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第165話 症例タイプA

聖女編の続きです



 ここの領主は男爵のようで、そのあたりのゴロツキ騎士爵とは異なり、しっかりした城壁の城とそれなりの数の騎士団を備えていた。


 固く閉ざされた城門の前に立つ、俺たち6人。


 そしてリーダーのラルフが俺たちに向かって、


「今から作戦を伝える! 俺たちはこれからこの城門を突破し、中の騎士団を壊滅させ、領主のクビを討ち取る。以上だ!」


「それのどこが作戦だよっ!」


 俺は一応ツッコミを入れてみたが、ラルフは涼しい顔で俺に城門を破壊するよう指示をする。俺はセシルの気持ちがわかってきた。


 ほんとヤレヤレだぜ。




 俺はみんなから少し離れて、誰にも聞こえないような小さな声で、ある呪文をこっそりと詠唱した。



【空にきらめくお星さまたち、どうか私に力を与えてください。今週の宇宙のスピリチュアルパワーはおとめ座の方角を指し示し、新月の夜から三日月の夜にかけてパワーは極大化するでしょう。そして土星の輪の上でラブなウィッシュはコズミック・ポエムを奏でるのです。さあ、みんなで宇宙のパワーを信じましょう、そうすれば星は私たちの願いを必ずかなえてくれます。みんなで輪になって祈りましょう、そうすれば星は必ず私たちの前に姿を現します】


 土属性上級魔法・メテオ!




 城門の遥か上空に生じた巨大な魔法陣。そこから現れたのは巨大な岩石の質量体。


 ウォールが地面から岩盤を隆起させる魔法なら、このメテオは岩盤を遥か上空に出現させる。


 その膨大な位置エネルギーを自由落下によって運動エネルギーへと変換し、猛烈なスピードで城門に衝突したその巨大な岩石は、激しい衝撃と共に城門をいとも簡単に押しつぶした。


 粉々にはじけ飛んだ城門のかけらはメテオの岩石とともに周りの堀を埋め尽くし、俺たちはそのがれきの上をよじ登って、悠々と城内に侵入する。




 セシルが俺の所にやってきて、耳元でこっそりとささやく。


「なあアサート、そろそろメテオの呪文も俺たちに教えてくれよ。俺たち仲間だろ」


「いや、あの呪文はちょっとダメなんだ。とても人様に教えられるような呪文ではないからな」


「いつもは何でも教えてくれるのに、なんでメテオはダメなんだよ、ケチ」


 俺も教えてあげたいのだが、なんなんだ、あの呪文は。どこのスピリチュアル野郎だよ、あんなの気持ち悪い呪文を考えたやつは!


 そもそも日本にいる奴らは、自分達が魔法を使えないもんだから、わざと変な呪文にして俺達に嫌がらせをしているとしか思えない。





 城門をいとも簡単に突破された騎士団は、俺たちが6人しかいないことを見て一瞬恐怖に顔をひきつらせるが、構わず突撃を開始してきた。


 戦ってみてわかったが、今回の敵は魔法防御シールドも使うし、様々な魔術具も保有するそれなりの軍隊だった。やはりそのへんのゴロツキ貴族とは訳が違う。騎士一人一人の戦闘力も高いし、集団としての戦闘力も段違いなのだ。


 俺と観月さんには強力な魔法があるものの、大規模破壊魔法を使用すれば街ごとまとめて吹き飛んでしまい、城下町に住む関係のない領民を巻き込んでしまう。


 だから必然的に格闘戦を選択することになるが、そうするとたった6人では人数が少なすぎ、敵の数の多さに戦いは長期戦の様相を呈してきた。




「観月さん、大丈夫?」


「私は平気です。自分の属性じゃないから効率は悪いけど、光属性魔法キュアを使いながら戦ってるので私のことは心配しなくても大丈夫ですよ。それよりも他のみんなのことを気にしてあげてください」


