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第167話 エメラルド王国の滅亡

 王都エメラルドの前面に広がる平原には各貴族家の騎士団が集結し、俺たちたった6人に相対している。敵が全部で何人いるのかわからないほどだ。


 その大軍から俺たちに向けて一斉に矢が放たれた。いよいよ最終決戦の開始だ。


 迫りくる無数の矢を背にラルフが俺たちに向けて、


「さあ俺達の手でこの腐った王国にトドメを刺そう。盛大なフィナーレを飾るエメラルド葬送曲の開演だ」


 そしてラルフが前に走り出そうとするところを、デインが待ったをかけた。


「その前にだ。まずは俺の一発芸を見ながら、みんな魔力を練っておけ。いくぞ」


 そういってデインはいきなり魔力を全開にし、



  【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】



 デインの展開したバリアーは、今まさに到達した無数の矢のことごとくを跳ね返し、その一本たりとも勇者パーティーに届かせることはなかった。


「やるなデイン、今度は俺の一発芸だ。これを見てビビるなよ」


 そういうとラルフは七色のオーラを解き放った。


 勇者のオーラだ。


 ケタ外れの魔力がラルフから一気に放出されると、七色のオーラが渦を巻いて空へと立ち上ぼり、それが再びラルフめがけて降り注いで身体へと戻っていく。


 オーラが還流して身体が七色に輝き出すと、ラルフが「よし」と頷き、空気を引き裂くような超音波を発生させながら一気に敵騎士団めがけて突撃して行った。


 敵騎士たちも猛然とラルフに襲いかかるが、ラルフのオーラに触れた瞬間騎士たちは魔力によって蒸発し、この世から完全に消失させられた。


 そしてラルフが敵の奥深くに進行していった跡は、何人も存在しないただの空間が虫食いのトンネルのように残されていった。




「ラルフの魔力は相変わらず破格だな」


 俺はただただ感心し今度は視線をセシルに向けた。するとセシルは、今まさに大魔法を発動しようとしていた。



  【雷属性固有魔法・トールハンマー】



 セシルから発射された雷神の槌は、準光速まで加速された膨大な荷電粒子となって、騎士団に容赦なく照射された。


 空気をプラズマ化させながら光り輝く粒子ビームが拡散し、何テラWあるのか分からない大電力をあびた騎士たちは、その身体を無惨に焼かれながら感電死していく。


 ここで死ななかった騎士たちも、荷電粒子の制動輻射による強力なX線被曝を受け、将来的にどのような運命になるのかは神のみぞ知る。


 同じ死ぬならラルフに殺された方がまだましだと思えるほどの惨たらしいありさまに、俺はゾッとした。


「セシルは普段はクールなのに、戦い方はラルフ以上に苛烈だな」




 そして聖女クレアだが、こいつの攻撃が一番やばかった。どこが聖女なのか疑いたくなるようなその魔法は、



 【聖属性魔法・死神の囁き】



 クレアから解き放たれた禍々しいオーラが騎士たちを包み込み、瞬時に全員の命の炎を吹き消した。生命を司る聖属性により魂そのものを破壊するその魔法は、行使されるといかなる防御も行うことができず、確実な死が待っているだけであった。


「クレアは完全に死神だよな」




 さて俺もそろそろ行くか。雑魚をいくら倒しても無駄に戦死者が増えるだけ。だから俺は、この王国の諸悪の根源を叩きに行く。


 俺と観月さんは邪魔な魔導士のローブを脱ぎ捨てて、身軽な国防軍の制服姿に戻った。


「それでは観月三尉、ラルフ達が敵を引き付けている間に、我々は敵陣営中枢に突撃してエメラルド国王を倒す。デインは盾としてその役割を全うしてほしい」


 ラルフは自分たちをオトリにして敵騎士団を引っ掻きまわし、その隙に俺と観月さんがエメラルド国王を倒すという作戦に出たのだ。


 本当は自分が戦いたかったらしいのだが、貴族たちの後ろに控えているエメラルド国王とその王族はやはりかなり強く、冷静な戦力配分の結果これがベストという結論に至ったそうだ。


