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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第268話 ジューン・テトラトリス

 まだ辺りには聖属性魔法の余韻が残り、奇妙な静寂を湛えたこの戦場にあって、アルト王子たちは補給物資の陰に隠れながら、こっそりと詠唱を始めた。


 そして魔法の完成した者から順番に、その魔法を放ち始める。一番最初に撃ったのはモカだ。



 【雷属性上級魔法・エレクトロンバースト】



 完全に不意打ちであった。


 敵も味方も誰もが油断していた一瞬の隙をついて、親友のネオンから教わった最凶のエレクトロンバーストを、ダイムたちに向けて放ったのだった。


 バチバチーーーッ!


「ぐぎゃーーーっ!」


 通常のエレクトロンバーストよりもはるかに高出力であり、しかも生体を直接加熱するマイクロ波を大量に発生させる凶悪なエレクトロンバースト。


 この電子の炎に取り囲まれた魔導騎士たちは、魔力の弱い者から順番に揉んどりうって地面に倒れた。


 ダイムのように強力な魔力を持つ者は、モカの魔法攻撃を軽減することができたが、間髪を入れずに今度はミカの魔法が火を噴いた。



 【雷属性固有魔法・アクセラレーションフォース】



 ミカの手のひらから発射された金属の塊は、電磁誘導によって極超音速に加速すると、モカの魔法では突破できなかったダイムの魔力の壁を軽々と突破して、その左腕を肩から根こそぎ吹き飛ばした。


「うぎゃーっ! 痛い! うわあ、う、腕があっ!」


 弾け飛んだ左腕を探して地面を這いつくばるダイムを尻目に、今度はジューンの魔法がさく裂した。



 【風属性固有魔法・インプロージョン】



 ジューンの放った固有魔法・インプロージョンは、かつてアゾートとの戦いでフォスファー・ボロンブラークが使用したものよりはるかに高出力であり、全く別の魔法に見えるほどだった。


 その魔法が発動すると、ダイムの後ろに控えていたジューンの叔父や伯母など、親戚筋の魔導騎士たちを一網打尽に包み込み・・・そして、爆縮した。


 彼らとてジューンと同等レベルの魔力を有する魔導騎士であり、本来ならジューンの魔法攻撃の大半は防ぐことができるはず。


 だがジューンは固有魔法を使用し、しかも古代魔導都市ジオエルビムで教わった正しい詠唱と魔法イメージで発動したため、その威力が桁違いに跳ね上がった。


 こうなると所詮同等程度の魔力しか持っていない彼らには、到底防ぐことのできない魔法攻撃となってしまった。


 そして彼らは、自分自身に何が起こったのかを正確に認識する前に、圧壊した。




 爆縮と解放のプロセスにより、突風と飛び散る肉片を一身にかぶったダイムは、自分の背後で起きた大惨事に顔面を蒼白にすると、自分の左肩のことはすっかり忘れて、勇者部隊に恐る恐る振り返った。


「なんだ今の魔法は。勇者お前がやったのか・・・」


 だが問われた勇者ヤーコブは、真正面からその一部始終を見てしまったため、吐き気をもよおしながらも辛うじてダイムの問いかけに答える。


「い、いや、今のは俺がやったわけじゃない。誰だ、今の魔法を放ったヤツは!」


 勇者ヤーコブは魔法が自分の後方から発射されたことが分かっていたため、すぐに自分の部隊の後方に目を移す。するとアルト王子たち4人がゆっくりと歩いて来るのが見えた。


「キミたちは、補給部隊のアルト、ジューン、ミカ、モカ。まさかキミたちがやったというのか・・・」


 するとジューンが大きく頷いて、


「勇者ヤーコブ、ここはわたくしたちに任せてください。この者たちを全て始末します」


「だがジューン、先に教えてくれ。キミたちは補給部隊なのになぜそんな大魔法が使えるのだ。それにその魔法の破壊力は勇者の俺と同等・・・いや、それ以上じゃないか! キミたちは一体何者なんだ!」