「わかった。俺も彼らにキュアをかけてくるよ」


 そういって、ラルフたちの方に向かおうとすると、クレアが先にキュアをかけ始めていた。


 そうだ、今回は聖女が仲間にいるんだった。ここは本職のクレアに任せた方が確実だろう。




 そして、クレアがキュアを唱える。



 【キュア キュア キュアリン メディ メディ メディシン プリティーパワーで ナイチンゲールになあれ♥️】光属性魔法・キュア




「な、な、なんだあのキュアはっ!」


 俺はクレアが放ったキュアのあまりの完成度の高さに、大きな衝撃を受けていた。


 まず詠唱の発音が完璧だった。


 もともと日本語なのか英語なのかもよくわからないような変な呪文ではあるのだが、とにかく全く違和感なく聞き取れるのだ。


 これが聖女の力なのか・・・。



 しかも彼女は、ただ呪文を唱えているのではない。


 振り付けまでついているのだ。


 そう、まるで日曜の朝にやっている魔法少女アニメの主人公たちのように。



 クレアはたしか、シリウス教国で教育を受けて正式な聖女になったと言っていたが、この呪文や振り付けもシリウス教国で習ったものなのか?


 ・・・シリウス教って、どういう宗教?





 俺が呆然としているうちにいつしか戦いは俺たちの優勢に転じ、ラルフが突撃して男爵のクビを討ち取って、戦いは終わった。


 クレアの支援魔法のバフにより、俺たちの攻撃力がさらに跳ね上がったのだ。



「ラルフの作戦通りになってしまったな・・・」



 ラルフが男爵のクビを高く掲げ、セシルとデインが戦意を喪失した騎士たちを次々と拘束していく中、俺だけはシリウス教のことが頭から離れず、彼らの様子をボーッと見ているだけだった。


 もうシリウス教のことが気になり過ぎて、俺は思い切ってクレアに聞いてみることにした。


「クレア、俺にシリウス教のことを教えてくれ」


「あら、シリウス教の信者になりたいのですか?」


「信者にはなりたくないんだけど、さっきのキュアがすごかったから、あれがシリウス教国で教わったものなのかが気になって」


「信者になりたくないって、そんなにハッキリと断らなくてもいいじゃないですか。一度ゆっくりと神について語り合いましょう」


「いや、神様は間に合ってます。それよりもキュアの呪文について教えてほしい」


「うーん・・・そう言われましても、シリウス教国では何か特別な魔法の教え方をしているわけではありません。普通だと思います」


「じゃあ、その振り付けはどこで教わったの?」


「アサートさん、あれかわいかったでしょ。えへへ。もしかしてあの振り付けのことが気になります?」


「うん、気になる。すごく気になる」




 そこへ観月さんも会話に加わってきた。


「私もクレアさんの魔法を見てたけど、あれって日曜の朝にやっていた魔法少女アニメ「魔法のプリンセス♥️キュアりん!キュアキュア」の2期の後半から登場した変身ポーズよね。私も小さいころよく練習してたから覚えているのよ」


 すると今度はクレアさんが衝撃を受けたような表情で、


「日曜の朝っ、魔法少女アニメって、え? え?」


 観月さんは得意げに


「やっぱり! クレアさんはズバリ、転生者でしょ。私の本の知識によると、こういうおかしなことをしでかすのは、大抵が転生者なのよ」


「観月さんはラノベの読みすぎで、考え方が何でもラノベ基準なのがどうかとは思うが、今回のは正しいと思うよ」


「・・・観月さんって、あなたたち日本人?」


「そうよ。ここにいる安里先輩と2人、この世界に飛ばされてきたのよ」


「安里・・・アサート・・・ぷっ、中二病みたい!」


「ひどっ、先輩のことをバカにしないで!」




「ご、ごめんなさい。・・・でもそっか。あなたたちも私と同じ、日本からの転生者だったんだ。あなたたちは日本の名前をそのまま使ってるけど、見た目は完全にこっちの世界の貴族よね。どういうことなの?」


