第255話 魔法アカデミーへの編入
翌朝、全員で魔法アカデミーに入学手続きに行こうとすると、フィリアがいきなり土下座を始めた。
「ご主人様には言いそびれてしまいましたが、実はわたくしのお姉様がソーサルーラの要職についておりまして、見つかってしまいますと捕まって今度こそ死刑にされてしまいます。どうかわたくしをこの宿屋に置いて行ってくださいませ」
「そう言えばフィリアは、姉上との確執が原因で地下牢に入れられてたんだったな。でも死刑ってただ事ではないぞ。一体何をやったんだよ、お前」
「・・・暗殺を」
「あ、暗殺~っ?! まさか姉上をか」
「・・・はい」
「マジかよお前・・・」
「申し訳ございません。つい出来心で・・・」
「ほ~ら、ほらほら安里君。私の言ったとおり、変なトラブルに巻き込まれたじゃないの。ソーサルーラの要人を敵に回しても何も良いことがないし、もうこんな変な子なんかどこかに捨てに行こうよ」
ネオンの言葉に焦ったのか、フィリアが泣きながら俺の足下にすがりついた。
「ご主人様~、わたくしを捨てないでくださいませ」
「フィリアはType-アスターなんだぞ! 捨てるなんてもったいないじゃないか。MOTTAINAI!」
「そうよ。どうせ捨てるならバカクレアの方よっ! Type-メルクリウスはダブってるし、弱い方は要らないでしょ」
「ひどっ! 私のことをダブりとか言うな!」
「いやいや観月さん、クレアも大切だし捨てないよ」
「安里くーん、せりなっちにもっと言ってやってよ。私のことをもっと大切にしろって」
「先輩! だってこのバカ、口喧嘩で負けそうになると、いつも本気のエクスプロージョンを私に撃ってくるのよ。私が焼け死んだらどうするつもりなのよ!」
「その言葉、そっくりお返しするわ。いつも丸焼きにされてるのは私の方なんだからね。この妹殺し!」
「よくも言ったわね! 表に出なさい、勝負よ!」
「いいわよ。太陽の抱擁で返り討ちにしてやるっ! あの魔法は私の方がうまく使えるんだから」
「お前らここはフェルーム城の庭じゃねえんだぞ! ソーサルーラのど真ん中で太陽の抱擁の撃ち合いなんか絶対にやるなよ、マジで洒落にならないからな! フィリアも正体がバレなきゃいいんだから、全身鎧のガチムチ騎士にでも変装して、アカデミーに通え!」
結局フィリアが光属性の魔導師ということもあり、ネオンの提案で修道服を着せることになった。ベールで常に顔を隠すことができるし、そのまま戦闘服になって便利なのだそうだ。
そして購入したのがジューンとお揃いの、新教徒のシスター用の修道服だった。
俺的にはガチムチ騎士スタイルの方がカッコいいと思うのだが、確かに学園向きの衣装ではないな。
そして日本国防軍の制服の4人と新教徒のシスターという謎の組み合わせで、俺達は魔法アカデミーの門を叩いたのだった。
「それでは魔法アカデミーへの編入を認めます。アゾート君とフリュオリーネさんはブロマイン帝国の富豪アーネスト家の跡取り夫妻で、セレーネさんとネオンさんはその親族ね。そして、マール・ポアソンさんはアーネスト家専属のシスターということで間違いないですか」
俺たちはブロマイン帝国の冒険者としてわりと名が売れてしまったため、学園では一周回ってもとの名前に戻した。ただしフィリアだけは冒険者登録と同じマール・ポアソンを使うことにする。
「はい、それで大丈夫です」
「では後で制服をお渡ししますので、それに着替えて授業を受けてください」
「制服があるんですか。俺たちは構いませんがマールだけは修道服のままで登校してもいいですか。敬虔な信者なんです」
「修道服なら大丈夫ですよ。ローレシア様のご活躍で今はシスターブームですし、何人か修道服で登校している女子生徒もいます」
「あの~、ソーサルーラへ来てからローレシア様という名前をよく耳にするのですが、それって誰のことですか?」
