第184話 王家の血族
内政と軍事の話や、フリュオリーネとエリザベート、アルト王子など王族の親戚関係がどうなっているのかを解説します。
かなり理屈っぽいです・・・。
凱旋式を終えた後は、城の執務室でダリウスと打ち合わせをすることになった。俺はフリュとセレーネの二人を連れて、執務室のソファーに腰を掛ける。
「まだワシがここに来てから1週間しか立っていないのであまり報告することはないが、先に領地運営の方向性を決めておきたい。目先で言えばまずこの城を改装したいのだが、革命政府が城の中をかなり改修してしまい、客間が事務室に改装されていたり居間やダイニングも全て潰されていたよ。これじゃあ居城ではなくてシティーホールだよ」
「改装するのはいいが、城にはあまり金を使いたくないな。居住スペースは整えないといけないが、食堂やホールなど来客のための設備は過度な装飾を行わずに簡素なデザインにするなど、必要最低限にしてもいいのではないか。そして浮いたお金を領地のインフラ整備に回してほしい」
「わかったが、インフラって何を整備するんだ?」
「ここはもともと伯爵の城下町なので街の規模が大きく、支配エリア内の各地から運ばれてくる物資が集まる倉庫街が整備されていた。だが今は浮浪者が住み着いていてここが全く機能していない。まずはこの浮浪者を移動させるために仮設住宅用意して、倉庫を使えるようにする。それから街の中心にある高級商店街も商人が全て商都メルクリウスに移住してしまってもぬけの殻。今は議員の住居になってしまっている。ここを再び商業地にするために、議員たちを退去させて内装を改修し、商業用途限定で領民に貸与しようと思う」
「つまりこの街の商業を振興させるのか」
「そうだ。とにかくまずは破壊された経済基盤を整えないことには、この領地は話にならない。この極端な物不足を解消するために潤沢な物資をメルクリウス領から運び込み、流通や小売業を立て直して生活経済を回していく。そのためのインフラ投資に金をどんどんつぎ込みたい。父上に言っておくので必要な資金をメルクリウス領から受け取ってほしい」
「わかった。それで商業振興以外はどうするんだ」
「領都ディオーネ内は、最終的にはスラム街を全て無くしてここを再開発することが目標だ。そのために4つの行政区画を互いに競わせるんだが、決まった予算の範囲内で企画力で勝負をしてもらう。ダリウスは彼らの立てた企画を精査して、それが予算内で実現可能かどうかをチェックしてほしい。領都の外だが、領内の街と街とを結ぶ道路を整備して輸送力を上げたい。やり方は商都メルクリウス周辺を参考にしてほしい。アウレウス伯爵に頼んでジオエルビムの遺物のうちクレーン車とトラックを2つずつもらってくるので、活用してほしい」
「話はわかったが、その遺物はどうやって動かすんだ?」
「あとで教えるけど操作は簡単だ。ただ魔力をかなり使うので、分家の親戚たちを動員した方がいい。火属性は大丈夫だけど問題は土と雷だな。他領から魔力保有者を雇い入れるしかないな」
「うちの一族でその属性を持っているやつは少ないからな」
ディオーネ領に関しては、当分は復興対策がメインになってくるので、この領独自の産業振興はもう少し先になるだろう。
俺はメルクリウス伯爵支配エリア全体の軍事体制に話題を移した。各領地の兵力は以下のレベルを維持する予定だ。
メルクリウス領 騎士団3000(うち銃装騎兵隊200、砲兵隊20含む)、軍艦3隻、フレイヤー1機
フェルーム領 騎士団2000、軍艦3隻
ベルモール領 騎士団2000、軍艦2隻(海)
ロレッチオ領 騎士団2000
ディオーネ領 騎士団1000(砲兵隊20含む)、領民軍5000、軍艦2隻(海)
トリステン領 騎士団2000、軍艦2隻
ポアソン領 騎士団2000、軍艦3隻、フレイヤー1機
「総兵力19000、軍艦15隻、フレイヤー2機か。湖の艦艇や治安維持部隊を除いてもこれだけの数だ。銃装騎兵隊や砲兵隊も拡充されているし、かなり強力な軍事力を保有することになるな」
「そうだな。ただ、ディオーネ領を除き各領地とも2000~3000の兵力なので、突出している訳ではないと思う。単純に支配エリアが広くて領地の数が多いだけなんだよ。あ、そうそう、ディオーネ領の騎士団1000はフェルーム騎士団から分けて貰う想定なので、よろしく」
「まあいいけど、これだけの戦力を保有して、次はどこと戦争をおっ始めるんだよ。シャルタガール侯爵か?」
「違うよっ! ダリウスは物騒だな。軍艦を揃えているのを見てわかると思うけど、仮想敵はブロマイン帝国だ」
「冗談に決まってるだろ、ワシにもそれぐらいわかってるわ。だけど王国内の連中はこれだけの軍事力に警戒する領地も出てくることを言いたかったんだ」
「その警戒心というのが実は好都合なんだ。さっき領民たちに王国内の奴隷救出を約束したけど、単に奴隷を買い取るだけでは値段を吊り上げられてしまう。だから軍事力で脅して奴隷を返して貰おうと思うんだ」