「私たちは転生者ではなく、日本からこの世界に転移してきたの。ほらこれを見て」


 そう言って、観月さんは魔導士のローブを脱ぎ捨てた。


「それ国防軍の制服だ!」


「そうよ。私は日本国防軍サイバー部隊に所属する、観月せりな三尉よ。そしてこの安里先輩は日本政府が進めるSubjects runes計画のエース研究員でもある、安里悠斗三尉です!」


「あなたたち国防軍だったんだ! じゃ、じゃあ、ひょっとして私を助けに来てくれたの? 私を日本に送り返してもらえるの?」


「そ、それはちょっと・・・」


「どうしてよ! 私を助けるために日本からここまで来てくれたんじゃないの? 私を日本に連れて帰ってよ。もう、こんな世界は嫌なの。私を助けて!」


「すまない。実は俺たちも原因不明の現象でここに転移させられて、日本へ帰る方法がないんだよ」


「そ、そんなあ・・・」


「・・・俺たちはこの世界で生きて行こうと決めたんだけど、クレアさんは日本に帰りたいの?」


「そんなの帰りたいに決まってるでしょ。こんな貧しくて不潔で野蛮な世界なんてイヤなのよ。私はこれでもセレブな女医だったんだから」


「クレアさんって、日本では女医さんだったの? てっきり女子小学生か何かだと。だって魔法少女の振り付けがノリノリだったから」


「はっ、しまったっ! くーっ、まさか日本からの転生者がいるとは思わないから、調子にのって魔法少女になりきってしまった。一生の不覚・・・」


「ぷーっくすくす。さっき先輩のことを笑ったから、罰が当たったのよ。ふんだ」


「なんでアサートを笑っただけでそこまで言われなきゃいけないのよ。あーっ、さてはあなたたち、ひょっとして付き合ってるの?」


「え? わ、わ、私たちはまだ付き合っていません。でもそのうち、きっと先輩が・・・」


「そ、そっか、そうよね。私を差し置いてあなたが先に恋人を作るなんて、順番が逆だしね」


「順番が逆? それどういうこと?」


「・・・私まだ男の人と付き合ったことがないから」


「え、あなたセレブな女医だったんでしょ?」


「そうなんだけど、なぜか素敵な男性と知り合えないまま・・・ついに30を過ぎてしまったのよ」


「・・・・・」


「ちょっとそこで黙らないでよ、なんか反応して!」




「あの、女子トークに割り込んで申し訳ないんだが、クレアさんはどんな風に転生したか覚えてますか」


「トラックにひかれて気がついたら5歳の今の自分になっていたのよ」


「トラック! なるほど、やはりそうか」


「安里くん。トラックにひかれると、なんでなるほどなの?」


「クレアさん。安里先輩に「くん」付けなんて馴れ馴れしい呼び方、やめてもらえませんか。それに異世界に転生する場合、トラックにひかれるのは当たり前のことですっ!」


「いや待って、観月さん。俺が言いたいのはそういうラノベのお約束の話じゃなくて、脳再生医療の際に稀に発症するタイプAの話なんだよ」


「それって、私がジオエルビムに拉致される原因になったあの再生医療のこと?」


「そう。観月さんの場合はタイプBと言って、発症から長くて数ヶ月は生き延びられる。これはジオエルビムの人体実験が原因だと分かってるので今は治療が可能となった。だがタイプAは1時間以内に必ず死ぬので、ジオエルビムの拉致とは無関係だ。タイプAはおそらく自然発生的に生じたこの世界への転生なんだよ。そして転生が完了するまでの時間が、その1時間なんだ」


「安里くん、それってあの脳再生医療の症例タイプAの話よね。タイプAってそんなからくりになってたんだ、知らなかった。ていうか安里くんも医者?」


「いえ俺は、症例タイプBの原因を究明する医療機器を開発していた研究者で、量子コンピューターが専門のドクターコースの学生です」


「へえー、安里くんって優秀なんだね。そっかそっか、ふむふむ」


「ちょっと、クレアさん! 安里先輩をいやらしい目で見るのはやめてください!」

聖女編はもう一話続きます


次回もご期待下さい

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