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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第1章 アージェント学園の転校生
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第194話 ボロンブラーク校の期末テスト④

随分長くなってしまいましたが、もう少し続きます

 期末テスト4日目(闘技大会2日目)、1年生女子準決勝が行われた。


 第1試合はアウレウス派令嬢チームVS中立派令嬢チームだ。昨日の疲れは完全に回復し、お互いが万全な状態で迎えるこの試合、私たちはフルメンバーだけど、向こうは2人脱落し、カレン様とモナ様の2人だけだ。


「今日こそ決着をつけて上げるわ。自分のファンにしか投票してもらえない最弱アウレウス派令嬢チームのリーズ様」


「それはこっちのセリフよ、取り巻き令嬢に裏切られた性悪女のカレン様」


「「ふんっ!」」




 私たちはリーダーとしてコート中央でエールを交わし、それから自陣の所定位置に戻った。


「試合始めっ!」


 試合開始と同時に私とターニャ様が敵陣に突撃し、メリア様とヒルダ様が自陣に残って魔法の詠唱を開始する。今回は前衛と後衛をはっきり分けて、後衛の2人はモナ様への遠隔攻撃に集中し、私は先にモナ様を倒すべく彼女に接近していった。その間のカレン様の足止めはターニヤ様1人に任せる。



 【無属性魔法・超高速知覚解放!】



 モナ様はスピードが速いため、私もクロックアップする。周りの景色が急速にゆっくりと流れ出し、わたしとモナ様以外が止まって見える。


 私は模擬剣を握りしめると、モナ様めがけて一閃。


「フィッシャー流剣技・空破烈斬!」


 私は剣に込めた魔力のバリアーを剣の一閃によって前方に発射。鋭いオーラの刃がモナ様を切り裂く。


「まさかっ! なぜアウレウス派のあなたがその技を使うのだっ!」


「これは夏休みにカイン様から教わったフィッシャー騎士団に伝わる剣技が一つ。まだまだ技はあるから、覚悟しておいてね、モナ様」


「コイツ、やはり魔力だけの令嬢ではない。私も本気を出さなければ負ける!」


 そう言うとモナ様のオーラが一気に爆発し、凍りつくようなオーラの針がモナ様の周りを取り囲んだ。


「フィッシャー流剣技・針鼠」


「あなたもフィッシャー流剣技を! モナ様って一体何者なの?」


「それは私のセリフよっ。私はフィッシャー騎士団の団員だからこの剣技を使えて当然。でもあなたがうちの騎士団の剣技を使いこなすのは、どう考えてもおかしいでしょっ!」


「え? モナ様ってフィッシャー騎士団の団員だったの?!」


「・・・知らなかったの? 私、カレン様の護衛騎士なんだから、中立派の武の頂点フィッシャー騎士団の関係者だって、普通は想像すると思うんだけど」


「確かにっ! 聞いてしまえば、納得感しかないわ」


「それよりあなたよ! なんであなたがそれほどまでにフィッシャー流剣技を使いこなすのよ」


「それはカイン様に教わったから・・・」


「だとしてもよ! 空破烈斬は容易く身に付けられる剣技ではないわ。この私だって身に付けるのに1年近くかかったと言うのに・・・」


「え、そんなにかかったの? 私はわりとすぐに出来るようになったけど」


「・・・くっ、うるさい! そんな急造の剣技なんか、私の本物の技でねじ伏せてやる」


「わかった。じゃあ勝負よモナ様。受けてみよ、この私のフィッシャー流剣技・空破烈斬!」


 私の放ったオーラの刃は、しかしモナ様の針のようなバリアーに弾かれてしまった。


「甘いわねリーズ様。剣技同士には相性というものがあり、空破烈斬ではこの針鼠は突破できない。次はこちらの攻撃の番よ。うおおおおーっ!」


 大きな叫び声でモナ様が気合いを入れ直すと、モナ様の高速の斬撃が私に襲いかかった。スピードこそ私が勝っているため、この高速の斬撃をかわし続けているが、体術ではモナ様が一枚も二枚も上手のようで、結果的に全て紙一重の回避になってしまっている。油断すると一撃を食らってしまいそうだ。


