第182話 カイン吊し上げ会
本年最後のアップです
来年もよろしくお願いします
年末年始はどうやら小説書いている時間がなさそうだしストックも全くないので、少しの間不定期掲載になってしまうかも知れません
「1年上級クラスのリーズ・メルクリウスです。これから生徒会選挙までの短い間ですが、よろしくお願いします」
昨日は顔を出せなかった生徒会に、今日ようやく顔を出すことが出来た。私はみんなの前でペコリとお辞儀をする。
「いらっしゃい、リーズ」
「よろしくお願いします、セレン姉様」
「リーズには改めて紹介する必要はないと思うけど、副会長のアネットとパーラ、書記のサーシャ、そして会計兼マネージャーのニコラよ。リーズはニコラとの絡みが多くなると思うけど、みんなとも仲良くしてね」
「はい!」
「じゃあ早速仕事の引き継ぎをするわね」
「セレン姉様から引き継ぎを受けるんですか?」
「ええ。私は会長職に専念するから、私がやっていたアイドル職はファンクラブと一緒にリーズに任せることになるの」
「わかりました。それで私は何をすればいいんですか?」
「基本的にはいつもニコニコ微笑んでいればいいのよ」
「それだけ?」
「ええ。でも生徒会主催のイベントの時は、コスプレをしたり歌やダンスを踊ったりするから、その練習でもしていてね」
「他にすることはないのですか?」
「ないわ」
「わかりました。それなら私にもできそうです」
「後はニコラから話を聞いてね」
そしてセレン姉様に代わって二コラが私に話始めた。
「リーズたんのスケジュールは今日から僕が管理するから、予定が入ったら全部この僕に教えてほしい」
「えぇぇ・・・私の予定を二コラに教えるの?」
「当然じゃないか。僕はリーズたんのマネージャーだから」
「でも、私はいつもニコニコしてて、適当に歌やダンスをしていればいいだけって今セレン姉様も言ってたし、スケジュール管理なんかいらないと思うよ」
「いやこれからは違う。次世代アイドルのリーズたんはこれまで以上に活動の範囲が広がってくる。生徒会活動以外にも出番が増えてくるだろうし、ライバルたちとの戦いもあるだろう。だからそんなリーズたんを守るために、僕はアゾート様からリーズたんの専属マネージャーになるように命じられたのだ」
「そう言えば、お兄様からの命令だったわね」
「そして、リーズたんに変な虫がつかないように守る役割も僕にはあるんだ。だからリーズたんの予定を僕に教えてほしい」
「お兄様の言いつけなら仕方ないか・・・」
私が予定を教えると、二コラが一生懸命手帳に書き込んでいる。
「よし、当面の予定は把握した。今日の予定は・・・アウレウス派令嬢とのお茶会か。わかった僕もついて行こう」
「え! 二コラもお茶会に出るの?」
「僕はお茶会には出ずに、リーズたんの後ろに控えているだけだ。専用の執事か何かだと思っててくれ」
「専用の執事っ! ふむふむ、それも悪くないわね」
「喜んでもらえて光栄だ。おっと、もうすぐお茶会が始まってしまうな。アイドルのスケジュールは分刻みだ。食堂のテラス席に急ぐぞ、リーズたん」
「あ、待ってよ二コラ。私を置いて行かないで」
時間ギリギリに到着した私たちは、すでにお茶会の席に勢揃いしている参加者を見て驚愕した。いつもの3人以外にもう一人いたのだ。カイン様だ。
「カイン様がどうしてこのお茶会にいるの?!」
私が小声で理由を聞くとメリア様がすまし顔で、
「マール様が転校されたので、わたくしたち3人が代わりにリーズ様とカイン様の橋渡しを引き受けることにいたしましたの。さあリーズ様、早く席にお座りください」
「はっ、はひっ!」
キラキラと光を反射させる白いカップに熱い紅茶が注がれていく。テーブルには色とりどりのスイーツが並べられ、私の好きなケーキをメイドが白いお皿に取り分けてくれている。いつもならそれだけでワクワクするシーンなのに、今日はそれどころではなかった。
「あの~、カイン様はどうしてこのお茶会に参加されているのですか?」
「いや俺にもよくわからないんだよ。放課後、帰る準備をしていたら教室にこの3人が現れて、大事な話があるというから来てみると、このお茶会だったんだよ」
