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第2話 俺だけが気づいた、この世界の魔法の秘密


「部活も決まったし、少し早いけど入寮の手続きに行こうか」


 ボロンブラーク騎士学園には男女別の学生寮が併設されており、これから入寮手続きが必要なのだ。


 この学生寮は、研究棟や訓練棟からなる学園施設とは森を挟んだ反対側、歩いて10分ほどの場所にある。




 俺たちは学生寮までの森の中をのんびりと歩いていると、後ろから俺たちに向けて大きな声がした。


「おい待てよ、おまえら」


 振り返ると、先ほど食堂で絡んできたハーディンが取り巻きを引き連れ待ち構えていた。全部で男子生徒6人か。


「お前たち、あのままで済むと思ったのか」


 ハーディンがそういうと魔法の杖を構え、取り巻きの男子生徒5人もニヤニヤと笑みを浮かべながら、模擬剣を抜いて俺たちを取り囲んだ。


「ここだと他の邪魔になるから付いてこい」


 どうやらコイツらは、意地でも俺たちを傷めつけたいらしい。


 ここで逃げてもいつまでも付きまとわれるだけだし、マールを守りつつ戦うしかないか。


「わかった」


 俺たちはハーディンたちに連れられて、森の奥へと進んでいった。




 ところでこの騎士学園では、生徒同士の決闘はよくあることで、命を失ったり重傷を負ったりしないように、セーフティーネットが張られている。


 例えば学園内で使用できる武器は木製の模擬剣のみであり、それ以外を使用すると退学処分となる。


 また学園全体には常に魔法防御シールドが展開されており、魔法は発動の瞬間に消滅する。その代わりに相手へのダメージ量が計算され、その大きさに応じたスタン攻撃が発生する。



 道すがら、ハーディンの手下からは、


「お前ら馬鹿だな。ハーディンさんに逆らうと容赦ないからな」


「痛い目に合う前に降参した方がいいぞ。明日から俺たちのパシリに使ってやるよ」


「そこの女は俺たちのペットとしてかわいがってやるよ」



 そんな下品な笑みを浮かべる取り巻きたちに囲まれながら、森の奥の少し広場のようになった場所に到着した。


 そしてそこへ着くやハーディンが俺たちから距離をとり、魔法の詠唱を始めた。


 いきなり撃ってくるつもりか。



  【※●▽X◇%◎・・・・】



 同時に取りまき達も一斉に剣を振りかぶって、俺たちに襲い掛かかる。


 容赦の欠片もないハーディンたちに対し、俺はネオンと素早くアイコンタクトをとり、マールをかばいつつ取り巻きの一人に杖を向け詠唱を開始する。



  【焼き尽くせ】ファイアー



 俺たちの魔法は、詠唱から魔法発動までわずか2秒。


 俺とネオンからほぼ同時に放たれた二つの炎は、それぞれ別の取り巻きの男子生徒に命中し、彼らをスタン状態に陥れた。


 そのすきにマールを連れて取り巻きたちの囲いから脱し、いったん距離をとることに成功する。




「なんだと?! ほぼ一瞬で魔法が発動した?」


 先に呪文の詠唱を始めていたハーディンは、自分の魔法が発動するはるか先に、俺たちのファイアーが発動したことに驚愕していた。


 魔法が発動するためには、呪文が一番短い初級魔法でも詠唱から魔法発動まで最低、10秒~20秒程度の時間を要する。


 にも拘わらず俺たちは、たった一言の詠唱で瞬時に魔法を発動させた。



 ハーディンにしてみれば、常識を覆すような高速詠唱を、たかが下級貴族風情がやってのけたことになる。ハーディンは完全に動揺し集中が途切れたことで、詠唱途中の魔法が霧散してしまった。


