第162話 ラルフとセシル
今日は話の内容から2話に分けました
夜にこの続きをアップしますので、ご期待下さい
俺達はこの街に3日ほど滞在し、当面の資金を稼ぐため、デインとともに冒険者ギルドのクエストをこなした。
最初は冒険者全員を倒すほどの腕を買われ、街の有力者から用心棒になってほしいと頼まれたが、すぐに旅立つことを理由にそれを断った。
ギルドからは貴族退治を強く勧められたが、ジオエルビムとの戦争中に他国との間に余計なトラブルを起こすことは、国防軍兵士としてさすがに認められないことから、これも固辞した。
結局、他の冒険者が手を出せないような高難度の魔獣退治を専門に行うことにしたのだが、受付嬢が言うほど魔獣が強くなかったため、俺たちは次々とクエストをクリアーしていき、あっという間にしばらくは困らない程度の稼ぎを得ることができた。
そしてこの街を旅立つ日、俺たちは防具屋で魔導士用のローブを2着購入し、ローブの下に再び国防軍の制服を着用した。
「安里先輩、どうしてこんな服の着方をするんですか」
「国際法上軍隊は軍服の着用を義務付けられており、俺達はこの制服を着ている限り国防軍の兵士として法的に保護される。公務中の事故で飛ばされた俺達がこのエメラルド王国で危険にさらされ、敵に反撃をする場合は、ネガティブリストに抵触しない限り正当な軍事行動として擁護される」
「そこが旧自衛隊との違いですね」
「そうだ観月三尉。俺達はこの制服を着ている限り、この異世界にあっても日本国の戦う国家公務員なんだよ」
「た、戦う国家公務員!?」
そして俺達はこの前忍び込んだ農家の前に行き、勝手に拝借していた服を多少の金銭とともに置いてきた。そして林の中の最初に転移してきた地下空洞から当面必要な魔術具を持ち出し、その後地下空洞を魔法で封鎖した。
「さあ、これで準備完了。これからジオエルビムを目指して出発だ」
「了解しました、安里三尉!」
そういって観月さんはきれいな敬礼をし、デインはそれを不思議そうに見ていた。
「お前たち、なんだよその三尉って?」
こうして俺と観月さん、それに新たに仲間に加わったデインとの3人旅が始まった。
この3日間のクエストでもわかったが、デインは見た目どおりその巨体を活かして大剣で敵をなぎ払うような戦い方をする。大型の魔獣でも一撃で葬れるだけのパワーがデインにはあった。
俺と観月さんは魔法を使った攻撃が主体になるが、このエメラルド王国という場所は、ジオエルビムとの戦場周辺とは異なり、魔法を阻害するバリアー等が展開されておらず、魔法が効きすぎてしまう。そのため当面は火属性魔法を封印し、他の属性魔法を使うようにした。
他のSubjects達の魔法なので俺や観月さんが使うと魔力を余分に使用する上、魔法の効果もかなり弱くなるが、このあたりの魔獣ならこれでも十分すぎるほどの破壊力があった。
そして、どうしても火属性魔法じゃないと対処できない魔獣には、詠唱を一言だけ唱えて魔法を発動させた。そうすることで、破壊力をかなりセーブできるとともに、結果として高速詠唱という利点が生まれることがわかった。
そんな俺達は、行く先々のギルドで魔獣討伐のクエストを受けて日銭を稼ぎながら、大きな街があるという西の方へと進んでいった。
旅を始めて10日ほどたったある日、俺たちのパーティーの前に若い男性2人組の冒険者が現れた。二人とも髪や目の色に特徴があり、デインが言うにはあれがこの国の貴族らしい。
「ねえ安里先輩。私たちが最初の街で注目を集めてたのって、うんちを必死に避けて歩いてたからじゃなくて、貴族の特徴があったからじゃないですか?」
「今から考えればきっとそうだね。でも観月さんのような綺麗な女の子が、うんちなんて汚い言葉を使ってはいけないよ」
「あ、安里先輩・・・綺麗だなんてそんな・・・」
「二人ともイチャつくのは後だ。あの2人がこっちに歩いてくるぞ」