 普段の猪突猛進がウソのようだが、ラルフは時と場合をわきまえて、キチンと頭の切り替えができる男なのである。




「了解よ安里三尉。私たちの手でこの戦争に終止符を打ちましょう」


「盾役こそは我が誉れ。俺たち勇者パーティーの最強の剣であるセリナ・ミツキとアサート・メルクリウス。お前たちとともに戦えたことを誇りに思うぞ」


 こうして俺達3人は、デインの護国の絶対防衛圏に守られながら、敵騎士団の背後にあるエメラルド城門に向けて突撃した。





 城門をメテオで破壊して俺達が入った王都エメラルドは、貴族同士の魔法戦を恐れて領民たちが逃げてしまった、ゴーストタウンであった。


 そして城門を破壊されて狼狽する王都防衛の騎士たちをデインがバリアで弾き飛ばしながら、俺たちは王都の中を堂々と進軍し、ついに都の中心にそびえ立つエメラルド城の前に到達した。


 ただの貴族ではとても俺たちに敵わないことを悟ったエメラルド国王は、俺たちを直接倒すために、王国最強の魔力を持つエメラルド一族の王子たちと共に、王城の城壁で仁王立ちになり俺達に対峙した。


 国王を探す手間が省けた。


「貴様ら、この神聖不可侵の王都エメラルドに土足で侵入してきて、まさか生きて帰れると思うなよ」


 国王の言葉に、俺はそのまま言い返す。


「お前がエメラルド国王か。この腐った王国にふさわしい汚く淀んだ目だ。勇者ラルフの言う通り、貴様を倒さない限りこの王国は浄化されないようだな」


「この賊が!」


 それだけ吐き捨てると国王は魔力を爆発させた。


 さすが国王だけあってただの貴族とは桁違いの魔力であり、勇者ラルフにもひけを取らないほどの魔力のオーラが、エメラルド城の城壁から空高く渦巻き立ち上ぼった。


 国王のオーラが重低音の悲鳴をあげる。


 王子たちも国王と同様のオーラを発動させて、それらがすべてが融合したその時、



  【火属性固有魔法・太陽の抱擁】



 この魔法も・・・俺の知らない固有魔法。


 だがエメラルド国王は運がなかった。たとえ強力な固有魔法であっても、俺達に火属性魔法は効かない。




 俺と観月さんは護国の絶対防衛圏から外に出て、国王たちが放った太陽の抱擁の前に、あえて立ちはだかった。


 エクスプロージョンを遥かにしのぐケタ外れの熱エネルギーを発生させる、火属性の最強魔法。


 その名の通り、表面温度が約6000度、中心温度は約1500万度に達するとされる太陽が地上に出現したかのように、俺と観月さんに襲いかかった。


 後ろでデインが叫ぶ。


「アサートすまん! この魔法はさすがに俺の魔力では持ちこたえられそうにない、一度後方に下がる」


「デイン、ここまでありがとう。できれば王都の外まで引いて、誰もこの街の中に入れさせないでほしい」


「わかった!」


 そう言うとデインは急ぎ王都を脱出した。




「それじゃあ安里三尉。私たちは前に進みましょ」


 観月さんはそう言って俺の手をつなぎ、二人で国王の前へと進んだ。そして、


「「魔法防御シールド全開!」」


 俺たちは魔力保有者なら誰でもが持つ普通のバリアーを展開した。自分の魔力を下回る魔法攻撃はこれで防ぐことができるため、魔導士同士の戦いは個々の魔力の強さで勝負が決まることが多い。格が違いすぎると戦いにすらならないのだ。


 だから・・・。





 エメラルド国王の固有魔法・太陽の抱擁がその役目を終えて消失し、破壊の限りを尽くした結果、王城前の街並みには表面が融解してガラス状の物質が生じるほどの熱破壊の跡が残された。


 だが、


「そんなバカな・・・なぜお前たちは生きている?」


 俺と観月さんは傷一つ付けられることもなく、国王の前に立っていた。


「なぜ生きているか? 簡単なことだ。それはお前が魔導士として俺たちよりも遥かに格下だからだ。お前がどんなに魔力を振り絞ろうとも、俺たちには傷一つ付けることはできない」