「・・・カイン様の取巻き令嬢たちからよく連れ出せましたね、メリア様」
「ええ、そこは私たち3人がアウレウス派でカイン様の婚約者候補からは程遠いこと、あとは身分をひけらかして中立派の騎士爵令嬢たちを睨みつけました」
「うわっ・・・そ、そうでしたか。さすがはメリア様たちですね」
「その程度たやすいことです。そんなことよりも、せっかくですのでこのお茶会を楽しみましょう」
「はあ・・・」
楽しめって言われても、実はカイン様とはポアソンビーチのあの一件以来何も話せていない。王都アージェントでもどこかぎこちない雰囲気になってしまったのだ。逆にダーシュとはちょっとイイ感じになっていて、カイン様もその様子を見ていたはずだ。
気まずい・・・。
だからといってボッチ体質の私には、こんな微妙な空気に耐えられるだけの耐性はない。ここは私が話題を提供してこの空気を破壊し、ついでにポアソンビーチでの一件をなかったことにしたい。
よーし、ここは秘蔵の爆笑ネタで、
「あのね、カ・・・」
「わたくしカイン様に聞きたいことがございますの」
ターニャ様に先を越された。でもターニャ様がカイン様に聞きたいことって?
「ポアソンビーチでリーズ様と2人きりになられた際、どうしてリーズ様ともっとお近づきになろうとなされなかったのでしょうか」
げっ! ターニャ様がその話を蒸し返したっ!
そしてカイン様の表情が曇っていく。
「リーズから話を聞いたのか」
カイン様が私のことをチラッと見る。
ひーーっ!
「ええ、わたくしたち親友ですから。リーズ様がションボリなさっていたので心配申し上げていたら、わたくしたちに相談してくださったの。カイン様に冷たくされたって。リーズ様、泣いておられましたわ」
すごっ! まさに嘘八百っ!
私から相談したみたいに言ってるけど、昨日私から無理やり聞き出しただけだし、私が泣いてたのだって、根掘り葉掘り聞かれてテーブルでグッタリしていた私が、涙をチョチョぎれさせていただけだしね。でも、親友ってところだけは本当のことよね、きっと。
でもターニャ様の話を聞いたカイン様は神妙な顔をして少しずつ話を始めた。
「そうか・・・リーズには悪いことをしたみたいだな。本当のことを言うと、俺はリーズを傷つけることなく、少し距離を取ろうと思っていたんだ」
「どうしてそのようなことを」
「今フィッシャー家で起きているお家騒動のことは、説明をしなくても知っているよね」
「ええ、おそらく学園の生徒全員が存じ上げていると思います」
「その騒動で右往左往する長男ライアンの姿を見て、俺は嫁をもらうのが嫌になったんだ」
「どういうことか、詳しくお話しください」
ターニャ様の表情が変わった。これは私にした時と同じ、根掘り葉掘り話を聞こうとするモードだ!
「ライアンは次男ホルス同様、本家の跡取りとしては何の問題もないほどの戦闘力を持っているのだが、母上と嫁の2人の女の尻に敷かれて、完全に言いなりになっている。そのあまりに情けない姿を見てると、どうしてもな」
「だからって、リーズ様を泣かせてもいい理由にはなりませんわよ」
「そうだよな。ただリーズの場合はさらに特殊な理由があるんだが・・・ちょっとこの場では説明が難しいな。ただメルクリウス家は今回のお家騒動の震源地みたいなものだから、今は距離をおいた方がいいとしかいいようがない」
「え、お家騒動の震源地がリーズ様のメルクリウス家ってどういうことですか?」
「詳しくは言えないがいろいろあって、父上はメルクリウス家の令嬢を俺かホルスの嫁として取りたいと考えている。だが正妻のエメラダは決してそれを許さないだろう。そんなところにリーズを巻き込みたくなかったんだ」
「もしリーズ様がフィッシャー家に入るとどうなるのでしょうか」
「エメラダが黙ってないよ。たぶんメリーをけしかけて嫁いびりがすごいことになると思う」
「うわあぁぁ」
「それにだ。ホルスの嫁ならまだ話は簡単なんだが、俺の嫁になる場合は、母上の実家のバートリー家も絡んでくるのでさらに複雑になる。一族の悲願。それを俺が成し遂げてしまうと別の騒動が引き起こされる」
