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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第1章 アージェント学園の転校生
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第197話 アゾートの魔法教室

 先日の舞踏会で約束したこともあり、スピア・ティアローガン侯爵家令嬢に魔法を教えるため、俺は放課後の1年生の教室に向かった。


 ついでにマールとユーリにも魔法を教えるため2人も教室に連れていこうとすると、フリュとネオンもついてきて結局いつもの5人になってしまった。


 1階上にある同じ作りの1年生の教室に入ると、そこにはスピアの他にもう一人女子生徒が待っていた。イリーネ・アージェント王女だ。


「あの・・・メルクリウス伯爵。わたくしも魔法を教わりたいのですが同席してもよろしいでしょうか?」


 イリーネが少しオドオドした様子で俺に尋ねるが、


「スピア様からは話を伺ってまし、アルト王子からもイリーネ王女とそのご親友のスピア様のお二人をよろしく頼むと仰せつかっています。一緒に魔法の勉強を致しましょう」


「まあ、お兄様からも! ありがとう存じます」


「メルクリウス伯爵、今日からわたくしとイリーネ王女は弟子ということになりますので、そんな堅苦しい話し方はやめて、わたくしのことはスピアとお呼びくださいませ」


「わかった。じゃあそうさせてもらうよ、スピア」


「はい、メルクリウス伯爵」


「それから、ここにいるのは俺と同じメルクリウス一族のネオンだ。今日はこいつも魔法の先生として連れてきたので、よろしく頼む」


「ネオンです。アゾートの分身であり婚約者よ」


「・・・イリーネです・・・」


「スピア・ティアローガンです。以後よろしくお願いいたします」


 イリーネはオドオドとした目でネオンのことを見ているが、ネオンの赤い目に興味はあるものの、何を話しかけていいのかとまどっているようだ。あとで2人を組ませてやるか。






 俺が教壇に立ち、みんなは一番前の席に座る。真正面の席にスピアとイリーネ王女となぜかフリュ。その右隣の席にユーリ、マール、そしてネオンの順番に座っている。


「おいネオン、お前は教壇に立って俺と一緒に教える側になれよ」


「私はこっちでマールに光属性魔法を教えてるから、そっちはそっちで勝手にやってていいよ」


「なるほど光属性魔法か、お前それ得意だったよな。じゃあマールのことはよろしく頼むよ」


 するとユーリが釈然としない表情で俺に聞いた。


「なんでネオンが光属性魔法が得意で、魔法協会特別研究員のマールに魔法を教えることになるのよ」


「なんでって・・・それはその。ネオンなんか理由を言えよ」


「えぇぇぇ・・・あっそうだ、私はクレアに詳しくなりすぎたあまり、勢い余って光属性魔法と闇属性魔法にも詳しくなったのよ。なんでも聞いて!」


「クスクス。そういえばネオンってクレア様だったわね。でも残念ね、私にはどっちの属性も適性がないから、ネオンから教えてもらうことはできないわね」


「あら! でしたらわたくしに闇魔法を教えてくださいませ、クレア様!」


 フリュが目を輝かせてネオンを見つめている。フリュは前世から大聖女クレアに心酔していたし、フリュのこの反応はとても懐かしいものがある。だがフリュは自分の魔法をこれ以上強くして、一体何を目指しているんだろうか。


 そんなフリュにネオンは淡々と、


「いいよ。後で教えてあげるね」


「ありがとう存じます、クレア様っ!」


 しかし、フリュのあまりのハイテンションぶりに、イリーネ王女とスピアがドン引きしている。


「どうしてフリュオリーネ様はネオン様のことをクレア様と呼んで、魔法の先生になってもらおうとするのでしょうか。ネオン様の方がお強いのですか?」


 スピアが色々と聞いてくるが、ダメだ・・・隠し事が多すぎて、誰に何をどこまで喋っていいのか混乱してきた。


「うーん、さっきネオンが言ったとおり、クレア様に詳しいから・・・かな?」


「・・・・・」


「スピアちゃん、そんなことどうでもいいよ。それより早くメルクリウス伯爵に魔法を習いましょう」


「・・・そ、そうね。ではメルクリウス伯爵、改めましてよろしくお願いします」






 なぜか最初にもたついてしまったが、ようやく魔法の授業を開始できる。


「さて魔法を発動する際に重要な三大要素は、詠唱、イメージ、魔方陣だが、魔法の威力を高めるには詠唱を改善するのが最も効率的だ。これからスピアとイリーネ王女には2人に共通の火属性魔法を、フリュとユーリには同じく共通の風属性魔法を試してもらう。今から詠唱するのは火属性中級魔法フレアーだが、まずは詠唱を聞いてほしい」



