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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第2部 第1章 アージェント学園の転校生
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第180話 シリウス教概論

 フリュとエリザベートが医務室で寝込んでいるため、午後の授業は静かに始まった・・・訳がなかった。


「おええぇ、午後はシリ概かぁ」


「確実に眠るでごわす」


「シリ概講師の催眠音波がチートな件について」


 天敵のエリザベートがいないからか、クリプトン3人娘が調子に乗って騒ぎまくっていてうるさい。


 だがお前らの気持ちはよくわかる。


 俺もシリウス教には一切興味がないからだ。俺は5歳のころから前世の記憶があり、日本人の御多分に漏れず宗教には全く興味がなかった。メルクリウス公爵時代も同様だ。ついでにフェルーム一族全体も宗教に興味がなく、火力の増強にのみ関心が向けられていたからなおさらだ。


 だからソルレート潜伏時に新教徒と旧教徒が争っているのを見たことがあったが、なぜ揉めているのか実はよくわかってなかった。


 新教と旧教って、一体何が違うんだろうな。


 ネオンに聞けば一発でわかるのだろうが、興味がないので、正直いってどうでもよかった。問題が発生すればネオンに丸投げですべて解決するだろう。あいつシリウス教に関しては世界で一番詳しいはずだ。それこそシリウス教国総大司教猊下よりもたぶん上だろう。会ったことないから知らんけど。





『シリウス教概論』


 授業が始まった。


 王国シリウス教会の枢機卿が講師なのだが、最初に彼が神への感謝の言葉を語りはじめ、それを生徒達が復唱する。


 俺も適当にあわせて復唱するが、周りの学生は真剣そのものだ。


 みんな敬虔な信者だな。


 そんな俺をマールがたしなめた。


「ダメだよアゾート。ちゃんと神に祈りを捧げないと」


「そ、そうか? ボロンブラーク校ではこんな授業がなかったから、戸惑っていたんだ」


「授業はなかったけど、毎週教会の礼拝には行ってたんでしょ」


「礼拝? なにそれ」


「え、まさか礼拝に行ってなかったの? 毎週どこかで一度、学園の礼拝堂で祈りを捧げる決まりになってたけど、まさかやってなかったとか」


「ギクッ!」


「しょうがないなー、アゾートは・・・。魔法は詳しいのにシリウス教は全くダメなのね」


「・・・申し訳ございません」


「アゾートがマールに怒られてる。ニシシシ」


「うるさいネオン、大人しく授業でも聞いてろ。お前はメルクリウス軍の宗教担当なんだからな」


「宗教担当なんてあったっけ? でも私はこんな授業聞かなくても詳しいし」


「それもそうか。お前はもうシリ概がどうとかいうレベルをはるかに超えているからな」





 俺は眠い目をこすりながら講師のありがたい教えに耳を傾ける。


「シリウス教国にはこれまで15人の大聖女が君臨した。その中でも最も在位が長く強い影響力を持ったのが第8代大聖女のクレア・ハウスホーファである。この国の貴族なら誰でも知っているように、彼女はあの建国の勇者パーティーのメンバーで、若干20歳で大聖女に就任してから67歳で亡くなるまで47年間も在位していたことになる」


「ぷーーーっ! ネオンお前67歳だったのか。正真正銘のBBAじゃん」


「うるさいよアゾートは。正確には66歳と11か月と4日なんだから。女性の年齢を間違えるなんて、ひどい歴史家もいたものね」


「どっちにしてもかなりの年齢だよな。全部合計すると・・」


「わあわあわあ! 変な計算はやめてよアゾート」


「わかった。わかったから、騒ぐなよネオン」


「そこ! 授業中だ、静かにしなさい」


「「失礼しました」」


「ネオンのせいで、先生に怒られたじゃないか」


「アゾートが女性の年齢をからかうからでしょ」


「うるさいお前たちは。ちょっと前に来なさい!」


「「はーい・・・」」





 俺とネオンはシリ概の講師に目をつけられ、教壇の真ん前の席、つまりクリプトン3人娘の隣に座らされた。最悪の座席だな。


「ハーレム野郎がうちらの席に来てしまった件」


「やばい、うちらもハーレム要員にさせられる!」


「まだ妊娠したくないでごわす」


「うるさい、誰がハーレム野郎だよ」


「そこの異世界人のあなたのことよ」


「何も間違ってないところが笑える、ニシシシ」


「お前ら絵本ネタはやめろ! ネオンもうるさい!」


「バカ者! お前たちは黙って私の授業を聞け! クラス全員真面目に聞いているのに、聞いてないのはここにいる5人だけだぞ!」


 どうやらこの講師は、問題児の俺たち5人をひとまとめにして、授業を受けさせることにしたようだ。




「・・・それで大聖女クレアが世界の信徒たちに語った最後の言葉がこれだ。『遠い未来の教国の地に私は復活を遂げる。その時、世界に祝福の鐘が鳴り響くだろう』 つまり、世が乱れて信心が失われることになっても、大聖女クレアは天界からしっかり見ているので、教国が中心になって神の教えを守り、世界人類が慎み深く生きて行くようにという、ありがたい教えなのだ」