「あなた、ローレシア様を知らないの?!」
「い、いや、知ってますっ! ただちょっとド忘れしただけで、誰のことだったかな~って・・・」
「怪しい・・・」
「あ、あのわたくし存じ上げております! 魔法王国ソーサルーラの大聖女様です」
「なんだ、マールさんはご存じじゃないですか」
「あ、俺も思い出した、ローレシア様は大聖女様と。さ、さあ早く授業に行かなきゃ」
「あなたはどうも怪しいのよね。でも、まあいいわ。まずは所属するクラスを決めましょう」
こうして俺達は全員同学年として入学が決まり、俺とネオンは雷属性クラス、フリュとフィリアは風属性クラス、セレーネは水属性クラスに編入した。
「フリュ、フィリアのことを頼むぞ」
「承知いたしました、あなた」
「若奥様、よろしくお願いいたします」
「もうすぐ新学年を迎える時期だが、今日はみんなに新しい仲間を紹介する。ブロマイン帝国からこのアカデミーに来たアゾート君とネオンさんだ。みんな仲良くしてやってくれ」
俺達が紹介されると、クラスメートたちが一斉にどよめいた。
「うわっ、とんでもねえ美少女が転校してきたな」
「闇属性クラスのローレシア様に匹敵するんじゃないのか」
「確かにいい勝負してるよな」
「男の方は、まあそこそこだな」
「全く何を言ってるのよ男子たちは。あの底の知れないオーラと世の理を見抜く鋭い眼光。ああいう危険な男に女子は惹かれるの。だからあんたモテないのよ」
「チッ、そこまで言わなくてもいいじゃん。まあ見た目は温厚そうだが、キレるとヤバそうだしな」
みんなが俺達の噂をしているが、とりあえずスルーして一番後ろのラノベ主人公席に腰をおろした。俺の前の席はネオン。そして右隣は、
「初めまして。わたくしカトレア・ブルボンと申します。半年ほど前に編入してきたばかりですが、分からないことがあればなんでも聞いてくださいね」
「そうか、転校生の先輩ということだな。ネオンともども仲良くしてくれ」
「今日はこの風属性クラスに新しい仲間が加わった。フリュオリーネさんとマールさんだ。ブロマイン帝国の富豪らしいので少し取っつきにくいかもしれんが、早く仲間として受け入れてあげるように」
フリュとフィリアがペコリと挨拶すると、クラスメートたちが一斉に騒ぎだした。
「おいおいおい、ついにうちのクラスにも、とんでもない美少女が転校してきたぞ」
「それにお付きのシスターまで連れて、まるでローレシア様を彷彿とさせるよな」
「今年の遠足は、ひょっとすると闇属性クラスに勝てるかも知れないぜ」
「いやいや顔で遠足に勝てたら世話がねえよ。遠足は魔力勝負だからな」
「さすがに無理か。ローレシア様の魔力に勝てるやつはいないだろうからな」
そんな浮き足立つ生徒たちの中に一人、高慢な雰囲気を醸し出す男子生徒がいた。その男が席から立ち上がると、教壇の方にゆっくりと歩いて来た。
「お前はブロマイン帝国の富豪だそうだな。だったらなぜ事前に俺のところに挨拶に来なかった」
「失礼ですが、あなたはどちら様でしょうか」
「なんだと貴様! 帝国臣民のくせにこのメロア伯爵家のカミール様を知らないのかっ!」
「申し訳ございませんが、数多ある帝国貴族家のご家門の、しかもご子息・令嬢の顔まで全て把握することなど不可能に存じます」
「屁理屈を言うな! この俺がアカデミーにいることぐらい、アカデミーを目指すものなら誰でも知っているはずだ! 平民のクセに無礼にも程がある。今すぐここで土下座をしろ!」
「お断りいたします」
「・・・貴様。先生、決闘場の使用許可を! この転校生に帝国臣民の礼儀を叩き込む必要があります」
「ダメだ。ここは帝国ではなくソーサルーラだ。それに貴様には遠足での不正の前科がある。話が終わったなら、とっとと席につけ!」
「ちっ、くそ教師が・・・帝国貴族をなめると、あとで取り返しのつかないことになるぞ」
