第283話 王国への帰還①
ジューンから通信だと?
「こちら安里。ジューン久しぶりだな。だが俺たちは現在敵と交戦中。通信は後にしてくれ」
俺が通信を切ろうとすると、
「・・・ちょっと待って! 直ちにその攻撃を中止してください。安里君が今攻撃を開始しようとしているのは、わたくしジューンの騎士団です!」
「え、なんだって!」
俺は騎士団の方を改めて見ると、軍馬に乗った新教徒のシスターが数人の帝国軍士官を伴ってこちらに向かってきているところだった。
そして俺たちの近くで馬を降り、シスターが頭のベールを上げるとそれは確かにジューンであり、帝国軍士官だと思っていたのも、モカや数人の同年代の男女だった。
「ジューン、モカ、久しぶりだな。でもこの騎士団は一体どうしたんだ」
するとジューンが、
「3侯爵軍が帝国領内に逃げ込んだのは安里君も聞いていたと思うけど、そのうちの一つ、テトラトリス騎士団を撃破したあと、生き残った騎士たちをわたくしがこうして率いているのです。ここにいる帝国軍士官の服を着た人達は、親に言われて無理やり参加させられていたアージェント騎士学園の生徒たちです」
「テトラトリス騎士団を撃破したって、ひょっとしてジューンが倒したのか・・・だって新領主は確か」
「ええ。首謀者は兄のダイムです。そしてそれに加担した親族たちも全員揃って帝国に侵入していました」
「・・・全員を始末したのか」
「安里君から貰った、わたくしのインプロージョンとアルト王子のダークマターで・・・」
平然と言ってのけるジューンだが、実の兄弟や親族を自らの手で処分して平気なはずがない。俺はこの話に触れるのをやめることにした。
「そうか・・・・いろいろ大変だったな。そう言えばアルト王子がいないようだけど、今どうしてるんだ」
「アルト王子とミカの二人は、ダゴン平原の最前線の帝国軍陣地に残って、そこで輸送部隊の任務につきながらスパイ活動を継続しています。そこで王子が得た情報をわたくしが中継して陸軍参謀本部のアウレウス伯爵に送り届けています」
「中継・・・そうか、マジックジャミングが強くて、ダゴン平原の帝国軍陣地と王国軍陣地との間は通信が直接つながらない状態になっているのか。だからジューンが通信がつながるスポットにいて、両者の通信を中継していると」
「さすが安里君、その通りです」
「ジューン、俺もアウレウス伯爵と至急連絡が取りたい。そこに案内してくれないか」
「承知しました。そう言えば先ほど6人目の勇者部隊と遭遇したのですが、その中にクレア様がメンバーとして潜入していてびっくりしました」
「クレアがっ! と言うことはローレシア勇者部隊が最前線に着くまでに、俺たちは追いついたんだ!」
俺がセレーネやフィリアと顔を見合わせて喜んていると、ジューンが何か腑に落ちないといった表情で、
「でもその部隊にはクレア様お一人しかいらっしゃいませんでしたし、ここにはせりなっちとフィリアさんでしたっけ? このお二人だけでフリュオリーネ様のお姿が見えません。フリュオリーネ様はどちらに?」
「ジューン、まさにそのことをアウレウス伯爵に報告しなくちゃいけないんだよ。実は、フリュはエリザベート王女たちとともに帝国軍基地に拘束されていて、俺はそれを助けるために一旦王国へ戻る必要がある」
「え、みんな捕まってしまったのですか?! しかもあの最強の二人がどうしてそんな・・・」
「それとジューンは気づかなかったかも知れないが、その勇者パーティーにはブロマイン帝国皇帝のクロムがいたんだよ」
「えっ?! さすがにそれは冗談でしょ。なんで皇帝が勇者パーティーのメンバーなんかになっているのですか。全く意味がわかりません」
「でも事実だからしょうがない。とにかく事情は走りながら話すから、今は一刻でも早くアウレウス伯爵と連絡がとりたい。連絡拠点まで連れていってくれ!」
「了解しました、急ぎましょう!」
そして騎士団をルカに任せ、俺はジューンを連れて全力疾走で参謀本部との連絡拠点に向かった。
「こちらアゾート。クロリーネ、応答せよ」
この連絡拠点はたまたまマジックジャミングの影響が弱くなっている逆ホットスポットで、王国との通信がギリギリつながる絶妙なポイントだった。
「・・・ご無事だったのですねアゾート先輩! お久しぶりです、クロリーネです!」
よしつながった!