 講師が偉大なる大聖女の姿を頭に浮かべ饒舌に語り、生徒たちも「なるほど」と感心しながら聞いている。だがあのクレアがそんな立派な言葉を残すとはとても思えない。


「おいネオン、お前本当にそんなこと言ったのか?」


「・・・確かにそんなことを言った気がするけど、よく覚えてない。なんでだっけ?」


「およ? なんでこの女が大聖女の言葉をしっているのでごわすか?」


「いやすまない、お前たちには関係ないことだった。忘れてくれ」


「ほほう、これは何か重要な事実が隠されている件」


「ネオンといったか。貴公なかなか強キャラ感を出すのに長けた人物と見た」


 また騒ぎ始めると、すぐに講師が教壇から降りてきて、俺たちを怒鳴りつけた。


「お前たち! このクレア様の最後のお言葉を10回唱えて丸暗記しろ!」


「「「ひーーーっ!」」」




『遠い未来の教国の地に私は復活を遂げる。その時、世界に祝福の鐘が鳴り響くだろう』


『遠い未来の教国の地に私は復活を遂げる。その時、世界に祝福の鐘が鳴り響くだろう』


『遠い未来の教国の地に私は復活を遂げる。その時、世界に祝福の鐘が鳴り響くだろう』


『遠い未来の教国の地に私は復活を遂げる。その時、世界に祝福の鐘が鳴り響くだろう』


「・・・・あっ! 思い出した!」


 ネオンが何かを思い出したようだ。


「その最後の言葉、少し間違っているよ。だからピンとこなかったんだ」


 すると講師が顔を真っ赤にして、


「このお言葉が間違っているわけないじゃないか。歴史書にもちゃんとこのように伝えられておる!」


「たぶん、近くにいた側近の誰かが間違って聞き取ったんだよ」


「・・・・随分と自信があるようだな。では、大聖女クレアは本当はなんと言ったのだ」


「正確にはこう。遠い未来の『王国』の地に私は復活を遂げる。その時、『教会』に祝福の鐘が鳴り響くだろう。つまり大聖女が言いたかったのは、こういうこと。『今から死んでアージェント王国に転生するから、今度こそ結婚して教会の祝福の鐘を二人で鳴らそうね、安里くん』です」


「大聖女クレアがそんなアホな言葉を残すか!」


 ネオンの答えに講師は完全に激怒していたが、クリプトン3人娘は腹を抱えて笑っていた。


「「「うしゃしゃしゃ! ネオンとやら、なかなかやるではないか。おぬしのことを気に入ったぞwww」」」


 まあ、クレア本人がそう言ってるんだからその答えで間違いはないんだが、こんなの誰も信じるわけがない。案の定、講師がブチ切れた。


「もういい! お前たち5人は廊下に立ってろ!」


「「「へーい」」」


 ネオンと3人娘のせいで、俺まで教室から放り出されてしまった。


 それからも廊下では3人娘はずっと無駄話をしていたが、ネオンも意気投合したようで4人でずっと楽しそうにくだらない話で盛り上がっていた。


 こいつらのことは、もうほっとこう。





 授業が終わり、生徒たちがぞろぞろと教室から出てくる。完全にあきれ顔のユーリ、マールと合流し、医務室にフリュの回収に行く。


 医務室に入ると二人とも意識を取り戻していて、ベッドで静かに横になっていた。


「フリュはもう体の方は大丈夫なのか」


 俺がベッドの横の椅子に腰かけてフリュの様子をうかがう。するとフリュは申し訳なさそうに、


「ご心配をおかけしました。わたくしの方はもうなんともありません」


「しかし、フリュのあんな姿を見るのは初めてだよ。フリュもあんな感情的になることもあるんだな」


「お恥ずかしいです。しかもまたエリザベートに負けてしまいました」


 そういってフリュはしょんぼりとうつむいてしまった。


「魔力の強さぐらい別にいいじゃないか。実戦ならフリュが最強だよ。なんたってドルム騎士団長も認める騎士学園最強決定戦の初代チャンピオンなんだから」


「・・・そう言っていただけると、少し気が楽になりました。それにわたくしは、あなたにさえ認めていただければ他はどうでもいいので」


「それは大丈夫だよ。フリュを一番必要としているのは間違いなくこの俺だから」


「あなた!」


 そういうとフリュは俺の胸に抱きついて、幸せそうに顔をうずめた。



 ギリッ!



 奥のベッドを見ると、こちらを見て悔しそうに歯ぎしりをするエリザベートがいた。


「決闘に負けたからって男にしがみついて・・・いつからそんな弱い女になったのフリュオリーネ」


「・・・・・」


「氷の女王が聞いて聞いてあきれるわ、まるで盛りのついたメス猫ね」


「・・・・・」


「悔しかったら、いつものように言い返したらどうなのよ、フリュオリーネ!」


「・・・・・」


 フリュにエリザベートの言葉が届いていないのか、何を言われても言い返すことなく、俺に抱き着いて離れない。エリザベートもそんなフリュに苛立ちをみせ、代わりに俺を鋭く睨みつけてきた。


 こ、こ、恐い・・・。





「ふん! もうあなたなんかライバルでも何でもありません。今後わたくしには一切話しかけないでくださいませっ!」


 そういうと、エリザベートはベッドから立ち上がると、怒って医務室を後にした。


 いや、話しかけないでって言われても、いつもそっちからチョッカイかけてきてるんだけどなあ・・・。

シリウス教概論といいながら、どんな宗教かさっぱりわからないまま授業が終わってしまいました。


次回もまたアージェント校です

ご期待ください

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