「くそっ」


 再び詠唱を開始するハーディンの心には、早くも焦りの色が見え始めていた。





「なんだあの速さは」


 衝撃を受けたのはハーディンたちだけではなかった。複数の男子生徒を相手に奮闘しているダンも、今起こった出来事がうまく理解できないでいた。だが、


「俺たちはハーディンを先に倒してくるから、ダンはマールを頼む」


「わかった」


 理解はできないことは後回し、気持ちを切り替えて戦いに集中する。取り巻き達が混乱している隙にいったん距離をとり、ダンはマールのもとに駆け付けた。


「ハーディンはあの二人にまかせて、残りの取り巻きどもは俺が始末する。木の陰に隠れてろ」


「わかった。でも回復魔法はまかせてね」


 マールは背後の木に身を潜め、いつでもヒールがかけられるよう詠唱を開始。ダンは気合を入れなおすと、まだ健在な3人の男子生徒に剣を向けて「ウオー」と掛け声を上げて突入していった。





 先にハーディンと対峙したネオンが、ファイアーを連射している。


 さすが中級貴族の子弟だけあって魔法防御力が高い。初級魔法のファイアーではハーディンを倒すだけのダメージが蓄積できないようだ。


 だが魔法攻撃を受けるたびにハーディンの魔法も消滅するため、このままではじり貧。悲鳴にも似た大声で取り巻き達を呼びつける。


「何をしているお前ら。こいつらを先に倒せ」


 スタン状態から復活し、ふらふらと起き上がった二人は、ハーディンの呼びかけに応じて近くにいるアゾートの方に向かった。



 残りは3人がかりでようやくダンと互角の戦いを繰り広げており、一人でも抜けると一気に畳みかけられるため、応援に行くことはできない。


「こいつ強いぞ」


「3人がかりでも倒せねえ」


 ダメージが蓄積し徐々に動きが悪くなる3人に比べ、ダンには背後からマールによるヒールがかけられダメージが回復する。


 そして戦況はダンに傾いていく。




「ネオン、そのままもう少し持たせてくれ。俺があれを撃つ」


「わかった」


「こいつら何か仕掛けてくるぞ。早く助けに来い」


 喚き散らすハーディンをよそに俺は詠唱を始めた。


 【焼き尽くせ、無限の炎を】火属性中級魔法・フレアー


 たった二言の詠唱に、取り巻きたちがアゾートを止められる時間もなく、ハーディンの頭上には火属性中級魔法フレアーの魔法陣が出現する。


 学園全体に作用する魔法防御シールドがフレアーの発動直前に魔法を消滅させるものの、その代償となるダメージはハーディンの魔法防御力を大きく超え、一発退場のスタン攻撃がハーディンを襲った。



「ぐわーーーっ!」



 ハーディンが地に伏して沈黙。これで戦闘不能だ。


 残るは5人の取り巻きたちだが。


「ちょっとまて」


「まいった。俺たちの負けだ」


 すでに戦意を喪失し、痛い目にあいたくない取り巻きたちは、早々に負けを認めた。


 だが、ハーディンにそそのかされたこいつらは、また俺たちを襲ってくるかもしれない。


 念のために恐怖を体に植え付けておく必要がある。



「ダメだ。弱者は強者に逆らうことは許されない。それが戦乱の貴族社会のもう一つのルールだ」



 模擬剣を抜いた俺とネオンは、取り巻きたちに対して大上段から容赦なく剣を振り下ろし、相手の剣を叩き落した。


 俺がさらに相手の胴に力いっぱい剣をたたきつけると、相手は「うっ」と苦しそうなうめき声をあげて上体が前のめりになった。


 俺はその男子生徒の背中を蹴りつけて地面に這いつくばらせた。


「俺たちの前に二度と顔を見せるな」


「知るかよ。ハーディンのことだ。このままで済むわけねえな」


「じゃあ、お前たちが必死になって止めるんだな」


 男子生徒の上から背中や肩、手足を滅多打ちにしながら、何度も同じ命令を繰り返す。


「わかった。約束するからもうやめてくれ」


 やっと望んだ返事が得られたので、俺は攻撃の手を止めた。


「そうか。じゃあ学校が閉まらない内に、お仲間を医務室まで連れていけ。そして二度とその顔を見せるな」


 周りをみると他の取り巻き達は全て気絶させられている。ネオンを狙った男子生徒は魔法攻撃を受けスタン状態になっており、他の3人もダンの前に叩きのめされて意識を失っていた。


