表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
296/426

第290話 調査

 いきなり大げさな祈りを捧げられた俺たちは、神官たちにその理由を聞いた。すると、


「シリウス教国では、復活を遂げられた大聖女クレア様がいつお戻りになられてもいいように、急ピッチで受け入れ準備が進められています。法王庁にも大聖女様の特別の部屋をご用意いたしますし、お弟子様一人ひとりにも部屋を用意させていただく予定です」


 シリウス教国は完全にネオンを迎え入れるつもりでいるらしい。ついでに俺たちまで・・・。


「ところで急な話で悪いのだが、大至急バラード枢機卿と面会がしたい。取り次いではくれないか」


「承知いたしました、聖者アゾート様」


「せ、聖者アゾート!? 何だよそれ、気持ち悪い言い方をしないでくれよ!」


 俺は慌ててやめさせようとすると、神官は困ったような顔をして、


「気持ち悪いだなんてそんな・・・。ですが、大聖女クレア様のお弟子様は我が教国では全員聖者という扱いになるのです。聖者セレーネ様、聖者ジューン様、聖者モカ様」


「ひえーーーっ!」


 俺は極度の宗教アレルギーのため、全身がむず痒くなっていくのを感じた。


 一方セレーネは、ネオンの弟子と言われたことに憮然とした表情をしているが、ジューンとモカはとても誇らしげだ。さすがネオンに心酔しているだけある。


 とりあえず俺とセレーネの呼び名は後で変えてもらうとして、神官に取り次いでもらうとすぐにバラード枢機卿と面会できることになった。


 ・・・これが聖者の役得なのか?





 聖地アーヴィンにある法王庁の最奥の間で、俺たち6人はバラード枢機卿と、なぜかその隣にいるシリウス教最高指導者であるハウスホーファ総大司教猊下との面会に臨んでいる。二人の後ろにはいつもの聖女隊が並んでいた。


 さて前回のシリウス教国訪問時は、交渉ごとは全てネオンに任せっきりだったが、今回は俺が話をしないといけない。宗教関係者はすごく苦手なんだが。


「あのう・・・べっで」


 話を始めようとしたが、俺はいきなり舌を噛んでしまった。それを見たジューンは何かを察したのか、俺の代わりに話を始める。


「わたくしクレア様の弟子のジューン・テトラトリスと申します。今回はクレア様が不在のためわたくしが代理をさせて頂きます。よろしくお願いします」


 すると総大司教が柔らかな微笑みを浮かべ、


「これは聖者ジューン様。それで本日はどのようなご用件で聖地アーヴィンを訪れられたのでしょうか」


「はい、実はブロマイン帝国への潜入中にエリザベート王女、フリュオリーネ、ルカ、エレナの4名が古代の魔術具により完全に拘束されてしまいました。どうやらそれはエメラルド王国時代に彼らと対抗していたシリウス教徒たちが作成した遺物なのだそうですが、その解除方法が誰にもわからず、このシリウス教国に情報がないか調べに参上した次第です」


「なるほどそうでしたか。かつてこの地を旅立ったシリウス教徒たちが今のブロマイン帝国の地を開拓して根付いたことは知られています。エメラルド王国の頃ならまだ新教は生まれていないので、我々と同じ教義に基づく者たちだと思います。ですのでひょっとしたら法王庁の書庫を調べればヒントとなるような書物が見つけられるかもしれませんね」


「まあ、そうですか! では、その書庫を利用させていただいてもよろしいのでしょうか」


「それはもちろんです。みなさまの部屋も既に完成していますので、そちらもお使いいただきながら納得の行くまでこの法王庁にご滞在ください」


「ありがとう存じます」


「この法王庁滞在中はご自由にしていただいて構いませんし、必要があればこの私やバラード枢機卿を始め教国幹部に面会を求められても構いません。ただし、1日3回の大礼拝堂で行われるミサには必ずご参加ください。また3度の食事はすべてこの法王庁で教国幹部とともにとっていただきます。それから午後には」


 ジューンがどんどん話を進めていくが、ほとんどがシリウス教徒としての生活に関することだ。これだと1日中シリウス教ずくめの生活を送らされてしまう。


「ちょっと待ってくれよジューン、そんな過密スケジュールを送ると調べ物をしている時間はなくなるし、シリウス教に洗脳されてしまう気がするが」


 するとジューンが呆れたように、


「何を言っているのですか安里君。今、総大司教から言われたことは、普段のわたくしたちがやっていることと何も大差ないではないですか。それともまさか、朝昼晩3回の神への祈りを怠っていたのではないでしょうね」


 ギロリと鋭くにらむジューン。


 まじかよ・・・まさかこんな修行僧のような超過密スケジュールがアージェント王国の標準的な生活スタイルだったとは。


 俺はセレーネの方をちらっと見るが、彼女の表情も真っ青だった。ちなみにフィリアもゲッソリしてる。


 仲間がいて安心したが、ここは狂信者どもの本部。余計な波風を起こすとどんな恐ろしい目にあわされるのか分かったものではない。ここは誤魔化そう。


「も、も、も、もちろん今までもちゃんとやっていたさ。ただ、今は調査が優先だから、ちょっとそれはどうかなと思っただけで、神への祈りを怠るつもりは最初から皆無だったさ」