「クロリーネも元気そうで安心したよ。それより至急の用件があるんだが、アウレウス伯爵と通信を代わってくれないか」
「・・・私ならここにいる。こちらも婿殿に重要な報告があったのでちょうどよかった。婿殿ならきっと喜んでくれると思うが」
「えっ、俺が喜ぶような報告ですか?」
いろいろ切羽詰まったこの状況だが、たまには言い知らせと言うのも有難い。俺が期待していると、
「・・・お楽しみは後にとっておいて、まずは婿殿の報告を先に聞こう。そちらは緊急のようだからな」
そうだな。まずは悪い知らせから行かないとな。
「承知しました。報告は全部で3件あります。まず一つ目ですが、フリュが帝国軍の基地に拘束されてしまいました。エリザベート王女とルカ、エレナも一緒に捕まって、俺は彼女たちの救出を最優先に対処しているところです」
「・・・フリュオリーネが帝国軍に捕まっただと! しかもエリザベート王女と一緒って、王国でもトップクラスの魔力の二人がなぜ?」
「彼女たちを捕まえたのは古代文明の魔術具で、謎の結界が彼女たちを完全に拘束してしまい、解除方法も全くわからないのです。それで今からその方法を調べようと一度王国に帰還したいのです。その手がかりがシリウス教国にあるかもしれませんので」
「・・・シリウス教国? あの鎖国中の国にどうやって入国するのだ。それにその4人は帝国軍の手に堕ちているのだろ? 婿殿が王国に戻っている間に帝国軍が危害を加えることはないのか」
「それは大丈夫です。実は帝国軍もその魔術具の解除方法がわからず、結界の中に誰も入れないためフリュたちに危害を及ぼすことは不可能です」
「・・・みんな結界の中にいるのだな。・・・わかった、婿殿がそう言うのなら信用しよう。王国への帰還を許可するから、必ずその4人を助け出してくれ。それとあと2つは何だ」
「2つ目ですが、帝国軍は6人目の勇者ローレシアとその勇者部隊を王国との戦いに投入しました。この部隊は帝国史上最強との噂で、間もなくそちらダゴン平原の最前線に到着予定です。王国軍は勇者部隊を倒したと聞きましたのでそこまで心配はしてませんが、念のため注意しておいてください。それから・・・」
「史上最強だと! 詳しい情報をくれ!」
俺の報告にアウレウス伯爵が急に慌てだした。何かあったのか?
「帝国で得た情報では、戦いは王国側が圧倒的に優勢で、勇者部隊の損耗率が4割、勇者1人が死亡。帝国軍は慌てて、6人目の勇者を戦場に投入したと。まさか事実は違うのですか?」
「・・・いや婿殿、勇者側の情報はそれであっているのだが当方も優勢とは言えず、相応の損害を受けた。各家門の当主クラスは全員無事だったが、その臣下がかなりやられてな・・・3割ほどが命を失った」
「3割も・・・まさかそんなことになっていたとは。ではメルクリウス騎士団の被害状況は」
俺は嫌な予感がして、思わず自分の騎士団の状況を聞いてしまった。王国の主力部隊がそんな状態なら、うちの騎士団も無事では済まないだろう。だが、
「・・・婿殿の騎士団は、主だった者に死傷者は出ていない。勇者部隊は先に我々の方に攻撃を仕掛けてきて、事前の準備をしていたにも関わらず、我々は3割を失ってしまった。だが勇者部隊にも2割の損耗と物資の大部分を失わせることに成功し、その後婿殿の騎士団へと転進した勇者部隊は、短時間しか戦闘継続ができなかったのだ」
「そういうことですか・・・運が良かったと喜ぶべきだが、まさか勇者部隊がそこまで強かったとは。これは俺も一度メルクリウス騎士団に戻って直接指揮をとった方が・・・」
「・・・それには及ぶまい。ここにいるクロリーネと婿殿の仲間たちの活躍で、奇策で勇者部隊を翻弄し、勇者1人をエクスプロージョンで消滅させた。勇者部隊にあれだけのダメージを与えたのは、婿殿の騎士団の手柄なのだよ」
「そうでしたか・・・ホッとしました。クロリーネ、よくやったな!」
「・・・はい! 先輩のいない間はわたくしが代わりを務めますので、先輩はご自分の役割を果たしてくださいませ」
「ありがとうクロリーネ、キミがいてくれて本当に助かった。リーズたちのことをよろしく頼む」
「・・・はいっ!」
リーズたちが無事で本当によかったが、王国の主力部隊にそこまでの損失を与えていたとは、恐るべし帝国軍勇者部隊。ここは俺が知っている情報はちゃんと伝えておいた方がいい。