「スタン状態の2人は当分意識が戻らないだろう。そこの3人をたたき起こしてお前たちで何とかするんだな」


 そういって俺たちはハーディンたちをその場に捨て去り、元来た道を戻っていった。





「ねえさっきの魔法、詠唱がすごく短かったけど、どうやったの?」


 マールが興味深そうに聞いてきた。


「呪文を全て詠唱すると最低でも10数秒かかるのが普通だけど、実は呪文を短縮できる方法があるんだ」


「うそ! そんな話聞いたことがない」


 ダンも「本当かよ」と驚きの表情で話を聞いている。


「俺たちだけの秘密だが、今度教えてやってもいいぞ」


「「やった!」」


 喜んでいるダンとマールを見ながら俺は、この秘密を発見した時のことを思い出していた。




 俺は転生者だ。


 もとは日本の高校生だったが、10年前にこの世界に転生してきた。そんな俺だから気づけた事実。


 この世界の魔法の呪文には秘密がある。


 それは、この世界の呪文が日本語であること。


 おそらく長い呪文の全体が日本語なのだろうと思うが、今のところ一部の単語しか聞き取れない。


 しかしその一部の単語でもきちんと発音することで、呪文を全て詠唱しなくても魔法が発動できることを発見したのだ。




 魔法は古代魔法文明で生み出されて現代まで伝承されたものであり、呪文は古代文明語だとされている。


 現代では呪文の意味は不明であり、長い年月にわたって口伝を繰り返していくうちに、本来の発音からもずれてしまっているのだろう。


 すなわち現代魔法は不完全な詠唱ゆえに、魔法の発動に至るまで長い詠唱が必要となり、その威力も本来のものより弱くなってしまっていたのだ。



 そのことに、なぜ気づいたのか。



 それは俺がまだ子供の頃、繰り返し詠唱の練習をしていたある日、この呪文の中の一節が聞き覚えのある言葉に似ている気がした。


 試しにその言葉を日本語で発音した瞬間、魔法が発動したのだった。


 それからいくつかの魔法も調べ、同様に日本語の単語を発見した。





 ハーディンたちと戦っていたせいで、ずいぶん時間が経っていたようだ。


 入部も決まり、早めに切り上げたはずが、いつしか日が傾き森の木々が夕焼けに染まってきていた。


 もう入寮の手続きも始まっているころだ。少し急ごう。俺たち4人は足早に寮に向かって歩き出した。



 森を抜けるとすぐに学生寮の建物に到着した。男子寮と女子寮がそれぞれ1棟ずつ並んでいる。全寮制であるため収容人数が多くかなり大きな建物だ。


 これから3年間、俺たちはここで生活をするのだ。家族から離れて生活をするのは初めてであり、それだけで気分が高まる。


「今日はありがとう。また明日ね」


 マールが手をふって、女子棟の方に去っていった。



「よし、俺達も早く入寮の手続きをするか」


 俺達3人は暗くなり始めた夕焼け空を背に、男子寮に駆け込んでいった。





「アゾート・フェルーム、ネオン・フェルーム。二人は307号室です。荷物は既に部屋に運びこんでいますので、最初に荷物の確認をお願いします。寮のルールや共用設備の利用方法は、このリーフレットで確認してください」


