第191話 ボロンブラーク校の期末テスト①
何回かに分けてアップします
(これから書きますので、話数は未定です)
そして前期期末テストが始まった。
二日間にわたる座学のテストは、まあ、そこそこはできたと思う。私のグループはとにかく人数だけは多いので、どの科目も誰かひとりは得意な生徒がいたからだ。お互いに得意科目を教えあっているうちに、なんとか全科目のそれなりの手ごたえを感じられるようになっていた。
問題は今日から始まる闘技大会である。
今回は全学年共通ルールが採用され、以下が大会レギュレーションだ。
・男女別に4人一組でチームを作る。
・大会はトーナメント形式で予選から全員参加
・男女ともトーナメント1位は50P、2位は30P、3、4位は20P獲得できる(勝利P)。
・女子チームは試合に勝利する度にステージに立って歌とダンスを披露し、男子生徒はそのパフォーマンスに点数を入れる(アイドルP)。
・男子チームは、女子チームのトーナメント1位を当てるための投票を行い、的中すればポイントが得られる(馬券P)
・女子チームは勝利P+アイドルP、男子チームは勝利P+馬券P、総合ポイント数で優勝チーム決まる。
これはかなり戦略性の高いテストね。純粋な戦闘力の強さだけではなく人気投票も兼ねてるから、うまく自分のチームに投票を集めないといけない。
そしてさっき発表になったトーナメント表はこうなっている。
上級クラス
A アウレウス派令嬢チーム(シード)
B 中立派令嬢チーム(シード)
C シュトレイマン派令嬢チーム(シード)
騎士クラスA
D アイル様を見守る会
E カイン様親衛隊
F 刀剣女子会
騎士クラスB
G ダーシュ様親衛隊
H きらきらスターズ
I 乙女剣舞
騎士クラスC
J 学園長ファンクラブ
K ネオン親衛隊1年生支部
L 魔女っ子シスターズ(シード)
一回戦
①D-G ②E-H ③F-K ④I-J
二回戦
A-①の勝者、B-②の勝者、C-③の勝者、L-④の勝者
女子チームのオッズ
A4.0倍、B6.0倍、C1.7倍、D~Lオッズなし
私たち上級クラスは全チームシード扱いなので二回戦からの登場だ。一回戦の勝者がどのチームになるかで、戦いかたは変わってくる。
どんなチームかわからないけど、チーム名からなんとなく相性のいい悪いがイメージできる・・・はず?
私たちのAチームの相手はDかGのうちの勝者だ。うーん、Dのアイル様を見守る会とGのダーシュ様親衛隊なら、正直どっちでも同じような気がする。
よし、2回戦は勝つ前提で本番は3回戦から。ここはカレン様率いる中立派令嬢チームが勝ち抜いてくるはず。そして決勝はおそらくシュトレイマン派令嬢チーム・・・いよいよクロリーネ様と決着をつけるときがきたようね。
「メリア様、ヒルダ様、ターニャ様、いよいよ闘技大会が始まりました。私たち優勝目指して頑張りましょうね」
「もちろんでございますリーズ様。決勝で宿敵シュトレイマン派を倒すまでは、負けるわけには参りません」
「ええ、そうですとも。そのためにわたくしたちは、必死の特訓にも耐えてきたのですから」
「毎日地獄でしたね、あの歌とダンスの練習・・・生徒会の準備室を使って、ニコラマネージャーから受けた特訓の日々」
そうなのだ。私たちはこの闘技大会に優勝するため、戦闘訓練ではなく歌とダンスの練習ばかりしてきたのだ。この3人組は戦闘タイプではないので、戦闘タイプが3人もいるシュトレイマン派令嬢チームはおろか、カレン&モナのコンビを有する中立派令嬢チームにも分が悪い。
だからアイドルPを稼ぐ方向で戦略を立てたのだった。口げんかなら無双できるんだけどな・・・。
