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第3話 カリキュラム1(魔法概論、剣術実技)

魔法概論は、授業内容に見せかけた本作の魔法の設定です。

読み飛ばしても問題ありません。


剣術実技は、この時点での各登場人物の剣術の強さです。


 俺とネオンが男子寮を出たところで、二人の男子生徒に呼び止められた。


「アゾート、ネオン!」


 ダンともう一人、大柄の男子生徒がこちらに近付いてきた。


「一緒に行こうぜ」


「ダン、俺たちを待っててくれたのか。で、そいつは誰だ?」


「こいつは寮の同室になったカインだ」


「俺はカイン・バートリーだ。よろしくな」


「俺はアゾート・フェルーム。そしてコイツは弟のネオンだ」


「ネオン・フェルームだ。よろしく」


 それにしても、このカインという男、でかいな。


 ダンよりも長身で、筋肉質だがスマートな体形。黒髪に茶色の瞳のカインが、何か興味深そうにネオンの顔をジーっと見ている。


「ダン。お前の言う通りネオンはイケメンだな」


「だろ。クラスの女子にモテまくりだよ」


 とほほ嘆くダン。ダンとカインとは昨夜一晩でかなり打ち解けた様子だ。


「女みたいにきれいな顔だな。やはり、こういうタイプがモテるのか」


「そうなんだよ。おかげで俺たちは見向きもされないんだ、なあアゾート」


「あ、ああ、そうだな」


 カインの言葉に少し俺はたじろいだ。女みたいな顔って、やっぱりネオンが男子生徒のフリをするのは無理があるのかな。胃が痛い。


 ネオンはそ知らぬ顔でカインの話を聞き流しているが、どんな強心臓をしてるんだろうか、コイツ。


 ネオンの顔を見ながら「ふーん」と何かに納得するカイン。ひょっとして男装していることを気付かれたのではないかと、俺が内心冷や汗をかいていると、ニッと笑ってカインが言った。


「こいつがクラスBの女子を独占してるのか。俺はクラスAでよかったわ」


 どうやら男装を気づかれたわけではなかったようだ。俺が一息ついていると、マールが数名の女子を連れて俺たちと合流した。


「おはよー」

 

「あ、ネオン様だ」


 女子たちはきゃーきゃー言いながら、マールを残してネオンを取り囲んだ。


「これだよ・・・」


 ダンがつまらなそうにネオンを取り囲む女子たちを見ていると、マールが俺に近付き、


「この人は?」


「騎士クラスAのカイン。ダンと同室だそうだ」


「マール・ポアソンです」


「カイン・バートリーだ。これからよろしく」


「こちらこそ。ダンより大きいね。この二人が同室ってなんか狭くて暑苦しそう」


「うるせえよマール。じゃ、そろそろ行こうか」


 そういって先頭を歩き出したダンに続き、俺たちは朝の香りがすがすがしい森を通り抜け、騎士学園へ向かった。




 教室に着くと、昨日俺が戦った例の取り巻きの男子生徒の一人が、俺に近づいてきた。


「二度と顔を見せるなと言ったはずだが」


「俺もこのクラスだからしかたないだろ。というか昨日気付いてなかったのか?」


 全く気付いていなかった。


「お前たちはみんなハーディンと同じクラスだと思っていた」


「男爵家の子弟の取り巻きがなんで中級貴族だと思った?」


 確かにその通りだ。制服のラインもよく見れば1本だ。


「他の奴らもみんなクラスは別だが騎士クラス。俺はお前たちと同じクラスだったので、昨日は正直乗り気じゃなかったんだけど、ハーディンには逆らえなかったんだ」


「ハーディンに逆らえない事情があるのか」


「うちの騎士家が、ハーディンの実家の家臣なんだ。それより気をつけろよ、ハーディンはお前たちがフェルーム家だと気づいているぞ」


「どういうことだ?」


「あいつの名前は、ハーディン・スキュー。お前たちサルファー派閥と敵対する、次男フォスファーを次期当主に担ぐ派閥のメンバー、スキュー家の息子だよ」


「!」


 先の内戦は俺たちサルファー派が勝利したものの、交渉の結果、次男フォスファーの領外追放と引き換えに主要貴族はまだ残っている。派閥間の遺恨は残っており、そのスキュー家の息子には当然恨まれているということか。


