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第154話 アージェント王国建国記の真実

 アウレウス伯爵への報告が終わり、ソルレート奪還とその戦後処理の結果も認められ、ベルモール子爵たちも晴れてアウレウス派へ移籍することとなった。


 そして晩餐会。





 俺はフリュをエスコートするために、彼女の自室へ迎えに行く。


 しばらく待っているとフリュの部屋の扉が開き、メイドたちに連れられてフリュが中からゆっくりと歩いてきた。


 白銀のシルクのドレスに身を包み、胸には豪奢なネックレス、頭には光輝くティアラを着けている。


 360度どこから見ても姫である。


 ・・・本当にこの子を嫁にもらってもいいのか、ためらってしまうレベルだ。


 これはみんなが姫様、姫様と言うのも納得してしまう。その辺の貴族とはそもそもオーラが違う、貴族の中の貴族、本物の貴族だよ。




「あの、アゾート様・・・どうしたのですか? 早く行かないと、みんな待っていますよ」


「す、すまない。フリュのあまりの美しさについ見惚れてしまってたんだ。それでは姫様、こちらへ」


「姫様だなんてやめてください。・・・ではアゾート様、晩餐会へ参りましょう」


 俺はフリュに手を差し出し、晩餐会の会場へと向かった。





 会場へ入ると、俺はフリュとともにメインテーブルの上座の席に案内された。俺たちの左隣にはアウレウス伯爵夫妻が並んで座っている。


 これがフリュの母上か。


 フリュに似た感じの美女であり、こちらの方がより本物の氷の女王のようだ。


 俺から見て右側が俺達の関係者。上座に近い場所にはメルクリウス家を代表して、両親やダリウス夫妻、そして婚約者のセレーネとネオンが座り、リーズ達他の親族は別テーブルに座っている。


 そして、新たに俺の臣下となるベルモール子爵、ロレッチオ男爵、ナタリー・トリステン次期男爵、マール・ポアソン次期男爵がこの順番に席を並べている。将来的にはここに、新フェルーム子爵が加わることになるだろう。


 マールはガチガチに緊張しており、隣の席からナタリーがマールに話しかけている。本物の姉妹みたいでどこか微笑ましい。


 俺から見て左側はアウレウス家の関係者だ。上座に近い場所に座っているのは恐らくフリュの兄弟や親族達だろう。その次にはマーキュリー伯爵とダーシュ、バーナム伯爵、そしてザッパ男爵をはじめとするアウレウス伯爵の臣下がズラリと並んでいる。





 晩餐会はつつがなく進行し、俺達はアウレウス派の新勢力として暖かく迎えられた。そして隣に座っているアウレウス伯爵が俺に話しかける。


「婿殿、明後日に兄上であるアウレウス公爵と、その次の日にはアージェント国王と会ってもらいたい」


「ごくりっ・・・」


「ははは、何も緊張することはない。婿殿はいつも通りにしていればいいさ」


「さすがにそういうわけには」


「それから兄上との相談になるが、婿殿の今後の身の振り方を決めなければならない」


「み、身の振り方?」


「左様。帝国軍への今後の対応をどうするかだが、婿殿にも積極的に関与して欲しいのだ」


「ああ、ブロマイン帝国への対処でしたか」


「婿殿の報告を踏まえると、対処しなければならない事項は2つ。一つは、せっかく後退させたダゴン平原の前線をさらに押し戻して、我が王国の領土から帝国軍を完全に追い出す」


「それは王国の長年の悲願ですね」


「うむ。そしてもう一つは、ボルグ中佐が構築したという、我が王国内の上級貴族の秘密支援組織の捜査だ」


「確かに重要な事です」


「このどちらかを婿殿にやってもらいたい」


「もちろんです」


「だがどちらをやるにしても、婿殿には騎士学園を転校してもらうことになるだろう」


「て、転校?」


「前者をやるならフィッシャー騎士学園、後者ならアージェント騎士学園に在籍している方が都合がいいと思うのだが」


「アージェント騎士学園!」


「そうだ。侯爵家以上の子弟が通うこの王都にある学園だ。ここに転校して、生徒同士のつながりから、各貴族家の情報を探り出す、いわゆる潜入捜査をやってもらいたい。婿殿は次期伯爵なのだから、上級貴族のネットワークをこれから構築するにもちょうどいいのではないか」


