第275話 詐欺師アゾート
ネオンがローレシアとともに帝都ノイエグラーデスへ旅立った翌日、しばらくアカデミーを休むために、職員室に行って先生に休暇届を出した。俺たちも勇者部隊にこっそりついて行くことにしたのだ。
すると先生は、
「今回の勇者部隊には、同じ魔法アカデミーの3年生からローレシア女王陛下を筆頭にアルフレッド、アンリエット、ジャン、ネオンの5人。そして研究科からもアンナ、キャシー、ケイトの3人が参加している。さらにはランドルフ王子まで加わって、今回の遠征は魔法王国ソーサルーラの関わりがとても深いんだよ」
「へえ、この学校の生徒がそんなたくさん参加するのですか。さすが魔法研究の中心、魔法アカデミーだ。俺たちの中からもネオンが勇者部隊に選ばれたことは名誉に思っていますし、少しでも勇者部隊の助けに成りたいので、俺たちも今回帝国軍の緊急募集に応じて魔族討伐に参加することにしたのです」
そう言って帝国軍の制服を先生に見せた。もっともこれは真っ赤なウソで、以前に帝国兵から奪ってきた士官服をチラ見せしただけだが、それを見た先生は、
「それは実に感心なことだ。今回の遠征は国を挙げた一大事業と位置付けられており、ローレシア勇者部隊に協力する生徒には特別にアカデミーを出席扱いにするという特典がある。ただし宿題は与えておくので、帰ってきたら提出するように」
そう言うと机の引き出しから3年生のワークブック出してきて、俺たち一人一人に手渡した。
家に帰った俺たちは、手早く荷物をまとめて帝国軍の制服に着替えると、セレーネの転移陣を使ってエリザベートとの連絡拠点まで一気にジャンプした。
そこでエリザベートと連絡をとり、彼女たちも合流して一緒にダゴン平原へと向かうことになった。
そのため、俺たちがエリザベートが現在所属している帝国中部のツェントルム基地まで迎えに行くことになったのだが、ここからだとたとえ超高速知覚解放を使って夜通し全力疾走したとしても、最低10日はかかるほど遠方にあるらしい。
「仕方がないから、また帝都ノイエグラーデスの帝国軍本部に忍び込んで、あそこの転移陣を使わせてもらおう」
そして俺たちはそこから丸2日をかけて、帝都ノイエグラーデスにたどり着いた。
帝都では先日、ローレシア勇者部隊の出陣式が行われたようで、街の住民は未だ興奮が治まらない様子だった。
そこでに話題になっていたのが、ローレシアがシリウス神の使徒に選ばれたということで、これは歴史上とても珍しいことらしい。
あとは、なぜかブロマイン帝国の皇帝が勇者部隊のメンバーとして参戦したということと、ローレシアと皇帝の結婚がもう秒読み段階らしいということだ。
ロイヤルカップル誕生に街は盛り上がっていたが、ソーサルーラの王子が待ったをかけて皇帝からローレシアを奪ったらしく、街の女性の間では全く予断の許さない展開だという見方もあった。
そんな街の噂を聞きながら、セレーネは不安そうな表情で俺に尋ねた。
「安里先輩は本当にローレシアと戦うつもりなの? あの子はそんな悪い子じゃないと思うの。私が家に泊まっていた時も、エミリーの部屋だと狭いからって、私やカトリーヌにも専用の部屋を用意してくれようとしてたの。だから、せっかく勇者部隊に皇帝が入ってるんだし、皇帝を倒して私たちの勝ちにすればいいんじゃないの?」
「確かにワンチャン狙ってみるのも悪くないな。だがそれで戦争が終わるならいいんだけど、むしろ皇帝だけ倒しても無駄だってことの証明のような気もする。だって皇帝が最前線に出ることを許されるのは、留守にしてても帝国は普通に運営されてるってことだし、仮に戦死しても次の皇帝がちゃんと用意されてるってことさ。さっき街の住人が言っていた姉で代理皇帝のリアーネとか」
「それもそうね・・・」
セレーネはそう言うと黙り込んでしまった。すると今度はフィリアが、
「お姉様はブロマイン帝国の皇后になるのですね」
「どうした、やはり姉上のことが気になるのか?」
「・・・いえ、さっきの街の噂を聞いていて気がついたのですが、昔のわたくしなら嫉妬で気が狂ってしまうところなのに、今は不思議と何も感じないのです」
「へえ・・・。だがそれはいいことじゃないか。身内に嫉妬しても何もいいことがないからな」
「はい! わたくしにはご主人様がいますので、お姉様がどなたと結婚されようと、全く興味がわかなくなってしまいました。ホントにもう、どーーーーーーでも良くなりましたので、どうかこのフィリアめを絶対に捨てないでくださいませ」
そう言ったフィリアの瞳孔は開ききっていた。
こわっ!
「捨てない捨てない。ていうか怖すぎて、もうとてもフィリアを捨てられないよ! 地の果てまでも追いかけて来そうだし。あと怖いからその目をやめてくれ」
俺の言葉に安心したフィリアは、目がハートっぽく変化した。
お前の目は一体どんな構造してるんだよ!