「だからまた何か仕掛けてくるかもしれない。俺はもうお前とは戦いたくないのでなるべく関わらないようにするが、俺ではたぶんハーディンを止められない。すまんな」


「わかった。ところでお前名前は?」


「昨日のオリエンテーションでの自己紹介を聞いてなかったのかよ。ニック・ガートンだ」


 それだけいうとニックは自分の席に戻っていった。






 今日の午前は魔法概論の講義、午後は剣術実技だ。


 教室に入ってきたのは白いひげを蓄えた、いかにも魔法使いらしい風貌の講師。中央の教壇に立ち魔法概論の講義が始まった。




『魔法概論』


 次の条件が満たされた時に魔法は発動する(魔術具を使用する場合を除く)

 〇 魔力保有者が自属性の魔法を使用すること

 〇 発動に必要なMPが足りていること

 〇 以下の3つを同時に行うこと

   ・正しく詠唱する

   ・魔法のイメージを維持する

   ・魔法陣に手を接触しておく


 魔法は以下のように分類する

 〇 火、水、土、風、雷、光、闇の7元素を根源とする属性分類

 〇 初級魔法、中級魔法、上級魔法、固有魔法の4段階の強度分類

 * なお属性に限らず魔力保有者の周囲には、魔法防御シールドが自動展開され、魔力保有量に応じた強度の魔法防御、物理防御が得られる(無属性魔法の一種)


 初級魔法の紹介

 【火】 ファイアー:火の元素を発生させる

 【水】 ウォーター:水の元素を発生させる

 【土】 ウォール:土の元素を大地から発生せる

 【風】 ウィンドウ:風の元素を強風として発生させる

 【雷】 サンダー:雷の元素を発生させる

 【光】 キュア:光の元素で生命力を与える

 【闇】 ダーク:闇の元素で生命力を奪う





 

 午前の授業が終わり、みんなで食堂に移動した。


「座学は苦手なんだよな。午後はやっと実技だ」


 ダンは座学より実技派か。前世の高校でもこういうタイプは多かったな。


「昨日の戦いを見た感じだと、アゾートもネオンも二人ともいい動きしていたな。剣術でも上位に食い込んでいくんじゃないか」


「ありがとうダン。3人を同時に相手して勝つようなやつに評価してもらえて嬉しいよ。でも俺たちは子供の頃から魔法ばかり練習していたので、剣術はまだまだこれからだよ」


「確かにあの魔法は反則級だったな」


「こいつらの魔法、そんなにすごかったのか」


 いつの間にかカインが俺たちに合流していたようで、急に会話に入ってきた。


「カインは見てないから信じられないと思うが、とにかく魔法の発動が異常に速いんだ」


「ふーん。俺は魔法が使えないからその凄さがよくわからないが、速さは大事だよな」


「お前は魔法が使えなかったのか」


「ああ。だからこれ専門だ」


 といってカインは自分の模擬剣をたたいた。



「午後の実技は全騎士クラス合同だから、あとで手合わせ頼むよ。いい勝負できると思うからさ」


 それから剣技がどうのこうのと話が一通り盛り上がったところで、マールがボソッと呟いた。


「私はどちらかといえば魔法の実技を鍛えたい。小柄だから力負けしちゃうし、後衛の魔法職に専念した方がいいかなと思ってるの」


 すると、男装がバレないようにあまり会話に入ってこないようにしていたネオンだが、思うところがあったのかマールにアドバイスを始めた。


「そうだな。魔法職に専念するのもいいと思う。ただ小集団だと自衛できる程度には剣術も必要になってくるし、最初からあきらめることはないと思うよ。ダンジョン部の活動もあるし、剣術も楽しみながら取り組んでみようよ」


 ネオンのアドバイスを聞いて、マールも剣術に対して少しやる気になったようだ。


「そうね。ダンジョンにも早く行きたいし、ちょっと頑張ってみるかな」






 午後の剣術実技は全騎士クラス合同だ。実力に合わせてグループを分け、それぞれのレベルに応じたメニューに取り組むようだ。


 今日は初日なので、そのグループ分けを行う。体力測定の後、生徒同士の簡単な手合わせにより、講師が各生徒の大まかな力量を判定する。

 

