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第160話 Subjects Runes 計画

 俺達Subjectsは全員国防軍に任官し、ジオエルビムから奪取した施設で作られた制服と装備一式を与えられた。


「安里先輩のその制服、青年将校のコスプレみたいで、すごく似合ってます。かっこいい!」


「女性士官服を着た観月さんも、国防軍PR用の萌えキャラみたいですごく可愛いよ」


「本当ですか? じゃあ、私たちお似合いですね!」


「こらそこ、制服ごときでイチャつくんじゃない!」


 任官早々、隊長に怒られた。




 俺以外のSubjectsは国防軍兵士とともに拉致被害者救出のための軍事行動に参加し、俺は魔法開発の専任となった。


 そして大型ゲート施設の最上部にある通称「管理室」と呼ばれる部屋で、ジオエルビム製の端末とにらめっこをしながら魔法開発の日々を送ることとなる。




 ところでこのSubjects Runes 計画は、ジオエルビムと戦うために国防軍兵士が使用する魔法を開発する、産学官連携プロジェクトだ。


 うちの研究室を初め日本国内のいくつかの大学や国立研究開発法人、民間企業の研究所などがそれぞれの得意分野で役割分担し、この世界の魔法を解析して魔法陣に込められた術式をソースコードに変換、そして日本独自のより強力な発動術式を新たに構築。


 その術式を再びこの世界に情報として返送し、俺たち現地の研究者が再び魔法陣に組み直して魔術具として実装していく。


 さらにこの世界の人間に容易に使用させないよう、詠唱呪文を長い日本語に変更した。


 こうして完成した新魔法を、ジオエルビムで魔法の訓練を受けた俺達Subjectsが実証実験を行う。


 その記念すべき初の実証実験が、今日この大型ゲート内格納庫で行われる。





 今回完成させた魔法は3つ。


 火属性初級魔法ファイアー、光属性初級魔法ライトニング、そして土属性初級魔法ウォール。


 まず最初の実験はファイアーだ。


「この魔法は観月さんに撃って欲しい」


「え、安里先輩じゃなく、私でいいの?」


「ああ、観月さんにお願いしたい。そうすれば魔法開発者である俺たち研究チームとともに、世界初の魔法使用者として観月さんの名前も残ると思うから。もちろん、他属性の魔法もみんなに撃ってもらう。・・・俺達の肉体は日本ではすでに消滅してしまったが、こうすることで名前だけは残っていくはずだ。俺達が日本に確かに存在していたという証を残そう」


「ありがとう、安里先輩・・・」


「じゃあ、実証実験を開始する」




 国防軍の兵士たちや今日この実験ためにダイブしてきた先生や他の教授陣、研究室のみんなが見守る中、観月さんが日本製の魔法陣が搭載された新品の魔法の杖をしっかりと握りしめて、詠唱をはじめた。



「地の底より召還されし炎龍よ。暗黒の闇を照らし出す熱き溶岩流を母に持ち、1万年の時を経て育まれしその煉獄の業火をもって、この世の全てを焼き尽くせ! 火属性初級魔法・ファイアー」



 詠唱を終えた観月さんの持つ杖から、特大のプラズマ弾が発射され、超高速で正面の耐火シャッターに衝突し激しい轟音と衝撃波とともに爆散、消滅した。


 熱エネルギーの効率性のみを追求した攻撃力重視の無駄のない設計。俺達が以前ジオエルビムで訓練を受けていた時のファイアーと比べて、威力は格段に上だった。


 全員がその凄まじいまでの破壊力に呆然とする中、観月さんだけは実験の成功に飛び跳ねて喜んだ。


「やったー、安里先輩。実験は成功ですね!」


 すると先生が大きな拍手をしながら、実験の成功を褒め称えた。


「素晴らしい成功だ。今日我々人類は、核分裂、核融合に続く第五の火を手に入れたのだ」


 おおおーーーっ!


