第253話 Interference
帝都ノイエグラーデスで十分に遊んだ・・・もとい視察を終えた俺たちは、帝都から離れてさらに東方に向けて旅を続けた。
目指すは黄金の国ジパング・・・ではなく魔法王国ソーサルーラだ。
そんな浮かれた気分で旅を続ける俺たちだったが、「野営続きでたまには風呂に入りたい」とネオンが言い出したため、たまには宿に泊まろうと言うことになった。
そこで適当な街を見つけて、宿を探すために街をぶらついていたら、繁華街で奇妙な人物に出会った。
それは店頭で売りに出されていたみすぼらしい奴隷なのだが、他の奴隷とは異なり、帝国では珍しい魔力保有者だったのだ。俺は少し気になり、奴隷商の許しを得てその奴隷に話しかけてみた。
その奴隷は俺を見てとても怯えた表情を見せたが、世間話で和ませると少しずつ警戒感がとけて、やがて話をしてくれるようになった。この奴隷は元は貴族だったようで、罪を犯したため奴隷に落とされてしまったらしい。
俺たちはその奴隷に別れを告げ、再び繁華街を歩き始めたが、セレーネがどこか納得できない表情で俺に不満をぶつけてきた。
「私、奴隷制度が嫌いよ」
「俺も奴隷制度だけは、今でもどうにも馴染めない。ディオーネ領も早く奴隷制度を廃止したいので、経済復興を急がないとな」
「そうよね。早く経済を立て直して私たちの領地から奴隷制度を無くしてしまいましょう。でもアージェント王国にもこの帝国にも奴隷制度は残るわけだし、私たちの力ではどうすることもできないのかな。せめてさっきの奴隷だけでも助けてあげる?」
「奴隷が一人だけなら助けてやってもいいんだけど、ここには他の奴隷もいるから不公平になってしまう。今の俺たちが全員を連れて歩くことはできないしな」
「私たちの作戦に支障をきたしてしまうものね。じゃあさっきの奴隷が言っていた、他に捕まっている貴族でも助けにいく?」
「そうだな。助けるかどうかは別にしても話は聞きに行きたい。貴族だから有用な情報の一つも持っていそうだし、帝国に恨みを持っていて俺たちに協力してくれたらラッキーだ」
そうと決まれば、俺たちは宿探しを中断して、貴族がとらわれているという古城へとやってきた。
「随分と古めかしい城だな。吸血姫の真祖でも住んでそうだ。きっと観月さん仲間がいるに違いない」
「・・・いつも納得いかないんだけど、なんでフリュさんがエルフなのに、私は吸血鬼なのよっ!」
「吸血鬼じゃなくて吸血姫。まあ、そんなことはどうでもいいか。要は古いお城だなって言いたかったの」
「でも落ち着いた雰囲気で、わたくしは好きですわ」
「フリュはこういう古城が好きなんだな。ところで、ワームホールでここに侵入できそうか」
「そうですね、かなり強力なバリアーが展開されていますが、4人ぐらいならなんとか行けそうです」
「さすがだなフリュ、じゃあ頼む」
【闇属性魔法・ワームホール】
俺たちはフリュの魔法で古城へと牢屋に転移した。
そこはかなり広い地下牢だった。たくさんある牢屋のほとんどは使われていなかったが、一番奥の方から呻き声が聞こえていて、誰かがとらわれているのは分かった。
そっとその牢屋に近付くと、鉄格子の中に年齢不詳の女が囚われていた。見た目は40歳ぐらいで身体からは異臭を放ち、浅黒く汚れた肌にボロボロの衣服、薄汚れてほつれた長い髪。食事も満足に与えられていないのか、痩せて目がくぼんでいた。
その女は俺たちの存在に気が付くと、しゃがれた声で助けを求めて来た。
「・・・どうか助けて・・・なんでもいたしますからここから出して・・・ここで朽ち果てさせるのだけは堪忍して・・・」
鉄格子にしがみつきながら涙を流して必死に助けを求める姿に、俺は哀れみを感じた。
フリュも自分が同じ目にあったことがあるからか、
「ねえ、あなた。この女性を助けてあげられないかしら。とても見ていられないし、ひょっとすると味方になってくれるかもしれません」
するとセレーネも、
「囚われの姫君ではなく汚いおばちゃんだったけど、ラノベ的にはここは助ける展開よね」
「せりなっちは思考回路がいつもラノベ基準だよね」
「別にいいでしょ。ラノベは日本国民の大多数が読んでいるバイブルのようなものなんだから! それともバカクレアは助けるのに反対するの? 大聖女のクセに慈悲の心も持たないのねっ」
「別に反対はしないよ。・・・でもなんか嫌な予感がするし、変なトラブルに巻き込まれたくないのよ」
「クレアの言うことは分かる。ここがもしアージェント王国だったら俺も軽率なことはしないけど、ここはブロマイン帝国だ。変なトラブルは日常茶飯事だし、敵の敵は味方という言葉もある。何よりフリュや観月さんが助けたがっている」
「つまり安里君は助けたいわけね。私も反対している訳ではないから、それならそれで別にいいよ」
「ありがとうクレア。こいつがもし俺たちの邪魔になれば、どこか遠くの街に逃がしてやればいいし、彼女もこの地下牢にいるよりはきっとその方がいいはず。少なくとも、犯罪者を解放するのだから、帝国への嫌がらせにはなると思う。じゃあフリュ頼む」
俺たちは鉄格子の中に転移して、その女を助け起こしたが、足腰がふらついて満足に立てない。
「かなり衰弱してるな・・・。ちょっと失礼」
俺はその女を抱き抱えると、
