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第168話 アージェント王国の誕生

 あの最終決戦から1週間後、俺達はラルフの実家であるアージェント城に滞在していた。


 ラルフは帰宅早々、アージェント家の本家や分家の多くの貴族たちを地下牢に拘束し、拘束を免れたのはラルフが認める一部の者だけだった。


 アージェント城を自分の物にすると、ラルフは当主執務室の大きな椅子にドッカと座り、俺たちとエメラルド王国の次に誕生する国について話し合った。




「次に作る国の国王は、アサートに頼みたい」


「え、ラルフが国王になるんじゃないのか? というか俺は外国人でここの貴族でもなんでもないんだぞ」


「国王を討った奴が次の国王になるのが常識だぞ」


「いやそれはお前が考えた作戦通りにやっただけで、俺が国王を討ったことにならない。おいセシル、お前ラルフの幼馴染みだろ。ラルフを説得してくれよ」


「いや、実は俺もアサートが国王になるべきだと考えている」


「セシル、冷静なお前までどうしてそんなことを」


「理由は簡単、お前が一番強いからだ」


「・・・強いからって、それだけか?」


「そうだ。貴族を従えるには純粋に強くないとダメだ。でないと国王なんか務まらないからな」


「デインお前からも、」


「俺は「強さが正義」が信条の男だ。そんな俺に聞くのかアサート」


「・・・いや、やめておこう」


「クレアならわかるだろ。なぜならお前は、」


「私もアサートが国王になるのには賛成よ。国王なら離宮にたくさん美女を侍らせるから、私もそこに入れてもらえるしね」


「離宮って! 何を言ってるんだよクレア」


「私は大反対!」


「そうだよね、観月さん。国王とはそもそも」


「ハーレムなんか安里先輩に向いてません! 1人の女性だけを愛するんですよね、先輩は」


「そ、そっちの理由かあ・・・」


「ガハハハハ、アサートそれなら大丈夫だ。国王に愛など必要ない。強い跡継ぎさえ作れれば何でもいいんだよ」


「種馬じゃねえか!」




 議論が最初の入り口でつまづいてしまった。


 俺が国王には向いていないことをどうやって説明するかだが、


「みんな聞いてほしい。国王というのは強さだけではダメで、国の統合の象徴でなければ国は安定しない」


「安里先輩が憲法の条文みたいなことを言ってる」


「そのとおりだよ観月さん。統治者としての正統性とも関係してくるが、すべての国民や貴族が国王の元に自然と結集してこそ安定した国家足り得るんだ。だから、ただ強いだけの外国人である俺なんかより、この地に長年住みついている名門貴族の出身で、この世直しパーティーのリーダーである勇者ラルフが国王になることが、最も多くの人たちから理解と共感が得られるんだよ」


「王は強いだけではダメなのか・・・。アサートの言いたいことはなんとなく理解したが、僕が国王をやるとしてお前は何をするんだ」


「俺はこのパーティーでの役割と同じで、ラルフがうまく国王をやれるようにサポートする。なあセシル」


「ああ、そうだな。俺達はラルフ王をサポートするぞ、なあデイン」


「お、俺もか? 俺は冒険者として自由に生きたいんだが、ダメかな?」


「ダメだ。デインも俺やアサートと一緒にラルフ王を支えろ。それが運命だと思って諦めるんだな」


「運命か・・・都合の言い言葉だが、わかったよ」


「よし決まりだ。ところで聖女様はどうするんだ。修行の期間が終わればシリウス教国に戻られるのだろ」


「・・・私もこの国に残りたいから、もうシスターをやめようかと思ってるの」


「そんなこと許されるのかい?」


「一度帰国して枢機卿に相談してきます」


 この話し合いの結果、ラルフが国王に、俺とセシルがそれぞれ公爵家を設立し、デインは国防を担う侯爵家すなわち辺境伯家を設立することとなった。メルクリウス家が王国の剣、バートリー家が王国の盾と呼ばれるようになるのは、もう少し先の話である。




 俺たちはその後も、アージェント王国の骨格を作るために多忙な日々を送っていた。


 新たな王国の名前はラルフの家名からアージェント王国とされ、王都はこのラルフの居城のあるアージェントに移される。


 ただこの居城は侯爵家のものであるため王城としてはかなり手狭であるため、ここから少し南の平原を開拓し、新たな王都と王城が建設されることになった。


 そしてこの新王都アージェントが置かれる王家の直轄領の南側一帯をメルクリウス公爵家が領地とし、東側をバートリー家が、北側をクリプトン家が統治することとなった。


 これに併せて既存の貴族家の統廃合や転封を行い、エメラルド王国当時に貴族家の当主であった者は厳しく処断された。


 統廃合の結果存続が決まった貴族家の新当主には、本来なら当主になる可能性のなかった分家筋の中から魔力が基準以上ある者を俺たちが選んだ。


 この決定に不満を持つ貴族家は多数存在しただろうが、表立って文句を口に出すものは誰もいなかった。先の最終決戦で、勇者パーティー6人に傷すら負わせられることなく、王都消滅というこれ以上ないほどの大敗北を喫したことと、勇者パーティーの魔力の強さ、特に魔導士2人のケタ外れの魔力に完全に腰が引けていたため、恐ろしくて抵抗する気にもならなかったのだ。


