第196話 ボロンブラーク校の期末テスト⑥
期末テストは今回で最終回です
めっちゃ長くなってしまった・・・
期末テスト最終日(大会3日目)、1年生女子決勝がいよいよスタートする。
オッズどおりアウレウス派令嬢チームVSシュトレイマン派令嬢チームの戦いになったが、リーダー以外は既に脱落したため、試合は私とクロリーネ様の一騎打ちである。
なお昨日2回目の人気投票が行われたが、この試合に影響するために得票数は伏せられている。
私が25P以上得票が上回れば、この試合の勝敗に関わらず私が優勝。逆に、クロリーネ様が17P以上得票が上回れば、私がこの試合をどれだけ頑張ろうと優勝はクロリーネ様のものになるからだ。
さて観客席の方はと言うと、この3日間でも最高の盛り上がりを見せている。というのも、アウレウス派とシュトレイマン派という宿命の派閥対決という構造の他に、1年生女子トップ3の人気と実力を誇る2人の一騎打ちの行方を見届けようとするファンたちの熱気がものすごいのだ。
そして私たちがコートの自陣に着いたのを確認し、審判が号令をかけた。
「試合、始めっ!」
リーズ様と剣を交えながら、わたくしクロリーネはある種の感慨に耽っていました。
とうとうここまでたどり着いたのです。リーズ様との直接対決の舞台に。そしてこのわたくしがこれだけの観衆の前で、多くの声援を受けながら戦う日が来るなんて、去年の今頃は想像もしていませんでした。
わたくしはシュトレイマン派の王族として生まれ、同じ王族分家の殿方と2回婚約をし、それを2回とも破棄されるという不名誉を受けてしまいました。
そしてそのことが王都社交界に知れ渡ってしまい、家門の名誉のためにアージェント騎士学園に入学することもできず、このまま一生家に閉じこもっているつもりでいました。
ところが今年に入って突然メルクリウス家に嫁ぐことが決まり、このボロンブラーク校に入学することになったのですが、それを裏から支えていただいたのがアゾート先輩でした。
婚約者のアルゴ様との仲がうまく行かないときも、フレイヤーに乗せてくれてわたくしの意識を根本から変えてくださったし、学園では毎朝一緒に登校してくたさったり、魔法の使い方も特別に教えていただきました。
その甲斐あってか、ソルレート侵攻作戦では主戦力としてアゾート様をお助けすることができ、シュトレイマン派連合軍の指揮官にまで抜擢していただきました。一生引きこもる覚悟をしたこのわたくしが、まさかこのような表舞台に立つことになるなんて。
そしてつい先日、シリウス教国の国境を訪れた際にアゾート先輩から聞かされた重大な真実。アゾート様が異世界からの転生者であり、建国の英雄・初代メルクリウス公爵の生まれ変わりであるということを聞かされた時は本当にびっくりしました。でも同時にその事実がすっと自分の中に受け入れられたことにも驚きました。
だってそうでしょ。今まで先輩が行ってきたことを考えると、むしろ転生者でない方がおかしいし、ソルレート戦で見せたあの雄姿は、もはや建国の英雄と重ねてみることしかできません。
・・・そしてこの事実を知っているのが、同じく建国時代からの生まれ変わりであるセレーネ様、ネオン様、フリュオリーネ様の他は、婚約者のマール様とこのわたくししかいないのです。リーズ様を含めた他のご家族は、まだこのことを知らないのです。
アゾート先輩はそれだけわたくしのことを信頼して下さっているのです。ならわたくしはその信頼に応えるべく、このトーナメント程度を制覇できなくてどうするのですか。
そして都合のいいことに、初戦のネオン親衛隊1年生支部も昨日の魔女っ娘シスターズも、どちらもアウレウス派の精鋭ぞろいでした。そしてこの決勝戦こそアウレウス派の新星・メルクリウス伯爵家本家令嬢、リーズ様との一騎打ち!
王国の慣例を破ってアウレウス派に嫁ぐことになったこのわたくしが、メルクリウス家の嫁として世間に認めさせるためには格好の舞台。
わたくしはこの戦いに必ず勝利しますので、見てていてくださいアゾート先輩。
わたくしはあなたをお慕い申し上げておりますっ!
最初から激しい魔法の撃ち合いになったこの試合、観客席は総立ちになって応援を繰り広げていた。それはそうだろう。私もクロリーネ様も超高速知覚解放で自らをクロックアップさせて、他の騎士団では見ることのできないサー少佐流の格闘術を組み入れた剣技で激しく打ち合いつつ、互いに高速詠唱で強力な魔法を惜しげもなくぶっ放しているのだ。
一瞬の隙が命取りの、小細工抜きの真剣勝負。これほどド派手な戦いはそう見れるものではないだろう。私だって観客席にいればみんなと一緒にこの試合を面白おかしく観戦しているところだが、何が悲しいのか今戦っているのはこの私自身なのだ。
ヒーーーーッ!
