第236話 シャルタガール領包囲作戦(マール戦線②)
一番最後に進軍マップを追加しました
(2022.9.29)
ルクソワール城の城門から次々と騎士団が出撃してくる。そして怒涛のような勢いで、ポアソン騎士団に迫って来たのだ。だがマールは少しもあわてず、全軍に命令を下す。
「土木作業員は全員前へ!」
そういうと、ディオーネ領とポアソン領の土木工事のために仕官してきた宮廷貴族の息子や娘たちが騎士団の一番先頭に立ち並んだ。
そして全員が一斉に魔法を発動した。
【【【土属性初級魔法・ウォール】】】
【【【土属性中級魔法・ゴーレム】】】
するとルクソワール騎士団の進軍を邪魔するかのように大量の土壁が次々と出現し、騎士団はそれらを避けるために、その進軍速度を急速に落とした。そして多数のゴーレム兵たちが、立ち往生した騎士団にのそのそと立ち向かっていく。
そしてマールが続けて、
「騎士学園生と魔法戦闘員は前へ!」
そういうと、今度はダンやアネットたち騎士学園生や戦闘員として雇った宮廷貴族の子息、子女たちが、土木作業員の間に割り込むようにズラリと並んだ。
そして全員で、
【【【無属性魔法・マジックシールド】】】
魔力を保有する若い貴族たち全員で、ポアソン騎士団全体を守るように魔法防御シールドを展開した。
もともと魔力保有者がほとんどいないポアソン騎士団は、彼らのバリアーに守られながら、その上空を越えるように後背からボウガンを撃って、敵騎士団に雨のように矢を降らせた。
また補給兵は、マジックポーションを大量に準備していて、魔力が足りなくなってきた土木作業員や魔法戦闘員に手渡していく。
ランダムに隆起した土壁やゴーレムを越えてやってきた敵騎士団は、だがその速度を完全に削がれた状態で今度はバリアーに進軍を阻止され、その頭上に降り注ぐ矢を受けて、次々と倒れて行った。
「引けい! 一旦、隊列を立て直せ!」
騎士団の各隊長たちは、慌てて配下の騎士たちに隊列を組みなおすように指示するが、
【光属性固有魔法・パルスレーザー】
マールは騎士団の中から隊長を特定すると、ピンポイントで彼らを狙撃していった。
パーーンッ!
「ぐわーっ!」
「隊長!」
隊長をやられた部隊は混乱し、その間にも頭上の矢の格好の餌食になっていく。
【【【無属性魔法・マジックシールド】】】
やがて敵もバリアーを展開すると、お互いに矢による遠隔攻撃が効かなくなる膠着状態が生まれた。
そして落ち着きを取り戻した敵は、バリアーが展開していない側面や後背に回り込んで乱戦に持ち込もうと騎士団を動かしはじめる。
だが敵がその機動力を使って戦況を打開しようとするその矢先、マールは先んじてウォールの土壁を展開させて、その機動力を失いせしめた。そしてその隙に魔法戦闘員を先回りさせて新たなバリアーを構築する。
そんな攻防を繰り返して両軍は互いににらみ会う膠着状態となり、ただ時間だけが過ぎて去って行った。その間マールだけが、透明なバリアーの存在を無視してパルスレーザーによる狙撃を淡々とこなし、指揮官と思われる騎士のみをピンポイントで倒していった。
そして敵がその作戦に気づいたころには、既に多くの指揮官を失っており、敵は慌てて撤退を決意。ルクソワール騎士団は、統制の取れない烏合の衆の如く、我先にと城内へ引き返していった。
「初戦は私たちの勝利ね。ダンも苦手な魔法をどうもありがとう」
「どういたしまして。それから俺もわりと魔力が増えて、魔法はもう苦手でもなんでもなくなったんだぞ」
「でも魔法が得意なダンなんて、ダンじゃないよ」
「やかましい。まあバリアーのおかげでこちらの人的損害は全くなかったが、ポーションの数が随分減っちまったな。俺もポーションの飲み過ぎで、胃が気持ち悪いよ。オエー」
「でもこんなにバリアーが完璧に展開できたのって、アネットがみんなにコツを教えてくれたからだよね。ありがとうアネット」
「いや、この程度のことで感謝される必要はないさ」
「そう言えばアネットって、この後はどうするの? ダゴン平原についたらダンとパーラはウエストランド騎士団に合流してそこで手柄をあげるみたいだけど、アネットはパーラの保護者みたいなものだから、やっぱり二人について行くの?」
「いや、私は今回はついて行くのをやめようと思う」
「え、どうして? 珍しいね」
「あの二人にこれ以上ついて行くのは、なんかお邪魔虫みたいだし、それに私の実家にも少し問題があるのでそうもいかなくなりそうだ」
「実家に問題って?」
「私の実家が中立派のマーロー子爵家なのは知っていると思うが、実はテトラトリス侯爵家の家臣で今回の新領主たちの決起に参加してしまっているのだ。実家からは私にも参加するように帰還命令が下っていたが私はそれを無視したのだ」
「そうだったの・・・」
「この後の展開によっては、ウエストランド騎士団とマーロー騎士団が戦う可能性もあるわけだし、そんな私がパーラの実家に身を寄せるのも迷惑をかけるだけな気がしてな」
「そっか・・・だったらアネット、このまま私と一緒にポアソン騎士団の中で戦う?」
「・・・マール、いいのか?」
「アネットなら大歓迎よ。私たち二人がコンビを組めば、私はアネットの強力なバリアーに守られながらパルスレーザーで安全に攻撃が可能になる。突撃狙撃兵よ! それに近接攻撃が必要になればアネットに任せるし、ダメージを受けたら私がすぐに治してあげられる。ひょっとして私たち無敵のコンビになれるんじゃない?」
