第244話 エリザベートの実力
エリザベート戦、長くなったので2つにわけました。
まずは前編です
フリュたちを乗せた馬車は野営地を全速力で離れて行く。
誘拐を行った2つのパーティー8人全員がグルで、一人がフリュの馬車の御者席で手綱を握って2台の馬車を並走させると、野営地の森を抜けて街道をどんどん南下して行った。
ルメールに引き返しているようだ。
馬車の中ではエリザベートが、隣に座るフリュオリーネに尋ねる。
「フリュオリーネ様、彼らはわたくしたちをどうするつもりなのかしらね」
「・・・・おそらくわたくしたちのことを誘拐して、身代金をとろうとするか、奴隷商に売るかしてお金を稼ごうとしているのだと思います」
「ふん! 身の程知らずにもほどがありますね。では彼らを今すぐに始末いたしましょう」
「ですがあまり目立つ行動をしたくありませんので、できれば人目のつかない場所に着いてからの方がよろしいと存じます」
「そんな悠長な! このまま奴隷商のもとに行くと全員まとめて始末せねばならず、余計に目立つことにもなりかねません。でしたら先に」
「心配しなくても大丈夫です。わたくしたちは必ず人目のつかないところに連れ込まれ、彼らから乱暴を働かれるはずですから」
「な、な、なんですってっ!・・・下賤の者がこのわたくしになんてことを・・・絶対に許せません!」
「・・・いえ、まだ何もされておりませんが。でもそれほど戦いたいのなら、彼らの始末は全てエリザベート様にお譲りいたしましょうか」
「ええ、そうしてちょうだい。フリュオリーネ、あなたは絶対に手出し無用よ。そこの3人娘もね。このわたくしが全員まとめて始末いたしますので」
「どうぞどうぞ。あんなオッサン8人組などわたくしたちには必要ございません。すべて雷の女王様に献上いたします」
「これから始まる王国最凶女による大暴走の件」
「わたくしたち3人娘を相手に、毎日の教室で鍛えしその扇子の秘儀を、ぜひあのオッサンたちに炸裂してほしいでごわす」
「・・・あなたたちにそう言われると、急にやる気が失せてきました。あの8人は譲って差し上げます」
「「「いえいえ、あんなオッサンいりません!」」」
そしてフリュオリーネの言った通り、やがて馬車が止まるとオッサンたちが乗り込んで来て、全員を馬車の外に連れ出した。
馬車が止まっていたのは入り組んだ崖地の谷底で、街道から完全に外れて人目に付きにくい場所だった。そして冒険者のリーダー格の男が近づいて来て、
「よう元気かい、冒険者ランクBのお嬢ちゃんたち。お前たちの冒険者生活は今夜で終わり。今からは奴隷として生きていくんだ。だがこれはこれは・・・よく見るとお前たち5人ともとんでもない上玉だな。これは高く売れるぞ」
「ぐへへ、お頭。こいつらを奴隷商に売る前に俺たちでちょっと味見してみようぜ」
「・・・それもそうだな。これだけの上玉だ。2人ぐらいなら俺たちが十分に楽しんだ後に売り払っても、十分に儲けが出るだろう」
「2人か! で、どの子をヤるんだ」
「そうだな・・・まずはそこのお高く留まった感じの女だ。こいつは俺たちで丹念に心を折ってやった方がむしろ奴隷としての価値が上がるかもしれないしな。その隣にいる氷人形みたいなのは、手をつけない方が高く売れそうだ。・・・後はその3人そっくりな踊り子たちの中から適当に一人選べ」
「うひひひ、こんな上物一生お目にかかれないぞ」
「俺、このパーティーに入ってよかったよ」
「だが、最初はこの俺だ。そこの高飛車女をよこせ」
「エリザベート様、どうやらあの男たちはあなたがお目当てのようね」
「本当に虫唾が走りますわ。ところで、アゾートとは連絡はとれているの?(ボソッ)」
「ええもちろんよ。この会話も含めて全て通信の魔術具で送信しておりますわ(ボソッ)」
「そう。では当初の予定通り、この私が全員を始末させていただきますわ(ボソッ)」
「どうそご自由に(ボソッ)」
【無属性魔法・超高速知覚解放】
「コソコソ喋ってんじゃねえよ! お頭がお呼びだからとっとと来い!」
そういって冒険者の一人がエリザベートに近付いて腕を掴もうとしたが、素早く避けられてしまう。