 俺も何人かの生徒と手合わせをしたあと、カインと手合わせすることとなった。



 実際に相対するとカインはやはりでかい。カインと正面から向き合うと自分とは体格がまるで違うことがわかる。


 剣の構えにも隙が見当たらず、どこに打ち込まれても対処できるという余裕すら感じられる。


「始め!」


 講師の号令によりカインとの手合わせが始まった。俺は模擬剣を握り締めて、全力でカインに打ち込む。だが、俺の剣を受けたカインは、体ひとつブレることはない。


 逆にカインの剣を受けた俺は、簡単に体勢を崩されてしまう。カインの剣はとにかく重いのだ。


 まともに受けると体が押し込まれ腕がしびれるし、受け流そうとしても俺の体の軸がブレてしまって、次の行動がとれなくなってしまう。


 しばらく打合いを続けるが、カインは大柄なのに身のこなしも素早く、そのうち俺の剣は難なくかわされて一発も当たらなくなった。


 そこで講師から手合わせ終了の合図だ。


 カインは昨日のハーディンの取巻き達とは次元が違う。もちろん俺ともだ。


「レベルが違いすぎる。努力しても追いつける気がしない」


「俺は魔法が使えないから、これ一本でやるしかねぇから」


 模擬剣を軽くたたくカインだが、それにしても強すぎる。


 ただ者ではないと思う。





 俺はそのあとダンとも対戦した。やってみて分かったが、ダンとカインは似たようなタイプだった。


 ダンはカインほどではないものの、パワーやスピード、ディフェンスがずば抜けている。


 俺は剣術ではダンにも勝てる気がしない。


「これで魔法も使うんだから、ダンは敵にまわせないな」


「俺はこっちメインだが、お前は魔法攻撃が主体なんだろ。剣術で俺に勝つ必要はないさ。それにお前はパワーよりもスピード重視で鍛えていけば、魔法攻撃と組み合わせて相当なものになるはずだよ」


「なるほど。それもそうだな」





 最後にネオンとも対戦した。


 こいつとは子供のころからいつも一緒だったからわかる。実力は互角。だから負けたくない。


 今日こそネオンに本気で勝ちに行く気だった俺は、先手必勝と速攻で打ち込んだ。


 だが、ネオンも同じ考えだったらしく、手合わせ開始直後からいきなり激しい打合いが始まった。


 鏡合わせのように同じ動きをする二人の試合は、どちらかに勝敗が傾く様子もなく時間だけが過ぎていき、間もなく講師に止められたことで今日も勝負がつかなかった。



 ダンが「お疲れ」といいながら話しかけてきた。


「昨日の戦いを見ていて思ったが、お前たち二人は魔法攻撃だけでなく、剣術もそっくりなんだな。パワーやスピードにも差がないし、剣技の型や動き方までまるでそっくりだ。兄弟でも普通は多少の差が出てきてもおかしくないのに、どうなってるんだよ」


 ダンが俺たちの対戦を見て、笑いながらそう評価した。


 確かにそうなのだ。


 子供の頃からずっと一緒で、魔法も剣術も同じメニューをこなしてきたとはいえ、ネオンとは差がつかな過ぎるのだ。


 しかもコイツは本当の兄弟でもないし、男ですらない。



 ネオンは女の子なのだ。



 それなのに、魔法はともかく剣術まで全く同じレベルなのは、男としていかがなものか。


 正直、悔しすぎる。




 向こうの方では、カインがネオンになにやら話かけている。今の俺とネオンの手合わせで、何かアドバイスでもしているのだろうか。なんだか楽しそうに笑っている。


 俺はダンにも、カインの印象を聞いてみることにした。


「ダンはカインと手合わせしたのか?」


「ああ、あいつは強い。レベルが違うな」


「ダンから見てもそうなのか」


「アイツ、ただものじゃない気がする」


 ネオンをからかってはしゃいでいるカインを遠目に見ながら、ダンは「うーん」と考え込んだ。





 レベル分けの結果、ダンとカインがベスト4グループ、俺とネオンはぎりぎりベスト16グループとなり剣術実技の上位クラス、マールはベスト32以下となり下位クラスとなった。


 なお、前期中間の実技テストとして闘技大会が開催され、剣術の順位によりクラスの入れ替えが行われるそうだ。


「マール、下位クラスになったからってガッカリするな。闘技大会では上位クラス目指して頑張れよ」


 マールに対するカインなりのフォローのつもりだったようだが、


「女の子は、そういうガチなの普通は目指さないよ。自分と一緒にしないで」


と軽く受け流すマールだった。

アゾート、ネオン、ダン、マール、カインの5名が今後どのように成長していくのか、ご期待ください。


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