第198話 秋の舞踏会(前編)
秋の舞踏会は前後編です
各学年の上位貴族の親睦を図るため、秋の舞踏会が今年も開催された。色とりどりのドレスを着た女子生徒たちがパートナーにエスコートされて、講堂に用意された舞踏会会場へと次々に入場していく。
私リーズはというと、生徒会役員として主催者側になってしまったため、会場の設営の手伝いやら何やらでずっと大忙しで、開会直前にようやくドレスに着替えて本番を待っている有り様であった。
なので私をエスコートしてくれたパートナーは、カインでもダーシュでもアイルでも、もちろんサルファーでもなく、私のマネージャー兼専用執事のニコラだった。
「ねえ、ニコラ。この前、期末テストが終わったばかりなのにもう秋の舞踏会って、この学園ってイベントばかりしてない?」
「例年もこの時期はこんな感じでしたが、今年は特別な事情があるんですよ、リーズたん」
「特別な事情って?」
「僕の生まれ故郷でもある旧ソルレート領の一件で、今年はこの学園の生徒からも何人か、王宮で行われる秋の叙勲式に出席しなければならないのです」
「あっ! それ私も出るの」
「でしょ。去年はアゾート様たちが秋の叙勲式に出席した際に、ちょうど学園のイベントと重なってしまって、追試やらなにやら色々な支障が出たのです。それを問題視したセレーネ会長が学園側と協議して、今年のカリキュラムを一部修正してしまったのです」
「カリキュラムの修正を? セレン姉様すごっ」
「だから秋の叙勲式前後は学園は長期休暇に入ることになって、期末テストなどの秋のイベントがその前後に無理やり振り分けた結果、こんな過密スケジュールになってしまったのです」
「だからかぁ、何か忙しいと思ったのよ」
セレン姉様の開会の挨拶により、今年も無事秋の舞踏会がスタートした。
一曲目はそれぞれのパートナーを相手にダンスが始まった。カレン様は相変わらずカインをパートナーにしており、3人組もそれぞれサルファー、ダーシュ、アイルをパートナーにできたようだ。この4人はとても満足そうな顔をしている。
クロリーネ様は3年生のアントニオとダンスを踊っている。たしかシュトレイマン派連合軍で共に肩を並べた戦友らしい。お稲荷姉妹や地味子は私の親衛隊たちとダンスを踊っている。モナ様たちも同様だ。
あと私が知っている顔では、パーラ様は相変わらずダンを連れ出してパートナーにしているし、ユーリ先輩の婚約者のアレンは、その姉のサーシャ先輩とダンスしている。
「ねえニコラ。セレン姉様とアネット先輩はダンスを踊らずにあそこで何をしているの?」
「あれは、リーズたんとダンスを踊りたい男子生徒の希望を募るための事務局だよ。みんなの性癖をヒアリングして、リーズたんとダンスをすべきか、はたまた他のアイドルを紹介すべきか、仕訳をしているんだよ。ちなみに今ダンスを踊っている男子生徒はすでにエントリー済みだ」
「うそっ! それってかなりの人数になるじゃない。どう考えても時間内に相手できる人数じゃないよ」
「だから仕訳をしているんだよ。リーズたんと踊れるのはノーマル性癖のドMのみ。それ以外のドMは他の女子生徒が相手をする」
「例えば?」
「身体を痛めつけてほしい系のドMはアネットが、愚かな自分を厳しく指導してもらいたい系のドMはサーシャが、言葉で罵ってもらいたい系のドMはクロリーネ様が、火で焼かれたい系のドMはセレーネ会長が、深淵の闇に葬り去られたい系のドMはパーラがそれぞれ担当する」
「・・・ツッコミどころが満載過ぎて話が長くなりそうだから、要点だけいくつかツッこんでもいい?」
「はいどうぞ、リーズたん」
「まず性癖で分類するのはやめて。その上で2つ質問があるけど、なぜ男子生徒は全員ドMというのが前提になってるの! あとパートナーになる女性に一人、生徒会役員じゃない人が混じってるのは何で!」
「さすがはリーズたん、とてもいい質問ですね。まず最初の質問だが、アイドルファンは全員ドM」
「決めつけが凄い・・・いろいろと論争を巻き起こしそうなので、発言には気を付けてねニコラ」
「もちろん。そしてクロリーネ様は、生徒会専属アイドル第2号になりました」
