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第18話 クラス対抗総力戦(2)

バトル回


クラス対抗戦決着です。


 ネオンたちの攻撃を防戦しながらダーシュは、魔法を撃ちつくして地面に座り込んでいるアゾートに戦慄していた。


「何なんだあいつの魔力は。あれは本当に騎士クラスの生徒なのか」


 上級クラスにいたとしてもトップクラスの実力、ハーディンなんかとは比べ物にならない本物。最低でも子爵かそれ以上の魔力保有者。


 あいつ一人で実質15人を倒している。


 そもそも魔力以前に、あの戦闘力は化け物。


 セレーネといい、フェルーム家はいったい何なのだ。


 それに今対峙しているネオン。


 やつの高速詠唱で俺たちの魔法が片っ端から潰されていく。


 こいつもフェルームか。


 ダーシュが思考の沼に陥りかけたその時、「バチッ」という破裂音とともに隣にいたアレンが突然地面に崩れ落ちた。


「なんだと! まさか遠距離魔法を受けたのか?」


 アレンは3属性保有者者で、この上級クラスでは俺に次ぎナンバー2の魔力量を誇る。


 たかが遠距離からの魔法攻撃で、アレンが一撃で沈むはずがない。


 そもそも何の魔法が発動したのか全くわからない。誰だ撃ったやつは。


 アゾートは地面に座り込んだまま微動だにしていない。


 ネオンは俺の目の前で魔法を連射中だ、信じられないことに。


 では、騎士クラスのエースポジションにいるあの女子生徒なのか。


 杖も構えずにただ突っ立っているあんな娘が、アレンを一撃で屠るような魔力を持っているようにはとても見えないが。




「私やったわ」


 マールは胸に手を当てて喜びに打ち震えていた。その左手にはアゾートからもらった大切な指輪が輝いている。


 全員突撃し自陣に残されたマールは、パルスレーザーの詠唱を始めていた。


 ほとんどの生徒はアゾートがやっつけてくれたし、残った人たちは全員上級クラスの陣地内で戦っている。


 私に気付いている人は誰もいない。


 だから落ち着いて、ゆっくりと正確に詠唱した。



  【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ】パルスレーザー



 アゾートからもらった指輪をつけた左手を正面に大きく突き出し、その先に生じた巨大な魔方陣が魔法発動と同時に消失する。


 果たしてパルスレーザーは学園の魔法防御シールドによってどのような扱いになるのだろうか。


 人に向けて撃ったことがないので、どんな結果になるのかわからない。


 使えないならキュアでもみんなの役に立てる。


 ダメで元々の気持ちで発射したパルスレーザーは、敵主力のアレンを一撃でスタン状態にした。



 光ゆえに魔法防御は完全に無効


 光ゆえに絶対不可避の光速の矢



 魔法防御力を完全に無視できるこの攻撃魔法は、上位貴族にこそ物心ともにダメージを与える「下克上の鉄槌」なのだ。



「マール! 次はアネットを頼む。魔法防御特化型だ、剣が全く効かねえ」


「わかった!」


 ダンの要求に応じてマールは再び詠唱を開始する。



 やはりあの女子生徒の仕業だったのか。


 あのマールという女子生徒の放った魔法の正体はわからないが、アレンにダメージを与えた魔法攻撃が次にアネットを襲うことだけはわかった。


 しかしマールの詠唱を妨害する方法が、今の俺たちにはない。


 騎士クラスほぼ全員による物理攻撃を、3人の魔法防御でなんとかしのいでいるため、戦力に余力がないのだ。


 3人?


「おいユーリ!お前はなぜ戦いに参加しない。しかもなぜ騎士クラスは誰もお前に攻撃しないんだ」


「あらようやく気付いたの。あいかわらずのお坊ちゃんぶりね。私は最初からこの試合には参加していないんですけれど」


「なんだと?ではなぜここにいる!」


「こんな面白い試合を間近で見られるチャンスを逃すわけないじゃない」


「面白いだと?」


「バカなハーディンや、高慢なフリュオリーネの取り巻きたちが泣き叫ぶ姿が見れて、胸がすく思いでした。お姉様にも見せて上げたかったわ。ホホホホ」


 チッ、こいつはダメだ。それよりあの魔法攻撃だ。


「アネット!魔法防御シールド全開だ、アレンをやった魔法攻撃が来るぞ」


「わかりましたわ」



  【無属性魔法・魔法防御シールド全開】



 ピシッ、と張つめた音がなり、強固で透明なバリアが完成した。


 この魔法の発動中は大抵の魔法攻撃は遮断できる。騎士クラスが放つ遠距離魔法など、決して通るはずはない。



  【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ】パルスレーザー



 マールから放たれた不可避の光線は、アネットの魔法防御を完全に無視し、高い破裂音とともに一撃でアネットの意識を刈り取った。


「そんなバカな!」


 アネットの魔法防御は完璧だった。


 にもかかわらず、あの女子生徒が放った正体不明の魔法は、あの遠距離から一撃でアネットを葬ってしまった。


 防ぎようのない遠距離魔法で、彼女は自由に俺たちを攻撃できる。


 そして俺たちには彼女を攻撃する手段が何もない。


 こんなの勝てるわけないじゃないか!