 周りからは大きなどよめきとそれ以上の歓声、そして拍手が巻き起こった。


 俺は先生や研究室のみんな、そして観月さんと握手して、日本製魔法の完成の喜びを分かち合った。だがさらに実験は続く。


 次は光属性魔法ライトニングの実験だ。




 全員に目の保護のための偏光グラスが配られ、実験の際の注意事項が細かく説明された。


 どうやらこの魔法は普通の光ではなく、コヒーレント光つまりレーザーを照射するように改良されたらしい。


 そしてこの実験は光属性を得意とするSubjectsであるType-アスターの山田豪さん(44)にお願いした。



「ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ! 光属性初級魔法パルスレーザー」



 山田さんの杖の先から強烈な閃光が発生し、実験は大成功だった。


 だが、実験場では実に気まずい雰囲気が流れていた。山田さんの野太い声と、詠唱呪文の言葉のイメージが全然あっていないのだ。


「誰だよ、この呪文を考えたやつは!」


「すみません。それうちの研究室の学部生で「20世紀魔法少女アニメ研究会」の会長が作ったやつです」


「・・・お前なあ。この魔法はこれから国防軍の兵士たちが使うんだぞ。ライトニングを撃つ度に、こんな気分にさせられたら、たまらんぞ。それに、山田豪さんの気持ちにもなってやれよ。この呪文が山田さんの名前とともに、歴史に刻まれてしまうんだぞ」


「・・・・Type-アスター山田豪さん(44)、大変申し訳ありませんでした」


「お、おう・・・次はしっかり頼むぞ」




 そして本日の最後に行われたのは、土属性魔法・ウォールの実験だ。この魔法は地面に発動する必要があるため、屋外の空き地で発動実験を行うことになった。


 先生によると、このウォールは今日の魔法の中でも最もこだわりの逸品だそうで、本来は土を隆起させる機能しかないこの魔法に、指定元素のみを地面から抽出して隆起できるようにしたものだ。


 細かいことが得意な日本人らしいこだわりかたであるが、それを魔術具に実装する俺たち現場研究者の身にもなって欲しいものだ。


 さて魔法を使うのはType-ランドンこと、テレアポ業界で働いていた加茂野サキさん(28)だ。


 加茂野さんの詠唱が始まった。




「都会の喧騒から解放され、緑溢れる田園を臨む高台に、幸せが広がる永遠の安住地、いま堂々完成! 土属性初級魔法ウォール」



 テレアポで鍛え抜かれた営業トークで発せられた加茂野さん魔法により、地表が突然黒く染まった。そこに俺がファイアーで火をつけて燃焼、二酸化炭素の発生を確認。


「炭素のみを分離して地表に出現させたことを確認しました。ウォールも成功ですね」


 わーっと歓声が上がる一方、この呪文に対してもクレームが上がった。


「なんだよこの呪文。マンションのチラシじゃねえんだぞ、もっと真面目にやれ!」


「加茂野さんには申し訳ないが、その美声で詠唱されると、もはや不動産屋の営業にしか聞こえないんだが」


「・・・・・」


 なんとも言えない微妙な空気が、人類初の魔法実証実験の場を支配してしまったのだった。





 初の魔法実証実験は成功裏に幕を閉じ、俺達魔法開発チームは引き続き次の魔法開発に取り組んでいく。


 そうしてSubjects Runes 計画が始まって1年ほどが過ぎ、大半の魔法の開発を終えた現在、国防軍の戦力は充実していた。


 まずは兵士の数。


 身体がジオエルビム製の被験体であるため兵士の数に上限があったが、ジオエルビムの被験体生産プラントを奪取したことで、被験体の自己生産にめどがついたのだ。


 そして魔法。


 新魔法の開発が進んだことが一番大きいが、魔法の発動についても進歩があった。


 もともと被験体自身にも魔力があり、国防軍兵士単独でもある程度の魔法発動は可能だった。


 だがSubjectsたちが携帯型の魔導結晶に魔力を蓄積させることで、一般兵でもより強力な魔法を発動させることが可能になり、国防軍の魔法戦力が飛躍的な充実を見せていた。




 一方、ジオエルビム側も大反撃に転じていた。


 日本の脳再生医療患者の拉致者の数を増やし、Subjectsへの強化実験のペースも加速していた。さらに、この地下空洞だけではなく、地上の本国でも同様の実験を始めたため、国防軍は地下空洞だけでは追いつかず、地上戦を展開せざるを得なくなっていた。


 そして日本とジオエルビムの戦いは、双方引くことのない総力戦へと突き進んでいった。




「先生、もう脳の再生医療をやめればいいのではないですか」


 俺は先生に提案した。だが、


「やめられない理由があるんだ。まず、この治療法は、ジオエルビムによる拉致被害を差し引いても、それ以外の多数の患者を救っており、トータルで効果的な治療法であること。また、拉致被害者を救出することで、症例タイプBが不治の病ではなくなったことだ。・・・ただこっちの理由が大きいかもな」