「ドM発言の私のフォローは完全に無視して、クロリーネ様に話題が移った。しかも・・・えっ2号?!」
「ええ、先日の期末テストの優勝ライブで素晴らしいパフォーマンスを魅せたクロリーネ様にファンが殺到し、晴れて生徒会のアイドルとして認定されました。本人も既に了承済みです」
「うそ・・・」
「アゾート様が以前、口を酸っぱくして力説されていたツンデレの魅力、この僕も含めて遅まきながらこの学園にも理解者が誕生したようです」
「ツンデレの魅力が理解され始めている・・・」
「一曲目のダンスも終わりましたので、セレーネ会長の元へ参りましょう。次のダンスパートナーが決まっているはずです」
「まさか、最初のパートナーがサルファーとは」
「学園長権限で一番最初にしてもらったんだ。そんなにガッカリすることないじゃないか、リーズ」
「だって恋愛脳のサルファーだし」
「せっかくの機会だから、リーズには僕の気持ちを知っておいてもらいたい。正直に言うと僕は今でもセレーネの事を引きずっているが、キッパリと諦めたのも事実なんだ」
「ふーん、サルファーにしてはサッパリした考えね」
「ああ。僕も次期伯爵だし、そろそろ身を固めないといけない。一族を繁栄させるのは当主の責務だからな」
「だから適当な女の子を見繕って、さっさと結婚しようと思ったわけね」
「それは違うんだ。責務だから結婚するのはその通りだが、だからと言って僕のこの性格は変わらない。つまり結婚相手を恋愛対象としてみてしまうんだ」
「お兄様を見てるとそれが普通に思ってたけど、貴族の常識では変な話よね」
「そういう意味では僕とアゾートはそっくりなんだが、改めて女性を恋愛対象として見た場合、僕はどうやらメルクリウス一族にしか興味がわかないようだ」
「メルクリウス一族にしか興味がわかないって・・・えぇっ!」
「セレーネから一度離れて、冷静になってこの学園の女の子たちを見てみたんだ。するとリーズ、君にしかトキメキを感じないことがわかったんだ」
「それ、私がセレン姉様に似てるからじゃないの?」
「それを言ったらネオンの方がずっと似てるが、ネオンには何も感じないんだ。だからこれはセレーネとは違うリーズだから感じる気持ちなんだ。それを理解してほしかったんだ」
「私だけに感じるトキメキ」
「そうだ、もし僕と結婚してくれれば、僕は一生君を愛するだろうし、他に側室が何人できようとも君を一番大切にする」
「サルファー・・・」
「そろそろ次のパートナーに交代する時間だが、今日は君に僕の気持ちを伝えられてよかったよ」
「サルファーの次はアイルか」
「俺だから気楽でいいだろ」
「うーん、そうでもない。アイルとは毎日一緒にいるのに、こうしてダンスを踊ると少しドキドキするね」
「そうか。・・・リーズはさっき学園長とダンスをしていたけど、どんな話をしてたんだ?」
「結婚を申し込まれた」
「えっ!!」
「一生愛するし大切にするから結婚してほしいって」
「くそっ・・・そうか、わかった。じゃあ俺もリーズに結婚を申し込むよ」
「え、ちょっと待って、それはマズイの」
「どうしてだ」
「そ、それは(メリア様のことは絶対に言えないし、困ったな)」
「俺は学園長やダーシュと違って、次期当主ではないからか?」
「え、そんなこと考えたことなかったけど」
「そうか。もし次期当主にこだわっていないのなら、俺のことを少しアピールさせてくれ。実は俺の立場は気楽なんだよ」
「気楽なの?」
「ああ、当主は長男が次ぐことになっていて、次男のアレンや三男の俺は、それぞれ別の領地をもらうことになってるんだ。それで、長男の婚約者はサーシャだし、次男の婚約者はユーリ。みんな学園の顔馴染みだから、人間関係も心配はいらないよ」
「え、サーシャ先輩もそうなんだ」
「ああ、ベッセル子爵家はうちの家臣団の筆頭で魔力の強い名門貴族だから、両家の兄弟姉妹がそのままくっつくことがあるんだよ」
「へえー、でも確かにその二人が兄嫁なら安心だし、アイルの言ったとおり気楽な人生が送れそうね」
「だろ。そろそろ次の人に交代だから俺は行くけど、俺との将来をよく考えておいてほしい」
「あ、待って! ・・・行っちゃった」
次回、後編です