「さてメリア様としてはDチームとGチームのどちらと当たりたいですか」
「当たりたいというよりは、Dチームはとっとと負けてほしいです。アイル様を狙うライバルはなるべく少ない方がいいので」
「なるほど、するとターニャ様はGチームに負けてほしいと」
「いいえ、リーズ様。わたくしはぜひGチームに勝ち上がって頂きとう存じます」
「え、そうなの?」
「ええ、ダーシュ様を狙う不届きなメスどもに、このわたくしが直接引導を渡して差し上げたいのですわ。ふふふふ」
「怖っ!」
さて午前中を使って第1回戦が戦われたが、結果は次のようになった。
①D-Gは、Gのダーシュ様親衛隊の勝利
②E-Hは、Eのカイン様親衛隊の勝利
③F-Kは、Kのネオン親衛隊1年生支部の勝利
④I-Jは、学園長ファンクラブの勝利
・・・まともなチーム名のところは、すべて一回戦で敗退してしまった。残ったのは誰かの親衛隊組織だけか。
ていうかネオン姉様の親衛隊に1年生支部なんてあったんだ。さっきの戦いぶりを見ても、このチームだけは別格の動きをしてたな。
そんなネオン親衛隊が次にあたるのが、クロリーネ様のチーム。おそらく一年生はおろか学園最強クラスかもしれない戦闘力を誇るクロリーネ様チームとの闘いは必見ね!
さて、午後の最初の試合は私たちアウレウス派令嬢チームと、ダーシュ様親衛隊だ。アウレウス派令嬢同士の戦いに、観客席は実に気楽なムードだ。派閥間の争いではないので、きっと盛り上がりに欠けているのだろう。
「試合始めっ!」
審判の合図とともに、両者がコートの中央に向けて走り出した。私はこのチームのリーダーなので、敵チームのリーダーとの一騎討ちを仕掛ける。
メリア様たち3人組もそれぞれの相手に突撃していった。実はこの試合、3人組の戦闘力を確認するに一対一の闘いを敢えてしかけてみたのだ。魔力でやや上回る3人組か、剣術実技などの訓練を受けた相手チームか。どちらが勝つかはやってみなければわからない。
私は敵リーダーと剣を交えながら、まずメリア様の様子を見る。
メリア様はうまくバリアーを展開して、相手の剣撃を巧みに受けている。あまり動かずに相手の疲労を待つ作戦のようだ。
ヒルダ様はメリア様と同じ作戦だが、何か魔法を唱えている。どうやら隙をみて打って出るようだ。
そしてターニャ様は・・・え?
「うおーーーっ!」
「くっ・・・」
「とりゃーーーっ」
「そ、そんなバカな・・・なんで上級クラスなのに一太刀がこんなに重いのよっ!」
「早く沈め・・・この泥棒ねこっ!」
「ひっ、ひーーーっ!」
・・・た、ターニャ様が肉弾戦で圧倒している。
相手の女子生徒も決して弱いわけではない。基本に忠実な剣技を披露し、攻防にバランスの取れた実にいい闘いかたをしているのだが、ターニャ様はそれ以前の問題で、技術論うんぬんとは関係なくそもそも気迫か違うのだ。
た、ターニャって本当はこんなキャラだったのか。
怖い・・・。
そして見ている間もなく、ターニャ様がそのまま押しきってしまい、まずは一勝をもぎ取った。
ヒルダ様に目を移すと、至近距離からファイアーを放って、相手にかなりのスタン波を浴びせたようだ。そうかさっきの呪文はファイアーだったんだ。
そして相手が痺れている隙に、一生懸命剣で打ち込んでいる。だがヒルダ様は非力なのか、剣によるダメージは全く与えられていない。
一方のメリア様は、相手の息が上がって来たところをバリアー飛ばしで弾き飛ばした。だがアネットさんのような見事な技ではなかったため、それなりに物理ダメージしか与えられなかったようだ。
でもこうして見ている限り、あの2人もそこそこ戦力になりそうな気がしてきた。
