第227話 シリウス教国へ
「さてこれからシリウス教国に入国するけど、みんなには通信機の魔術具を渡しておく。これを使うには雷属性の魔力が必要なので、アルト王子、エリザベート王女、俺、フリュ、クレア、ルカの6名が持っておくことにする。この先、一時的に別行動をとるときは、観月さんとエレナは通信機を持っている誰かと行動を共にすること。ジューンはクレアと、3人娘は常に一緒に行動していれば問題はないだろう」
「通信機の魔術具・・・これは一体何に使うんだ」
「遠くにいる人と会話ができる魔術具です。ダイヤルで通信相手を設定してボタンを押すと、こちらの声が相手に届く。ボタンを離すと向こうの声が聞こえる。試しにちょっとやって見ますね」
「本当にそんなことができるのか・・・」
そして俺はダイヤルをクロリーネにセットし、通話ボタンを押した。
「クロリーネ、こちらアゾートだ。そちらの状況を教えてくれ」
「あっ! アゾート先輩だ! えっと各騎士団はポアソン領に向けて進軍を開始しています。ナタリーさんとわたくしディオーネ軍は既にポアソン領に入っていて、シャルタガール領との境界線に軍の展開を完了。今は友軍の到着を待ってます」
「了解。友軍の到着はあとどれぐらいだ」
「リーズ様の騎士団があと3日、それと学園長もボロンブラーク騎士団3000を率いてこちらに向かっています。あとダーシュ様もマーキュリー騎士団の一部1000騎を率いて、すでにシャルタガール領との境界沿いに展開してます」
「サルファーとダーシュが?」
「二人ともリーズ様にアピールしようと争っているのです。リーズ様をめぐる戦いは現在、クラスメイトのアイル様が一歩リードしてるので、二人ともここで巻き返しを図るのだと思います」
「・・・・リーズって、メチャクチャモテるんだな。それと、メルクリウスの未婚女性はどうなった?」
「わたくしからリシア様にお伝えしたら、リシア様がハリキって女の子たちを何人か連れて、既にマーキュリー領経由でフィッシャー領に入りました」
「早っ! 気合いが入りすぎだよ、リシアおばさん。えっと、俺たちはこれからシリウス教国に入国して、そこからブロマイン帝国に侵入する。今はクロリーネとかなり距離が近いので通信は明瞭だが、帝国に入ると多分そうもいかなくなる」
「今、シリウス教国にいるんですか?! すぐ近くにいらっしゃったのですね! 一度お会いしたかったですが、わかりました。メルクリウス軍のことはわたくしにおまかせくださいませ」
「クロリーネの知謀に期待してるよ」
「それから、イリーネ王女とスピアちゃんも、今ここにいるんですよ」
「え、なんで?」
「アゾート先輩の新勇者パーティーに入れてもらえなかったので、国王陛下に頼んでディオーネ軍に従軍する許可をもらったそうです」
「え! 俺の軍にその二人が入ったのか。本当に大丈夫なのか?」
「わたくしがついていますし、先輩に魔法を鍛えられたので、そこそこ戦えると思います。イリーネ王女がアルト王子と話をしたいそうなので、代わりますね」
俺はアルト王子に通信機を手渡す。
「アルトお兄様・・・イリーネです」
「イリーネ・・・まさかディオーネ軍に入るとはな」
「お兄様が意地悪をして新勇者パーティーに入れてくれなかったからです」
「意地悪ではなく、お前の魔法では帝国潜入は危険だと思ったからだ」
「お兄様だって似たようなものじゃないですか。敵と戦ったこともないくせに」
「それはそうなんだが僕は国王命令だし、エリザベート王女に遅れをとるわけにはいかなかったんだ。だがアゾートのおかげで凄い魔法を手に入れた。このダークマターがあれば、どんな敵にも負けない気がする」
「・・・お兄様ばっかりズルいです。スピアちゃんはどう思いますか?」
「ズルいに決まってます! わたくしもそっちのパーティーがよかった! アゾート先輩・・・わたくしにもその凄い魔法を下さい」
アルト王子は通信機を俺に返し、
「アゾート、この二人がうるさいから、そのうち固有魔法をあげてくれないか」
「ええ、あの二人なら構いませんよ」
俺は通信機を受け取ると、ボタンを押して向こうに話しかけた。
「三人とも頑張ってくれたら、固有魔法をあげるよ。それにクロリーネはその見た目からして、たぶんトールハンマーが使えるようになるはずだから、楽しみにしていてくれ」
「アゾート先輩、なぜわたくしがトールハンマーを使えるようになると分かるのですか」
「お前って、ものすごくセシルの妹っぽいからな」
「その言い方・・・わたくしって、そうなのですね。わかりました、メルクリウス軍のことはわたくしにお任せくださいませ。アゾート先輩もお気をつけて」
「ああ、頼んだぞクロリーネ」
