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第166話 聖女の密かな目的

 男爵家は滅んだ。


 俺たちが領主を倒して男爵家がなくなっため、教会の借金は全てチャラになった。


 ついでにラルフは、男爵家にあった金銀財宝を街の住人に配り、教会も当面の運営に困らないほどの資金を得ることができた。


 男爵の妻が恨めしそうな目でラルフを見ていたが、


「領民たちから不当に奪ったものだろ。諦めろ」


 妻がガックリしているのを見ながら、俺はふと心配になってラルフに聞いた。


「ラルフ、悪徳貴族がいなくなったのはいいけど、この領地をそのまま放っておいてもいいのか? 統治者がいなくなったぞ」


 だがラルフは、


「構わないさ。貴族なんてどこからでも沸いて出てくるから、そのうち別の貴族がここを治め始めるよ」


「でもそいつがまた悪徳貴族だったらどうするんだ」


「また倒す」


「・・・・・」


「じゃあ、俺たちはそろそろ行くか」


 特に何もしないようだった。


 この国のことは俺もよくわからないのでラルフの判断に任せることにし、俺たちはいつものように街の住人に感謝されながら次の街へと旅立とうとすると、


「わたくしも皆様とご一緒させてください」


 クレアがそう申し出て来た。





 クレアに事情を聞くと、今回の騒動は自分の「聖女」としての価値を悪徳貴族に狙われたことがきっかけで起きたものなので、このまま教会にいたらまた同じようなことが起きてしまい迷惑をかけてしまう。だから、教会から離れるべきだという結論になったらしい。


 ただ修行の身であるため、シリウス教国には帰ることができず、神父さんと相談した結果、いっそ勇者パーティーに参加すればいいのでは、ということになったそうだ。


 そのクレアの申し出にラルフたちは大喜びし、クレアは6人目のパーティーメンバーとして迎え入れられた。



 そんなクレアは、陰でこっそりと悪い笑みを浮かべていた。


「これで安里くんを私の人生初彼氏にしてやるんだ、ウシシシ」





 聖女クレア・ハウスホーファが仲間に加わり6人になった俺たちのパーティーは、再び悪徳貴族の討伐の旅を続けた。


 クレアが加入したことで俺は回復担当から卒業し、遠隔攻撃魔法担当へと華麗にジョブチェンジした。そして観月さんが前衛に回されることになったのだが、


「クレアが安里先輩に馴れ馴れしくするから、私も後衛がいいです」


「大丈夫よ、せりなっち。安里くんの面倒はちゃんと私が見てあげるから。なんたって私は女医だし」


「その女医ってところが、なんかいやらしいイメージなのよね。しかも男に飢えた三十路の熟女だし」


「それはひどい偏見よね。ねえ安里くん、せりなっちがエッチな妄想をしているよ」


「してませんっ!」


「もうわかったから、観月さんも後衛でいいよ。なあラルフ」


「別に構わんぞ。それともアサートが代わりに前衛に来るか」


「「ダメですっ!」」


「・・・アサート、君はモテるな」





 そんな感じで俺はなぜかクレアさんに気に入られていたのだ。


 生前のクレアさんは、親の跡を継いで開業医をしていたそうだが、その前は大学病院で外科を専門にしていた。


 再生医療の勉強もしたことがあるらしく、俺とクレアさんは暇なときは研究の話で盛り上がったり、医療分野以外にも様々なテーマで議論した。


 そのたびに会話について行けない観月さんが、つまらなそうにしていた。そんな観月さんに、セシルが気を使って声をかけてきた。


「セリナ、暇なら俺が話相手になってやろうか」


「セシルさんが? セシルさんって、もう婚約者がいるんですよね。私なんかと二人っきりで雑談したら、それはもう浮気でしょ」


「・・・・雑談をしたぐらいで浮気認定されるとは、せりなは少し厳しくないか」


「やっぱり私は厳しすぎますか?」


「そうだな。アサートだって、たまには別の女の子と雑談ぐらいはするさ」


「そ、そうよね・・・雑談ぐらいは許してあげてもいいよね。ちょっと反省しようかな」


「それに貴族は普通、嫁の2、3人はいるものだよ。クレアも嫁として認めてやればいいじゃないか」


「それは絶対にダメ。そもそも安里先輩は平民です。だから嫁は1人ですっ!」




 そんな様子を呆れたような目で見ていたのがラルフとデインだ。


「悪徳貴族を討伐する世直しをしてる時に、何をやってるんだあいつらは。聖女クレアが加入してからというものの、あいつら恋愛の話ばかりしているじゃないか。セシルも完全にあいつらに取り込まれてしまったしな」


「ラルフの言う通りだ。俺は暴れられればなんでもいいから、早くエメラルド国王を倒しに行こうぜ」


「デインとは話が合うな。やはり男は強くてなんぼだ。恋愛のことを気にする方がおかしい」


「強さか・・・。お前から見てアサートの強さはどう写っている?」


「・・・あいつは強い。直接戦った訳ではないが、たぶん僕よりもかなり上だろう」


「勇者のお前から見ても、あいつは上に感じるのか」


「ああ。セリナもそうだが、あの二人の魔力には底が知れない。それに魔法に関する知識も豊富で、僕たちが思いもしないような使い方までする。あいつらこそ世界最高の大魔導士とその弟子だよ」


