第285話 激闘! 新勇者パーティーvsローレシア勇者部隊①
帝国軍は一時的には大混乱に陥ったものの、さすがは統制のとれた軍隊。やがて俺たちテトラトリス騎士団の突破を阻止するために、大量の矢を雨のように降らせてきた。
うさぎエクスプロージョンでかなり距離を稼げたとは言え、これだけの広い戦場で数万人規模の敵軍に囲まれていると、当然のことだがあれ一発ではすんなりと突破させてもらえない。
だから俺たちも側面にバリアーを展開して敵の攻撃に備えつつ、こちらも矢を主体として前方の帝国軍に集中砲火を浴びせかけた。ここからは騎士団と騎士団との戦いだ。
さて一般の騎士と異なり、俺とセレーネ、フィリアは魔剣しか持っていないので、矢の代わりにバリアーを敵に飛ばして進路を無理やりこじ開ける。魔力保有者の俺達ならではの戦い方だが、それを見たジューンたちも見よう見まねでバリアーを飛ばし始めた。
ボロンブラーク騎士学園ではお馴染みのこの技も、剣術実技の授業がないアージェント騎士学園生であるジューンたちには物珍しいようで、彼女たちのバリアー飛ばしはとてもぎこちなかった。
それでも矢よりは遥かに破壊力があり、ジューン達の強い魔力も活かせて結果オーライである。属性魔法が封じられていてもバリアーは使えるので、魔力の使い所など工夫次第でいくらでもあるのだ。
こうしてしばらく激しい攻防が続き、帝国軍の中をジリジリと進軍していった果てに、やがて向こう側に王国軍の姿が僅かに見えてきた。
「よし、王国軍とうまく合流できそうだ! このまま一気に切り込むぞ!」
俺はセレーネとフィリアを連れて帝国軍の中に突撃すると、フィッシャー騎士団っぽく敵をバッサバッサとなぎ倒していく。こういう戦場では彼らの戦い方が最適解なのだ。
振り向くと、俺の後ろではフィリアもバッサリ頑張っていた。
「フィリア、バリアー飛ばしがかなり上達したな」
「ご主人様と若奥様にしごいていただき、魔獣相手に練習いたしましたので、ご覧のとおりです!」
「よし、じゃあ次は応用編だ。剣をコーティングするように細くバリアーを展開して、剣を押し出すようにバリアーを飛ばすと、魔力がパワーに変換されて剣に伝わり、よりバッサリ感が出る。やってみろ!」
「はい!」
そしてフィリアは俺の言ったとおりに剣にバリアーをコーティングさせて、強く振り抜いた。
「うまいぞフィリア! だが勢い余って剣を飛ばさないように、しっかりとグリップすること。いいな」
「はい!」
俺がフィリアの成長ぶりに目を細めていると、後ろからジューンやルカたちもやってきて、見よう見まねでバッサバッサと戦い始めた。最初はぎこちなかったあいつらも、いつの間にか見れる程度にはうまく戦えるようになっていた。
あいつらも何気に才能があるよな。
そうして活路を開いて、テトラトリス騎士団を前進させていると、
「見ろ! 向こう側に王国軍の軍勢がハッキリと見えてきたぞ。でもあの紋章は・・・アウレウス騎士団! 主力の騎士団が俺達のためにわざわざ駆けつけてくれたんだ! あと一歩だからみんな頑張れ!」
アウレウス公爵の元には王国中の貴族家から大小様々な規模の騎士団が集結しているが、まさかこんな最前線にアウレウス騎士団がいるとは思わなかった。
そして彼らの方も俺達を認識したのか、一気に攻勢をしかけて無理やり帝国軍の壁をこじ開けていく。
「よし! このまま王国軍と合流するぞ。突撃!」
俺は騎士たちに号令をかけながらテトラトリス騎士団の後方に移動してしんがりを務めると、最後の一兵が脱出するまで後方の敵の攻撃の前に踏みとどまり、帝国軍の追撃を振り切った。
そしてその勢いで王国軍の中に潜り込むと、そのままアウレウス騎士団の一部とともに西へ馬を走らせ、テトラトリス騎士団を無事に王国軍の仮設陣地へと帰還させることができた。
仮設陣地では大勢の貴族たちが忙しそうに天幕間を行き来しており、アウレウス家の紋章が至る所にはためいていて、いかにも大本営って雰囲気だった。