「汚い手でわたくしに触れないで!」
「何だと、このクソ女!」
だがいつまでたってもエリザベートを捕らえることができず、何度もそれを繰り返しているうちに、ついにお頭がキレた。
「なにやってんだ! 早くそいつを連れてこい」
「いや、そうなんだがコイツうまくよけやがって腕を掴めねえ。ていうか動きが速ええ」
「ちっ! まあこいつらもランクBの冒険者だからな。おいアサシン、お前の超速でこいつを捕まえろ」
「へい、お頭」
そう言ってアサシンと呼ばれた男は超速でエリザベートに襲い掛かるが、彼女はそれすらも避ける。
「なんだと! こいつ、俺と同じスピードで動きやがった。なら俺も本気を出すか」
そしてアサシンとエリザベートの攻防が始まった。
「あの女・・・本当にアサシンのやつと互角の速さで動いてやがるぞ」
「ランクAとまともにやりあえるって、どんな新人冒険者なんだ・・・」
だがそんな超速の攻防もついに終わりが来た。アサシンがエリザベートの手首をつかんだのだ。
「はあはあ・・・手間をかけさせやがって」
アサシンが息を切らしながらエリザベートの腕をグイっと引き寄せた。だがその瞬間、身体全体にスパークが走り、言葉を発する間もなくアサシンは黒焦げになって感電死した。
地面に倒れ込んだアサシンに、男たちは真っ青になった。
「何だと! そんなバカな・・・今のは電撃魔法か」
「あいつアサシンと戦いながら、息を切らさずに詠唱を続けていたんだ」
「だが今の魔法、俺にはただのサンダーにしか見えなかったが」
「アサシンがたかがサンダーでやられるわけない!」
「そうだ! あいつも呪符を持っていたはずなのに、なんでサンダーなんかで即死させられてるんだよ!」
そんな男たちの会話を聞いていたエリザベートが、
「あら、呪符なんて持っていたのね。でもわたくしの魔法がその程度のもので防げると思っているのなら、あなたたちも大した冒険者ではありませんね」
「・・・なんだとテメエ、俺たちランクAの冒険者になめた口を叩きやがって! お前はだけはただじゃおかねえ。アサシンの仇だ、多少傷物になっても構わんから全力でこいつを痛めつけてやれ」
そして7人全員が戦闘態勢に入る。
お頭と呼ばれた男ともう一人は大剣をふるうパワー系戦士で、もう2人は重厚な防具を身に着けた盾役。そして後方では魔導士2人が呪文の詠唱を始め、残り一人はさきほどの男と同じスピード系戦士のようだ。
男たちがエリザベートをジリジリ囲い込むが、彼女はそんな彼らの様子をじっくり眺めているだけで、特に動く様子がなかった。
そしてお頭がニヤリと笑う。
「バカめ! コイツは全く戦い慣れしてやがらねえから、むざむざこちらに魔法を放つ時間を与えてくれたぜ。野郎ども、ぶっ放せ」
【雷属性魔法・サンダーストーム】
後方に控えた魔導師の一人がサンダーストームを放った。上空高くに現れた魔法陣から巨大な雷が次々とエリザベート目掛けて落ちてくる。だがエリザベートはそれを涼しい顔で受けると、愚蔑の感情を含んだ笑顔で男たちに言い放った。
「このわたくしにそんなお粗末な魔法攻撃など一切効きません。つまらない攻撃はやめて、お得意の剣でかかって来なさい」
そしてエリザベートは魔剣インドラを抜いた。
俺たちは馬車を追って野営地を出発した。通信の魔術具は常に作動しており、フリュからは状況を逐一送信してもらっている。場所も捕捉できており、俺たちは街道から少し外れた崖地に向けて方向を転換した。
俺たち6人が超高速知覚解放を使って走っている後ろで、残りの冒険者のオッサンたちも馬車で必死について来ている。
「おーい、兄ちゃんたち。場所は分かっているのか」
「ああ、誘拐された馬車はすでに止まっていて、全員馬車から下ろされたようだ」
「本当か? だったらまずいぞ。早くお嬢ちゃんたちを助けなきゃ」
「そうだな。どうやらエリザベートが戦っているようだから、早く行かないと認識阻害の魔術具が全て破壊されてしまう。急ごう!」
「魔術具じゃなく、お嬢ちゃんたちの心配をしろ!」
次回、決着
お楽しみに