 受付で部屋の鍵を受け取り、俺達は自分たち部屋に向かうことにした。ダンも受付が終わったようだ。


「俺は306号室だ。お前達は?」


「俺達は307号室。となり同士だな」


「だな。これから3年間、隣同士仲良くしようぜ」


「ああ」


「じゃあ、明日」


「またな」


 部屋の前で別れ、それぞれの部屋に入っていった。




 307号室は下級貴族の子弟用なので2人部屋である。


 部屋の中央にベッドが2つならんでおり、窓側の両サイドに勉強用の机が2つ、その他にはバスとトイレ、簡単なキッチンが付いている。


 広くはないが清潔でいい部屋だと思う。


 これが中級貴族の子弟用になると、1人部屋プラス侍従が1人泊まれるセパレートタイプの部屋らしく、上級貴族の部屋はさらにその上をいくのだろう。


 このあたりは階級社会を感じさせられる。




「ふー」


 俺は2つあるうちの入り口側のベッドに腰掛けた。


「ネオン、お前が窓側のベッドでいいよな」


「わかった。そうするよ」


 俺はベッドに寝転がりながら、今日の出来事を振り返っていた。


 入学早々いろいろあったが、ダンとマールという友達ができたのはよかったな。


 ダンジョン部にも入部したし、中級貴族に目をつけられたのは運が悪かったが、終わったことはどうしようもない。


「先にお風呂入るね」


 そう言うとネオンがバスルームに向かった。




 すでに制服から着替えて薄手のルームウェアに身を包んだネオンは、ショートカットの白銀の髪がさらっと揺れて、白く透き通った肌を隠すことなく、足早に俺の目の前を通りすぎていった。


 一瞬目のやり場に困った俺は、


「お前は一応女子なんだから、もっと慎ましやかにしろよ。俺がいるんだし、もう少し服装に気を付けるというかだな」


「私たちは家族みたいなものだし、アゾートの目なんか気にならないよ。それともひょっとして、私のこと意識してる?」


「するか! 家族だろうと、気まずいだろうが」


「じゃあ私のこと見なきゃいいでしょ。部屋では私もリラックスしたいんだから」


そう言ってバスルームのドアをガチャリとしめると、やがて水が流れる音がかすかに聞こえてきた。


「なんでこいつと同じ部屋で暮らさなきゃならないんだ」




 ネオンは幼少のころから俺と一緒に遊ぶことが多く、俺と同じような服装をしていたので、説明されなければ女子だということに誰も気が付かないような子供だった。


 その後ちょうど俺達が洗礼式の頃、ボロンブラーク領内で派閥間の内戦が起こった。


 フェルーム領内に敵部隊に攻め込まれセレーネやネオンが危うく誘拐されそうになったり、派閥内の結束のための政略結婚を申し込まれたり大変だった。


 当主はそういったリスクを一時的に避けるため、対外的にはネオンを分家の次男として公表していた。



 だが度重なる内戦も、2年前の戦いで一応の決着は見た。


 火種はまだ燻っているものの、一時期ほどのリスクはなくなったため、ネオンはそろそろ女子として本来の立場に戻った方がいいと、俺は思うのだが。


 しかしネオンがまだ性別を偽り続けているのは、俺の知らない何か、完全に危機が去っていないという当主の判断なのだろうか。


 何か不穏な感じがする。





 もう一つ気になっているのが、俺がセレーネと婚約していることを学園で公表してもいいのかどうかだ。


 貴族社会では、魔力保有者の確保や一族に伝わる固有魔法の継承のため、5親等以上離れた一族内の結婚は一般的に行われている。


 フェルーム家でも長女セレーネが強い魔力を持ち、分家の俺にも2属性の魔力が発現した時点で、当主の判断により二人の婚約が決められた。これはセレーネの次期当主確定とセットですぐに公表もされている。


