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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第2章 決戦!アージェント王国VSブロマイン帝国
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第245話 トールハンマー

 エリザベートが挑発したことにより、今度は5対1の近接戦闘が始まった。


 超高速知覚解放により速度が増したエリザベートは、魔剣インドラを輝かせながら彼らの攻撃をことごとく受けきって行く。


「コイツ、マジで動きが速ええし、俺たちのパワーに全然負けてない! 一体どうなっていやがる・・・」


 だが、スピード系の戦士だけはその速度がエリザベートをやや超えるようで、さすがのエリザベートも、彼の攻撃はバリアーで受けざるを得なかった。そして防御力が徐々に削られていく。


 それを見たフリュオリーネが声をかける。


「あら? エリザベート様が苦戦されているようですが、このわたくしの助けが必要でしょうか」


 するとエリザベートがギロリとにらんで、


「助けなど不要と、先ほど申し上げたでしょ! 今は彼らからの攻撃をわざと受けて、いろいろと試しているところです!」


「本当ですか? そんな余裕があるようには、とても見えませんけど」


「お黙りなさい、フリュオリーネ! なら、わたくしの本気を御覧なさい。いくわよ!」


 怒ったエリザベートが魔剣インドラを黄金色に輝やかせると、雷属性を帯びた超高速の斬撃をもって4人の大男を一度に打ち払った。


 男たちはとっさに盾で防御したが、強烈なパワーと雷撃の両方のダメージを受けて、後方へ大きく飛ばされてしまった。


「ばっ・・バカな! 俺たちの全員を一度に薙ぎ払いやがった。この女、化け物か!」


「こいつ本当にランクBかよ。ランクAの俺たち4人を相手に互角以上じゃないか!」


「くそ・・・こいつは後回しだ。先にあの3人組をやるか。盾職2人はあの女が近づかないように、邪魔をしていろ」


「へい、お頭」





 男たちが急に向かってきた3人娘は、慌てて魔法を発動する。


 【無属性魔法・火事場の馬鹿力】

 【無属性魔法・火事場の馬鹿力】

 【無属性魔法・超高速知覚解放】



「ちょっとモカ氏、ちゃんと呪文を唱えなよ」


「どっちを唱えてもどうせ両方発動するるんだから、可愛い方を唱えるでごわす」


「なるほど、それは納得感しかない件について」


「そこの3人娘、わたくしもお手伝いしましょうか?」


 暇そうにしていたフリュオリーネが3人娘に声をかける。だが、


「いえいえ滅相もない。正妻様のお手を煩わす訳には参りませんよ。ぜひそこでのんびりとわたくしどもの働きをご覧いただき、安里くんに側室として迎え入れるよう、お口利きいただければと」


「ごちゃこちゃ喋ってるんじゃねえ! ふざけやがってこのクソ女どもが!」


 お頭が3人娘を威嚇するために、大剣をわざとルカの目の前で振り回す。


「うおりゃーーっ!」


 唸りを上げる大剣だが、ルカは持っていた盾でそれを受け止めると、大剣を素手で掴みなおして、お頭ごと真上に持ち上げた。


「うわあーっ! な、なんて馬鹿力なんだ、この踊り子は!」


 そしてそのまま、後ろにいるもう一人の戦士に投げつけた。


「「ぐわーーーっ!」」


 そして地面に倒れ込んだ2人を3人娘が取り囲み、持っていた盾で滅多打ちに袋叩きにした。


 ドガーンッ! ドゴーーッ! ズドーーーンッ!


「ひーーっ! ぐっはあーっ!」


「ちょっと待ってくれ・・・なんなんだこのパワー。俺たちよりも断然上、こいつら全員まともじゃねえ」


「ランクBってたしか新人がなれる最高ランクで、新人はいくら強くても経験がないということで、ランクAにはなれねえんだ。だからこいつら、実力は完全にランクAだ。こうなったら水龍用に用意したアイテムを使うしかねえ」