 このままだとジリ貧。でも私はそもそも剣だけの女じゃない。今そのことを思い出させてあげる。



 【高速詠唱、火属性初級魔法・ファイアー】



「速いっ」


 ほぼ無詠唱に近い速さで発射されるプラズマ弾を、モナ様は避けきれずモロに食らう。だが針鼠によってプラズマは途中で切り裂かれて、モナ様への着弾前に針鼠もろとも空中に霧散していた。


 そしてすぐにモナ様はあらたな針鼠を身にまとう。仕切り直しだ。無属性魔法は詠唱がないため、私のファイアーよりもわずかに早く構築されてしまった。


 さてどうする?




 その時私の背後で、自陣に構えた二人の魔法の準備が整った気配を察知した。


 私は後ろを振り返ることなく、


「二人のタイミングを合わせて魔法を発動してっ!」



 【【風属性中級魔法・ウインドカッター】】



 メリア様とヒルダ様が共通して使えて、攻撃魔法としても汎用性の高いこのウインドカッター。うまく同時に魔法が作動し学園のシステムを誤認識させて、一つの魔法としてダメージ計算させる。


 彼女たちの2倍の魔力、つまりモナ様の魔力を越えた魔法攻撃が10秒程度継続的に発生し、針鼠を消失させてモナ様にスタン波が発生した。


「ぐっ!」


 モナ様が怯んだ隙に、私はトドメの魔法を唱えた。



【高速詠唱、火属性上級魔法・エクスプロージョン】



 高速詠唱と言えども時間はゼロではない。ファイアーよりもずっと長い詠唱を終えて放たれたエクスプロージョンは、ウインドカッターの効果が切れるギリギリに滑り込んで、針鼠の展開前のモナ様の頭上に炸裂した。



「ぎゃああああーっ!」



 完全にオーバーキルのスタン波を浴びて、モナ様は意識を失った。これで彼女はリタイア。あとはカレン様一人を残すのみ。だが、





「きゃああああーっ!」


 大きな悲鳴に振り返ると、カレン様の足元でコートに倒れ込むターニャ様の姿があった。


「ターニャ様っ!」


 ターニャ様の傍で、模擬剣を握り締めて不敵にほほ笑むカレン様。


「よくもモナ様を寄ってたかって袋叩きにしてくれたわね。今から3倍にして返してあげる」


 その獰猛なまなざしは、いつも教室で「男子のみんな。今日の授業はちょっぴり難しかったから、カレンに優しく教えてね。きゃるるん!」なんて言いながら、男子生徒に愛想を振りまいている姿からは程遠い。


 無駄なもの一切をそぎ落とし、完全に吹っ切れた者にのみ訪れるという、そうこれが武者の境地。


 油断すると命をとられる!




「どおりゃあああーっ!」


 カレン様が急加速して私に接近すると、魔力を込めた重い一撃を容赦なく叩き込んでくる。


「おりゃあっ! こなくそっ! どっせーいっ!」


 一撃一撃がとにかく重い。おそらくお兄様と同じで剣戟にバリアー飛ばしを組み合わせ、魔力を物理攻撃力に変換して私に叩きつけているんだ。


 私もまだ習得できていないこの技を、カレン様は完全に使いこなしている。


 掛け声が妙にオッサン臭いことを除けば、剣術では彼女の方が1枚上手かもしれない。でも私だって負けないんだから。


「フィッシャー流剣技・流星群」


 パワーで負けるなら、スピードと手数で勝負。私がカレン様に向けて剣をまっすぐ突き出すと、剣の先からバリアーの刃が無数に発射された。あたかも空に流れる流星群のように。


「ぐぼっ・・・ぐふっ・・・うがっ・・・」


 カレン様は私の無数の刃を必至で叩き落していくが、数が多すぎてどうしても何発かは食らってしまう。そもそもカレン様と私は魔力がほぼ同じなので、カレン様自慢の物理バリアーでは私の攻撃は防げない。


