万を加えた13万が我々に出せる最大限の兵力です」


「13万ですと! いや失礼・・・実は貴国にそれほどの兵力があることを、今回の戦いになるまで全く知りませんでしたのでつい」


「さもありなん、なぜなら我々自身も把握できていなかったのですから」


「ほう、それはまた・・・」


 アウレウス伯爵の答えに、ヘルツ中将が不思議そうな顔をすると、


「これまでは主にフィッシャー辺境伯たちだけで帝国と戦っており、王国内は派閥争いやら貴族同士の戦争やらが多く、帝国のような国軍の概念もなく各家門の騎士団がバラバラに動いていました。それが婿殿が騎士爵から伯爵まで台頭して行く過程で、王国貴族たちが彼の戦争スタイルに衝撃を受け、今回国王命令により王国陸軍と王国海軍が初めて組織されたのです」


「メルクリウス伯爵と言えば、まるで古の魔王の生まれ変わりのような強力無比なエクスプロージョンで、我が軍の補給基地を滅茶苦茶にしてくれました。最初は本当に500年前に突然現れてエメラルド王国を滅ぼした魔王、火の堕天使スィギーンが復活したのかと思いましたが、まさか彼が率いる学生の集団が犯人だったとは思いもしませんでした」


「ヘルツ中将が今おっしゃられた堕天使スィギーンと言うのは、アージェント王国建国の英雄であり、我がアウレウス公爵家の始祖ともなったアサート・メルクリウス公爵のことですな。帝国では彼のことを魔王と呼び、我々はその子孫だから魔族ということになっていたのですかな」


「神聖シリウス帝国よりもずっと前からそのように呼称されていたので定かではないですが、起源を辿ればその様なところだと思います。それにしても魔王メルクリウスか。これはいよいよ、メルクリウス伯爵と魔王との因縁が気になりますな」


「いやいや、実は彼の本当の名前はアゾート・フェルームと言って、失われたメルクリウス一族を復活させるためにこの私がつけたものなのですが、なるほど、婿殿がメルクリウス公爵の生まれ変わりという話は、あり得ないとは思いつつなぜか妙に腑に落ちますな」





 アウレウス伯爵とヘルツ中将がアゾートのネタで会話が弾んでいると、ネルソン大将が、


「少しボルグ中佐の話をさせてもらうと、彼は王国での作戦を終了して既に帝国に帰還しています。ですので王国の騒動はすぐにでも鎮圧できるかと思います」


「ボルグ中佐を指名手配していたのですが、既に国外に逃亡されていましたか。だが王国から出ていってくれたのならそれはそれで結構だ。何せ新教徒はみんな貧しくて失うものがないから、死に物狂いで歯向かって来て手を焼いていたのです。そんな輩を焚き付けられては、たまったものではありませんからな」


「アージェント王国のシリウス教・・・新教は大陸中でも最も過激ですからな。自主独立の気風が強いというか、貴族を目の敵にしているというか、我々が信じる教義とは少し異なるのです」


「最も過激・・・新教徒は全員、あんな凶暴な者達ではなかったのか。実はボルグ中佐のせいで王国全土で大規模な騒乱が起きていて、暴徒どもを片っ端から収容所に放り込んでいたら、すぐにそこが一杯になって彼らの処遇に困っていました。すると婿殿が領地の復興作業に使いたいからと、新教徒たち全員を労働者としてディオーネ領に受け入れることを表明してくれたのです」


「新教徒たち全員を・・・彼はそんなことを」


「ええ。それでディオーネ領を新教徒たちの流刑地と法律で定めたところ、新教徒の扱いに困っていた各地の領主たちが暴動とは無関係な者たちまで強制移民をさせ始めたのです。婿殿は行き場を失った宮廷貴族の子弟もかき集めていましたが、この前ダゴン平原に立ち寄った婿殿にそれを話すと、人口が増えるのはいいことだと大喜びしていました」


「王国中の新教徒をディオーネ領へ強制移民ですか、それは大変でしたな。まあお互いの国を滅茶苦茶に荒らしまわっていたメルクリウス伯爵とボルグ中佐による被害は戦後賠償タスクフォースに検討を任せるとして、あの二人は今は仲良く、帝都ノイエグラーデスを舞台に主戦派貴族をひっかきまわしていますよ」


「二人が共同作戦ですか。それは面白い」


「メルクリウス伯爵は迷惑そうにしていましたが、私はいいコンビだと思っています。そんな彼らに我々からアドバイスをしてあげようと思うのですが、策謀家として名高いアウレウス伯爵には、何か妙案がおありですかな」


「ないこともないのですが、ちょっと近くに寄っていただけると・・・・ごにょごにょのごにょごにょ」


「なるほど、それはえげつないですな。ではこんなのはどうかな・・・ごにょごにょ」


「アウレウス伯爵もネルソン大将も、二人ともお人が悪いですな。では軍司令官の立場から一つ、こんな作戦はどうですかな・・・ごにょごにょ」


「うはぁ・・・それをやられたら、我がアージェント王国軍もただでは済みそうにないですな。ヘルツ中将もとんだ名将だ・・・だが面白い! もしその作戦を実行に移すなら、是非我が王国軍がご助力しよう」


「それは頼もしい。では至急リアーネ皇帝陛下に許可を頂き、我が軍の進軍に合わせて王国軍にも連携をお願いすることにしましょう」


「「「そして奴らに目に物見せてくれようぞ!」」」


 そうして高笑いを続ける3人の男たちは、さながら悪役のラスボスのような邪悪なオーラを、この華やかなお茶会の場にまき散らしていた。

次回、再び帝都に場面を移し、貧民のガス抜きをするために教会のボランティア活動をするアゾートたちの話です。


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] この話読む限りこの世界のエルフは一目瞭然では無いようですね。 または見ればわかるが会話のとっかかりとしてあえて言及したかどちらかでしょう。 [気になる点] 1、女王以下、高位貴族が参戦して…
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