 さすが上級クラス第2位の魔力を誇るアレンは、パルスレーザー1発では倒すことができず、スタン状態から回復してきた。


「アレンが起き上がった。アン、エミリー、ケイト。アレンを攻撃して」


「「はい!」」


 ファンクラブのメンバーにはまだ一人の脱落者も出ていない。


 みんなぼろぼろになりながらも、全力の攻撃を続けている。


 そしてモチベーションはいまだ高く、アンたち3人は起き上がったばかりのアレンに向かって襲いかかる。


「私だってやればできるんだから」


「あんたなんかボコボコにしてやる」


「あいつのとどめは私がさす」


 いきなり3人の女子生徒からの猛攻撃に、防戦一方のアレン。


「アレン戻ってきてくれて助かった。敵エースの女子生徒の遠距離魔法は、理由はわからないが魔法防御が全く通じない。あと何発か受ければで我々は全滅する。とにかく彼女をなんとかしなければ」


「ネオンがいる限り俺たちは魔法が放てないし、相手陣地に乗り込んで直接攻撃するしか方法が思いつかない。この女子軍団を突破するのは厳しいが、このまま負けるのも悔しい。一か八か俺が突撃する」




 ダンはパーラ相手に苦戦していた。


 鉄壁の魔法防御力の前にダンのパワーを持ってしても剣がなかなか通じない。モテない同盟も奮戦空しくリタイアしており、孤軍奮闘中であった。


 この魔法防御を剥がさないと話にならないが、マールの方も何だか慌ただしく動き始めたみたいで、負担はかけられないか。俺にもマールみたいに何か必殺技があればいいのだが、水の初級魔法しか使えないし。結局力任せになるがあれしかないか。



  【固有魔法・超高速知覚解放】



 これが最後の魔力だ。ありったけをぶつけてバリアを叩きわってやる。


 俺らしいやり方だろ、アゾート。




「アレンに抜かれた!みんなここでダーシュを足止めしていて。僕がアレンに対処する」


「「わかった。任せて!」」


 女子3人組を何とか振り切って、マールに向かって全力で走るアレン。それに気づいてとっさに追いかけるネオン。


 マールを護衛する3人が剣を構える。


 実はこの3人こそ、剣術実技で見事30位以内を確保した、ファンクラブの精鋭部隊だ。マールを守りきるための最後の防波堤。鉄壁の布陣である。


「マール、あんたのこと守るから安心して魔法を打ってね」


「来週からの実技、一緒に頑張ろうね」


「今度私にも魔法教えてね」


「ありがとうみんな」




 ネオンはアレンをここで一気に叩くため、残り少なくなってきた魔法を惜しみなく使うことにした。



  【固有魔法・超高速知覚解放】



 一気に加速したネオンは瞬く間にアレンを捉え、背中に全力の一撃をぶつけた。




「なにっ!」


 なぜあっという間にネオンに追い付かれたのか理解できなかったが、反射的に防御行動をとったアレン。


 だがネオンの動きが尋常なく速く、アレンはやられ放題。ひたすら滅多打ちだ。


 これでも領地では子供の頃から剣術の指南を受け、そこそこできる自信はあった。しかし、なんなんだ、こいつの速さは。これが人間の動きなのか。


 反撃の糸口すら見えず、やがて剣を弾き飛ばされ、地面に転がされ、アレンにできることはただ亀の甲羅のように縮こまるだけ。


 ふと、攻撃の手が止んだためネオンの方に顔を向けると、ネオンが杖を構えて一言詠唱した。



  【焼き尽くせ】ファイアー



 それを最後にアレンの意識はぷっつりと途切れた。




 パーラは恐怖していた。


 たかが騎士クラスとたかをくくっていたら、いつの間にか残っているのはダーシュと自分だけになっていた。


 アレンを倒したネオンという男子生徒、人間技とは思えないスピードでアレンに追い付き、剣で滅多打ちにした後、ファイアーでとどめを刺していた。まるで赤子の手をひねるように、あっさりと。