「俺は・・・フィッシャー騎士学園に転校したいと思います」


「まあまあ、結論は兄上と相談してからだ。何、アージェント騎士学園のことが心配なら、フリュオリーネも一緒に転校させるので問題はないだろう」


「アゾート様、わたくしがついていますので、上級貴族のマナーやしきたり、社交界やダンスにお茶会、全てフォローさせていただきます。二人で頑張りましょう!」


 フリュが可愛くガッツポーズして俺を励ましてくれているが、全然嬉しくない。


「痛たたた・・・、急に胃が痛くなってきた・・・」






 晩餐会も終わり、俺はフリュ、セレーネ、ネオン、マールの4人を連れて、アウレウス伯爵の執務室を訪れた。


 伯爵はすでにいくつかの本を用意してくれていて、ソファーのテーブルの上に積んであった。


 俺達はそれらの本に一つずつ目を通していく。一番上に置かれていた本はこれだ。




『最強騎士メルクリウス伝説 ~異世界に転生したら実は最強魔力のチート持ちだったことが判明し、勇者パーティーから勧誘が来たので仕方なくメンバーになってやったら、なぜか美少女たちからモテまくり、勝手にハーレムができてしまった件~』



「まず最初はこの本。王都の貴族家の男子に大人気と言われている、この絵本の内容から検証する」


「その本を読む前に、一つだけ確認させてもらってもいい?」


「別にいいぞ。セレーネは何を確認したいんだ?」


「ラノベってなんでタイトルがやたら長くて、クソみたいな内容の話ばかりなの?」


「セレーネ、女の子がクソなんて汚い言葉を使ってはダメだ。それにこれはラノベではなく絵本だ」


「絵本って、基本的に絵が中心でそこに少しだけ文字が書かれているものよね。でもこの本は文字が多くて、たまに美少女たちのちょっとエッチなイラストが入ってるだけ。だからこれはラノベよ」


「セレーネ、なんでも日本の基準で物事を考えてはダメだ。ここはアージェント王国。王国では絵本に分類されているのだから、これは絵本だ」


「アゾートはなんでもアージェント王国の基準で物事を考え過ぎ。だから平気でハーレムなんか形成するんだわ」


「セレーネ、今はその話をやめろよ」


「だって」


「セレーネ・・・」


「アゾートも、セレン姉様もそんなしょうもないことでイチャつくのは止めて。それより早く内容を確認しましょう」


「そ、そうだな」




 俺達はその絵本を読み始めた。


 大まかな話の流れはこうだ。


 巨大な貨物運搬用馬車に引かれて死んだ主人公が異世界に転生し、その世界の魔法がもともと主人公が住んでいた国の言葉で、呪文を一言唱えるだけで魔法が発動してしまうことから、高速詠唱として使い始める。


 さらに主人公は、遥かに進んだ文明の知識を生かして、見たこともないような凄い魔法を次々と産み出していく。


 どんどん有名になっていった主人公は、ついに勇者の目に留まり、是非パーティーに入って欲しいと頼まれ、魔導師として参加することになった。


 パーティーメンバーには魔法少女や聖女がいたが、彼女たちは主人公のことをすぐに好きになり、冒険の途中でも行く先々でエルフの族長の娘やら、獣人族の奴隷少女やら、魔族の姫などから、特になにもしていないのに次々と惚れられる。


 そして魔王を倒した後は、貴族同士のいがみ合いに嫌気がさし、彼女たちを連れて王都から離れ、辺境でスローライフを送るという内容だった。




「テンプレだったな」


「そうね。お父さんの部屋にあった本と、大体同じ内容だったわ」


「セレーネもラノベを読むんだ」


「お父さんの部屋にある本には全て目を通したわ」


「つまり何千冊ものラノベを全て読んだと」


「私は文学少女だったし、そのぐらいの数は当然よ」


「文学少女! 他はどんなジャンルの本を読んだんだ」


「うちにあったのはお父さんの本だけだから、他のジャンルは学校の教科書ぐらいかしら」


「・・・じゃあ、次の本に行くか」




「ちょっと待ってよ二人とも! 今の本を読んだ感想がそれだけ?」


「何を騒いでるんだよネオン。どこにでもあるようなテンプレラノベだったじゃないか。俺はこの手の本はもう読み飽きたんだ。もっと別のパターンが読みたいんだが、アージェント王国には他のラノベもないし、どうしようもないよ」


「そうじゃなくて、例えばこの主人公の名前」


「アサート・メルクリウスか?」


「そうそれ! 誰かに似てない?」


「俺?」


「そうそう。そしてアゾートとそっくりなのは名前だけじゃなくて、魔法の設定や高度な文明の知識を使っている点」


「・・・そうだった。あまりにテンプレなラノベを読まされたので、うっかりスルーしてしまいそうだったが、何なんだこの内容は!」


「でしょ! どう考えてもおかしいよね」


「ああ、おかしい。俺はコイツと違って、モテるために必死に努力をしているぞ!」


「そこじゃねえよ!」





 冷静になった俺達は、この本と俺の類似性に改めて驚愕した。だがこの本が書かれたのはずっと昔のことであり、今の俺を見て書かれた物語ではないだろう。


 だとすると、過去に俺と同じような転生者が実際にいて、彼をモデルにこの本が作られたのではないかと結論付けた。


「婿殿にそっくりだったたろ、主人公のアサート・メルクリウスは」


「伯爵もこの本を読んだのですか?」


「子供の頃にな。ずっとこの本のことは忘れていたが、去年フリュオリーネのもとに婿殿が現れて、この本を読み直してみた。だが驚くのはまだ早い。もう一冊の本を読んでみてくれたまえ」




