第233話 港町トガータ
翌朝野営地を出発した俺たちは、帝国領内を徒歩で東に進んでいく。そして翌日の午後には帝国最西端の港町トガータに到着した。
「ここがトガータか、かなり大きな港町だな」
「情報によると、この街には帝国海軍の補給基地があり、ここからアージェント王国の沿岸に向けて軍艦が出港するようです。あとは帝国各地へ商船や旅客船が出ているようですね。それ以外はちょっとわかりませんので、実際に街に入って情報を収集しましょう」
「よしさっそく中に入ってみよう」
トガータは街全体が城壁に囲まれていて、俺たちは西側にある門から中に入る。ここの住人や近隣の農夫たちが数多く門を出入りしており、門兵は一人一人をチェックしていない。
たぶん、平和なんだろう。
一応国境の街ではあるが、接しているのは鎖国中のシリウス教国であり、アージェント王国との出入口にあたるダゴン平原はここからはるか北。
警戒を要するような事態が、この街ではしばらく発生してないのだろう。
人々の表情もどこかのんびりしていて、盗賊とかもあまりいないのかもしれない。そんな平和な街へ俺たちは入っていく。
冒険のお約束として、俺たちはまず冒険者ギルドで冒険者としての登録を行うことにする。ここで登録を行えば帝国内の身分証明にもなるし、ギルドの様々な恩恵にも与かれるからだ。
街の中をどんどん東へ進み、街の中心部から今度は南の港の方に向かって進んで行くと、やがて繁華街が広がっていた。
人でごった返す街の一角に、やはり冒険者ギルドがあった。看板には「トガータギルド」と書いてある。バラエティーあふれる装備を身に着けた冒険者たちが出入りし、中も冒険者達でいっぱいだ。
「今から冒険者登録を行うが、その前にみんなにこれを渡しておく」
俺は小さな魔石を一人ずつに配る。
「何だこれは」
「ジオエルビムの古代遺物の一つ、魔力測定器に魔力が反応しないようにする装置です。帝国内で俺たちは普通の冒険者として身分を偽装する必要があります」
「確かに俺たちの魔力は一般人に比べてレベルが違うから、そんなのが11人もいたら怪しまれるよな」
「そうです。ただジョブの都合上ジューンと3人娘だけは少しだけ魔力があるという設定にしてあります。では行きましょう」
そして俺たちは他の冒険者達に紛れて、建物の中に入って行った。
「冒険者ギルドへようこそ」
受付嬢が明るい笑顔で迎えてくれるのは、王国のギルドと同じだな。
「初めて冒険者登録をするのですが、どうすればいいですか」
俺が話しかけると、受付嬢はすらすらと説明を始めた。要するにこの奥の部屋に入ってジョブの適性や魔力の有無等を測定し、ギルドにジョブとランクを登録する。このあたりは王国のギルドと同じだ。
受付嬢に連れられて奥の部屋に入ると、そこには大きな水晶が一つ置かれていた。
この水晶に手をかざすとその人が持つ魔法の属性や身体能力などが見えるらしい。アルト王子から順番に適性検査をする。
アルト王子が水晶に手をかざすと、水晶の中に微かな光と何か文字のようなものが浮かんでいる。受付嬢がそれを真剣に読み取って、手元のメモに何かを書き込んでいく。そして、
「すごいわね・・・魔力がある上に剣術の適性もあるわ。これだと大抵のジョブにつけるから、この中から好きなものを選んでね」
「え? 魔力なんかないはずだが」
「いいえ、一流の魔導師にはまだまだ足りないけど、明らかに魔力適性があるわ。おめでとう」
そういうと受付嬢はアルト王子に冊子を渡した。
アルト王子が冊子を手に取ると俺に小さな声で、
「おいアゾート、どういうことだ? 俺は魔力がない設定じゃなかったのか(ボソッ)」
「・・・おそらくアルト王子の魔力が強すぎて、この魔石ではカットしきれなかったのかも知れませんね。でもギルド登録を始めちゃったし、みんなもこのままつづけましょう(ボソッ)」
「なるようになれか(ボソッ)・・・」
腹をくくった王子は冊子をぱらぱらとめくり、
「では、魔剣士でお願いします」
