第149話 エピローグ2
女子がお茶会を楽しんでいる頃、ダイニングルームでは旧ソルレート伯爵支配エリアの貴族たちが集まっていた。
ベルモール子爵、ロレッチオ男爵、パッカール子爵とその息子のアントニオ、そして、かつてのソルレート伯爵のおいのニコラだ。
そこへたまたま通りがかった俺が、様子を見にその中に入っていった。
「これはこれは我が主君のアゾート殿」
「そんな格式張った言い方やめてくださいよ、ベルモール子爵。俺に対しては誰もそんな口をききませんよ」
「いや、しかだな」
「そんなことよりも、お二人が俺の傘下に入ってくれたことに驚きました」
「・・・では普通に話させてもらう。君の傘下に入ったことは、我々の領地の位置を考えれば驚くことはないだろう。東西を君の2つの領地に完全に挟まれており、北もアウレウス派のマーキュリー領。軍事的にも交易的にもアウレウス派への移籍を拒む理由は一つもないのだ」
「それはそうですが、中立派に入って半年で再移籍とかして大丈夫なんですか?」
すると、ロレッチオ男爵も理由を付け加えた。
「我々は先のソルレート管理戦争で、シュトレイマン派から離脱した。その結果自動的に中立派となったのだが、特に中立派の上級貴族へ臣従した訳ではなく、主君を選んでいない状態が放置されていただけなのだ」
「なるほど、中立派というのは二大公爵家のどちらにも与していない貴族の集まりだから、第3勢力として一つに固まっているわけではないのか」
「そういうことだ。だから今回、合理的に判断した結果、君に仕えるのが最良という判断を行っただけなんだよ。・・・去年の戦いで、俺とソルレート伯爵の進軍を妨害したのは、アゾート殿。キミだろう?」
「どうしてそう思うのですか?」
「否定はしないんだな。別に恨み節を言うつもりはないから安心してくれ。先日のキミとサルファーの貴族の決闘の際、キミがダリウスやロエルと撃ち合ったエクスプロージョンを見て、あの時のことを思い出したんだ。妨害手段として、エクスプロージョンが使用されていたことを。そしてキミは、ベルモール子爵との戦いに全く姿を表していない」
「ベゼル平原の戦いは、全てフリュオリーネに任せっきりにしていましたので、確かに俺はそこに姿を見せなかった。・・・なるほど、戦場にいなかったという情報も何かのヒントになるんだな」
「しかし、メルクリウス軍は本当に強いな。俺達はフェルーム子爵家のエリーネさんの支援を受けて戦っていたが、あの大砲の威力は驚異的だ。城塞都市ヴェニアルを1日もかけずに攻略したのも頷ける。そしてそれを大型船に積み込んでの艦隊戦も見事だった。敵の作戦ミスもあったが、あらゆる事態を想定して、何通りもの作戦を事前に決めていたのには感心したぞ」
「あれはフリュオリーネが事前に用意したものなんですよ。うちの一族はもともと辺境の騎士爵家で、艦隊戦なんてやったことがないから、彼女が頑張って作ってました」
するとベルモール子爵も、
「フリュオリーネ殿の強さはこの俺がよく知ってる。去年のベゼル平原の戦いでは完全に手玉に取られて、我々の数の優勢も簡単にひっくり返された上に、3日と持たずに降伏させられたよ。まったくすごい嫁さんを手に入れたな君は」
「いや嫁ではなく婚約者なんですが・・・そうですね。彼女は本当なら俺なんかが婚約できるはずのない高嶺の花でしたから、今から考えれば我ながらすごい幸運でした」
「そうか。いずれにせよ、アゾート殿と同じ陣営に入ることができて、我々としては心強い限りだ。これからは我々も臣下としてともに戦うので、頼りにしてくれ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ところでニコラ、ここにみんな集まって何を話してたんだ?」
「大した話ではないのですが、みんなもともとはソルレート伯爵の下にいた仲間だったのに、これからはそれぞれの道に別れて歩いて行くんだなと、そういったことを話していたのです」
「そうだよな、お前なんて平民になってしまったし、この中でシュトレイマン派閥に残るのはアントニオのところのパッカール子爵家だけだよな。そう言えばパッカール家はどこの上級貴族家に仕えてるんだ?」
「実はベルモール子爵たちと同様、うちも未定だったのですが、周りをアウレウス派に取り囲まれてしまってますので、安全のためにもシュトレイマン公爵に直接お仕えできるよう、皆様と一緒に王都に行った際にお願いしてくる予定です」
「なるほどそれはいい考えだ。確かにそうしておけば、いきなり公爵家を敵に回すリスクを恐れて、他領からは攻め込まれ難くなるな」
「その通りです。だからうちには侵攻してこないでくださいね、アゾートさん」
「攻め込まねえよっ! ・・・ていうか公爵家に直接仕えるのは、完全に俺対策だったのか!」
