第251話 帝都ノイエグラーデス
「ようこそ、冒険者ギルド・ノイエグラーデスへ」
「他のギルドで受けたクエストなんだが、ここで報酬を受け取りたい」
俺は冒険者カードを受付嬢に渡した。
「ええいいわよ。あなたは、「ラブラブ安里先輩ファンクラブ」のアサート君ね。すごいっ! あなたたちランクAのクエストをクリアーしてるじゃない。それに有害魔獣や賞金首の盗賊の討伐数もかなりあるし、新人冒険者じゃなければランクAに昇格してたわね」
「ということは、そのうちランクAになれるのか」
「もちろん。半年過ぎれば自動昇格するはずよ」
「やった! それで今回の報酬はいくらだ」
「40%を受け取るのよね。だったら12万Gよ」
「了解。それからギルド推奨の宿を教えてくれ」
「あなたたち大金を持っているから、一番高級で安全な宿の方がいいわね」
「それで頼む。ところでちょっと気になってることがあるんだけど聞いていい?」
「どうぞ、何かしら?」
「さっき、ノイエグラーデスって聞こえたんだけど、ここって帝都?」
「何を言ってるのあたりまえじゃない。まさかここが帝都だと知らずに来ちゃったの?」
「も、もちろん知ってました。帝都ですよね、帝都」
「ふーん、本当かなあ・・・」
受付嬢にジト目で見られながら逃げるようにギルドを後にすると、ギルド推薦の超高級ホテルにチェックインし、スイートルームのベッドの上に寝転がった。
そして、
「おいおい、俺たち帝都まで来てしまったぞ!」
「安里先輩、やっぱり帝都はすごいよね! ちょっと歩いただけだけど、大都会って感じがする!」
「安里君、これからどうするの。せっかくだから皇帝を倒しに行く?」
「いや、やめておこう。皇帝だけ倒しても戦争なんか終わらないよ。ただの要人暗殺やテロじゃん」
「じゃあ、どうやったら勝ちになるの?」
「やはり軍事的勝利を積み重ねて、有利な条件で和平交渉を行うのが普通だろ」
「地味ね」
「こんなの地味でいいんだよ。アージェント国王は帝国を焼け野原にしろなんて言ってたが、俺たち11人にできることなんて補給基地をこまめに潰して回ることぐらいだよ。王国の主力はあくまでもアウレウス公爵の陸軍とシュトレイマン公爵の海軍だからな」
「それではすぐに帝都から離れて、アルト王子達と合流いたしますか」
「そこなんだよな。俺たちって帝国の中を適当に移動して基地を叩くのが基本路線だから、特に明確な目標がある訳じゃないし、偶然にもせっかく帝都まで転移できたんだから、しばらく帝都で情報収集をしていた方が面白いと思うんだ。ということで明日からしばらくは、この辺をブラブラしてみないか」
「やったー! じゃあ何かおいしいもの食べに行きましょうよ、安里先輩!」
「美味しいものか、ぜひ食べに行こう!」
「私はソーサルーラに行ってみたい! 認識阻害の魔術具といい、昔からあの国にはとても興味をそそられるのよね」
「ソーサルーラか! ぜひ行ってみたいな」
「わたくしは、あなたの行くところならどこでもお供いたしますわ」
「フリュはどこでもいいと。よし、ではこうしよう。帝都を軽く調べたら、ソーサルーラまで少し足を延ばしてみるか!」
「やった! さすが安里君、話が分かるね」
「わたくしはもちろん異存ございません。ただアルト王子達との合流が遅くなりますがよろしいのですか」
「こういう時のために、エレナがついてるんだ。王子達は王子達できっと頑張っていけるだろう」
「そんな適当なことを言って、安里君もソーサルーラに行ってみたいだけなんでしょ」
「バレたか」
補給基地の爆破に成功したアルト王子はさっそく通信の魔術具でアゾートたちと連絡を取ろうとするが、全く連絡がつかなかった。
「おかしい、魔術具が全く反応しない。ひょっとして基地から転移できなくて逃げ遅れてしまったのでは。エリザベートも試してくれ」
「さっきからフリュオリーネに連絡を入れてますが、やはりつながらないようです。まあ、あの子たちなら生きているでしょうし、別に心配してませんが」