「別の騒動?」
「ああ、もうこれ以上は言えないが、とにかくとても面倒なことになりそうだったので、リーズから距離を置こうとあんな態度をとってしまったんだ」
「・・・・・」
「わかってくれたかなターニャ。そしてリーズ」
カイン様が私の方を真面目な表情で向き直った。
「リーズ、君はバートリー家の事情をよく知っているはずだから、この場では何も説明しない。それでもあえて僕の所に来たいというのなら、僕も覚悟を決めなければならない。エメラダの嫁いびりだけでなく、ひょっとしたらアルバハイム家も巻き込んだ騒動、バートリー家の悲願達成など、アゾートの人生みたいな戦乱と冒険の日々が待ち受けているが、それでもいいのか」
その時私は思った。メチャクチャ面倒くさいと。
この場では確かに言えないが、かつてのメルクリウス公爵家やバートリー辺境伯家、248年政変にまつわる諸々の歴史の歪みが一気に修正されるほどの、王国を揺らがす騒動になるだろう。
私はそこまでカイン様にこだわっている訳ではない。単にちょっとカッコいいかも、という程度なのである。
そこまで考えて、この前お兄様がマール先輩から話を聞いて、私がカイン様を狙ってると知った時に見せた複雑な表情の理由を、今ようやく理解した。
あの時お兄様は、渡る世間がどうとか、鬼がどうとか意味不明の事を言っていて、その時の私は一ミリも理解ができなかったが、言いたかったのはきっとこのことだったのだ。
私は戦乱に巻き込まれてまでカイン様とくっつきたい訳ではない。
つまり答えはNOだ。
カイン様には丁重にお断りを入れて、私はダーシュ様かアイルとくっつくことにしよう。
「カイン様、事情はよく理解いたしました。それほどの理由がおありなら私は潔く、」
「「「ちょっとお待ちください。即答は避けるべきですリーズ様!」」」
「え、どうしたのですか皆様。今のカイン様のお話のとおりメルクリウス家がフィッシャー家に嫁ぐのは大変危険を伴うことです」
「ですがカイン様はこうおっしゃられています。リーズ様がカイン様の所に来たいというのなら、覚悟を決めると。これは、リーズ様がYESと返事をすればカップル成立ということなのですよ」
「いえいえ、ターニャ様も今のお話しを聞きましたよね。私がフィッシャー家に行くと、戦争が勃発する勢いなんですけどっ!」
「カイン様はそれでも覚悟を決めるとおっしゃっているのです。そこまで言って貰えるリーズ様は本当に羨ましいですわ」
「えぇぇぇぇ・・・」
私は完全に引いているのだが、ターニャ様を筆頭に3人組のカイン様推しがスゴすぎる。ど、どうしたらいいの?
私が助けを求めようと後ろを振り返ると、専用執事となったニコラがニッコリと微笑んで、私の隣に歩みでた。
「お話しは承りましたが、今ここで結論を出すのは時期尚早。リーズたんも生徒会専属アイドルに就任したばかりで、適当に婚約者を決定されては困ります」
「適当ではございませんわ」
「いいえ、この場にカインしかいない状況で決められても、当事者不在として話は蒸し返され、スキャンダルに火を付けるだけの結果となりましょう」
「当事者不在?」
「そうです。本件の関係者であるダーシュ、アイル、サルファー、そして私の後ろにいるカレン・アルバハイム嬢」
するといつの間にか、私の隣にカレン様が立っていて、私の事を睨み付けていた。
「・・・この泥棒ねこ。私のいない場所で勝手にカイン様に近づくのはやめていただけませんか。それにカイン様、本日のリーズ様に対するご発言は問題です。エメラダ様に報告させて頂きますがよろしいですか」
「ちょっと待ってくれカレン! 今それを伝えられると困ったことになる」
「嫌です。そんな軽率なことをおっしゃるカイン様がいけないのです」
それだけ言うとカレン様は庭園の方へ走り去り、それをカイン様が後を追いかけていった。
私たちはそこに取り残される形となったが、結局私とカイン様の関係は変わらず、フィッシャー家のお家騒動の火に油を注いだだけの結果になってしまった。
次回はディオーネ領への凱旋です
ご期待ください