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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第1章 アージェント学園の転校生
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第195話 ボロンブラーク校の期末テスト⑤

 準決勝2試合目は、シュトレイマン派令嬢チームと魔女っ娘シスターズの戦いだ。優勝候補のクロリーネ様に対し、2回目の投票では同数の33%の支持率を集めてオッズが一気に6倍まで跳ね上がった魔女っ娘シスターズ。


 つまりここにいる観客は両チームの実力を五分五分とみなしている。圧倒的魔力を有する侯爵令嬢のクロリーネ様に対して、下級貴族の彼女たちがどうしてそこまで評価を上げるのか。それほどまでに2回戦の学園長ファンクラブとの実力差が歴然としていたからだ。


 その両者が今激突する。


「試合始めっ!」




 審判の号令と同時にシュトレイマン派令嬢チームの4人はバラバラに走り出した。一方の魔女っ娘シスターズの4人はその場から全く動かない。


 そして2人の令嬢が剣を握り、その後方で2人の令嬢が魔法の詠唱を始めた。後衛にいるのがこのチームの名称にもなっているラナとレナ、モートン騎士爵令嬢姉妹だ。


 だが詠唱が終わるのを待ってくれるはずもなく、お稲荷姉妹がこの姉妹に到達する。


「速いっ!」


 一気にわく観客席。


 しかしすぐさま前衛の2人が、お稲荷姉妹と後衛のモートン姉妹の間に割って入った。


「えっ?」


 いきなり始まった2組の剣士たちの戦いは、動きが速すぎて何も見えない。


「うそ・・・」


 微かな残像を残すだけの2組の剣士同士の戦いに、観客席はどよめきを隠しきれない。



 【無属性魔法・超高速知覚解放】



 私は自分をクロックアップさせて、彼女たちの戦いを確認する。まさか観客席に座りながらこの魔法を使うことになるなんて。


 だがやっと戦いが良く見える。


 状況は・・・うそ、あのお稲荷姉妹が少し押されている。ほぼ同じスピードで、剣技も同等程度。でもなぜかじわじわと後ろに後退していくお稲荷姉妹。


 これって、実戦経験の差?


 お稲荷姉妹とは夏休みのソルレート侵攻作戦でともに戦い、実戦もお互いそれなりに積んだきた。だが、相手の2人の動きはさらにスムーズで、しかも先の展開を読んでいるというか、うまく誘導して流れを作り出している感じがする。


 あの子達何者なの?





「ここにいたんだリーズ」


「あ、アイル」


「隣に座ってもいいか?」


「別にいいけど、どうしたの?」


「いや、この試合を君と一緒に見ようかなと」


「ふ、ふーん・・・」


「それより気になるだろ、あの魔女っ子シスターズの正体」


「え、アイルは知ってるの?」


「いや、実は俺も最近まで彼女たちのことを顔と名前しか知らなかったんだが、シード権を取ってから気になって少し調べた。聞きたいか?」


「聞きたい! 教えて」


「わかった。まず前衛の剣士だがあれはラーラ・ピクシーとアメリア・ファルゴという名前で、見てのとおりスピード型の剣士だ」


「へぇ、それで後衛は?」


「ラナ・モートンとレナ・モートンの姉妹で、昨日の試合でも見たとおり属性は土だ」


「土・・・」


「そして驚くことに彼女たちの魔力は2人とも120あり、うち1人はゴーレムマスターだ」


「ゴーレムマスター! だから前の試合であんな事ができたんだ」


「そう。ゴーレムの召喚数が増え、魔力消費量も減るゴーレムマスターのスキルがあれば、あ、ほら、今発動させたように、コートを埋め尽くすほどのゴーレムの召喚が可能だ」


 アイルが指を差す方向を見ると、コートの中に次々とゴーレム兵が召喚されてきている。お兄様がたまに召喚させているゴーレムより一回り小さいが、その代わり俊敏に動き回っている。


「でもアイル、どうしてゴーレム魔法って学園の魔法防御システムでスタン波に変換されないの?」


「ゴーレムはそれ自体が魔法攻撃として見なされず、物質を形成が主たる目的の魔法として、システムが除外しているようだ。それにゴーレムの攻撃も棍棒を振るうみたいに、物理攻撃に判定されるからじゃないかな」


「だとしたら土魔法って有利だよね。ウォールだってちゃんと機能するし、私ももっと土属性を活用しなくちゃ」


「でも、そもそも土属性魔法は攻撃魔法としては弱いから、それぐらい認められないとこの学園では勝負にならないし、リーズがいつも火属性魔法しか使わないのは、それでも土属性が使いにくいと体で理解しているからだろ。まあ、ゴーレムマスターだけは特別だけどな」


「確かにそうね。あっ、地味子がゴーレムに囲まれて袋叩きにされてボコボコにされてる・・・あっという間にやられたみたいね。よ、弱い・・・」


「本当だ・・・・ゴーレムが地味子から離れていく。でもコートに取り残された地味子の姿が・・・なんかエロいな」


「それは、昨日のステージと重ね合わせて考えるからエロく感じるだけで、今は制服を着て地面に倒れているだけだからっ!」


 でも観客席の男子たちは、また前屈みになってる。どんだけ想像力が逞しいのよ!