「そんなことよりもあなた、どうやって帝国軍の基地に潜入いたしましょうか。わたくしたちは一応、帝国軍の制服は身に着けておりますが、身分証を持っていません。ですので正面からは入れませんし、ワームホールで転移するのもおそらく難しいと存じますが」
さすがフリュ。このグダグダした空気を一気に引き締める、実にいい質問だ。
「そこはちゃんと考えてある。実はソーサルーラにいる間、魔石の輸送ルートを調べるために魔石商会に侵入したことがあるんだが、その時そこの身分証明書を偽造しておいたんだ。みんなの分もちゃんと作っておいたから、まずは商人に見える服を購入して輸送部隊にアポを取ってみよう」
「承知いたしました。それではあなた、セリナ様、フィリアさん、みんなで街で買い物をいたしましょう」
「若奥様、このフィリアめにも服を買っていただけるのでしょうか」
「もちろんです。あなただけ修道服では違和感しかございませんし帝国では顔を隠す必要はないでしょう。帝国軍の制服もそのままクレア様のを頂きなさい」
「わあ! ありがとう存じます、若奥様!」
俺たちは街の洋服屋に行って服を一式購入したが、3人とも美人過ぎて周りから浮きまくっていた。仕方がないからダサい伊達メガネやら、変なベレー帽やらを購入して、どうにか目立たないレベルに仕上げた。
そして早速、魔石商を騙って輸送部隊に営業をかけてみた。すると通常は担当の兵士が対応するところ、いきなりその上司である士官クラスが出てきた。
意外だったので話を聞くと、どうやら帝国元老院で大型の補正予算が可決されたばかりらしく、ソーサルーラから魔石を大量に輸入することになったそうだ。
それで今から魔石商会を呼んで注文をしようと考えていたようで、俺たちの訪問は渡りに舟だったと。
「それでは、ソーサルーラ本社の方に今の条件で注文を入れておきます。それから当社のオプションで魔石の輸送サービスも行っており、特製の収納魔術具に魔石を詰めて当社社員が輸送のお手伝いをいたします。もちろん別料金ですが」
「ほう、いくらだ」
「魔石の購入代金の1割をいただいております。今回のお代が1000万Gなので、輸送費は100万Gをいただきます」
「100万Gか・・・高いな。その輸送サービスは、ソーサルーラからこの帝都ノイエグラーデスまでか」
「いえいえ、ご希望の場所をご指定いただければこの近辺ならどこでもお届けいたします・・・ということはご利用いただけるので」
「これは秘密にしていてほしいのだが、最近帝国内に魔石の輸送部隊ばかり襲う盗賊がいるのだ。おかげで魔石の輸送がうまく行かず困っているのだが、民間の輸送業者に頼めばさすがに盗賊もそれが魔石だとは気が付かないだろうし、そのサービスを試してみたい」
「そういうことなら承知しました。ではお試し期間ということで今回は50万Gで結構ですし、お届け場所もご自由に指定願います。それともし軍用転移陣を使わせていただければ、配送も即時に行えますが」
「転移陣だと? そんなもの普通の人間には使えない代物だぞ。特別な訓練を受けるか、強力な魔力耐性が必要なので、帝国軍でも一握りの者しか使えん」
「それならご心配には及びませんよ。我々は魔法王国ソーサルーラの魔法アカデミーを卒業しているれっきとした魔術師。転移陣の訓練も受けております」
「本当か! なら今回注文する魔石は全て、この帝都ではなくツェントルム基地まで運んでくれ。帝国中部にある補給基地なのだが、我々が購入した魔石は一度そこを経由して前線に送られるので、手間が省ける」
「承知いたしました。では2日後に魔石をご用意いたしますので、転移陣の手配はお願いします」
「了解した。頼んだぞ」
帝国軍基地を後にした俺達はその足で、今度は帝都にある魔石商会の支店に帝国軍の制服を着て訪れた。そして先ほどと同じ条件で魔石の発注をした。
その2日後、帝都の宿屋に仮設置したセレーネの軍用転移陣でソーサルーラの自宅に転移すると、冒険者ギルドの受付嬢が買え買えとしつこかった収納魔術具を500万Gで購入し、それを持って魔石商会本店に直接顔を出して頼んでおいた1000万G分の魔石を受けとると、その収納魔術具に全て放り込んだ。
そして再び、軍用転移陣で帝都の宿屋に戻ると商人の服に着替えて、再び帝国軍基地の補給部隊の担当士官を訪れた。
「こちらが1000万G分の魔石です。お確かめいただければ当社の帝都支店までお代をお持ちください」
そして収容魔術具から魔石を全て取りだすと、士官は驚きの表情を見せた。
「素晴らしい! 軍用の収納魔術具よりはるかに高性能だな。この収納魔術具も購入したいのだが、いくらするのだ」
「500万Gですが数量が限られていて、輸出は禁止されています。専ら我々商人の専用アイテムですので、どうか輸送サービスのほうをご利用ください」
「それは残念だ。だが魔石は確かに注文した数量分あることは確認した。代金はあとで届けておくよ」
「承知しました。それではさっそくツェントルム基地まで我々が輸送いたしますので、軍用転移陣を使用させてください」
「ああ、こっちだ。ついてこい」
こうして俺たちは帝国軍基地の転移陣を使って、まんまとツェントルム基地に転移することに成功した。
次回、エリザベート王女たちとの合流
お楽しみに