その陣地の一番奥のダゴン平原を西に臨む高台に、アウレウス公爵と伯爵の兄弟、それにフォーグたちアウレウス家の主だったメンバーが臨戦態勢で並んで立っていた。
彼らに近づくと、俺達の到着に気がついたアウレウス伯爵がこちらに振り返り、笑顔で俺たちを出迎えてくれた。
「婿殿か、随分と早かったな!」
「義父殿、テトラトリス騎士団を連れて無事帝国より帰還しました。しかしこんな最前線で最初に会うのがアウレウス家の方々とは想像もしてませんでしたが」
俺は軍馬を降りて、アウレウス伯爵と握手をする。
「婿殿も元気そうで何よりだな。そしてジューン・テトラトリス、今回の3侯爵軍の討伐は大義であった」
アウレウス伯爵がそう言ってジューンの方を見ると、彼女は慌てて軍馬から降り、アウレウス公爵と伯爵の二人の前に跪いた。
「兄ダイムを始めとするテトラトリス侯爵家の者は、全員この手で始末いたしました。我が父テトラトリス侯爵も次期当主である長兄ベルンもすでにこの世にはなく、我がテトラトリス侯爵家は事実上滅びました」
するとアウレウス公爵が、
「そなたの今後については国王との相談になるが、今回の功績にはきちんと報いることを約束しよう」
公爵はそう言うと、ジューンの肩にそっと手を乗せてねぎらった。
「ところで義父殿。アウレウス家全員がこんなところに集まって、一体何をしているのですか?」
「いやなに、ついさっきまでここで、例のローレシア勇者部隊と戦っていたのだよ。遠くてハッキリとはわからなかったが、ローレシアの魔力は強いな」
「ええっ?! もうローレシアと戦ったんですか! それで彼女たちはどこへ?」
「絶対零度の監獄を一発受けただけで、向こうも我々との直接対決を避け、すぐに西に転進してしまった。あれはネオンが色々とローレシアに入れ知恵をしているな。それを踏まえると、このまま王国に突撃するとは考えられないし、大きく迂回して帝国の陣地に戻る気だろうな」
「ネオンはローレシアを助けることが目的ですので、余計なリスクは取りません。義父殿の読みで間違いないと思います。では俺達は今からすぐに勇者部隊を追いかけてネオンと接触します。ジューン、王国に戻って早々に悪いが、テトラトリス騎士団出撃だ」
「承知しました、安里君」
だが俺たちが向かおうとすると、
「少し待つのだ婿殿!」
「・・・どうしましたか、義父殿」
「勇者部隊との戦いは純粋な魔力戦だ。テトラトリス騎士団を連れて行ってもいい餌食になるだけなので、ここは奴ら同様に少数精鋭で行くべきだ」
「そうでしたね。では俺はセレーネとフィリアを連れて勇者部隊を追いかけます。ジューンとモカはどうする?」
すると答えはもう決めていたらしく、ジューンが
「もちろんわたくしも付いて行きます。だって自分の意思でこの新勇者パーティーに参加したのだし、自分の名誉が回復したからって脱退するはずないでしょ」
「わたくしはもちろん安里君と行動を共にするでごわす。それにルカちゃんを助けるのはわたくしの務め」
「わかった、二人が付いてきてくれると助かる。では義父殿、そういうことですので今からこの5人でローレシア勇者部隊に突撃します。テトラトリス騎士団のことはよろしくお願いします」
「いや我々アウレウス家全員、婿殿と共に向かうぞ」
「・・・え?」
「当たり前だろう。ブロマイン帝国皇帝クロムを倒す絶好の機会。ここが勝負所なのだから全力で行く」
そう言って紫色の闇のオーラを放つ伯爵の隣には、同じくオーラがあふれる陸軍総大将アウレウス公爵、その長兄ロマリオ、長女ソシアナ、次男エミリオが、そして伯爵家からも次男フォーグがズラリと並んだ。
全員がまさに臨戦態勢、やる気十分だ。
「アウレウス公爵、そして義父殿。わかりました、このチャンスを確実にものにしましょう! フォーグ、いっちょう暴れるか!」
「ああ、義兄殿! やっと一緒に戦えるな」
俺がフォーグの肩をガッシリと組むと、エミリオがそこに割って入り、