「アゾート様はシュトレイマン派閥の中では完全に危険人物扱いですからね。ジルバリンク侯爵とクロリーネ様が間に入ってなければ、こんなに仲良く話すことすらできなかったでしょうね」
「うっ・・・」
「それより、夏休みあけの学園ではひと騒動ありそうですよ。アゾート様がAAA団のリーダー、サルファー学園長を倒してセレーネさんとの婚約を復活させてしまったので、学園アイドルの世代交代が一気に進行すると思います」
「またその話か。修学旅行で俺は簀巻きにされたんだから、みそぎはもう終わっただろ?」
「だからですよ。学園の3大アイドルが全てアゾート様のもので確定したので、ファンクラブは解散することになるでしょう。そして次のアイドルを求めて、男子生徒たちの民族大移動が始まるのです」
「その話でいつも思うけど、3大アイドルを俺が奪ったんじゃなくて、マールはともかく人の婚約者のファンクラブを勝手に作っておいて、後から3大アイドルに仕立てあげられただけだからな。迷惑してるのは俺の方だから」
「そもそもアイドルの概念を生徒会長選に持ち込んだのはアゾート様ですから、完全に自業自得です」
「・・・お前、弁が立つようになったな。去年の生徒会長選の時にその状態なら、お前が圧勝だったかもしれないな」
「どんなに圧勝しようとも選挙結果には関わらず、生徒会長のポストはセレーネ陣営のものでしたが。あれはひどい選挙でしたね」
「そうだったな・・・」
「・・・まあいいや。次世代の学園アイドルの話だったな。ちなみに誰が一番人気なんだ?」
「あれれれ? アゾート様は、学園アイドルなんか興味がなかったんじゃないんですか?」
「いや・・・興味がないこともない」
「素直じゃないですね。では、僕の予想を聞きます?」
「何だよ、もったいぶらずに教えろよ」
「仕方ないですね。では僕の予想する次世代アイドルの人気ナンバーワンを発表します。ジャカジャン! それは・・・リーズたんです!」
「リーズたんか! ・・・って俺の妹じゃねぇか!」
「セレーネさんの後継者はやはり、同じフェルーム一族の正統派美少女が担うことになりそうですね」
「あのリーズが正統派美少女・・・なのか?」
「すでに1年生上級クラスではリーズ親衛隊が発足しており、その親衛隊を中核にファンクラブがすでにできあがっています」
「リーズ親衛隊! そうか、あいつらがいたな」
「そしてフリュオリーネ様の後継者は、クロリーネ様しかいません。あのクロリーネ様のお言葉にドMの男たちは悶絶必至。ご褒美を求めて新女王様を崇める日々が始まるのです」
「お、おう・・・」
「そして一番の大所帯だったマールファンの動きが一番難しいのですが、おそらくはカレン・アルバハイム嬢を筆頭に、何人かの令嬢に分散していくことになるでしょう」
「カレンって確か、カインとよく一緒にいるあの緑髪ツインテールのボカロか」
「はい。今年は1年上級クラスのレベルが非常に高く、他にもアウレウス派の令嬢たちやクロリーネ様の護衛騎士なども大人気です」
「お稲荷姉妹か! あいつら中身はともかく、外見だけはかわいいからな」
「とにかく、新学期はアイドル地殻大変動が起こります。そしてアゾート様は、アイドルを食うのはもう終わりにしてくださいね」
「まだ一人も食ったことねえよ!」
「だが新学期には色々なことが起こりそうだな・・・そうだ二コラ、お前に新たな役割を命じる」
「はっ! 何なりとお申し付けください」
「うむ。ではお前にはこれから、リーズのマネージャーになってもらう」
「この僕が、リーズたんのマネージャーですと!?」
「そうだ。これからリーズには男どもが殺到することになるだろう。お前はその男どもからリーズを守る、清純派アイドルのマネージャーになれ!」
「この僕が・・・ついに・・・清純派アイドルのマネージャー」
「その通りだ。お前の肩書も「二等兵」から「マネージャー」に昇格させる。しっかりと励むがよい」
「この身に代えてその大役を果たしてみせます!」
8月21日(闇)晴れ
俺達は今回のソルレート侵攻の結果を報告するために、王都アージェントへ向けて出発する。
その際、俺がアウレウス伯爵への報告、クロリーネがジルバリンク侯爵への報告という風に、各貴族家が自分に関係の深い所へ手分けをして行うこととなった。
俺のアポは23日(水)なので、あと2日余裕がある。その僅かな期間ではあるが、せっかくの夏休み。夏を満喫するためにマールの実家、ポアソンビーチにこれから立ち寄る。
「よし、みんな出発だ!」
「おーーーっ!」
転移陣に魔力を込めて次々にポアソン領にジャンプしていく俺達。
だが、王都アージェントで俺たちの運命を決定づける出来事が待ち受けていることを、この時は想像すらしていなかった。
次回から「第6章 よみがえった記憶」がスタートします
是非ご期待ください