「ああ・・・おうおお・・・うおおおおん」
何を言っているのかよくわからないが、助けてもらえるとわかって喜んでいるのだろう。俺にしがみついて泣きだした。
「フリュ、早くここから出よう。ジャンプしてくれ」
「承知いたしました」
そして俺達はワームホールで城外にジャンプした。
さらに街の外まで一気にジャンプすると、近くの川にその女を連れて行った。
「まずはこの川で身体を良く洗って、こびりついた垢を洗い落とせ。その後はフリュ、彼女の治療を頼む」
「反転世界ですね、承知しました。では、みなさまはしばらくそちらでお待ちくださいませ」
女の治療が終わるまで3人で時間を潰していたら、やがてフリュが一人の少女を連れて来た。
「フリュ・・・その子は誰だ?」
「あなた・・・さっきの女性の垢を全部洗い落として全身の治療を施したら、この子は中年女性ではなく、わたくしたちよりも年下の少女でした」
「えっ! これさっきの中年女性なの? しかも年下ってマジかよ。・・・あそこまで老け込むってよほどひどい扱いを受けていたんだな。帝国め、俺は完全に頭に来たぞ!」
俺が帝国にブチ切れていると、その少女がすり寄って来て、俺の足元に土下座した。
「地下牢から出していただいた上、身体の治療まで施していただき感謝の言葉もございません。約束どおり何でも言うことをお聞きいたしますので、何なりとお命じ下さいませ、ご主人様」
震えながら土下座をする少女に、俺は言った。
「土下座なんかやめてくれ! そんなつもりで助けたわけじゃないんだ」
「いいえ、このご恩に答えようにも今のわたくしには何も返すものがございません。ぜひともご命令を」
「うーん、ならキミの魔力を計測させてくれ。キミからは強い魔力を感じるんだ」
「・・・わたくしには大した魔力はございませんが、ご命令とあれば好きなだけお調べください」
許可が出たので、さっそく俺はジオエルビムから持参した携帯用の魔力計測器を取り出して、その少女を測定してみた。
属性 速 力 魔力 固有
水風 光 5 1 150 光
固有魔法適性
カタストロフィー・フォトン
マイクロウェーブ・エミッション
「ば、バカなっ! これは一体どういうことなんだ。帝国にこんな魔力特性を示す人間がいたなんて!」
「あなた・・・この魔力は、王国基準で伯爵級。少し前のリーズ様と同じレベルです」
「ああ、その通りだ。でも驚くべきなのはそこではなく、光属性の固有魔法に適性を示したことだ」
「すると彼女は王族の血を引いているのですか」
「俺も一瞬それを考えた。ボルグ中佐と同じ、かつて神聖シリウス帝国に亡命したクリプトン王家の血筋。だが彼女は明らかに、それとは系統が異なる!」
「・・・それってどういう」
「この子はもしかすると、Type-アスターの末裔なんじゃないのか? 俺はついに見つけたのか・・・」
「安里先輩、Type-アスターって山田豪さんや鈴木ハナさんの子孫ってこと?」
「たぶんそうだと思う。ほらどことなく鈴木ハナさんの面影があるだろ。髪の毛の色とか瞳の色とか」
「ああっ、本当だ! 懐かしい~ みんな元気にしてるかな」
「とっくの昔に死んでるよっ!」
俺たちが大騒ぎをしていると、呆気にとられた少女が恐る恐る俺に尋ねた。
「ご主人様たちは高位貴族とお見受けいたしますが、こことは違う別の国のお方のようですね。わたくしもぜひその国にお連れください!」
「それは願ってもないことだ。ぜひ俺たちの仲間になつてくれ。一緒に行こう!」
「あ、ありがとう存じますっ! わたくし何のお役にも立てませんが、誠心誠意お仕え申し上げます!」
「いやいや、これだけの魔力があれば、相当役に立つと思うが」
「あの~、わたくしには大した魔力はございませんので、なにか勘違いされているのでは・・・」
「魔力がないなんてとんでもない。キミはすごい才能を持っているぞ。スーパーレア級だよ! SR!」
「このわたくしが、まさか・・・」
「たぶん今までは魔法のコツがつかめなかったのか、先生の教え方が悪かったんだろう。周りの大人も見る目がなかったんだな。よし決めた、俺が魔法の先生になってやる。強力な魔力が使えるようになるぞ」
「このわたくしが強力な魔力を・・・」
「だからぜひ俺と一緒に来てくれ。この通り頼む!」
「うわあああん!」
「ど、どうしたんだよ! 急に泣き出したりして」
「・・・生まれて初めて人に認められたので、うれしいのです。・・・ヒック」
「そんなに泣かなくっても・・・でもそうか、今まで色々と辛かったんだな。だがもう大丈夫だ。俺たちと一緒にくれば仲間たちも温かく迎えてくれるぞ」
「はい! ご主人様にどこまでもついて行きます! そしてこの身に代えて、誠心誠意尽くさせていただきますっ!」
「よし! そうと決まれば早くここから逃げるぞ! バレないうちに帝国から出国してソーサルーラに入ってしまおう。そう言えばキミ名前はなんていうの?」
「わたくし、フィリア・アスターと申します」
「アスター! やっぱりそうだったのか。よしこれで4種類目ゲットだぜ! フルコンプまであと3種!」
「先輩にとってはその子も所詮ポ○モン扱いなのね」
次回より、魔法王国ソーサルーラでの活動開始
そして娘の本性が少しずつ明らかに
お楽しみに