「キミはフリュオリーネ姉様を助けるために、王国に帰ってきたのだろう? 仕方がないからこの僕も手を貸してやるよ。本当はこの僕が姉様を幸せにしたかったのだが、今はキミの力になることが姉様のためには一番のようだからな」
「そうか・・・頼りにしてるぞエミリオ」
「さてあまり時間がないので、今からローレシア勇者部隊の迂回コースへと先回りする。いくつかの経路は想定済みだが一番確率の高いのは我々の包囲網を西に突破して北へと向かう迂回コース。ヒュージ! ワームホールを頼む」
アウレウス伯爵がそう言うと、伯爵家長男のヒュージと元祖氷の女王こと義母殿、それにアウレウス家の分家たちが一斉に集まってきて、全員でワームホールを唱え始めた。
「お前たち二人にアウレウス騎士団とテトラトリス騎士団、そして参謀本部の全てを任せた。我々は婿殿たちとともにすぐにローレシア勇者部隊と戦闘開始だ。全員、準備はできているか」
「もちろんできている!」
「フォーグ、結構だ! では行くぞ!」
【【【闇属性上級魔法・ワームホール】】】
そして俺たちは遥か戦場を北西へとジャンプした。
闇の球体が消失すると、転移場所の状況を直ちに確認する。・・・強力な魔力反応!
みんなが一斉に振り向くと、遥か先に敵の軍勢が猛烈な勢いで進軍しているのを発見した。白いオーラに包まれており、ローレシア勇者部隊で間違いない。
ビンゴだ!
アウレウス伯爵の読みが的中し、俺達はいきなり敵の側面を突く位置に転移したようだ。そして間髪入れずにアウレウス家全員が一斉に魔法を放った。
【【【水属性固有魔法・絶対零度の監獄】】】
絶対零度の監獄・・・これは水属性固有魔法だ。
今から思えば、フリュも最初から得意としていたこの固有魔法は本来Type-ネプチューンのものだ。
そしてサルファーやジューンが使うインプロージョンはType-ビスマルク、ダーシュのライジング・ドライバーはType-ランドンのものだ。
かつてエメラルド王国が建国された頃は、強化人間たちの子孫はみんなこの地に暮らしていて、そのさらに子孫が今のアージェント王国の王侯貴族になった。この地には既に彼らの家門は残っていないが、血筋だけはしっかりと受け継がれている。
俺は今更ながらにそのことを実感した。
さて、今アウレウス家全員が一斉に放ったこの水属性固有魔法・絶対零度の監獄だが、その原理は物質の持つ熱運動を魔力によって強制的に減速させて、絶対零度に近づけるというものだ。
この魔法を防ぐためには、術者の魔力よりも大きな魔力で打ち消さなければならないが、この魔法の恐ろしいところは、同じ魔法を放った複数人の魔力が単純合算できるということだ。
普通の魔法の場合だと、俺とネオンのように完全にシンクロしないと単純合算した威力は出ないのだが、この魔法の場合は、熱運動を止めるという極めて単純な作動原理から、何人、何十人でも魔力値を合算することが可能なのだ。
つまりここにいる6人の魔力の合計値を上回る魔力を場に展開できなければ、強制的に熱を奪われてその生命活動を維持できなくなり死に至る。
だからローレシアがいかに巨大な魔力を誇ろうと、アウレウス公爵家の6人の魔力値の合計を上回ることは不可能であり至近距離で撃たれたら確実に死ぬ。
ただしここから放った魔法は、前方の勇者部隊までかなり距離があるため、魔法の攻撃力は距離に反比例するという法則により、ローレシア勇者部隊でも防御が可能かもしれない。結果は果たして・・・。
「勇者部隊が、西へと逃げていく・・・」
6人同時に放った絶対零度の監獄は勇者部隊を仕留めることができなかったが、効果がないわけでもなかった。勇者部隊が逃げてしまった後には何人ものメンバーが脱落して地面に倒れて動かなくなっている。
彼らを見捨てて逃走したローレシアは、そのまま西へとばく進する。しかもその速度が異様に速い。
「婿殿、ローレシアの後を追うぞ」
次回もお楽しみに