授業が終わった昼休み、フリュとフィリアが食事に行こうと席を立つと、その行く手をカミールが立ちはだかった。
「おい、ちょっと待てよ。お前との話しはまだ終わってない!」
「わたくしには、あなたとお話しすることなど何一つございません。今すぐそこをおどきなさい!」
フリュは懐から大きな扇子を取り出すとそれを開いて口元を覆い隠し、絶対零度の冷たい瞳でカミールを睥睨した。そのあまりの威圧感と高圧的な態度にさすがのカミール・メロアも思わずたじろいだ。
「お、お前・・・本当に平民なのか・・・」
するとフィリアが、
「この無礼者が! そこのカミールとやら、若奥様に対してあまりにも無礼が過ぎる! そのような態度をとり続けるなら、このわたくしが許しません!」
「何だと貴様! たかが修道女のくせに偉そうにしやがって。そもそもその服を見ていると、あのくそ女を思い出してムカムカする。その服を脱ぎやがれ!」
そしてカミールはフィリアの頭を殴りつけて、ベールを床に叩き落とした。
さらりと流れる金髪と怒りに満ちた緑色の瞳。だがフィリアは倒れることなくその場に耐えてみせると、鋭い眼光でカミールを睨み付けた。
「貴様・・・修道服だけじゃなくその髪や眼の色まであのくそ女と同じじゃねえか、ええい忌々しい!」
だが次の瞬間、フィリアの瞳が怪しく光り始めると、さしものカミールも身構えた。
「あなた、このわたくしを殴りましたね」
「だ、だからどうした・・・」
「このわたくしは、アゾートさまに身を捧げしもの。つまりあなたは、アゾートさまの所有物に傷をつけたということです」
「だ、誰だよアゾートって・・・」
「あなたなど到底及びもつかない、至高のご主人様。その所有物によくもっ!! ・・・お前を殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
ゾワワワッ
そしてフィリアの瞳の瞳孔が開き、緑の眼差しから光が完全に消えた。代わりにその身体から光属性の魔力のオーラが一気に吹き出した!
ゴゴゴゴゴゴゴッ!
「ヒッ、ヒーーッ!」
深淵に引きずり込もうとするようなフィリアの深緑の瞳と制御不能の荒れ狂う光のオーラ。
喰う者と喰われる者。
得体の知れない恐怖に怯えて、完全に腰を抜かしたカミールが教室の床に崩れ落ち、ガタガタ震えだす。
それを見たフリュがフィリアを止める。
「マールさん、もうその辺でおよしなさい。あなたが直接手を下す価値など、そこの男にはございません。あなたはわたくしと共に、アゾート様のために働くのではなかったのですか」
するとフィリアの眼が元に戻り、
「若奥様。はしたない姿をお見せてしてしまい、大変申し訳ございませんでした。確かによく見ると、この男には何の価値もごさいませんわね。オホホホホ」
そしてフィリアも懐から大きな扇子を取り出してそれを広げると、フリュの隣で高笑いを始めた。
「わかっているなら、それでいいのです。あなたには見所がございます。アゾート様のためだけを考えて、これからもしっかりと励みなさい」
「承知いたしました、若奥様。それにしてもこの男、わたくしたちの通り道を塞いでしまって邪魔ですね。これではご主人様とのお食事に遅れてしまいます」
「あら、本当ね。あなたそこを早くお退きなさい」
「若奥様もこうおっしゃてるのだから、わたくしたちの目の前から早く消えてくださらない、オホホホホ」
「ウフフフフ」
「アハハハハ」
眼が全く笑っていない二人の女子生徒の渇いた笑い声だけが、風属性クラスの教室内にこだまする。
カミールは早くこの場から逃げ出したいのに、腰が抜けてしまって動くことができない。
そして自分を冷たく見下す二人の女子生徒の笑い声を、ただ黙って受け入れるしかなかった。
次回も学園編
今度は水属性クラスのセレーネの様子です
お楽しみに