【地の底より召還されし炎龍よ。暗黒の闇を照らし出す熱き溶岩流を母に持ち、1万年の時を経て育まれしその煉獄の業火をもって、この世の全てを焼き尽くせ。 天空の覇者太陽神よ。無限の炎と輝きを生み出せしその根元を、我が眼前に生じせしめ全ての力を解放し、この大地に永遠の滅びをもたらさん】



「この呪文は前半が初級魔法ファイアーと共通になっていて、後半がフレアー独自のものだ。これを今みたいに正しい発音で詠唱すると魔法本来の威力を100%発揮できるが、発音が悪いと威力がどんどん下がる」


「はい、先生!」


「なんだいスピア」


「学園の魔法の授業で教わる詠唱とは似ているようでどこか違いますが、学園の授業が間違っているのでしょうか」


「この呪文は古代魔法文明が作り出したものとされており、現在まで受け継がれていく中で、長い年月のうちに正しく伝わらなかった部分がだんだんと増えてきたんだ。ちなみに学園の詠唱だと本来の10%程度の威力しか見込めない」


「そんなに・・・・では、メルクリウス伯爵は通常の10倍の威力の魔法を放てると言うことですか」


「そうだ。ただこの詠唱にはもう一つの使い道があって、一部だけを切り取って正しく詠唱しても魔法が発動するということだ。例えば」



【煉獄の業火 無限の炎】



「というように、前半と後半からワンフレーズずつ取り出して詠唱しても、10%程度の威力の魔法が発動する。それでもみんなが使う魔法と同じ威力がでるから、周りからは高速詠唱しているように見える」


「へぇ、そういうことだったんだ」


「わかったようだな、ユーリ。じゃあ、風属性中級魔法ウインドカッターで試してみるか? 前に一度教えたと思うがこんな呪文だ」



【母なる地球を包み込む薄いベールのような大気は、主に窒素と酸素で構成されている。そこにアルゴンなどの希ガスが若干含まれるが、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素の量は、空気全体の割合で見れば驚くほど小さい。逆に言えばほんのわずかな量でも、温室効果が得られてしまう物質であることがわかるだろう】



「このように、ウインドカッターの呪文は3つの文から成り立っており、」


「ごめんなさいアゾート。その詠唱が何言ってるのか全くわからないから、どこからどこまでが1文なのかもわからないのよ」


「そういや、普通はわからないよな。うーん、だったら【薄いベール 地球温暖化 温室効果】と各文からワンフレーズずつ抜き出してあげたから、これで詠唱すれば15%ぐらいの威力は出ると思うよ。やったことないから知らんけど」


「メルクリウス伯爵は、自分が使ったことのない魔法なのに、どうしてそこまで正確にわかるのですか?」


「まあ、属性魔法は基本的に同じ理屈でできてるからな。じゃあ俺が詠唱をするから、同じように発音できるまで練習だ」







「さて、かなり発音がよくなってきたので、試し撃ちしてみよう。じゃあイリーネ王女、ここでフレアーを高速詠唱してみてくれ」


「はい、わかりました」



 【煉獄の業火 無限の炎】フレアー



 ポフッ


「・・・・・」


「成功だ」


「え! これで成功なのですか?」


「ああ、成功だ。この学園ではそもそも魔法が発動する瞬間にキャンセルアウトされる。今のかき消され方は威力3%ぐらいだな。高速詠唱としては30点だが、発動したことが素晴らしいので成功とする」


「すごーい、イリーネ王女」


「ありがとう。スピアちゃんもやってみて!」



 【煉獄の業火 無限の炎】フレアー



 プスッ



「成功だ。2%ぐらいかな」


「イリーネ王女に負けました~」


「わぁ、スピアちゃんに勝った~」


「ではわたくしも」



 【薄いベール 地球温暖化 温室効果】ウィンドカッター



 ドゴーン!