「なんでコイツがフィッシャー流剣技を使えるんだ・・・くっ、くそーーっ!」


 とてもお嬢様とは思えない絶叫に、観客はドン引きして沈黙した。女の子があまり「くそ」とか汚い言葉を使わない方がいいと存じますわよ、カレン様。





 何ターンかの攻防を繰り返し、ついに片膝を地面につけて、肩で苦しそうに息をするカレン様。私がその後も流星群を連発させたことで、ダメージが蓄積していったのだ。だが私もさすがに魔力を使いすぎて、そろそろ魔力欠乏症の兆しが見え始めてきた。


 メリア様たちも遠隔から必死に魔法を撃ってくれているが、魔力2倍攻撃でもカレン様の魔力には足りず、足止め程度にしかなっていない。そんなメリア様たちの魔力はすでに切れてしまっていた。


 死闘であった。


 そんな状況の中でカレン様は、何を思ったのか突然魔法の詠唱を始めた。それは私が聞いたこともない呪文。嫌な予感がする。これは絶対に撃たせてはいけない魔法だ!


「流星群! 流星群! 流星群!」


 私は詠唱を妨害しようとひたすらに流星群を連発する。だが、どれだけ身体にオーラの刃を受けようとも、カレン様の詠唱が途切れることはなかった。そして詠唱を終えてしまったカレン様がその血走った目を私に向けると、にやりと口元をゆがめて魔法を発動させた。



 【水属性固有魔法・デザートフォールレイン】



 ・・・何、この魔法。


 魔法作動領域が広すぎる。このコートはおろか闘技場全体に作用しているみたい。これから一体何が起こるの?


 私は魔法防御シールドを全開にしながら、慎重に辺りの様子を観察する。だが、何も起きていない・・・いや違う、水だ。水の塊がカレン様の頭上に急速に拡大し、とんでもない量にまで膨れ上がっていく。それがカレン様めがけて流れ落ちていき、大量の水を浴びたカレン様が・・・溺れた?


 ・・・何やってるの、カレン様。自爆?




 私がカレン様の奇行に目を奪われて見落としてしまっていたが、観客席の生徒たちの多くがスタン波を浴びていることにすぐに気付く。


 まさかっ!


 自陣を振り返ると、メリア様とヒルダ様が莫大なスタン波を浴びてすでに気絶していた。


「何をしたのよ、カレン様っ!」




 水浸しになったコートに仰向けに倒れていたカレン様に駆け寄り、私はその胸倉をつかんだ。


「ハアハア・・・こ、この魔法は、砂漠で水を調達するために使う魔法。・・・広域の空気中から全ての水分を搾り取るため、魔法作動領域が極めて広いのが特徴よ。そしてこの学園のシステムは・・・これを魔法攻撃と誤認して、魔法防御力の低い生徒たちにスタン波が浴びせかけたというわけ・・・」


「そんなの私には通じないよ」


「・・・わかっているわ。ゲボッ! さ、最初に言ったでしょ。3倍にして返してあげるって。・・・わたくしはモナ様を失ったけど、あなたは3人組全てを失った。これで・・・わたくしの勝ちね。ウグッ!」


 苦しそうに呻きながら、長いセリフをそこまで言うと、カレン様も気を失ってしまった。そして試合はアウレウス令嬢チームの勝利となった。





 私はボロボロになった身体を引きずりながら、更衣室に入る。フリフリのアイドル衣装に着替えて、そしてステージに立つ。


 もうメリア様たちはいない。あとは優勝に向けて私一人で戦って行かなくてはいけないのだ。


 メリア様たちの婚活ネットワークでの市場価値を高めるため、私はここから全力で戦う。見ててね3人組のみんな。


 私は恥も外聞も全てゴミ箱に投げ捨てて、ステージで最高の歌とダンスを披露したのだった。

次回、クロリーネ様VS魔女っ子シスターズ


ご期待ください

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