 こうして既存の貴族家の整理が終わり、処刑されるもの、奴隷になるもの、平民になるもの、そして貴族として残るものに分けられ、新たな領地の場所もおおよそ決まった。




 そこまでくると、次は今後貴族が暴走しないように貴族制度を再構築する。


 まずは王国法の制定とその厳格な運用による法の統治。その基本的精神は、平民に無用な危害を加えずむしろ率先して守護すべき対象とするノーブレスオブリージュ原則だ。


 同時に王国の繫栄は貴族家の繁栄によって実現されることから、魔力主義的な考え方に基づき、性別によらず純粋に魔力が強いものをトップとしてあおぐことを基本とした。


 そして当主になることのできる大まかな基準として、公爵家・侯爵家が4属性、伯爵家が3属性、子爵・男爵が2属性、騎士爵家が1属性を目安に、後は各貴族家の判断に任せることとなった。


 ただし王家については5属性以上を持つことが義務づけられた。王家の転覆や王位簒奪を阻止できるように、実力のある強い王を頂くためだ。


 こうして、アージェント王国の貴族制度の骨格が定まった。






 ある日、勇者パーティーの6人は新王都アージェントの建設地にやってきた。最近はデスクワークや新貴族たちとの話し合いばかりで、この6人で行動するのは久しぶりだった。


 明日からは王都の都市設計を検討するためにみんなで現場視察を行う予定だが、今日は到着が遅くなったため、このだだっ広い平原に野営することになった。


 勇者パーティーの頃を思い出して懐かしかった。




 そしてその夜、俺は観月さんを誘って、夜の散歩に出かけた。




「み、観月さん! 夜遅くに呼び出して申し訳ない」


「う、ううん・・・へ、へ、へ、平気よ」


 ガチガチに緊張している観月さんを連れて、俺は野営地から少しはなれた丘の上に登り、二人で月を眺めることにした。


「この月を見ていると、本当にここが異世界であることを実感できるよね」


「そ、そ、そうね。赤と青の二つの月があるのって、いつ見ても不思議な光景よね。ねえ、あの月って名前があるのかな」


「・・・あれ、そういえば名前を知らないな。さっそく明日ラルフ達に聞いてみようか」


「ふふっ、そうね聞いてみましょう。そういえば私の名前の「せりな」って、実は月の名前からとったものなのよ」


「え、そうなの?」


「月の女神セレーネからもらったって、お父さんが言ってたの」


「それで思い出した。そのセレーネって、たしか昔の月探査計画の名前にも使われていたよ。じゃあ、観月さんは名前の中に月が二つあるから、あの双子月と同じだね」


「本当だ、私みたいね」


 月を見ながら子供のように無邪気に笑う観月さんを見て、緊張していた俺も少し気持ちが落ち着いた。


 今なら言える気がする。




「国防軍の基地への戻り方も分からないし、もう日本へ帰ることもできないかもしれない。何よりこんな未開の地で暮らすことになってしまったが、それでも今、俺はすごく幸せだ」


「安里先輩?」


「交通事故で失った君とジオエルビムで再会し、人体実験で本当に死んでしまったと思ってた君とまた奇跡的に再会し、魔法の実験失敗ではるか未来に飛ばされて周りに誰もいなくなっても、君だけは俺の隣にいてくれる」


「安里先輩・・・それは私も同じ。私も、安里先輩がそばにいてくれるから、今は幸せで・・・それだけで十分なんです」


「観月さん・・・いや、せりな。これからもずっと俺のそばにいてくれ。・・・俺とその・・・結婚してほしい」


「先輩・・・」


「俺は、学会の受付で初めて君と会った時から、ずっと好きだった。連絡先を聞くこともできずに君と別れてしまってとても後悔し、ずっと君のことを探していたんだ。だから東京駅で君と再会できた時はうれしくて・・・実は家に帰って風呂に入るまでの記憶が全くなかったぐらいだ」


「安里先輩もそうだったんですか」


「え、観月さんも?」


「はい。私もあのアルバイトの時に先輩の連絡先が聞けなかったので、また先輩に会いたくてたまに先輩の大学の方まで行ってみたり、東京駅の方にアルバイトに行ったりしてたんですよ」


「そうだったのか、だからあの時君に再会できた」


「あの日は私もうれしくて、アルバイトに全く手がつかなかったから、その日でクビになっちゃいました」


「あはは、観月さんらしいな」


「あーっ! せっかく「せりな」って呼んでくれてたのに、いつのまにか「観月さん」に戻ってる」


「ごめん・・・せりな。・・・それで、その、結婚の返事は・・・OKということでいいのだろうか」


「あ! ・・・えっとその、よろしくお願いします。私ももう先輩・・・悠斗さんのことは絶対に離しませんからね」


「せりな」


「悠斗さん」




 こうして俺はせりなと結婚することになった。

次回第6章のクライマックスです


ぜひご期待下さい

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