「・・・ああ確かにいいコンビになりそうだ。わかった、しばらくポアソン騎士団の世話になるとしよう。よろしく頼むマール」
「こちらこそ」
一方、ルクソワール城内では、男爵がカンカンに怒っていた。
「貴様の余計な意見具申のせいで、我が騎士団は指揮官ばかりを失う羽目に陥ったではないか!」
「・・・申し訳ございません」
「結局ポアソン騎士団には何のダメージも与えられず、我が方の被害ばかりが甚大だ。これではポアソン領をオットーよりも先に手に入れて我が領地を拡大してあわよくば子爵に昇爵することも不可能か」
「・・・そんなことを考えていたのですか?」
「単独ではマール・ポアソンの魔法が恐ろしくてとてもポアソン領を攻めようとは思わないが、今回はある意味チャンスだとも思っていた」
「まあ、オットーの命令ですからね。断ったら我々は彼らに攻め入られても文句は言えなかったし」
「それに今回は4侯爵家が同時に蜂起している上に、その背後にはあのクリプトン家、フィッシャー家、アルバハイム家もついているのだ。であれば大きな流れには乗っておいて、あわよくば利益を最大化させようとするのが、貴族家当主の当然の務めであろう」
「そうですね。慎重にして狡猾。さすがはルクソワール男爵です」
「だが貴様の献策のせいで、オットーの作戦どおりに籠城するしかなくなってしまったではないか。ここからはできるだけオットーに協力して何かおこぼれに預かれるよう、お前は騎士団の再編でもしてろ!」
「・・・はっ!」
その後両軍がにらみ合ったまま二日が経過したころ、ポアソン騎士団の後方にメルクリウス騎士団2000とフェルーム騎士団1000が姿を現した。
「もう援軍だと! 軍の展開があまりにも早すぎる・・・やつら事前に戦争準備をしていやがったんだ。畜生!」
「これで敵は無傷の5000騎。我が方は新米指揮官に率いられた1900騎です」
「・・・こんなの戦いにもならん。もはやオットーの到着を待つしかないじゃないか!」
そしてその翌日、ルクソワール男爵のもとにマールからの使者が面会を求めて来た。男爵はそれを認めて使者を謁見の間に通した。
マールの使者が男爵に対し丁重に挨拶口上を述べると、その後いきなり降伏勧告を行った。
「シャルタガール侯爵家を簒奪した三男オットーに対し、アージェント国王より討伐の勅命が出ております」
「なんだと! 国王からの勅命・・・まさか、そんな話聞いてない!」
「いいえ勅命は確かに出ております。国王からの勅命はアウレウス公爵とメルクリウス伯爵の二人へ直々に下されたものですが、その中には逆賊オットーに与する者はその者も同罪とし、伯爵の判断で討伐してもよいとの内容です。また逆賊から得た領有権も半分認めるとのこと」
「・・・それだと、もしかしてこのルクソワール男爵家は逆賊ということになるのか」
「三日前の先制攻撃で、マール・ポアソン男爵の判断によりすでに逆賊認定がされています。そしてルクソワール男爵家の領地の南側1/4はすでに、ポアソン家とメルクリウス家が占領いたしました」
「バカな! そんな話はオットーからは何も聞いていない。ちょっと確認するから領地を奪うのを少し待ってくれ」
「それはできません。今すぐ降伏なさい」
「・・・降伏したら領地は返してくれるのか?」
「それは私が判断することではありません。メルクリウス伯爵に直接ご嘆願ください」
「・・・先に確約がほしい。その旨をポアソン男爵にお伝えいただけないか」
「承知しましたがポアソン男爵がどのような判断を下すか、私は保証はできません」
「それでもいい。言うだけ言ってみてくれ」
オットーに問い合わせをしつつ、ポアソン男爵からの回答を待っていたが、次の日になっても何の回答もなく、逆にルクソワール城を包囲する騎士団がさらに増えていた。
「男爵・・・ボロンブラーク騎士団がさらに援軍として加わった模様。現在我が領地の占領作業も加速しており、このままだと数日とかからず、この居城以外のすべて領地を奪われる勢いです・・・」
「・・・そなたが進軍せよと進言したばかりに大変なことになってしまった。だがそんなことを言っみても仕方ない。ポアソン男爵に今すぐ会談の申し込みを」
「男爵それでは・・・」
「もはや降伏するしかあるまい」
そしてその日の夕方にはポアソン騎士団の司令部において両男爵による会談が行われ、ルクソワール男爵の全面降伏と居城の一時明け渡しが決定され、降伏文書に調印が行われた。
司令部の周りには領地の占領作業を中断した騎士団が続々と集結し、男爵の身柄を拘束してルクソワール城に入場するころには8000騎の大軍に膨れ上がっていた。
ルクソワール男爵はそれを見て乾いた笑みを浮かべた。
「こいつらまるで戦争のプロじゃないか。あの堅牢なナルティン城だって2日と持たなかったのに、どうして私はこいつらに戦いを挑んでしまったのだろうか。オットー・・・いや、アッシュ・クリプトン、あいつの言葉にまんまと乗せられてしまったのか」
その後、ルクソワール城は完全に占領され、騎士団は解体。その一部を城の守備に残した残り1500騎は、ポアソン騎士団に吸収されてともにダゴン平原を目指すこととなった。
次回、クロリーネの戦いてす
お楽しみに