そして俺は通信の魔術具を切った。
「という感じで、この魔術具は使います」
「これはすごいな・・・これが古代魔法文明ジオエルビムの魔導技術か」
「あそこの格納庫にある魔術具は、もはや古代技術なのか未来技術なのか微妙ですが、戦争は情報が命ですので、これがあればかなり有利に戦えるでしょう。ではシリウス教国に向けて出発しましょう」
「未来技術?」
ネオンがシリウス教国の修道服に着替えると、俺たちはエレベータに乗り込んだ。そして一番上の地上階のボタンを押すとエレベータはぐんぐんと上に上昇していった。そして地上階に着くと、エレベーターのドアが開いた。
エレベーターを出ると暗くて細い廊下がずっと先まで続いている。ライトニングの光を頼りにそこを進んでいくと、やがて突き当たりに扉が見えて来た。
「出口です。行ってみましょう」
扉を開けるとそこは小さな部屋になっていて、ジオエルビムの端末が設置されている。そこにパスワードを入力すると壁の質感がスッと消えて、壁を通り抜けられるようになった。
「俺について来て下さい」
俺たち全員が壁を通り抜けると、壁は自動的に元に戻る。だが、
「何だこの部屋は。こんなもの以前はなかったはず」
壁の向こう側は、ジオエルビムの建築様式とは明らかに異なる小部屋になっていた。そこに出口はなく、完全に行き止まりになっていた。
「ここからどうするか・・・」
壁の材質が石のようなので頑張れば破壊できるかもしれない。だが建物全体が崩れ落ちるとバリアーがもたず生き埋めになる可能性もある。
俺が周りを見渡してどうしようか悩んでいると、
「こっちが出口だよ」
ネオンがそう言って、床にある小さな突起物を押し込むと、その付近の岩が崩れて小さな穴が現れた。
「クレア、この穴は?」
「隠し通路だよ。私が先に行くからついて来て」
ネオンを先頭に一人ずつ中に入っていく。床を這いつくばいながらどんどん進んでいくと、やがて天井の高い部屋に出て来た。
「クレア、ここは?」
「シリウス教国の聖地にある大礼拝堂の神使徒テルル像の裏側よ。ようこそシリウス教国へ」
「そうか、教国にうまく潜入できたんだな!」
俺とネオンがガッチリ握手をする。穴から次々に出てきたみんなも、辺りをキョロキョロ見渡しながら俺たちの所に集まってきた。
「アゾート、ここは本当にシリウス教国なのか?」
「俺も初めて来たのでよくわからないけど、クレアがそう言っているので間違いないと思います」
「どうしてクレアがそんなこと知ってるんだ・・・」
アルト王子がネオンを怪しげに見ていると、俺たちの存在に気づいた神官たちがこちらにやってきた。
「君たちは何者だ! この神聖な礼拝堂で何を騒いでいる・・・あなたのその服、まさか枢機卿猊下?」
神官たちはネオンの修道服を見て見事に勘違いしている。それを見たネオンも調子に乗って、
「そう、見ての通りわたくしは枢機卿です。わたくしはこの信者たちを聖地に案内していたのですが、もうここの見学は終わったので教会に帰ります。あなたたち、早くそこを通しなさい」
「かしこまりました」
神官たちがすすっと両端に退いたかと思えば、床に膝をつけて神に祈りを捧げる。
俺たちはそんな神官たちの真ん中を堂々と通り抜けて、礼拝堂を後にした。
礼拝堂の外に出た俺は、そこに見る景色に懐かしさを感じた。昔、ジオエルビムの外に出たときに見た景色と重なったのだ。
【やっぱりここはかつてのジオエルビムだ。俺はここに来たことがある】
【安里君はこの聖地に来たことがあったんだ】
【最新の建物というのは、地下と地上をつなぐ唯一の通路で、日本国防軍はあの建物を占拠したあと、ジオエルビムの地下と地上を分断して、その両方と戦っていたんだ。観月さんは地下の部隊との戦闘が専門だったけど、俺はたまに地上部隊への参加を命じられることがあったんだ】
【じゃあ、遥か昔にここで戦っていたのね】
【ああ。しかしあの戦場が今は聖地になっているなんて、不思議なものだな】
「さあ安里君。懐かしがるのはそのぐらいにして、早く帝国に潜入しましょう。これからどうするの?」
「ここから帝国側の国境へ向かい、そこから帝国へ侵入する」
「それはいいんだけど国境はどうやって越えるの?」
「魔導障壁を一時的に消すんだ」
「え、安里君、あの障壁を消せるの?」
「え、クレアは消せるんじゃないのか?」
「私、消しかた知らないよ」
【何でだよ。お前、シリウス教国のトップの大聖女だろ。知らないわけないじゃないか】
【だからあの障壁は私がここにいた頃にはなかったんだって。だから消し方なんて知るわけないじゃない】
アゾートの雑な作戦に、ネオンが愕然とする
次回もお楽しみに