「あなた、よそ見ばかりせずに私と戦いなさい」
「あ・・・ごめんなさい」
敵チームのリーダーに怒られてしまった。
「リーズさん、あなたもともとカイン狙いだったはずなのに、どうしてダーシュ様に狙いを変えたの?」
え、相手のリーダーが私に話しかけてきた。また例の強キャラ感を出すための作戦なのかな。
「黙ってないで答えなさい!」
ヒーッ! 怒られた。
「そ、それはカイン様のご実家のお家騒動が大変そうなので、ちょっと嫌だなーと。だったら、ダーシュの方がまだましだよね。実家同士も近いし・・・」
「そ、そんな理由で・・・。なら別にアイル様でもいいんじゃないの?」
「ええ、別にアイルでも全然構わないよ」
「ならそうしなさい。あ、実家の近さだったら学園長の方がいいんじゃないの?」
「サルファーだけは絶対に嫌!」
「どうして? 学園長は次期伯爵だし、見た目も全然悪くないと思うけど」
「だって、セレン姉様に見せた執着心とか恋愛中心の思考回路とか、私にはちょっと無理。メルクリウス家は火力が正義だから、ああ言う男は全く評価されないのよ」
「でもあなたのお兄様のアゾート様だって、学園長と似たようなものじゃない。恋愛脳でセレーネ会長だけでなくマール先輩にまで手を出して」
「うっ・・・それを言われると、全く返す言葉もないのよね」
「でもダーシュ様でなければ、私はあなたが誰と婚約しようとどうでもいいわ」
「じゃあ逆に聞くけど、どうしてあなたはダーシュがいいの?」
「・・・私はマーキュリー家の家臣の騎士爵家で、幼い頃からダーシュ様を近くで見てきたの。私は身分の違いからダーシュ様の正妻にはなれないけれど、私の憧れの人だから本当にダーシュ様の所に嫁ぎたいと考えている令嬢に嫁にきてほしいのよ」
「・・・そっか。自分が嫁に行きたいから私を排除してるんじゃなかったのか」
「ええ。だからあなたよりも、むしろあのターニャ様に嫁に来てほしいと考えてるのよ」
「なるほど・・・」
愛の形は人それぞれいろいろあるんだなと感心していたら、突然3人組からダメ出しが出た。
「リーズ様、わたくしたち3人とも既に勝利いたしました。あとはリーズ様だけですので、しっかり頑張ってくださいませ」
あ、本当だ! まだ戦ってるの私だけだった!
【フレアー】
「きゃあーーーっ!」
私の放った高速詠唱フレアーで、敵リーダーが一発KOし、アウレウス派令嬢チームの完全勝利に終わった。
さて、勝利チームはステージに出てパフォーマンスをしなくてはならない。私たちはお揃いの衣装を身にまといステージに立つ。セレン姉様が作ってくれた、ひらひらのフリルのついたミニスカートのワンピースだ。みんな色違いで、私は赤、メリア様が青、ヒルダ様が黄色で、ターニャ様は緑だ。
なんだかよくわからないデザインの服だけど、セレン姉様によると、どうやらこれがアイドルの基本的な服装らしい。
だがこの衣装、少し動くとスカートの中が見えそうなのだ。セレン姉様は見えてもいいインナーだから大丈夫だと言っているが、見えてもいい下着などこの世に存在するはずがない。
セレン姉様はポンコツだから、自分で自分が何を言っているのか、きっとわかっていないのだろう。
そして曲が流れ始め、私たちは練習したとおりに歌とダンスを披露する。私はスカートが気になって思うように動けなかったが、3人組は完全に開き直っていて、観衆にキレッキレのダンスを惜しげもなく披露していた。
万雷の拍手を浴びて私たちはステージを後にするが、この期末テスト、ようやく一つの試合が終わったに過ぎない。こんなことをあと2回もしなければならないなんて、まさに地獄である。
次回も続きます
ご期待ください