き、きつい。だ、誰かこの試合を代わって。
最初からわかっていた。クロリーネ様は本当に強いのだ。魔法もさることながら、剣撃も一振り一振りがとても重い。だから私はまともに受けずにフィッシャー流剣技で反撃をするのだが、なぜかクロリーネ様にはまともにダメージを入れられないのだ。
ていうか今日のクロリーネ様って、これまでで一番強くない?
私がこれだけ全力で戦っているのに、クロリーネ様は常に私の一歩上を行き、しかもその表情は余裕だ。いや微かにほほ笑んでいる? クロリーネ様ってそんなバトルジャンキーだったっけ。
クロリーネ様の髪色がハッキリとしたピンク色になり、目も大きく見開いて金色に輝いている。絶好調時のそんなクロリーネ様が、なぜか頬を赤く染めて恍惚の表情をしながら激しく私に打ち込んでくる。そしてその目は私を見ているようで見ていない。明らかに他の誰かを見ている。
あの表情とあの目・・・恋愛音痴の私でもわかる。
あれは恋する乙女の顔だ。そして私を通して見ているその恋のお相手は・・・お兄様だ。
クロリーネ様は、お兄様に勝利を捧げるためにこの私を生贄にしようとしているのだ。
ヒーーーーーーッ!
・・・強い、さすがはリーズ様。アゾート先輩の妹だけのことはあるわね。
わたくしがこれだけ全力で戦っているのに、全く倒せる気がしない。それどころか試合中にもどんどん強くなっているじゃない。こうなったら戦いが長引く前に、ここで一気に勝負にでましょう。
これがわたくしの全力だーーーーーっ!
クロリーネ様の魔力が上がった! 黄金のオーラが闘技場の天井まで立ち上るとまたクロリーネ様へと戻っていき、体内の魔力量が膨れ上がった。クロリーネ様はここで決着をつける気なんだ。
だったら私もここで決めるっ! 私の全力を見せてあげるわ!
うぉーーーーーーっ!
観客席には先に試合の終わった他の学年の生徒たちも見学に訪れていた。そこで彼らはとんでもない試合を見せられることになる。金色と赤のオーラをまとった二人の女子生徒が、目にも止まらないスピードで何度も交錯しあい、そのたびに発生する強烈なスタン波が観客席の生徒たちを巻き込んで暴走を始めていたのだ。
どんな戦いを繰り広げているのかが速すぎて全く見えない。ただ激突音と衝撃波のみが、その戦いの激しさを物語っているだけなのだ。
「すげー・・・何なんだこの2人の戦いは」
「本当に1年生女子の戦いなのか・・・レベルが違いすぎる」
「3年生でもこんなのには勝てないよ・・・セレーネ会長以外は」
だがその激戦がいつまでも続くはずもなく、試合は突然の終わりを迎えた。気が付くと轟音と衝撃波が止んでコートの中央にはリーズが力尽きて倒れていたのだ。その傍らではクロリーネが肩で息をしながらそのリーズを見下ろしている。
「試合が・・・終わったのか?」
「勝ったのは・・・やはりクロリーネか」
慌てて審判が駆け寄って二人の状態を確認し、そしてクロリーネに軍配を上げた。
「勝者、シュトレイマン派令嬢チーム!」
うおぉーーーーーっ!
観客席は総立ちになり、この激闘を戦い抜いた2人に熱いスタンディングオベーションを与えた。
「私、負けたのか・・・」
クロリーネ様に手を貸してもらってコートの中央にへたり込んだ私の隣に、クロリーネ様が座った。
「お疲れ・・・リーズ様。わたくしなんとかあなたに勝つことができました」
「えへへ・・・やっぱりクロリーネ様には敵いませんでしたね」
「そんなことありません。さすがはアゾート先輩の妹様、わたくしももうダメかと思うシーンが何度もございましたが、最後にギリギリ勝つことができました」
「そ、そうだった? 私なんか全然勝てる気がしなかったけど・・・でも終わって見ればいい試合だったかも知れないね」
「ええ。それにまだ優勝者の発表はこれからでしょ」
「すっかり忘れてた。優勝者はこの後のアイドルPの発表で決まるんだった」
そして場内の掲示板には、昨日パフォーマンスへの投票を含めた最終結果が表示された。
勝利P
Aチーム:30
Bチーム:20
Cチーム:50
Lチーム:20
アイドルP(1回目)
Aチーム:24
Bチーム:40
Cチーム:28
Lチーム:4
アイドルP(2回目)
Aチーム:62
Cチーム:34
総合P
Aチーム:116
Bチーム:60
Cチーム:112
Lチーム:24
「かっ・・・勝ったーっ!」
試合には負けたけれど、アイドルPで逆転した。総合Pがわずか4点差で私たちの勝利だ!