「なんですか」


「一旦戦争を開始したこの状態で、新たな拉致被害者の存在が明らかなのに、軍を引く決断を今の与党にはできないことだ。・・・次の選挙で負けるからな」


「選挙か・・・。それにジオエルビムの方もいい加減に日本に手を出すのをやめればいいのに。魔力不足を補うために異世界人を拉致した挙げ句、逆に攻め込まれてるって、本末転倒じゃないですかね?」


「確かにな。もし立場が逆で、日本がジオエルビムに攻め込まれでもしたら、日本は大パニックになる。そう考えたら、奴らはどうしてここまで拉致にこだわっているんだろうか」


「日本から攻め込まれても、それを上回る何かの利益があるということでしょうね・・・何だろう?」


「さて、そんなことよりも今日はまた魔法の実証実験だろ。準備はできているのか」


「はい。今日は新しい魔術具の実証実験です。日本とジオエルビムの間の人間の行き来はお互いにできません。ただし例外があって、被験体の身体を介しての意識の移動が可能です。今回はジオエルビムが脳再生医療患者の拉致に利用しているこの次元転移の魔導技術と、もう一つ別の魔導技術で転移陣と呼ばれる座標移動の魔導技術を組み合わせました」


「いよいよそれか」


「はい。俺達Subjectsが日本に移動するための魔術具です」


「しかし随分と早かったな」


「日本の最高の頭脳たちが頑張ってくれたお陰です。俺はそれを実装しただけですけど」


「実装しただけって、それでも大したことだとは思うが。お前もそろそろ博士論文をまとめるか」


「論文ですか。そうですね、もしこの実験が成功して、俺たちが日本に帰ることができたら、研究室の自分の机で書き始めることにします」


「それもそうだな」





 実験はいつもの1階格納庫で行われた。


 この魔術具はまだ試作段階のため、魔術具開発用の端末につながった状態で使用する。魔法の作用範囲は最大半径5メートルの球状の空間。転移先は大学のグラウンドで、やはり半径5メートルの半球の空洞をほって転移に備えている。


 そして転移させるのは、ペレットに入れられた無人の被験体1体だ。


 いよいよ実験開始。


 俺は端末を操作して魔術具を起動していく。だが、


「観月さん。ここは危ないからみんなと一緒に後ろに下がって見ていてくれ」


「ううん、私もここに居たい」


「そんな心配そうな顔をして、急にどうしたんだ」


「・・・私の考えすぎかもしれないけれど、もしかしたらこれで安里先輩と離れ離れになってしまう予感がして、すごく不安になったの」


「それなら大丈夫だよ。ここは魔術具から10メートル以上離れている。投入魔力の大きさからも半径5メートルは大き過ぎるぐらいだし、安全マージンは十分にとれている」


「だったら私がここに居ても平気でしょ。・・・私、先輩とはもう離れたくないの」


「観月さん、それって・・・」


「おい安里! 実験中に彼女とイチャつくのはやめろ。みんな見てるんだぞ」


「す、すみませんでした先生。それに観月さんは彼女ではありません・・・」


「・・・お前たち、恋人同士じゃなかったのか。私はてっきり」


「いえ、告白もまだです・・・」


 俺が慌てて否定すると、観月さんも隣で耳を真っ赤にしていた。


「わかった、わかった。お前たちのラブコメはもういいから、早く実験を始めろ」


「はい! それじゃ観月さんは俺のそばから離れないでね」


「はい・・・安里先輩」




 そして魔術具は正常に作動し、上空に半径5メートル弱の魔法陣が出現した。次元転移と座標移動のハイブリッドだ。


 そして転移陣特有の空間振動が発生し、いよいよ日本への転移が始まると思ったその時、端末の画面に異常を知らせるアラートが表示された。


 魔法作動域に外部からの強い干渉力が計測された。


「先生! 魔法は正常作動し被験体を日本へ転移を始めたのですが、事象改変に対してジオエルビム側で、これまで観測されたことのないような強力な復元力が発生し、転移が完全に阻害されてしまいました」


「わかった。では実験を中止して、魔術具の作動を停止しろ」


「わかりました。・・・あれ、なぜか停止しません。あ、次元転移分の魔力が反射して、ジオエルビム側に戻ってきた! まずい、観月さんここから逃げるぞ!」


 しかし暴走した魔力により魔法陣が急拡大し、俺と観月さんは逃げ遅れて球体の膜に包み込まれてしまった。


「観月さん! 魔法防御シールド全開!」





 魔術具を中心に半径15メートルの空間を包み込んだ光の膜が七色に輝きだしたかと思うと、漆黒の闇色に変化して、そして消失した。

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