「し、仕方ねえな。このままじゃ、俺たちがやられちまうからな。・・・よし、疾風の護符!」


 お頭がポケットから取り出したアイテムを使うと、不思議な風が巻き起こって2人を空に舞い上がらせると、少し離れた場所に退避させた。


「おい野郎ども! 今からアイテムを使うから、全員集合だ!」


 エリザベートに対峙していた盾役の二人も後退して、全員がお頭の元に集まり、魔導師以外の5人がそれぞれ自分のアイテムを取り出し、それを発動した。



「タイタンの腕輪!」


「逆さ麒麟のピアス!」


「ウロボロスの爪の垢!」


「ウロコのたわし!」


「象牙のハンコ!」


 次々と発動するアイテムのバフ効果によって、男たちの戦闘力が一気に上昇した。水龍と戦うための完全本気モードに入った男たちが、エリザベートや3人娘たちに攻撃を始めた。





 さすがに水龍対策に用意しただけあってアイテムの効果は絶大だった。男7人対女4人の戦いは完全に拮抗状態に入り、アイテムの中には特殊な攻撃を行うものも含まれていて、エリザベートたちも一時的に防戦に徹する場面もあったほどだ。


 だが惜しげもなく投入されたアイテムもエリザベートたちを完全制圧できるほどの効果はなく、やがて手持ちのアイテムが底をついてしまった。


「くそう・・・もうアイテムがねえ」


「せっかく大金をはたいて購入したのに、クエストをする前に全部パーじゃねえか・・・」


「アイテムが無きゃ、とてもじゃねえが水龍なんか倒せねえぞ」


「おいどうするんだよ。このままじゃ完全な赤字だ」


「誰だよ、新人の冒険者をさらって、ついでに小遣い稼ぎしようなんて言った奴は」


「すまん・・・道楽で冒険者をやってるお嬢様だったと思ったんだが、とんだガチ勢だったよ」


「で、どうするんだよ。このままだと俺たち全員返り討ちにあった上に、一文無しだぞ」


「・・・そうだな。さっきから一人だけ後ろに隠れいている人形みたいな女がいるだろう。あいつだけなぜかまだ一度も戦っていないから、ひょっとしたらこいつらに守ってもらってるんじゃないか」


「・・・そうか、あいつを拐ってとんずらを決め込めばいいんだな。よし、魔導師どもはワームホールを準備しとけ。あいつを拐ったらできるだけ遠くにジャンプするぞ」


「了解」




 そしてアサシンと同じタイプのスピード系戦士がフリュオリーネを誘拐するために、エリザベートや3人娘の脇を抜けると、超速で彼女に襲い掛かった。


 だが、



 【闇属性魔法・ワームホール】



 突然発生した闇の球体に男が包まれると、瞬時にどこかへと転送された。


「何だとっ! あの女ワームホールを使いやがった。だが何なんだ今のは! 魔法をこっそり準備していて俺たちに悟らせなかったことといい、魔法発動が絶妙なタイミングだったことといい妙に戦い慣れしてやがる。こいつは別格。なんで今まで戦わなかったんだ」


 男たちが愕然とする中、エリザベートがフリュオリーネに向かって叫んだ。


「あなたは手出ししないでって言ったでしょ!」


「だったらこのわたくしの近くに、あのようなむさ苦しい男を近づけないでくださいませ!」


「ちょっと油断をしただけでしょ。わたくしが今から魔法で倒すところだったのです」


「あなたは魔力だけはご立派ですが、戦い方が全くなっていません。あとでわたくしが教えて差し上げましょうか」


「うるさい、この氷女! 今からわたくしの本気を見せてあげますわっ!」


「あらあら? それって負け犬の遠吠えですよね」


「うるさい! あなたはそこで黙って見てなさい」





「あのクソ女ども、俺たちを無視して内輪もめを始めやがった」


「だがどうする。もう俺たちにはアイテムがないし、拐って売り飛ばすこともできねえ」


「くっそーっ、こうなったらもうヤケだ! アイツら皆殺にしてやる。おい魔導士ども、全魔力をこの魔術具に投入しろ」


「これってまさか「ルシフルの簪」・・・。嫌だ! こんなことをしたら俺たちは死んでしまう!」


「うるせえ、言うことを聞かなければお前たちの家族を皆殺しにするぞ。それに魔力を失っても死ぬとは限らねえが、俺に逆らうと後で確実にお前たちを殺す」


「ひーーーっ!」


「速く、魔術具に魔力を投入しろ」


「は、はいっ!」







「アゾート、いたぞエリザベート達だ!」


「本当だ、まだ男たちと戦っている。間に合ったか」


 俺たちが現場に到着すると、男たち4人がとんでもないなオーラを放ちながら、エリザベートたちにまさに襲いかかろうとしていた。そして彼らの後ろには、二人の魔導師が地面に倒れていた。