私は模擬剣で身体を支えて立ち上がると、観客席に向かって手を振った。すると私を応援してくれていたファンが大歓声で喜んでくれた。スタンドには3人組もいて、私に笑顔で手を振ってくれている。
みんなの婚活のために、私頑張ったよ!
すると突然、歓声が一段と大きくなった。隣を見るといつの間にかクロリーネ様も立ち上がって、観客席に手を振っていた。いつもはそんなことしないクロリーネ様なのに、今日は上機嫌でとても楽しそうにしていた。
「優勝おめでとうリーズ様」
「ありがとう、クロリーネ様・・・試合には負けちゃったけど、一応これがルールだから」
「あら、別に気にしてませんわ。わたくしは別に優勝を狙っていたわけではございませんので」
「え、そうなの? じゃあなんでさっきの試合、あんなに必死に戦っていたの?」
「そ、それは・・・あの、その、えっと」
そうだった。
戦いの中で見せたあの恍惚の表情。クロリーネ様はお兄様に勝利を捧げたかっただけなのだ。
「あ、別に理由は言わなくていいです。ていうか、クロリーネ様ののろけ話は、今は聞きたくないかな」
「のろけ! な、な、な、何をっ! 勘違いなさらないでくださいリーズ様っ。別にアゾート先輩のことをお慕い申し上げているから頑張ったわけでは決してございません。ええ、そうですとも、先輩に教えていただいた剣技や高速詠唱でわたくしがどれだけ成長したか先輩に知ってもらいかったとか、大切な秘密を教えていただいた先輩の信頼に応えるために先輩のお力になれる実力が私にもあることを見ていただきたかったとか、そしてあわよくば、このわたくしの身も心も先輩に受け入れてもらいたいとか、そんなことを1秒たりとも考えたことございませんからね。ふんっ」
クロリーネ様は顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら、私が聞いてもいないことまでべらべらと全て教えてくれた。そして勝手に怒って向こうを向いてしまったが、耳が真っ赤なのがとてもかわいい。
はっ! これがツンデレか。
この素直になれないツンツンした態度と、どうやっても隠し切れないデレデレの感情。
あわせてツンデレ。
この概念を考えた出したお兄様は、まさに天才じゃないのか。魔法協会特別研究員の次は、言語学者でも目指しているのだろうか、あの人は。
そんなどうでもいいことを考えていたらステージに生徒会のメンバーが現れ、私とクロリーネ様にステージに上がるよう指示した。表彰式だ。
そして二コラマネージャーが私たちに向かってにこやかに言った。
「2人ともお疲れ様、そしてリーズたん優勝おめでとう。それでは優勝者のリーズたんと、トーナメント1位のクロリーネ様のお二人には、表彰式の後このステージでパフォーマンスを披露していただきます」
「え、パフォーマンス? そんなの聞いてないんですけど。もうアイドルPなんか必要ないし」
「もちろん、僕が今決めたことだから聞いてないのは当然です」
「えぇぇぇ、もう疲れたから歌もダンスも無理だよ」
「リーズたんはこの観客席のみんなを見ても、まだそんなことが言えるのか」
「観客席?」
そこにはリーズコールとクロリーネコールが交互に鳴り響く熱狂が渦巻いていた。掲げられた横断幕には「リーズ親衛隊」の文字や、いつのまにか配布されていた私の似顔絵入りのうちわを持ったファンがウエーブを作って声援を送っている。
うえぇぇぇぇ・・・・。
でも観客席には、「クロリーネ女王様近衛隊」なる横断幕も登場しており、互いのファン同士がどちらの応援が熱心かを競い合っているようにも見えた。
ふと隣を見ると、クロリーネ様もその横断幕の登場に気が付いて、顔を青ざめて焦りまくっていた。
「わかったかい、リーズたん、クロリーネ様。ファンはもう待ちくたびれている。どうやら表彰式よりもさきに歌とダンスをご所望のようだ。さあ、二人ともステージ衣装に着替えてきなさい、早く!」
「「ヒーーーーッ!」」
次回はアージェント学園です
・・・リーズ編が長くてすっかり忘れられてそうですが、こちらもありますのでよろしくお願いします