 だが、狼狽する勇者ヤーコブよりも、ダイムが受けた衝撃の方がさらに大きかった。


「お前はジューンじゃないか。俺たちの呼び掛けにも応じず、アージェント騎士学園からも姿を消したお前が、なぜブロマイン帝国なんかにいるんだっ!」


 ダイムがジューンに親しげに話す様子に、勇者ヤーコブと勇者部隊は一瞬理解が追い付かず、唖然として彼女に問いかける。


「ジューン・・・キミはなぜ魔族と親しげに話す?」


 だがジューンは、そんな勇者ヤーコブを無視して、ダイムの問いに答えた。 


「ダイム兄様・・・わたくしはお兄様たちの愚行により失ったテトラトリス家の名誉のため、自ら志願してアージェント国王自らが組織した帝国への突撃部隊、新勇者パーティーの一員として、このブロマイン帝国に潜入していたのよ」


「お兄様だと・・・まさかジューン、お前・・・」


 勇者ヤーコブが呆然とする一方、ダイムは妹の身勝手な行動に苛立ちを覚えていた。


「お前が新勇者パーティーの一員・・・帝国への突撃部隊だと・・・一体何をやっているのだ、お前は!」


 だがジューンが即座に、


「何をやっているのかですって! それはこちらがお聞きしたいことです! お兄様、あなたは王国法を犯して簒奪を企てた重罪人なのですよ!」


 日頃おとなしいジューンが突然激昂すると、驚いたダイムが突然言い訳を始める。


「それは違うんだジューン! 俺は成り上がりもののメルクリウス家なんかに負けないよう、テトラトリス家を繁栄させ、そして王国により貢献できるようにしたかったのだ。それで俺の考えた作戦を父上に教えてやったのに、バカにするだけで俺の言うことを一切聞いてくれないから、家督を奪ってやったのだ」


「呆れた。よくもそんな自分勝手な理由で、このような大それたことをしでかしましたね! しかも帝国までやってきて無辜の人々まで殺害して・・・お兄様はもう絶対に死刑は免れないし、テトラトリス家も完全に命運が尽きました。もう終わりです」


「・・・なんだよその言い方は。まるで俺が悪いようじゃないか。悪いのは俺の能力を正当に評価してくれなかった父上や、王国の方なんだぞ。俺は本当はやればできるのに、あんなぽっと出のアゾート・メルクリウスばかりが評価されて・・・俺はあんなヤツなんかに絶対負けてないんだ」


「まさかお兄様は、本気でアゾートに勝てると思っているのですか。・・・なんて愚かな!」


「なんだとジューン! お前は妹のくせに、この兄ではなくアゾート・メルクリウスの方を評価するというのかっ!」


「当たり前でしょ! わたくしがさっき放った魔法、実はあれアゾート・メルクリウス伯爵から頂いたものなのよ。ここにいるアルト王子もクリプトン家のミカもモカも、みんなアゾートから魔法をもらって強くなったの。先ほどの魔法を見たでしょ。叔父様や伯母様を瞬殺したあれを」


「・・・まさかあれ・・・本当にお前がやったのか」


「そうよ。そして次はお兄様の番」


「ま、待て、待ってくれ! お前は俺を、この兄を殺すと言うのか!」


「・・・最後に一つ教えてください。お父様は今どうされているのですか? どこかに監禁しているのならすぐに居場所を教えなさい」


「父上は・・・すでに殺した」


「そう・・・・わかりました。ではあなたも今すぐに死になさい。アルト王子っ!」



 【闇属性固有魔法・ダークマター】


 【無属性魔法・マジックシールド】

 【無属性魔法・マジックシールド】

 【無属性魔法・マジックシールド】



 アルト王子がダークマターを発動したのとほぼ同時に、ジューン、ミカ、モカの展開した3重のマジックバリアーが、ダイムと残りの魔導騎士たち全てを包み込んだ。


 上空からゆっくりと落ちてくる闇の黒点が、バリアーの真上にポッカリと空いた穴からその中へと侵入していった。黒点が3層のバリアーを全て通過して、その穴も完全に塞がると、


