表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
269/426

第263話 アウレウス伯爵vsエメラダ夫人(前編)

前編、後編の二つに分けます。


後編は早ければ今日か、明日には必ずアップしますので、お楽しみに

 アウレウス伯爵が3侯爵軍への攻撃を開始し、ダゴン平原での最も激しい戦いが王国同士という奇妙な状況が出来上がってしまった。


 だが伯爵が本気で攻撃していないことはクロリーネ様からも事前に聞いていたため、戦いが激しく見えるわりには、両軍ともに人的被害がほとんど出ていないことに、私は納得していた。


 ただ3侯爵軍の動揺ははた目からでもはっきりとわかり、全軍が崩れ出すまでにそう時間はかからないと思っていた。


 だが一夜明けて様相は一変。


 3侯爵軍は伯爵率いる王国軍を完全に無視して、帝国軍へ向けて猛然と突撃を開始したのだ。そして王国同士の仲間割れに完全に油断をしていたのか、帝国軍が突如3侯爵軍の猛攻にさらされると、なんと中央を突破され、まさかの帝国領内への侵入を許してしまったのである。




「それでクロリーネ様。帝国領内に侵入した3侯爵軍の行方は分かっているのですか?」


「それが伯爵も位置がつかめなくなってしまったようで、帝国軍の慌てぶりをみる限り、そのままの勢いで帝国領内の奥へと入り込んでしまったようです」


「帝国領内に侵入したのはいいとして、3侯爵軍ってこの後どうするつもりなのでしょうね」


「彼らには補給物資がございませんので、軍を維持するためには帝国軍の物資を奪うか、さもなければ」


「さもなければ?」


「帝国領内の街や村を襲って、略奪行為を働くしかないでしょう」


「でもかなりうち減らされたとは言え、まだ軽く1万人以上はいるよね・・・」


「はい。その人数分を養おうとすると、相当の物資が必要になるでしょう」


「・・・つまり、1万人以上の武装盗賊団が帝国内を荒らしまわるということね」


「そうなると思います。ですので、帝国軍もあわてて前線の再編成に追われているのでしょう」


「お陰で今日はこちらへの攻勢がなくなって、朝からずっとにらみ合いが続いてるだけだからね。一応マジックジャミングはしっかりと効いていて、警戒心はマックスの状態が続いているようだけど」





 その時、メルクリウス統合騎士団の司令部に設置した軍用転移陣が突然作動し、サルファーとフィッシャー騎士学園の講師陣が続々と転移してきた。


「リーズ、そろそろ授業を開始するぞ。ボロンブラーク学園の生徒を集めてくれ」


「もう外に集まってると思うから、生徒会から各学年に授業開始の合図をするね」




 実は私たちボロンブラーク騎士学園の生徒は全員、一時的にフィッシャー騎士学園生になっているのだ。


 昨年末に勅命が発せられて王国全体が戦時体制下に入り、王国貴族にはダゴン平原での従軍が原則として求められるため、ボロンブラーク校は無期限の休校となったのだ。


 そして学園生たちには4侯爵家の反乱に加担させないよう、生徒会が実家に帰らせずに学園内にかくまっていたのだが、その後はご存じのとおり、生徒たち全員をボロンブラーク騎士団とメルクリウス騎士団に分けて随行させ、結果的に学園生全員がダゴン平原までやってきたのだ。


 そしてここで陣を構えてからはフィッシャー騎士学園のカリキュラムに従って、授業を受けることになったのだった。


 このフィッシャー騎士学園は、フィッシャー騎士団の養成学校も兼ねており、学園生の中にはダゴン平原での戦争に従軍しながら学園に通う者も多く、前線でも授業が行えるシステムになっている。


 つまり今の私は、フィッシャー騎士学園の2年生。


 100名近くの同級生とともに青空教室で、フィッシャー騎士団の現役騎士から戦闘訓練を受けているのだった。


 その先生が私に話しかけてきた。


「リーズ・メルクリウス! 貴様はなかなか筋がいいな。どこで学んだのかは知らんが、フィッシャー流剣術の心得があるじゃないか。どうだ、卒業したらうちの騎士団に入団しないか。幹部候補生で迎え入れてやるぞ!」


「残念でした。私、これでもメルクリウス騎士団の副団長なんです。それにこの剣技はカイン様に教わったものなのよ」


「本家三男のカイン・フィッシャーか! どうりで型がキチンとしているはずだ。彼は力に頼らずに基本に忠実な動きをしている。いい先生に習ったな!」


「えへへ。自分が誉められたようでうれしいな」





 そして3侯爵軍が帝国に突入して数日が経った。


 帝国の前線は明らかに手薄になり、この数日で我がメルクリウス軍も帝国領の方へとかなり前線を進ませることができた。帝国との国境線まであと少しだ。


 今日もフィッシャー騎士学園の授業の時刻が近くなり、メルクリウス統合騎士団の司令部に設置した軍用転移陣が作動し、クロリーネ様が転移してきた。


「ごきげんよう、クロリーネ様」


「ごきげんよう、リーズ様。実は今日、アウレウス伯爵からとてもいい報告があったの」


「いい報告?! 何々、早く教えて」


「辺境伯チームとライアン・エメラダチームとの例の勝負、わたくしたち辺境伯チームの大勝利よ!」


「えーっ?! これからみんなで頑張ろうねって、さっきも話していたのに、大勝利ってどういうこと?」


「実はね・・・」





 アウレウス伯爵は、王国陸軍参謀本部のある天幕にフィッシャー辺境伯とエメラダ夫妻、長男ライアンと次男ホルス、そしてドルム騎士団長を呼んでいた。


 伯爵は盗聴防止の魔術具が作動していることを確認すると6人以外の全員を天幕の外に出し、この会合の趣旨を話し始めた。


「本来、王国がフィッシャー家の軍事活動に意見を言う権利はないのだが、フィッシャー家が王国の軍事活動を妨害したため、本会合を行うこととした。議題はフィッシャー騎士団への抗議と損害賠償請求だ。私の呼びかけに対して全員がこの場に参加していることを持って、会合開催の趣旨には賛同いただけているものと理解する」