「魔剣士ね。それがいいと思うわ、おめでとう」
今のを見て思ったが、帝国の測定器は魔力の大きさが数値化されていないみたいだ。逆にジョブ適性を示す何らかの文字が浮かび上がっている。どうやら使われている魔導技術が異なるらしい。これがこの世界本来の魔法なのかも知れないな。
それからエリザベートから3人娘まで、11人全員の登録を完了。やはり全員に魔力が備わっている結果になったが、ジューンと3人娘は天才魔導師クラスにされてしまった。
一応は最初に俺たちで決めていたとおりのジョブに全員登録できたが、受付嬢は呆然とした顔で俺たちのことを見ていた。
「あ・・・あなたたちは一体、何者なの・・・」
「・・・正体を聞いてどうするつもりですか」
「い、いえ、どうもしないわ。冒険者ギルドは冒険者の素性は問わないし守秘義務もある。測定結果などの冒険者の情報も外部には流さない」
「それはよかった。俺たちの素性を外部に流されるなら口を封じないといけなかったので、余計な興味を持たれない方がいいでしょう」
「わ、わかったわ。冒険者にはみんな事情があるし、私もプロの受付嬢だからそのあたりは弁えているわ。それでは皆さん、ご活躍を期待しています」
さて初めての冒険者ギルドに来ると、必ずお決まりの洗礼も待っている。
「おいそこの兄ちゃん。かわいいネーちゃんをたくさん連れてうらやましいな。俺たちにも分けてくれよ」
「イッヒッヒ。ネーちゃんは全員俺たちが可愛がってやるよ」
「お前ら野郎2人に女はまだ早いんだよ。ママのおっぱいでもしゃぶってろ!」
いつも同じセリフでいい加減に学習してほしいところだが、毎回絡んでくる冒険者は別人なので学習のしようがない。仕方がないから俺が前に出ると、
「ここはエレナに任せて」
そう言ってエレナが俺の前に立つと、5人のオッサンたちと向かい合った。
「ああ? なんだこのションベン臭えガキは。お前はまだ女じゃないから、そこの男二人と家に帰れ」
そしてオッサンたちがシッシッと左手を振った次の瞬間、5人のその両腕が身体から切り離され10本の腕が宙を舞った。
「うぎゃーーーっ!」
「いてえーーーーっ!」
「ひーーーーっ!」
「た、助けてくれ!」
「こ、殺さないでくれ・・・」
周りに血しぶきを飛ばしながら、完全に腰が抜けたオッサンたちが床を這いつくばって逃げようとする。
周りでニヤニヤと見物していたギャラリーたちも、あっという間の惨劇に顔を真っ青にして怯えていた。そのギャラリーたちをエレナがギロリと睨みつける。
「こらエレナ! 何やってるんだ、やりすぎだっ!」
俺は慌てて地面に転がった腕をかき集めると、光魔法が使えるメンバー全員にキュアで腕をつなげるよう指示を出した。
措置が早く、一応は全員無事に腕がくっついたものの、ちゃんと動かせるようになるにはかなりリハビリが必要だろう。当分働けなくなった5人のオッサンたちは絶望し、うなだれるように冒険者ギルドをあとにした。
そしてさっきまで客でにぎわっていたギルド内の酒場には誰もいなくなり、飲みかけの酒や食べかけの料理、床には血だまりだけが残されていた。
完全なる営業妨害だった。
俺はエレナにやりすぎを注意すると、申し訳ないのでギルドの飲み屋で飯の注文をして、この後の作戦をみんなと相談することにした。
「さて、国王からの命令は帝国をメチャクチャにして暴れてこいということだ。ただこれだと漠然とし過ぎているので、具体的な目標を定めよう。友軍が戦いやすいように帝国軍を引っ掻きまわすのはどうだ」
「なるほど、面白そうだ」
「正体がバレないように隠密行動をしつつ、例えば補給基地を叩いたり港湾を破壊する。停泊中の軍艦を叩いてもいいし、敵の司令部を強襲してみるのもありだろう。そこは臨機応変に目標を切り替えていく」
「そのためには帝国内部に深く侵入していく必要があるな」
「ここは港町で海路が充実しています。まずは客船に乗り込んで船で移動しましょう」
次回、港町トガータから出港ですがその前に・・・
お楽しみに