 ・・・やがて、闇の黒点がダイムの身体に触れた。


 その瞬間ダークマターがさく裂し、バリアーの中にあったすべての物質を一瞬で蒸発させた。




 その一部始終を見ていた勇者部隊、そして街の外で様子を伺っていたテトラトリス騎士団と帝国軍の双方が、戦いの手を止めて、そのあまりに衝撃的な光景に絶句していた。


 かろうじて、勇者ヤーコブが呟く。


「これは未知の闇魔法・・・まさかこいつらが・・・アルト! 貴様が闇の魔将軍の正体だったのかっ!」


 その言葉に勇者部隊もハッと我に帰る。即座に臨戦態勢をとると、アルト王子を敵として認識する。


 だが彼らの攻撃の前にジューンの指示が飛ぶ。


「アルト王子はワームホールを、モカはマジックジャミングを、ミカはマジックバリアーを!」



 【無属性固有魔法・マジックジャミング】



 モカの固有魔法マジックジャミングは、帝国軍が魔術具により発生させているものと異なり、相手の魔力の大きさとは無関係に完全に魔法を封じ込めることができる、アルバハイム家が得意とするものだった。


 勇者ヤーコブの周囲に展開され、その一切の魔法を封じ込めると、



 【無属性魔法・マジックバリアー】



 そして今度はミカが勇者部隊と自分たちの間に強固なバリアーを展開して、彼らの物理攻撃を遮断した。


 勇者部隊はバリアーの破壊を試みるが、勇者ヤーコブと違って他の者たちはミカに魔力が及ばず、簡単には破壊できない。


 そしてワームホールの詠唱を続けるアルト王子に、ジューンは小声で呟いた。


「アルト王子、わたくしは街の外にいるテトラトリス騎士団を引き連れて王国へ帰還する方法を探します。ただ簡単に帝国軍の前線を突破できないと思うので、しばらくは敵補給基地を叩きながら転戦を続けます」


 アルト王子が小さく頷くと、ジューンは少し躊躇いながら一つお願い事をした。


「それからモカをわたくしに貸してください。わたくし通信の魔術具が使えないし、彼女のマジックジャミングはこれからの転戦にとても有効なので」


 再びアルト王子が頷くと、モカも


「ジューン、承知したでごわす。我と共に参ろう」


「モカ達者でな。ミカは寂しいけど頑張る件」


「では、まずはテトラトリス騎士団の掌握、そしてこの戦場からの脱出。残り時間で全てやるので、皆様手伝ってください」


「「ガッテン承知のすけ!」」



 【闇属性上級魔法・ワームホール】



 そしてアルト王子たち4人の姿は、勇者ヤーコブたちの前から消えた。








 街の住民を虐殺した魔族の討伐を見事果たした勇者ヤーコブは、帝国軍2000の歩兵部隊に歓喜と共に迎え入れられた。


 街を取り囲んでいた騎士団も忽然とその姿を消しており、恐らく魔族の滅亡と共にその魂ごと消滅したのだろうということになった。


 だが勇者ヤーコブに安らげる時間などない。なぜなら魔界の境界門では、魔族どもが今だに蔓延っているからだ。だからヤーコブは司令官に一言告げると、すぐに最前線へ向けて進軍を開始した。


 22名となった勇者部隊では、勇者ヤーコブがアルト王子とミカの二人に声をかけて慰めていた。


「アルトとミカは早く元気を出せ。ジューンとモカは残念な結果になってしまったが、きっと天国で俺たちのことを見守ってくれているよ。あの二人の分まで俺たちが頑張って、魔族どもを蹴散らすぞ」


「ええ、勇者ヤーコブ! 僕たちはもう大丈夫です。あの二人の分まで僕たちが頑張って、帝国の勝利のために最後まで戦い抜きましょう!」

次回、ダゴン平原の戦い


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いろいろな意見があるので以下は参考までに。 あっさり倒してしまいました。 ここはもう少し丁寧に書くのも良いと思いました。というのもジューンも変貌してしまった家族に対して、また彼ら彼女ら…
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