「・・・それで婿殿、その6人目の勇者部隊の戦力をわかる範囲でいいので教えてくれ」
「もちろんです。まず部隊を率いているのは、ローレシア・アスターという女性の勇者で、さらに聖属性魔法まで使える聖女です」
「・・・8属性適合者か! 強敵だな・・・」
「しかも彼女はただの勇者ではなく、光属性を得意とするアスター家当主。これはアージェント、クリプトン、メルクリウスに匹敵する特別な血筋であり、かの建国の英雄ラルフ・アージェンドに並ぶほどのポテンシャルを秘め、さらには固有魔法も保有しています」
「・・・建国の英雄ラルフ・アージェンド級。しかも固有魔法まで持っていると言うのか」
「その魔法の名は「カタストロフィー・フォトン」、光属性最強の破壊魔法です。俺が作った固有魔法の「パルスレーザー」よりも桁違いの破壊力を有していますが、魔力で光を増幅させながら熱線が放たれるタイプですので、マジックバリアーである程度は防げます」
「婿殿のパルスレーザーはバリアーが効かないから、その点ではまだマシということか。だが、」
「ええ、お気づきかと思いますが、問題なのは魔法の使用者がローレシアの場合、彼女より魔力が強くなければバリアーでは防げませんし、一度魔法を受けてしまえば鎧の中や人体の中でさえも光励起増幅過程が進行してしまい、人体など簡単に蒸発してしまいます」
「・・・それでそのローレシアはラルフ級のポテンシャルを秘めているとのことだが、実際にどのぐらいの魔力を持っているかわかるか」
「さすがに実際に計測できるわけもなく魔力値は不明ですが、彼女に近づいた際の感覚で言えば、フリュやエリザベートよりも上でした」
「・・・近づいた際の感覚だと? 婿殿はそのローレシアと面識でもあるのか」
「あります。ブロマイン帝国のさらに東にある東方諸国で破壊活動を行っていることは既に報告していたと思いますが、そこには魔法王国ソーサルーラという国があって、俺はそこの魔法アカデミーに通ってます。ローレシアはその学園の隣の席の女の子です」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あれ? アウレウス伯爵! 義父殿! ・・・まずい、通信が切れてしまった。まだ報告事項がたくさんあったのにな」
俺はジューンに行って、他の通信可能スポットがないか聞こうとすると、通信機から声が聞こえて来た。
「・・・婿殿、ちゃんと聞こえている。今のは通信が切れたのではなく呆れてものが言えなかったたのだ。敵の勇者が学園の同級生の女の子って、婿殿は帝国に潜入して一体何をやっていたのだ」
「詳しく言うと、帝国軍の魔石の供給源がその魔法王国ソーサルーラで、そこを拠点に帝国に輸出された魔石の破壊活動を行う傍ら、さらに敵の魔法を研究するためにその拠点に潜入しているのです。ローレシアが隣の席にいたのは全くの偶然ですし、彼女からはいろいろ情報が聞けて実に幸運でした」
「・・・なるほど、婿殿の趣味で魔法研究をしていたのではないのだな。それから史上最強勇者部隊というからには、他のメンバーの情報もあるのだろう?」
「もちろんです。実はこの勇者部隊には、ブロマイン帝国の皇帝自らがメンバーとして加わっています」
「・・・なんだと、皇帝自らが!・・・さすがにそれは何かの間違いではないのか。あり得ん」
「いいえ、複数のルートで確認した情報ですので間違いありません。そして他のメンバーにも魔法王国ソーサルーラの王子を始め俺が所属している魔法アカデミーの優秀な学生たちや、ローレシアの母国のアスター王国の王族や高位貴族など、東方諸国きっての強力な魔導士ばかりが集結しており、新教徒の総大司教までが帝国史上最強だと評価しているようなのです」
「・・・確かにその話を聞くとその勇者部隊がいかに強力なのかが理解できる。これは我々も本気で対抗しないとマズいな。だが婿殿、貴重な情報助かったぞ。早速、我々は緊急の軍議に入るから、婿殿は勝手に王国に戻ってシリウス教国へ向かってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください義父殿! その皇帝の件であともう一つ大事報告があるのです!」
次回もお楽しみに