「・・・すごいな、理論通りに約15%出ているが、フリュの場合は元の魔力がすごいから30%相当の威力になっている。もちろん成功だ」


「さ、さすが氷の女王様」


「スピアちゃん、わたくしたちまだまだ練習が必要だから頑張ろうね」


「さあ、最後はユーリだ。思い切りやってみろ」


「・・・・・」


「とうしたユーリ、みんな待ってるぞ」


「全員成功させた後で、私にさせないでよっ!」






「さて今日の講義は終わったので、後は自由に練習してくれて構わないが・・・ネオン」


「何、アゾート?」


「今度はイリーネ王女の面倒もみてやってくれ。ネオンと仲良くしたいそうだ」


「へぇそうなの? いいよ、こっちにおいでイリーネ王女」


「わたくし、いいのかな?」


「ネオンはイリーネ王女が欲しがっていた、赤い目の仲間だ。仲良くしてくれるよ」


「はい・・・ネオン様、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、仲良くしましょうね」


「はい! スピアちゃんはどうする?」


「わたくしはメルクリウス伯爵に教わろうかな」


「わかった、じゃああとでね」





 フリュも闇魔法を教わるためにネオンの方に行ったため、ユーリとスピアだけがここに残った。ユーリはマイペースに練習しているが、スピアはすごく熱心だ。


「スピアはどうしてそんなに魔法に熱心なんだ。魔法に興味があるなら、アージェント校ではなくボロンブラーク校に入ればよかったじゃないか」


「王族はアージェント校に入学する決まりですので、他の2校にはまず行きません。今そこに通われている王族は氷の女王様を除くと、わたくしをイジメていた幼馴染みだけです」


「え、スピアの幼馴染みってまさか」


「はい、クロリーネ・ジルバリンク侯爵令嬢です。わたくし彼女にどうしても勝ちたいのですが、いざ彼女に面と向かうと怖くて足がすくむのです」


「クロリーネが怖いだって?」


「はい。子供のころはいつもケンカしてはわたくしを負かせておりましたし、2度も婚約破棄されたことがショックで最近は家で大人しくされていましたのに、知らないうちにボロンブラーク校に入学して、なぜかシュトレイマン派連合軍を率いてソルレート領に攻め込んでいるのです。やってることがメチャクチャです」


「うっ・・・それは」


「メルクリウス伯爵はソルレートで共に戦われていたとお聞きしますし、学園では数ヶ月でしたがご一緒されていたのでしょう。クロリーネ様はどのようにされてましたか? やはり学園では恐れられていましたか?」


「いや、学園では楽しそうにしていたぞ」


「そう言えばアゾートは毎朝、女子寮までクロリーネを迎えに行って、手を繋いで学校に通っていたよね。なんで?」


「バカ、ユーリ。なんでそんなことを今聞くんだよ」


「だってこんなこと、フリュオリーネ様の前じゃ聞きにくいでしょ」




「毎朝手をつないで登校をっ! メルクリウス伯爵はどうしてクロリーネと仲がおよろしいのですか?」


「それは・・・(まずい、アルゴとの婚約の件はまだ伏せておくように言われているし)」


「メルクリウス伯爵?」


「ま、魔法協会会長のジルバリンク侯爵から直々に、クロリーネの面倒を見るように頼まれた。学園生活とか彼女の悩みごとを聞くようにと・・・(ウソは言ってないよな)」


「ジルバリンク侯爵から! であればクロリーネにも魔法も教えてあげたのですか!」


「あ、ああ。それもクロリーネの相談事に入っていたからな」


「・・・わたくしにももっと魔法を教えてください。魔法協会会長が自分の娘だけ特別扱いして、特別研究員であるメルクリウス伯爵を独占して魔法を教えさせるのは公平性に欠けますので。クロリーネとは同じシュトレイマン派ですし、派閥の違いも関係ございませんよね」


「うっ・・・そう言われると断りにくいな」


「よかった! ではわたくしがクロリーネに勝てるまで、よろしくお願いします」


「えぇぇ・・・しょうがないな。クロリーネに勝つのは正直難しいと思うけど、同じ侯爵令嬢だしそこそこのレベルになるまでは教えてやるよ」


「やった!」




 しかし、この時の安請け合いが、この後とてもめんどくさいことに発展していくのだった。

次回は、ボロンブラークの秋の舞踏会です


ご期待ください

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― 新着の感想 ―
[良い点] 200話おめでとうございます。 [気になる点] いきなり魔法の講義に入ってますが、ユーリとマールは舞踏大会の際に記載は無いですが、挨拶してたと推測はできますが、クリプトンの娘たちと外してい…
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