第206話 王都アージェントの休日
叙勲式の翌日は休日だ。最近は週末ごとに領地に帰っては視察をしていたが、その時は決まってセレーネとクロリーネが一緒について来ていた。
だが今日はさすがに領地視察も休みにして、王都アージェントをのんびり観光することになったのだが、いつも一緒にいるフリュ達は遠慮して、俺はセレーネとクロリーネの3人だけで王都を回ることになった。
「リーズは俺たちと一緒に行かないのか?」
「私はいい。その代わり二人のことをよろしくお願いね、お兄様」
「じゃあリーズはどうするんだ?」
「ダーシュがどこかに連れて行ってくれるんだって」
「ダーシュとデートか。いつの間にそんな関係になったのやら」
「そんなんじゃないの。私はボロンブラーク婚活大戦に巻き込まれて色々と大変なんだから。私の婚約相手が誰がいいのか、お兄様はメルクリウス伯爵家の当主として、もっと真面目に考えてよね」
「だったらカインがいいのでは・・・」
「戦争になるから、それは絶対に嫌」
さて3人で行く王都の観光は、クロリーネの案内で貴族街からスタートすると、王都メインストリートの高級商店街でショッピングを楽しんだり、隠れた名店でのランチに舌鼓を打った。
「ねえ安里先輩。結局王様は私たちの正体を知ってしまった訳だけど、何か新たな指令とかなかったの? 『メルクリウス公爵よ、今すぐブロマイン帝国を討ってくれ』とか。それだったら私も協力してあげられるから」
「そういうのは特になかったな。ボルグ中佐の暗躍に対応するために俺はアージェント学園に転校した訳だけど、国王がこの作戦に乗ってきて、今度魔法協会に部屋をもらって宮廷貴族対応をすることになったぐらいだな」
「ふーん地味ね。それはいいけど、週末にはちゃんと帰って来られるんでしょうね」
「なるべく帰るようにするけど、時間は短くなるかもしれないな」
「えーーっ! 安里先輩があんなこと言ってるけど、どう思うクロリーネ」
「うーん、時間が短くなるのは嫌ですね。あ、だったらわたくしたちがその宮廷貴族対応のお手伝いをするというのはいかがでしょうか。わたくしたちの魔力があれば、週末にボロンブラークとアージェントの間を転移するぐらい可能ですし」
「それは良い考えね。私たち二人が美人秘書をやってあげるから、ありがたく思いなさい安里先輩」
「自分で美人秘書っていうなよ、セレーネ。まあ二人とも美人であることには違いないが」
「アゾート先輩! わ、わたくしも美人ですか?」
「クロリーネも美人だが、美人というよりは美少女、いや美幼女の方がより表現が正確か・・・」
「幼女って・・・せ、先輩のバカっ」
「す、すまん。正確な表現を追求するあまりつい」
「それ全然謝罪になってませんからね!」
「うっ・・・それよりもランチの後、どこか行きたいところはあるか、セレーネ」
「うーんそうね・・・。 それじゃあ、アージェント騎士学園を見てみたいんだけど、大丈夫かな?」
「たぶん大丈夫だと思うけど、ボロンブラーク校と違って校舎しかないし、見ても全然面白くないよ」
「いいの。今から見に行きましょうよ」
俺たちは再び貴族街に戻り、アージェント騎士学園の中へと入って行った。
「ふーん、ここがアージェント校か。グラウンドも訓練棟も何もないのね」
「そうなんだよ。この学校は宮廷貴族になるための学校だから、座学と社交しかないつまらないところなんだよ。何で騎士学園なんて名前がついてるんだろ」
「わたくし本当は、この学園に通わされるか家に引きこもるかのどちらかでしたが、ボロンブラーク校に入学できてよかったと思います。でもアゾート先輩がこちらに転校されてガッカリですけれど」
「そうなのよね。安里先輩が転校したからせっかくのボロンブラーク校もつまらないし、じゃあここに転校したいかというと何かつまらなそうだし。正直言って微妙よね」
セレーネとクロリーネがアージェント学園に対して微妙な反応を見せていると、後ろから声をかけてくる生徒がいた。
「メルクリウス伯爵! もう学園に戻られていたのですね。昨日の叙勲式とっても素敵でしたよ!」
振り返ると、スピカ嬢がイリーネ王女を連れてこちらに歩いてきていた。
「スピカとイリーネ王女は学校が休みなのに、教室棟で何をしているんだ」
「伯爵から教えていただいた魔法の特訓です。ねーっイリーネ王女・・・って、伯爵の後ろにいるその子はひょっとして」
「お久しぶりです、スピカちゃん」
「く、く、クロリーネ様・・・どうして、このアージェント学園にあなたが」
「わたくし、アゾート先輩にこのアージェント学園を案内していただいているところです。それよりもなぜスピカちゃんがアゾート先輩とそんなに親しげに話をされているのですか」
「アゾート先輩って・・・クロリーネ様こそメルクリウス伯爵とはどのような関係なのでしょうか」
「それは・・・そ、ソルレート侵攻作戦での戦友で、ボロンブラーク校の後輩で・・・あ、そうそう、魔法の弟子でございます」
「魔法の弟子・・・。そ、それならわたくしも、ここにいるイリーネ王女も、伯爵の弟子でございます」
「え、そうなのですかアゾート先輩。この子たちにも魔法を教えているのですか?」
クロリーネが不安そうな顔で俺を見るが、
「実はそうなんだ。アルト王子から頼まれて、放課後この二人に魔法を教えているんだよ」
「放課後・・・」
「クロリーネ様、あなたは放課後に教えてもらっていたのではないのですか」
「わたくしは、週末暇なときにたまに教えていただいただけございます・・・」
「あら? わたくしたちは放課後毎日のようにメルクリウス伯爵・・・いいえアゾート先輩から魔法を教えていただいております。ねえそうですよね、アゾート先輩?」
悔しそうなクロリーネを見て、勝ち誇ったような表情をするスピカと、二人の様子におろおろするイリーネ王女。
「二人ともケンカをしてはなりません。スピカちゃんも調子にのっているとまたクロリーネ様に泣かされてしまいますよ。ネオン様からも何かおっしゃってくださいませ」
「あの、私ネオンじゃありませんけど。ネオンの姉のセレーネですが」
「え!? ネオン様のお姉様ですか・・・とてもよく似てらっしゃいましたので間違えました」
「くっ・・・あのバカにそっくりと言われるとなんか死にたくなってくるけど、問題はそこじゃないわね。ねえアゾート、これは一体どういうことなの。また周りに女の子が増えてるじゃない。しかも二人も」
「セレーネ、これはそういうのとは違うんだよ」
「この状況をどう思う、クロリーネ?」
「・・・アゾート先輩はスピカちゃんばっかり贔屓にしてズルいです。わたくしにもスピカちゃんと同じだけ魔法を教えてください」
「同じだけってそんな無茶いうなよ」
「クロリーネ様は昨日王様から勲章をもらったから、もう十分でしょ。今度はわたくしがアゾート先輩に鍛えていただく順番です」
「スピカちゃんは黙ってて!」
「ひっ!」
「先輩・・・だったらわたくし、放課後毎日こちらに参りますので、わたくしにも魔法を教えてください。セレーネ会長、軍用転移陣の用意を」
「分かったわクロリーネ。今からアゾート部屋に行って、軍用転移陣を設置しに行きましょう! 私たちがいつでも好きな時に転移できるように。アゾート、今すぐあなたの部屋に案内してっ!」
「ひぇーーーーっ!」
次回、中立派宮廷貴族の焦り
ご期待ください