 だから本来は秘密ではないはずなのだが、入学の際に当主から、学園内であまり婚約の件に触れない方がよいとのアドバイスがあった。


 理由は教えてもらえなかったのだが、学園生活における必要性なのか、はたまた領内政治によるものなのか、ハッキリしたことはよくわからない。



 色々なことを考えていたら、俺はそのまま眠ってしまっていた。






 その夜、夢を見た。


 5歳の洗礼式で突然前世の記憶が甦った、あの日の出来事だ。




 高校3年生だった俺は、大学受験が終わりようやく長い受験勉強から解放された。


 その受験会場からのかえり道、大学生活への胸を躍らせた記憶を最後に、その後の記憶がプッツリ途絶えている。


 そして気が付くと、薄暗い部屋の中で少年の姿で立っていたのだ。




 騎士爵フェルーム家の分家の長男として生まれた俺は、このアージェント王国の慣例に従い洗礼式を受けるため、その日、教会に訪れていた。


 この洗礼式では、子供一人ひとりに魔力の有無とその属性を調べる儀式が執り行われる。


 フェルーム家は下級ではあるが貴族であり、魔力を持ったものしか家を継ぐことはできない。だから分家も含めてできるだけ多くの魔力保有者の子供を一族に抱えておきたい。


 家族の期待と不安の眼差しを受けつつ、俺は洗礼式に臨んだのだった。



 教会はフェルーム家の所領にある小さな町にあり、子供の数もそんなに多くはない。平民から順番に一人ずつ洗礼室に入り水晶玉のようなものに手を当てて魔力の有無を測定する。


 そして俺の順番が回ってきた。魔力がなかったらどうしよう。


 そっと洗礼室の水晶に手を当てる。すると水晶の中に赤と茶色の2色が現れた。火属性と土属性の2種類の魔力が備わっていたのだ。



 「家族が喜んでくれる」とほっと気を抜いた次の瞬間、前世の記憶が突然脳の中によみがえり、前世の自分の死とこの世界への転生を理解したのだった。そこからさらにすべての記憶が一気に脳の中に流れ込み、俺は意識を失ったのだった。




 気が付くと俺は、家のベッドに寝かされていた。


 窓の外は夕焼けで赤く染まっており、そろそろ夕飯時。


 俺はベッドから起き上がりひとり食堂へ向かうと、食堂の扉の向こうから二人の男性の話声が聞こえた。俺はすぐに食堂には入らず、聞き耳を立てた。



「この先本家に強力な魔力を持った男児が生まれなければセレーネに家を継がせることになるが、他家から婿を取らずにアゾートと結婚させることとしたい」


 フェルーム家当主ダリウスは、分家である俺の父ロエルに、そう持ちかけていた。


「わかった。セレーネは長女で強力な魔力保有者だから、家を継がない場合もこの二人を結婚させておけば、魔力面でも一族の支えになってくれるはず」



 本家の長女セレーネは俺の1歳年上で、本家と分家は同じ敷地内で屋敷が隣接していることもあり、小さい頃からよく遊んでくれる優しいお姉さんだ。


 白銀の長い髪に火属性の赤い大きな目の美少女。そして魔力が同じ年ごろの子供に比べてはるかに強い。


 アージェント王国では、貴族家は男子が後を継ぐことがやや優先されるものの、魔力至上主義の面もあるため女子が家を継ぐケースも珍しくはない。だからセレーネはフェルーム家の次期当主候補として期待されている。


 そして今日の洗礼式で、俺が火属性魔力を持っていることがわかったため、フェルーム家伝統の火属性魔法の継承が期待できる、一族内の婚姻相手が確保されたことになる。


 だからこのタイミングで、セレーネを後継者候補として目途をつけておきたいのだろう。



 まさか5歳で婚約するとは、前世の記憶を取り戻したばかりの俺には驚きだが、セレーネのような美少女との婚約は素直にうれしい。



「しかし、火と土の2属性が発現するとは正直驚いたな。ご先祖に土属性持ちがいたのでその血が蘇ったのだろうが、上級貴族ならともかく一介の騎士家では珍しいな。しかも同時に2人もだぞ」



 え、2人?