 そして今、自分に対峙しているこの男も同じ技を使っている。


 さっきからずっと、鬼のような形相で私のことを睨みつけながら、目に見えない速さで何度も何度も剣を打ち続けている。恐い。


 自分がもう絶対に逃げられないことはわかった。あとはバリアが壊れないように魔力を注ぐだけ。


 ビシッ


「まって、バリアが持たない。降参。参ったからやめて」


「降参なんてあるのか?」


「ある!あるから、やめて」


 ビシッ  ビシッ


「なんでやめてくれないの?」


「俺たちの目的は、上級クラスの横暴を阻止するため、二度と騎士クラスに反抗できないよう、徹底的に叩き潰すことだ。だからお前に降参なんてない」


 パリンッ


 何百回目かの剣戟により、ついに魔法防御バリアが破られた。


 これからあの剣で滅多打ちに会う自分を想像して、絶望にうち震えるパーラ。


「もう、騎士クラスに一切関わらないと約束するか」


 剣を下ろして問いかけてくるダン。


「しません、しません。絶対にしません。だから降参させて」


「約束だからな」


 ダンは思った。


 剣ではパーラのバリアは壊せない。だからパーラの心を折って、魔法を維持できなくなくするしかバリアを壊す方法はなかった。


 悪いな。




 ついに、最後の一人となったダーシュは、もはや逆転の手が何も残されていないことを悟った。


 ネオンもアゾートと同じレベルの化け物だった。


 パーラを倒したダンという男子生徒も、とても人間技とは思えない速さで剣を打ち込んでいた。


 何の策もなくこいつらと戦って、俺たちはただ完膚なきまでに叩きのめされただけ。


 とんだ恥さらしだな。


 だからせめて負けの形ぐらいは整えて、貴族としての矜持を保つことにしよう。


 俺の固有魔法ライジングドライバーで、自分もろとも周りの女子生徒全員を道連れにするれば、少しは恰好がつくかな。




「ネオン、後ろ!」


 離れた場所から戦いを見ていたアゾートが、ネオンに叫ぶ。


 ネオンが振り替えって見たものは、ダーシュとファンクラブのみんなを覆い尽くすように展開された巨大な魔方陣。


 あれが、固有魔法・ライジングドライバーか。


 ネオンがアレンに向かっている間に、ダーシュが練り上げた固有魔法。


 このまま見過ごしても騎士クラスの勝利は変わらない。


 ただネオンはファンクラブのみんなを犠牲にしたくなかった。


 だからダーシュの方に全速力で引き返す。



 だが届かない。


 魔法範囲内に突入したネオンをも巻き込んでまさに発動しようとする瞬間、



  【焼き尽くせ】ファイアー



 アゾートのわずかに回復した魔力により発射されたファイアーが、ダーシュにわずかなスタンを与え、動きが一瞬止まる。


 だが一瞬だ。




【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ】パルスレーザー



「ぐっ」


 今度はマールのパルスレーザーがダーシュを襲う。


 焦って打った分威力も弱かったが、ダーシュの動きを止めるには十分だった。


「うおおおーーーー!」


 そしてダーシュを捉えたネオンは、全力を込めてダーシュに猛攻撃を開始。


「「「行っけーーーーー!」」」


 ネオンは、騎士クラスの完全勝利に向けて、クラスメイトだけでなくこの試合を観戦するすべての1年生騎士クラス生徒の声援と思いをその剣に乗せて、ダーシュめがけて叩き込んだ。


 まさに乱れ打ち。


 ダーシュの魔法防御力を超えて、削る、削る、削る。


 舞い踊るようなネオンの剣は、この場にいる誰の目にも捉えることはできない。


 そして勝利を決定付けるためのフィニッシュブローを、ネオンが放つ。



  【焼き尽くせ】ファイアー

  【焼き尽くせ】ファイアー

  【焼き尽くせ】ファイアー



 ダーシュの強固な魔法防御を貫くゼロ距離からのファイアー3連撃により、ダーシュの意識が完全に刈り取られた。


 ここで試合終了。


 クラス対抗総力戦を騎士クラスが制した。完膚なきまでの完全勝利であった。




「勝ったーー!」


 マールとファンクラブのみんながネオンにかけより、揉みくちゃになっている。


 観客席からも大声援が聞こえてくる。


 ダンはアゾートに肩を貸して、ゆっくりとネオンの方に歩いていった。


「アゾート!」


 アゾートを呼ぶネオンの方へゆっくりと歩みより、アゾートは笑顔で答えた。


「ネオン、お前なら絶対やれると思ってた」


「当然だよ。私を誰だと思ってる?」


「そうだったな。俺が最も信頼する、最高のパートナーだ」


 そして二人はハイタッチをして、互いの健闘を称えた。



ここで第1部完


次回は2年生魔法対抗戦ですが、ここから新展開です。ご期待ください。

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