「・・・これは一体、どういう状況なんだ」


 すると馬車で追いかけてきていた他の冒険者たちも、続々と俺の近くに集まってきて、


「おいおいおい、えらいことになっているな・・・」


「え、オッサンたち分かるのか。俺にこの状況を解説してくれ」


「ああヤツらは「ルシフルの簪」というアイテムを使って、通常の倍の戦闘力に増強しているんだ。いや見た感じだと4倍にしてやがるな。なんてこった」


「戦闘力を4倍に・・・そんなアイテムがあるのか」


「ああ。だがその代償として、アイテムを発動させた魔導師は全魔力を失って死に、能力を増加させた者も全身の筋肉に大きな損傷を負って、当分は身動きがとれなくなる。ほとんど禁呪とされているアイテムを2つも使って、二人の魔導師を犠牲に戦闘力を4倍にしやがったんだ。しかしなんでそこまで・・・」


 だがその次の瞬間、男たちと対峙するエリザベートの周囲にマナが渦を巻いて集まっていく。そして雷属性を持つ黄金のオーラが彼女の周りに満ちると、それが一気に濃縮してその体内に吸収された。



 キーーーーーーーンッ!



 空気が凍り付いたように張り詰めて一瞬の静寂を迎えると、やがてエリザベートの前に巨大な魔方陣と膨大な量のオーラが出現した。


 そして、



 【雷属性固有魔法・トールハンマー】



 エリザベートがその言葉を発した瞬間、魔力のオーラは天文学的な数の荷電粒子へと姿を変えて、亜光速のスピードに加速して4人の男たちに殺到した。


 男たちは回避行動をとる時間さえ一切与えられず、荷電粒子の運動エネルギーが細胞の一つ一つに送り込まれていく。


 そして強制的に熱エネルギーへと変換させられ細胞を蒸発させた荷電粒子は、急速にその速度を落とした結果制動輻射によるX線を放出せしめられ、他の細胞に致命的な損傷を刻み見込んでいった。


 だが、次から次へと押し寄せる荷電粒子がその細胞ごとさらに熱で破壊していくため、X線による致命傷など次の瞬間にはなかったこととして、塗りつぶされていく。


 そんな無慈悲な物理学の極限現象が、ほんのナノ秒の刹那で繰り返し発生し、無限とも思えるほどの荷電粒子がその場を通り過ぎる去る頃には、男たちの肉体は完全に蒸発して、この世から消え去っていた。





「あわあわあわ・・・」


 俺の周りに集まった冒険者たちは、あまりの光景に言葉を失っていた。だがエリザベートは涼しい顔で、


「どう、フリュオリーネ? わたくしのこの本気の攻撃に、あなたも言葉を失ったのではないかしら」


「いいえ、エリザベート様。全て見せていただきましたが、あなたの魔法には無駄が多すぎます。詠唱の発音が全く美しくありませんし、イメージも中途半端なのか、わたくしの想定よりも威力が小さすぎます。このわたくしがあなたを鍛えなおして差し上げましょうか」


「まあ、なんですって! ふん・・・あなたなんかに魔法を教わるわけないでしょ。あなたのダンナを貸しなさい、彼に直接教えてもらうから」


「嫌です。あの人をあなたみたいな高圧的な女に貸すわけがないでしょ」





「あの二人がまたケンカしてるよ。まああれで結構仲がいいんだと思うが、一歩遅かったようだな」


「なんでだよ兄ちゃん。お嬢ちゃんたちは全員無事でよかったじゃないか」


「いや、認識阻害の魔術具が・・・あれじゃあ、エリザベートが丸ごと蒸発させてしまったに違いない」


「魔術具なんて、どうでもいいだろーが!!」

次回はアルト王子のターン

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