「それを聞いて安心しました。では書庫の調査は全員で手分けをして進めますので、安里君・・・いいえ、聖者アゾートもきちんとミサに出席してくださいね」


「し、承知しました・・・トホホホ」






 それからの俺たちは、書庫にある大量の文献を漁りながら、自分たちの部屋に持ち込んではそれを読みふけり、その合間にミサだの講話だのお祈りだのと、清く正しい聖職者としての生活を送った。


 そもそもここにある大量の文献は、全てがシリウス教関係のものばかりであり、俺は寝ても覚めても1日中、宗教漬けの日々を送る羽目に陥っていた。


 そして例の魔術具に関係のありそうな情報は全く出てこず、シリウス教国に来たのは完全な失敗だった。


 そうしてシリウス教国でかなりの日数を過ごした俺は、ついに頭がおかしくなってふらつきながらセレーネの部屋へ逃げこんだ。


 するとセレーネも朦朧とした表情で俺を見ると、


「あ、あさと・・・せんぱい・・・もうこんな所から逃げ出しませんか?」


「実は俺もそれを考えていたんだ・・・もうシリウス教なんかうんざりだ・・・フリュの魔術具の情報は、シリウス教国には絶対に存在しない。他を当たろう。しかし他のみんなはよく平気だよな」


「ジューンはもともとあのバカクレアに心酔していた狂信者だから平気なのは分かるけど、モカやフォーグも別に何ともないみたいね。アージェント王国全体が真面目なシリウス教信者って噂は本当だったのよ」


「フェルーム家の常識は、世の中の非常識ということか・・・あれ、フィリアはどうなんだろ。あいつもシリウス教徒だったよな」


「あの子は新教徒だから、こんな旧教徒みたいな宗教漬けの生活を送ったりしないらしいわよ。そう言えばディオーネ領でも、新教徒たちは1日3回もミサになんかに行ってないし」


「領都プロメテウスの領民はみんな真面目に教会に足を運んでいたな。興味がなさ過ぎて新教徒と旧教徒の違いなんか気にも留めていなかったが。とにかくもうここを出よう。今から総大司教に頼んでもう一度結界を解いてもらおう」





 そしてセレーネを連れて総大司教の部屋を訪れた俺は、総大司教に事情を説明した。


 彼はその話を聞いて大きくうなずくと、準備ができ次第、いつでも結界を解いてくれると約束してくれた。


 だがそのためにはまた例の偽装工作をする必要がある。マールとクロリーネとそれにあと一人、アウレウス家から闇属性の魔導師に応援を頼まなければならないな。


 俺があれこれと段取りを考えていると、総大司教の指にはめられた指輪が目に入った。あれと同じものを確かローレシアも持っていたな。すると俺の目線に総大司教が気付き、


「これはアポステルクロイツの指輪と言って、シリウス教国ではその時々の最高指導者が身に着けるしきたりになっています。次の最高指導者は大聖女クレア様ですので、この指輪はその時にお譲りいたします」


「アポステルクロイツの指輪というのか・・・。実はそれと同じものをブロマイン帝国の勇者ローレシアが身に着けているのを、つい先日見たのです。新教徒のシリウス教会にも同じ指輪があるのですね」


「新教徒がこの指輪を? それは絶対にあり得ない。なぜならこの指輪は、神使徒テルルがシリウス神から授かったもので、シリウス教の最高指導者が代々受け継いできたものなのです。ですのでこれはこの世に一つしかありませんし、そのローレシアなる者が持っていたならば、それはこの指輪に見せかけた偽物」


「偽物なのか? だがローレシアの指輪が光ったとたん膨大な魔力が発生して、アウレウス公爵たちのワームホールを霧散させたんだ」


「・・・だとしたら、潜在魔力を強制的に引き出す魔術具なのかもしれませんね。それを使って神の奇跡を装って信者を騙しているとか」


「魔力を強制的に引き出すか・・・もしそんな魔術具があるとすれば」


 俺は総大司教に礼を言うと、結界を解くための準備をしに、セレーネを連れてジオエルビムへと戻った。それにアポステルクロイツの指輪のことも気になり、関係する魔術具の情報がないか、ジオエルビムにあるデータベースを叩いてみることにした。





 俺はジオエルビムにある自分の端末を起動すると、アポステルクロイツの指輪に関する情報を探した。


 すると、


「・・・観月さん、あったよ。この無属性固有魔法・冥界の呼び声という魔法がそれっぽいよな」


「何その怖い名前の魔法・・・なんか不気味ね」


「ああ・・・きっと危険な魔法だからそんな怖い名前をつけておいてくれたんだろう。・・・いや待て! な、何なんだこれはっ!!」


「やめてっ! 怖い話をした後に、急に大声を出さないでよ。ビックリするじゃない、もうっ!」


 セレーネが不機嫌そうに怒るが俺は構わず続けた。




「見ろよ観月さん・・・関連情報として検索にヒットしたこのファイルの名前。Simulated InfoRmation Integration thought Universe System

仮想統合思念集合体、SIRIUSシステム」


「シリウスシステム・・・何よそれ! シリウス教と何か関係があるの!?」

次回、シリウスシステムの謎に迫る


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] な、なんてこった。 領内に新教徒が多いのでメルクリウス家は新教徒に改宗しますってのはすべてが明らかになってからでしょうね。 [気になる点] 後書きがシリウスシリウスになってますが、シリウス…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