 アウレウス伯爵の言葉に対し特に異議をあげる者がいなかったため、そのまま話し合いは進む。


「そして今回問題となるのは、王国法に違反し簒奪を企てた王族分家のうちテトラトリス侯爵家、ザクソン侯爵家そしてポートリーフ侯爵家の3家に率いられた騎士団が我が王国軍にもたらした損害である。この3家が王国から出て行ったため、これをフィッシャー家に全額弁済頂きたい」


 その要求に、フィッシャー辺境伯が反論した。


「3侯爵家が王国軍に損害をもたらしたことは理解できるが、それをフィッシャー家に請求するのは筋違いだろう。私は全くの無関係であり、その者たちを引き入れたのはエメラダとライアンだ。請求するならこの者たち個人にされたい」


「もちろん王国としても現辺境伯に請求するものではなく、エメラダ夫人とライアンに請求するつもりだ。だが国家レベルの弁済額となる可能性が高く、個人では支払いきれない。そこで請求対象を領地とさせていただく」


「だが領地にすると、私が彼らの責任を被ることになり、納得ができん!」


「だが現在両者で行われているフィッシャー家の主導権争いのゲーム、現状ではライアンが次の辺境伯となる可能性が高いと聞く。そうなれば、請求先はおのずとフィッシャー家となるであろう」


「つまり私が負ければ辺境伯ではなくなるため、実質的に私への請求は行われないということか」


「そうなるであろうな。あなたたちが行っているゲームは実質的には家督争いであり、通常の貴族家では敗者は家門を追放されるのが必定。従って、現辺境伯が負けて追放されれば、当然請求は行われない」


「では勝てばどうなるのだ」


「一義的にはエメラダ夫人とライアンに請求するが、フィッシャー家を追放されれば返すあてがなくなるため、結果としてフィッシャー家とアルバハイム家の両方に請求することになる。この二人から搾り取る方法は辺境伯にお任せする」


「この二人の借金の肩替わりか・・・仕方あるまい」




 納得はできないまでも、他に手が思い付かないためひとまずは黙り込む辺境伯であった。それを見たアウレウス伯爵はエメラダたちの方に向き直った。


「ではエメラダ夫人、ライアン、そなたたちに請求する損害賠償だが・・・」


「少しお待ちください、アウレウス伯爵」


「なんでしょうかな、エメラダ夫人」


「先ほどからわたくしたちが損害賠償を支払う前提で話が進んでいるようですが、わたくしたちはまだ支払うとは一言も申して上げておりません。まずは具体的にどのような損害が発生したか、そしてそれが誰の責任によるものなのかをハッキリさせなければ、ここからの話し合いは無意味となりましょう」


「わかった。では申し上げるとしよう。まず3侯爵家が反乱を起こしたことで王国内に騒乱が発生し、それによってもたらされた人的被害及び経済的損失、加えて本来このダゴン平原に出兵すべき騎士団が騒乱の取締りに忙殺されここに来られず、戦力不足のために帝国軍に対して劣勢を強いられたことで受けた損失、さらには3侯爵軍がこれから帝国内で起こすであろう略奪行為の結果、帝国との戦後交渉で不利益を受けた場合の損失補填だ」


「それについては異議がございます」


「なんだね」


「まず、王国内の騒乱についてはその全てが必ずしも3侯爵家の責任とは限らないことです。実際に暴れているのも不平貴族だけでなく、多くは新教徒どもや貧民、盗賊であり、そんな彼らを扇動しているのは帝国の特殊作戦部隊だということも、アルバハイム家の諜報部隊の調べで判明しています」


「ほう、証拠はあるのかね」


「ございます。首謀者は帝国軍のボルグ中佐、王国内ではアッシュ・クリプトンを名乗っている男です。必要ならば証拠書類もございますし、あとでアルバハイム騎士団から説明に伺わせます」


「なるほど、そちらでもきちんと情報を得ていたのならそれでいい。説明は不要だ」


「・・・つまり、わたくしたちの諜報能力をお試しになられたということですね。少々非礼が過ぎるのではないでしょうか!」


「なあに、私の交渉相手がどのぐらいのレベルかを、少し知りたかっただけだ。では改めて損害の具体的な中身についてすり合わせをしようではないか」


「承知しました。ですが今のお話にご納得いただけるなら、結局残っているのは3侯爵軍がこれから帝国内で起こすであろう略奪行為の結果、帝国との戦後交渉で不利益を受けた場合の損失補填のみとなりますが」


「そのとおり。話が早くて助かるな」


 アウレウス伯爵はそういうと、ニヤリと笑って椅子に深く腰掛けた。

次回、決着!


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