その2人組は、1人はあざやかな金髪で目は紫の好青年、もう1人はダークブルーの長髪に黄色い目のイケメンだ。そして、金髪の方が俺たちに話しかけてきた。
「お見受けしたところ君たちは貴族のようだが、どちらの家門かうかがってもよろしいか」
まっすぐな目で俺たちを見つめるこの金髪青年、どうやら俺たちの反応を探っているようだ。
「俺たちはこの国の貴族ではなく外国から来た者で、たまたまこのエメラルド王国に立ち寄っただけ。すぐに国外に出るつもりだ」
すると金髪の青年はホッとした表情で、
「そうか、それはよかった。おっとこれは失礼、自己紹介がまだだったね。僕はラルフでこいつは、」
「俺はラルフの幼馴染で腐れ縁のセシルだ」
「俺はアサートで彼女はセリナ、そしてこの大男はデインだ」
俺たちは互いに握手を交わした後、少し話をするために酒場へと足を運んだ。
「それでラルフとセシルは、この国の悪徳貴族を倒すために旅を続けているのか」
「そうだ。貴族どもは自らの魔力を乱用して平民たちにやりたい放題、まるで奴隷扱いだ。もとはこんな国ではなかったんだが、今の国王になってから国は乱れ、貴族は欲望を隠さなくなった」
「だからと言って、たった2人で貴族全員を相手にするなんて無茶だ。そんなことをしたって何も変わらないし、命の危険だってある」
「だったら君は、こんな状態を見過ごせというのか。僕はこの命に代えても、この世の中を立て直す必要があると考えている。なあセシル」
「ラルフ・・・昔からお前は言い出したら聞かないからな。アサート、ラルフはこういう奴なんだ。まあ俺もラルフの考え方は嫌いじゃないから、こうしてついて来ているんだけどな」
どうやらラルフは理想に燃えるまっすぐな青年で、セシルはラルフの暴走を抑えるお目付け役みたいな感じか。タイプは違うが2人ともどこか好感が持てるな。
俺がそんな印象を2人に感じていると、ラルフも興味深そうに俺たちを見ている。
「しかし君たちは見事なまでに、貴族の特徴が出ているな」
「この髪や目の色のことか?」
「ああ、君たちは火属性が得意だと思うが違うか」
「まあ、そうだな・・・」
この世界の人間は、俺たちSubjectsだけでなく地上の人達も、魔力がある者には髪と目に同じ特徴がでるようだ。国防軍の基地に戻ったら色々と報告すべきことがありそうだな。
「ところで君たち2人はどういう関係だ。見た目がよく似ていて家族のようにも見えるが、少し距離感も感じられる。恋人同士なのか?」
「い、いや、俺たちはまだそういう関係ではなく、先輩後輩の関係だ」
観月さんも耳を真っ赤にして恥ずかしがっている。彼女がかわいそうだから、そういう話をするのはやめてもらいたい。
「その先輩、後輩ってなんだ?」
「・・・説明が難しいな」
「それなら簡単よ。安里先輩は全ての魔法を熟知していて、私は先輩から魔法を色々と教わってるのよ」
「なるほどつまり師匠と弟子の関係か。君たちは魔導士が本職のようだから、アサートが魔導士でセリナはその弟子だな」
「ちょっと違う気もするけど・・・まあいいか」
その時突然、飲み屋の中に大勢の男たちが流れ込んできた。全員鎧と兜をきちんと身に着けた騎士たちだ。
「やっと見つけたぞ、ラルフとセシル! 今日こそ貴様らの首をはねてやる」
ざっと30人ほどの騎士にとり囲まれて、それでもラルフは動じることなく、
「ここは他の客の邪魔になる。相手をしてやるから表に出ろ」
そう言ってラルフが騎士たちを外に連れ出した。セシルも「ヤレヤレ」といった表情で一緒に外に出ていく。
俺も観月さんとデインに目くばせをして、彼らの後をついて行くことにした。ラルフはどうやら街の中央の広場の方へと向かっているようだ。
ラルフとセシルのあの余裕の態度。
こういった修羅場を何度も潜り抜けてきたからか、彼らは自信に満ちあふれている。
2人で世直しをしているというその実力を、見せてもらうとしよう。
次回、ラルフ&セシル編の続きです