「そんなわけがあるか! 私は国王、王国最強の一族・エメラルド家当主だぞ! お前たちのようなどこの馬の骨かもわからないような虫けらに劣るわけがない」


「エメラルド? そんな名前聞いたことがないな。アージェントやクリプトンならまだしも、お前はその遥か下じゃないのか。何が王国最強の一族だ、聞いて呆れるぜ」


「エメラルドが、アージェントやクリプトンの下だと・・・ふざけるな! あいつらはただの貴族、王族の方が上に決まっている!」


「だとしたらエメラルド家は何かの間違いで王族になっただけだろう。なぜなら、エメラルドという名前はSubjectsのシリーズの中に存在しないからだ」


「Subjectsシリーズだと? なんだそれは」


「魔法文明ジオエルビムの強化人間・Subjectsだ。Type-メルクリウス、ネプチューン、ビスマルク、ランドン、クリプトン、アスター、アージェント計7種。この中にエメラルドなど存在しない!」


「・・・そ、その名前は」


「何か心当たりがあるようだが、お前のくだらない話を聞く時間はもう終わりだ。これからお前は自分の得意とする火属性魔法で、これまでの行いの報いを受けることとなる。いくぞ!」




 そして俺と観月さんは、魔力を一気に解き放った。


 大地が震えるような重低音を響かせながら、俺たち二人の魔力がどんどん上昇していく。


 それは遠く王都外の平原で戦っていたラルフや敵騎士たちにもハッキリとわかるほどの、魔力の波動であった。


 そしてこの異常な魔力の膨張に誰もが戦いをやめ、王都内で起こりつつある異変をただ呆然と眺めるのであった。


「な、なんだあの巨大な魔力は・・・」


「こんなケタ外れの魔力が、この世に存在するのか」


「勇者パーティーの二人組の魔導士の仕業だ。本物のバケモノかよ」


「勇者より遥かに上じゃないのか、あいつら」


「魔王だ・・・・あいつらは絶対に人間じゃない! あいつらの正体は本物の魔王なんだ」


 わずかに残った王都防衛の騎士たちは、あまりの恐怖に我先にと城門の外へ逃げ出した。






 禍々しい赤いオーラの閃光を放つ二人の魔導士は、国王たちの前で、美しい日本語で朗々と詠唱を行う。




【地の底より召還されし炎龍よ。暗黒の闇を照らし出す熱き溶岩流を母に持ち、1万年の時を経て育まれしその煉獄の業火をもって、この世の全てを焼き尽くせ。 天空の覇者太陽神よ。無限の炎と輝きを生み出せしその根元を、我が眼前に生じせしめ全ての力を解放し、この大地に永遠の滅びをもたらさん。 降臨せよ、降臨せよ。死を司る冥界王よこの地上へと降臨し、天上神の創りし幾年生きる全ての衆生、大洋山河の万物を悉く爆砕し、凡そ全てを無に帰さん】



 火属性上級魔法・エクスプロージョン!!




 完全詠唱。


 それはエメラルド城上空に、二段重ねになった巨大な魔法陣を生じせしめ、その中心から双子の白い光点が産み落とされた。


 仲良く並んだ2つの光点がクルクルと回転しながら、ゆっくりとエメラルド城へと落下していく。


 城を守っていた軍用の魔法防御シールドは、その光点が触れた瞬間、軋みをあげて霧散した。


 遮るものが何もなくなった王城の上空を、白い双子の光点が手をつなぎながら落ちていく。そして城の尖塔に触れた瞬間、



 それは炸裂した。



 国王が放った太陽の抱擁などまるで児戯のごとく出現した本物の地上の太陽は、膨大な閃光を周囲に撒き散らしながら、王城はおろか周辺の建物をも巻き込んで、全てを蒸発させていく。


 エメラルド国王とその一族は、その閃光を浴びて苦しむ間もない刹那の瞬間に、この世から完全に消え去った。





 後の歴史書には、エメラルド王国の最後がこう綴られている。


 2人の魔王が放った途方もない炎は、王都を包み込んでもなお一昼夜全てを焼き続け、その禍々しい閃光は地平線の彼方からでもハッキリと見ることができたという。



 こうして、腐敗貴族たちの温床だったエメラルド王国は、無人の荒野と化した王都とともに完全に滅亡した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?城には侍女とか侍従とか平民が働いているはずで彼らごと燃やしたのでしょうか?仮にそれなら魔王ですね。それとも描写が無いだけで避難させてるんでしょうか?
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