「なるほど、よく考えているじゃないか。だが遠く離れた領地には脅しはきかなそうだけどな」
「まあそこは、折角王都アージェントに転校したし、貴族の社交界も併用して交渉するしかないな」
さて夕食になり、2階のホールにテーブルを運び込んで簡単な晩餐会を行うことになった。
領主の俺はセレーネとともに「コの字」に並んだテーブル席の真ん中に座り、俺の右隣にはフリュとマールが、セレーネの左隣にはネオンが座った。ネオンの隣が一つ空いていたので、ユーリがそこにおさまった。
一方俺から見てテーブルの左側には、ダリウスとエリーネ夫妻、ダリウスの腹心である分家筋のメンバーが並ぶ。
そしてテーブルの右側には、プロメテウス城から俺の家族がやってきていた。
両親とリーズ、アルゴとクロリーネ、そして分家のカイレン、リシアだ。
サブテーブルのその他分家たちも揃い、晩餐会が始まったのだが、このメンバーを見たユーリが慌てて俺の方にやってきた。
「ちょ、ちょっと待ってよアゾート。なんでメルクリウス伯爵家の晩餐会にシュトレイマン派のクロリーネ様が参加しているのよ」
「ああ、ユーリは知らなかったんだな。まだ公表はされてないんだけど、クロリーネは弟のアルゴの婚約者なんだ」
「うそっ! シュトレイマン派よ! ジルバリンク侯爵令嬢よ! それアウレウス家の承諾を得ているの?」
「たしかジルバリンク侯爵とアウレウス伯爵の話し合いで決まったはずだ」
「まったく、信じられないわね・・・フリュオリーネ様も含めて王族の姫を2人も貰うなんて。しかも違う派閥の。これじゃまるでアージェント王家じゃない」
「アージェント王家? あそうだフリュ、ちょうどいいから今の王族の血縁関係について教えてくれよ」
「わかりました。今の国王には3人の本妻がいてこの3人には特に順位はございません。そしてその子供は全部で11人いてこれがわたくしたちの親の世代になります。アージェント王家の子供は血統ではなく魔法の得意属性や容姿の特徴を優先し、アージェント、アウレウス、シュトレイマンの3つの型に分けます」
「血統ではなく魔法属性と容姿で分ける・・・。そうか。長期間にわたって血が混じってしまったから、純血種を取り戻そうとしているのか」
「そのとおりです。ですので血統を示すアージェントの家名と、魔力特性を示す派閥は王族においては必ずしも一致しません。一番わかりやすいのがわたくしとエリザベート王女の関係です」
「そうそう、それが聞きたかったんだ」
「わたくしのお母様とエリザベートのお父様は同じ母親から生まれた兄妹ですが、兄はアージェント型、妹はアウレウス型に分類され、妹がわたくしのお父様の所に嫁いできました。一方の兄は、王族分家の侯爵家から嫁をとり生まれた子供がエリザベートでした。そして彼女にはシュトレイマン型が発現しました」
「だから2人は従姉妹だけど反対派閥にいるんだ。すると、エリザベートは女王にならなかったら、シュトレイマン家に嫁ぐことになるのか」
「そうなると思います。もしくは婿をとって分家の侯爵家を設立するか」
「アルト王子とエミリオとはどんな関係なんだ」
「アルト王子のお父様は、わたくしのお母様とは母親が別ですが、アウレウス公爵本家の姫つまり私の伯母が母親です。エミリオのお母様はまた別の母親から生まれた王族の姫です」
「すまん。何が何やらわからなくなってきたが、要するに全員が何らかの形で従兄弟姉妹ということだな。じゃあクロリーネは王族の分家で、シュトレイマン型が現れた家柄ということでいいのか」
「そのとおりです」
「その考え方でいくと、王族の中でもアージェント家は混血を許容しつつ、できた子供の型を振り分ける役目、アウレウス家とシュトレイマン家は純血種の子供を引き受ける役目ということか。だからこの2つの公爵家は特別扱いなんだ」
今の話で一つ疑問がわいたがユーリには聞かせられないので、フリュにこっそりと聞いた。
「シュトレイマン家はTypeクリプトンを集めているのは明確だが、アウレウス家はどうみてもTypeアージェントを集めているようにしか見えない。だったら王家の言うアージェント型とは、何のことなんだ」
「アージェント型は、Typeメルクリウスも含めた3つの混血です。結局王家は純血から最も遠い所にある宿命なのです。だから今のクリプトン侯爵家よりも、シュトレイマン公爵家やクロリーネ様の方がセシル・クリプトンの特徴を強く受け継いでいます」
「フリュがラルフの血統なのは見れば分かるが、クロリーネもセシルの妹に特徴がよく似ているな」
「あら本当。セシルがあなたと結婚させようと妹を押し付けて来たのを思い出しますね。懐かしいですわ」
「そして470年経って、クロリーネがTypeクリプトンの特徴を備えて、この部屋にいる。なんか不思議な気分になるな」
「ええ、Typeアージェントのわたくしと、そしてこんなにたくさんのTypeメルクリウス。ユーリさんじゃないですが、確かに王家の晩餐会のようですね」
次回は一転、軽い話にしたいと思います
ご期待ください