 地味子のことは放っておいて、視点をお稲荷姉妹に戻す。ここは相変わらず高速戦闘を続けているが、ゴーレムの攻撃を回避する分、お稲荷姉妹が少し動きにくそう。さらにウォールが彼女たちの導線に障害物となる土壁を生成するため、回避行動にさらに制約が増えてきている。


 なるほど。このチームは土魔法を徹底してサポート用に使用し、攻撃はこの2人の剣士に任せてるのね。ところが、



 バギャッ!



 突然広範囲のゴーレムが木っ端微塵に吹き飛んだ。クロリーネ様がエレクトロンバーストを放ったのだ。お稲荷姉妹にギリギリかからないように絶妙にコントロールされた魔法が、魔女っ子シスターズの4人をスタン状態にする。


「さすがクロリーネ。あれだけの広範囲に魔法を発動しながら、あの4人にダメージを与えられるだけの魔力強度を保てるなんて、さすが1年生でナンバーワンの魔力の持ち主だ」


「しかも、キッチリお稲荷姉妹を外す絶妙のコントロール。ライバルとしてはちょっと複雑な気持ちよね」


 クロリーネ様はさらに新たな詠唱を開始しながら、模擬剣を握りしめて、お稲荷姉妹とともにラーラ様を攻撃。


 だがモートン姉妹はほどなくスタン状態から脱すると、姉のラナ様がその場で詠唱を始め、妹のレナ様がクロリーネ様に肉弾戦をしかける。


「モートン姉妹の回復が早いっ。あいつら本当に魔力120か。もっと上じゃないのか」


 ラナ様がウォールを巧みに発動させて、クロリーネ様の攻撃や回避行動を妨害し、レナ様の攻撃が当たりやすくする。


 近接攻撃は分が悪いと悟ったクロリーネ様は、超高速移動で即座に距離をとり、戦いながら詠唱を続けていた魔法を発動。今度はサンダーストームが再び4人まとめてなぎ倒す。


「もうサンダーストーム、高速詠唱か!」


「しかも魔法強度が段違い・・・ほぼ通常のエレクトロンバーストと同じ威力。どうやったの!?」




 相手剣士の防御力が高いことを理解したお稲荷姉妹が、今度はふたりがかりでラーラ様に攻撃を集中させると、またレナ様が早々に回復してお稲荷姉妹を蹴散らす。


「・・・なんなんだ、このハイレベルな展開は」


「攻防の入れ替わりが早すぎてついていけない。この人達って本当に下級貴族なの? 伯爵級の間違いじゃないの」


「騎士爵で間違いない。実は彼ら4人の家門の存在が明らかになったのは今年なんだ」


「え、それって去年まであの人達はいなかったの?」


「いなかったわけじゃないが、隠されていたんだよ」


「どうやって?」


「騎士爵って、王家じゃなく上級貴族が爵位を与えられるから、中央が把握していない家門がたまにあるんだ。モートン家、ピクシー家、ファルゴ家ともに去年まで別の家門の分家として知られていた」