 今日洗礼式を受けたのは、一族の中では俺ともう一人。いつも俺の後ろにくっついて来て、一緒に遊そぼうとする弟分。水っぱなを汚れた手で拭い、それがカピカピに乾いてラスカルみたいな顔になっているネオンだ。



「アゾートに続いてネオンまで2属性を持っていることがわかった時は驚いたな。で、やっぱりネオンは他家に嫁がせるのか?」


「そうだな、ネオンは貴重な2属性持ちだし上位貴族との政略結婚にうまく使えればな。絶対に安売りはせぬ」


「アゾートとネオンは仲がいいから、将来結婚させても悪くないと思ったんだがな」



 ネオンは普段から男の服装をしているので、女だということをつい忘れてしまうのだが、本家の次女でセレーネの妹だった。


 というか、話が妙な方向に進んでないか。


 俺の婚約者が、美少女からラスカルに変更になりそうだ。


 俺は話の流れを遮ろうと、食堂に駆け込んだ。



「やっと目が覚めたかアゾート。洗礼式のお祝いだ」


 食堂には隣に住む本家一家と分家である俺の両親や他の分家筋が集まっていた。


「さきほど当主のダリウスから話があったが、お前とセレーネを婚約させて、セレーネをフェルーム家の次期当主にすることになった」



 父ロエルは当主ダリウスの叔父にあたるが年齢的にはダリウスの少し上であり、兄弟のように育てられてきたそうだ。だから当主を弟のように扱っているが、誰も気にする様子はない。そのあたり貴族といっても騎士爵だからおおらかなのだろう。なお、俺と当主は従兄弟にあたる。



「5歳のお前にはピンと来ないかもしれんが、大人になったらセレーネと結婚してフェルーム家を支えていくということだ。それともネオンがいいか?」


「いえ、分かりました。セレーネと婚約します。そしてセレーネの騎士としてお守りいたしとうございます」


 俺はセレーネの前に跪き、子供ながらに騎士の誓いを立てた。


「ありがとうアゾート。よろしくね」


 セレーネがほほ笑みながら、そう答えた。



 俺たちのそんな様子を表情を変えずじっと見ていたネオンは、なぜか突然俺の前まで来て、俺がやったのと同じように、俺に対して騎士の誓いのマネをした。


「アゾートのきしとして、おまもりいたします」


 何を考えているのかよくわからないやつだな、コイツ。


「わはははは。やはりアゾートにはネオンの方がいいのではないか? こんなに懐いているのだしな」


 余計なことをいう父親に、あわてて話を遮ろうとする俺。そんな俺に跪き、鼻水の跡が残りながらも真剣な顔つきで俺を見つめるネオン。




 そこで夢から覚めた。




「おはよう」


 徐々に目が覚めてきた。ネオンが覗き込むように俺に顔を近づけて見ている。


 夢の中に出てきた5歳の頃のネオンに比べて、15歳になった今のネオンの顔はずっと大人で、こうしてみると随分とセレーネに似てきたなと思った。


「お、おはよう」


 今日から学生寮での新生活が始まる。


 ネオンとは物心ついたときからずっと一緒に育ってきた兄弟のようなものだが、同じ部屋で生活するのは初めてのことだ。すこし戸惑は感じるが、そのうち慣れてくるのだろう。


 昨日入れなかった風呂にさっと入り、素早く制服に着替えて俺たちは部屋を出た。

主人公の強さの一端が見えてきました。

これからどんどん強くなります。


応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かった
[気になる点] セリフに昂揚が無さ過ぎて淡々とした印象になってしまう そのせいでキャラクターに対して感情移入できないというか、AI的な印象を持ってしまう
[一言] 「そうか。じゃあ学校が閉まらない内に、お仲間を医務室まで連れていけ。そして二度とその顔を見せるな」 成程、身分より戦闘力の弱食強肉が通用する学校か。しかし、弱いものは地獄の様な学生生活に成…
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