『アージェント王国建国記』



 この本は一般的に出回っているもので、俺も子供の頃から何度も読んだものだ。


 内容は、アージェント王国の初代王、ラルフ・アージェントが、腐敗した王国を打倒して新たな王国を建国するまでの冒険譚。


 ラルフは魔法の7つの属性全てを持つ、いわゆる「勇者」と呼ばれる種族であり、このラルフが仲間を増やして冒険者パーティーを作り、腐敗貴族たちを征伐していく。


 その有名な「建国の勇者パーティー」のメンバーがこの6人だ。



ラルフ・アージェント侯爵家三男(勇者)

セシル・クリプトン伯爵家長男(魔剣士)

ガゼル・オクトパス(戦士)

クレア・ハウスホーファ(大聖女)

ロバート・サクラメント(大魔導師)

シシリア・リズム(大魔導師の弟子)




 この内、ラルフとセシルはそれぞれ国王と公爵に、クレアはシリウス教国の大聖女になるのだが、残りの3人ガゼル、ロバート、シシリアは、その後どこかへと姿を消し、その行方は未だに謎とされている。



「伯爵、この建国記のどこに驚くべきことが書かれているんですか」


「この建国の勇者パーティーのメンバーだよ」


「・・・特におかしなところはありませんが」


「この本ではな。だが、これを見てくれ。勇者パーティーの真のメンバーだ」


「真のメンバー!?」




ラルフ・アージェント侯爵家三男(勇者)

セシル・クリプトン伯爵家長男(魔剣士)

デイン・バートリー男爵(戦士)

クレア・ハウスホーファ(大聖女)

アサート・メルクリウス(大魔導師)

セリナ・ミツキ(大魔導師の弟子)




 ・・・なんだこれは。


 やはりメルクリウスはパーティーメンバーにいた。しかもさっきのクソラノベの主人公と同じ名前。


 行方不明とされていた3人の名前が捏造されていた。


 これは248年政変で滅ぼされたメルクリウス家とバートリー家の存在を、歴史から完全に抹消するための欺瞞だったのだ。


 やったのは、あのバーン王か。




 しかし、俺が驚いたのはそこではない。


 大魔導師の弟子とされていたシシリア・リズムの正体だ。


「アゾート様、このシシリア・リズムだけ正体が不明のままですね。セリナ・ミツキというのは結局、何者だったのでしょうか」


「まさか・・・そんなことが」


「アゾート様?」


「どうしたのアゾート? そんな青ざめた顔をして」


「セレン姉様の様子も変よ。どうしたの2人とも」




 セリナ・ミツキ。


 観月せりな、つまりセレーネだ。




 なぜ、セレーネの名前が建国の勇者パーティーに入ってるんだ。


「・・・セレーネ。これはいったい」


 俺が本から顔を上げてセレーネを見ると、セレーネは本から目を離すことなく、身体をガタガタ震えさせて怯えている。


「ウソ・・・どうして私の名前がこんなところに」


「セレーネ、これは何かの偶然だ! 恐がらなくてもいいから、それ以上気にするな」


「・・・いや・・嫌。嫌っ!」


「もうその本を見るな! 誰かセレーネを部屋に連れて帰ってくれ」


「いやああああああっ!」



 完全に血の気を失ったセレーネは、その場で倒れて気絶した。



「セレーネーーーっ!」


 俺はセレーネに抱き上げて、彼女を寝室に運ぼうとした。が、その時、



  ZA,ZAZA---ZA, ZA



 目の前の景色にノイズが走る。


 この感覚は・・・何かが俺の頭に殺到する。この膨大な記憶は何だ。


 誰かの記憶が、俺の記憶を上書きしていく!



 やめろ! やめてくれ!


「うわああああ!」


「どうした、何があったんだ婿殿!」


「アゾート様っ!」


「アゾート! どうしたの急に大声を出して・・・大変誰かアゾートが・・・・2人を寝室に運ば・・・」


 ネオンたちが俺とセレーネを助けようとしている声が、だんだんと遠くになって消えた。


 それと同時に俺の意識もそこでプッツリ途切れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほどですね。ねつ造の名前まったく違いました。てっきり多少異なっているくらいかと思っていました。セリアなんてもはや原型をとどめてないですね。 [気になる点] 後半の本を読んでいるシーンは…
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