「どうしてそんなことがわかるんだ。ルメール基地は太陽の抱擁を使うんだぞ」
「だからです。彼ら自身の魔法なのですから、いざとなればキャンセルすればいいし、彼らの魔力ならバリアーでしのぎ切れるでしょう。ですのできっと、転移には成功したけれどとても遠い場所だったため通信がつながらなくなった、と考えた方がいいと思います」
「確かにその可能性は高いな。だが念のために、もう少し連絡を試してみてくれないか。僕はクロリーネに状況を報告しておく」
「わかりました」
アルト王子はクロリーネと通信を繋げ、ルメール基地における作戦行動を詳細に説明した。すると、
「・・・状況はわかりました。今の話から推測するとアゾート先輩は帝都に向かった可能性が高いかと」
「帝都・・・なぜそう思うんだ」
「・・・軍事基地の転移室には必ず、本国司令部との通信手段として転移陣が設置されるのが普通です。そして当初予定した近隣の基地にジャンプしなかったのは、何らかのトラブルがあったからかと。そして通信が届かないのは、ルメール基地周辺には留まっていないことの証左。だから遠方の基地に転移したとして、その有力な転移先の一つは帝都」
「もしそうだとして、僕たちはとうすればいいんだ」
「・・・別にどうもしなくても、今までどおり帝国領内の補給基地を一つずつ潰していけばいいのではないでしょうか。別に11人が集まって行動しなくても、むしろバラバラの方が同時多発的に攻撃ができて敵の混乱も誘えますし、メリットが大きいと思います」
「確かに、転移陣の定員問題もあったし、11人は集団としては中途半端に大きいな」
「・・・ですので、王子はなるべく東へとシフトしながら、目についた補給基地を潰していけば、そのうち先輩たちと通信が回復します」
「わかった。アドバイスをありがとうクロリーネ」
「・・・いえ、わたくしの方こそお礼申し上げます。アルト王子からの報告は大変有用でした。魔石の補給が滞りマジックジャミングが弱くなる時期が意外と早く来そうで、今後の戦術を考える上で大変参考になりました。さっそく幕僚本部のアウレウス伯爵に報告しておきます」
「そうしてくれると助かる。ところでそちらの様子はどうだ」
「・・・メルクリウス軍は順調です。シャルタガール領はすでに我が軍の制圧下にあり、騎士団を吸収してともにダゴン平原に展開しています。ただ、アルト王子からの報告を聞いて、フォーメーションを少し変更することにいたしました」
「僕からの情報でフォーメーションを変える?」
「・・・はい。今はマジックジャミングがあることを前提にディオーネ領民軍を主力に展開させてますが、属性魔法が使えるのならリーズ様のメルクリウス騎士団を前面に押し上げる方が火力が期待できると思いますので。それに」
「まだ何かあるのか?」
「・・・いえ、戦争とは直接関係ないのですが、リーズ様やカレン様を中心としたボロンブラーク婚活大戦としては、その方が面白そうなので」
「ボロンブラーク婚活大戦? ・・・それは僕の預かり知らないことだから多くは聞くまい。ところでメルクリウス軍以外はどうなっているんだ」
「・・・王国は大混乱、ボルグ中佐に好き放題暴れられています。彼の部隊はやはり優秀なようで、およそ全ての領地で平民や不平貴族による反乱が起きています。各領地はその対応に追われていて、ダゴン平原への派兵が後手に回ってしまっています」
「ボルグ中佐ってアゾートが警戒していたアイツか」
「・・・はい。王国側が先輩やアルト王子達の新勇者パーティーなら、帝国側はボルグ中佐率いる特殊作戦部隊が、お互いに相手の国に乗り込んでメチャクチャに引っ掻き回す破壊工作合戦になってしまいました」
「くそう・・・ブロマイン帝国も一筋縄じゃ行かないということだな」
次回、久々のリーズ回を一話挟み、
ダゴン平原の布陣が明らかになります
お楽しみに