「・・・何者なんだろうな、あいつら」





 聖女クレアを加えた俺たち勇者パーティーの噂はやがて王国中に知れ渡り、虐げられていた平民たちにとっては希望の星に、貴族たちにとっては自分の権益を脅かす害虫になっていた。


 貴族たちは躍起になって勇者パーティーを潰そうとしたが、どんな貴族家も俺たちを倒すことはできなかった。やがてその強さを実感した貴族たちは、互いに連携して組織力で立ち向かってくるようになった。


 それでも2、3の貴族が連合した程度では勇者パーティーに対抗できないことがわかると、貴族連合は拡大を続け、ついにはエメラルド国王の元すべての貴族が一致団結するまでに至った。


 後世に数多くのエピソードを残すことになる俺たち勇者パーティーの旅も、いよいよ最終局面が近付いてきた。


 俺たちはまもなく王都エメラルドに到着する。





 だがそんな決戦の雰囲気をぶち壊すのは、決まっていつも聖女クレアだった。


「ねえねえ安里くーん、症例タイプBで使用する予定だったプローブAIのアルゴリズムを教えてよ。医療従事者サイドからコメントしてあげるから」


「クレアさん。今は決戦前でそれどころではないと思いますが・・・少しだけなら。まずプローブAIにはいくつか種類があって、最初にプロトタイプの」


「安里先輩っ! もうすぐ王都ですよ。クレアなんかと話をしている場合じゃないでしょっ!」


「せりなっちも一緒に話を聞こうよ。面白いよプローブAI」


「せりなっちって呼ばないで。クレアはなれなれしいのよ」


「せりなっちだって、私のことをクレアって呼び捨てじゃない。なれなれしいのはお互い様でしょ」


「私は親しみを込めて呼び捨てにしてるんじゃないの。こんなヤツなんか、もう呼び捨てでもいいやって気持ちなの」


「せりなっち、ひどい! 私たちは将来的に2人とも安里くんの嫁になるんだから、もっと仲良くしようよ」


「嫁っ! 私たちは別に、まだそんな関係ではなくて、その・・・」


「あ、そう。じゃあ私が安里くんをもらうね」


「それは絶対にダメ」


「どうしてよ? あなたたちはそういう関係ではないんでしょ」


「「まだ」そういう関係ではないだけで、そのうちに・・・先輩が・・・ごにょごにょ」


「でも安里くんは貴族になるんだから、嫁が2、3人いてもおかしくないじゃない」


「安里先輩は平民ですっ! 嫁も1人しか認めません。・・・それともまさか先輩は、貴族になってハーレムを築くためにラルフと共に行動していたんじゃないでしょうね」


「観月さん、俺にそんなことができると思うか。一人の女性のことでも手一杯なんだから」


「そ、そうよね。安里先輩は一人の女性だけを愛するのよね。・・・チラッ」


「安里くーん、せりなっちより私の方が安里くんと話が合うと思うよ。私はいつでもウエルカムだから乗り換えてきてもいいからね」


「あーっ、ついに本性を出したわね、この三十路女。私の先輩を取らないでよっ!」


「ふん、覚悟を決めた三十路の喪女を甘く見ないことね。安里くんをとられないようにせいぜい頑張りなさいよ、せりなっち」




 すると、セシルが俺たちの方にやってきて、


「あいかわらずアサートはモテてるな。クレア、俺ならいつでもOKだから、アサートから乗り換えないかい?」


「うーん、セシルか~・・・。セシルは確かにクール系でかっこいいんだけど、三十路の私にはちょっと眩しすぎるんだわ」


「三十路って、クレアはどう見ても10代後半にしか見えないんだが・・・」


「見た目はね。まあ、とにかくセシルはパス。ごめんね~」


「だったら、セリナが俺に乗り換えないかい。アサートは奥手だから告白を待っていたらおばあさんになってしまうよ」


「い、いえ・・・私はその・・・先輩のことが・・・その」


「・・・おいアサート、見て見ろよこの子の反応を。こんないい子をいつまでも待たせてるんじゃないぞ。早くセリナを嫁にしろ!」


「セシル・・・それはそうなんだが・・・きっかけがその・・・」




「おいセシル、この2人をからかうのはよせ」


「デイン。しかしこいつらがもどかしくて、もう見てられないんだよ」


「気持ちはわかるが、黙って見守ってやるのが大人の対応だ。見ろ、ラルフなんかこいつらのラブコメには完全ノータッチを決め込んでいるぞ」


「ラルフは単に戦いにしか興味がないだけだと思うが、・・・ちょっとヤバイな。あいつ屈伸運動を始めたぞ。今にも一人で突撃しそうだから、あいつの所に戻ってるよ」


「おう、そうだな。俺はあの3人を急がせるから、お前はラルフを足止めしておいてくれ」

次回決戦です


ぜひご期待下さい

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― 新着の感想 ―
[一言] SFになったなぁと思ってたら一つラノベにできそうな話になりました。しかし、相変わらずなぜ主人公がここまでモテモテになるかわからないですね。
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