「それで何で今年になって表舞台に現れたの?」


「理由は不明。だが彼らを隠していた上級貴族なら知っている」


「え、誰?」


「コモドール侯爵」


「コモドール・・・それって」


「そう、俺達と同じアウレウス派だ。少し古い時期に王家から分かれた侯爵家で、王国の東北端に領地を持つ。ちょうどボロンブラークとは地理的にも正反対の位置にある」


「そんな遠くからわざわざこの学園に来てるんだね。でもどうしてコモドール侯爵はモートン家を隠したのかしら」


「父上に確認したけど、それがわからないんだ」


「理由がわからない。・・・・まあフェルーム一族も似たようなものだから、実は理由なんて特にないのかも知れないけどね」


「そういえばリーズたちフェルームもそうだったな」





 アイルと話している間も、どっちに転ぶかわからないシーソーゲームが続く。このまま判定に持ち込まれるのかと思いきや、この後まさかの展開が訪れる。


 すでにお稲荷姉妹と、ラーラ、アメリアの4人の剣士が試合から脱落し、戦いはクロリーネ様とモートン姉妹の魔法対決に移行していた。


 そして、ウォールを巧みに利用してコートを迷路に仕立てたモートン姉妹は、ついにクロリーネ様をコーナーに追い詰めたのだ。


 そして逃げ場を失ったのクロリーネ様の頭上に、まさにとどめのメテオが炸裂する時にそれは起こった。


 突然、モートン姉妹が二人とも急上昇して闘技場の天井に激突。完全に意識を失った二人がコートに落下する手前で、学園のセーフティーシステムが衝撃を緩和し、試合終了。


 クロリーネ様の勝利に終わった。




「なんでーっ!?」


「落ち着け、リーズ!」


「いやいや、今何が起こったのか全くわからないんですけどっ!」


「・・・たぶんバリアー飛ばしだ」


「バリアー飛ばしってアネット先輩が良く使うあれでしょ。でもどうやって」


「モートン姉妹の足元に潜ませていたんだと思う」


「いやそれは無理があるわ。だってバリアーって触ったらわかるもん」


「そうなんだけど、おそらく気づかれないように設置していたんだと思う」


「どうやって?」


「それはクロリーネに聞かなきゃわからないけど、もし俺がやるとすれば、ウォールで荒れた地面に見せかけて、でこぼこのバリアーを地面に張っておくとか」


「えぇぇ・・・でこぼこのバリアーって本当かなぁ」


「まあ、後でクロリーネに聞いてみれば? でも明日リーズとの決勝戦だから、今聞いても何も教えてくれないと思うけど」






 明日は1年生女子の決勝戦。私の計画通りアウレウス派令嬢チームVSシュトレイマン派令嬢チームの戦いになった。


 ただ予想外だったのが、チーム戦ではなくタイマン勝負になったこと。


 お稲荷姉妹が脱落して一対一になったのは正直助かったが、それでも不利な状況は変わらない。クロリーネ様と個と個のぶつかり合い、強いものが勝つ魔導騎士の一騎討ちになったからだ。


 魔力はクロリーネ様の方が上だけど、そこまで差があるわけじゃないよね、きっと・・・。そしてともに高速詠唱が可能で、サー少佐仕込みの格闘術も同じようなレベル。ふたりとも超高速知覚解放も使えるが、スピードは私の方が少し上?


 ・・・身内同士の戦いなので、お互いの手の内は知り尽くしていると思ったけど、お兄様がいうにはクロリーネ様は戦術的才能があるから、思いもよらない奇策に注意が必要だと言っていた。



 ・・・・アイドルPで逆転を許した今、この状況は完全に詰んだかも。


 明日勝つには、クロリーネ様がこのステージで大こけして、私がアイドルPを大量ゲットするしかない。完全に他力本願だ。



 私はメリア様たちに心の中で謝りながら、ステージで歌うクロリーネ様を何となく見ていた。


 クロリーネ様は、いつも通りつまらなそうにボソボソと歌を歌っている。振り付けも全く腰の入っていない、ただ腕を適当に振っているだけのダンス。


 クロリーネ様って、なんでこんなにやる気がないんだろう。


 不思議に思ってクロリーネ様の表情をよく見ると、頬が少し赤くなったり、たまに唇を噛み締めて何かに必死に耐えているようにも見えた。


 クロリーネ様は実は照れている? だから、わざとこんなやる気のない歌とダンスを見せているの?




 その時、私の背中に電撃が走った。そしてお兄様のあのお言葉が脳内を駆け巡った。


(なあリーズ、ツンデレというのは恥ずかしがり屋さんなんだよ。だからわざとツマラない風を装って、自分の気持ちが周りに悟られないように誤魔化すんだ。でもはた目から見るとそれがバレバレで、見ていて可愛かったり逆に不憫に思えたりして、萌えに転化される。ツンデレはデレの破壊力以外にも、そういったメカニズムが含まれているんだ。わかったかい、リーズ)



 今やっとわかったよ、お兄様!



 お兄様が口を酸っぱくして私に魅力を伝えようとしていたツンデレ。


 今、私の中でちゃんと消化できた。


 これは危なかった。もし、みんながツンデレを理解できていたら、クロリーネ様にアイドルPが殺到するところだった。


 でも観客席の反応を見る限り、クロリーネ様のかわいさに誰も気づいていない。このままならいける。


 アイドルPの大量ゲットを祈りつつ、やはり明日は試合に勝つことに専念しよう。私のことを応援してね、お兄様!

次回、決勝戦

ここまでお付き合いありがとうございました


決着までぜひ見届けてください

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