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第148話 エピローグ1

エピローグが長くなったので、2つに分けました

8月20日(光)曇り


 ソルレート侵攻作戦が成功裏に終わり、戦後処理についても関係者間で合意ができた。あとは、アウレウス伯爵とジルバリンク侯爵の二人に報告するだけだ。


 基本的には事前に説明したとおりの結果となったため、特に反対されるようなことはないと思うが、面会のとれた日が少し先だ。


 せっかくの夏休みだしどこかに遊びに行きたいな。




 朝食を食べながら、俺はうっかりそんなことを口に出していたらしく、それを聞いたマールが、


「じゃあアゾート・・・今年もまた、私の実家に遊びに来る?」


「マールの実家・・・夏のプライベートビーチか! でも急に行ってもいいの?」


「もちろん大歓迎よ! 私はお父様の様子も気になるから一度帰りたかったし・・・それにアゾートはその、私の・・だから」


 マールの声が小さくてよく聞こえなかったが、どうやら今年もマールの実家のビーチで夏を楽しむことができそうだ。


「でも今回は爵位を授与される人や、派閥の変更などたくさんの人が王都に出向くことになる。彼らも一緒にマールの実家に行くことになるけど、本当に大丈夫か?」


「うん、平気。うちはリゾート騎士爵家だから、客間と水着のストックは任せて」


「お、おう。マールがそれでいいのなら、俺は助かるけど。じゃあさっそく明日出発しよう」





 その日の午後、ポアソン領への移動を明日に控えた客間では、パーラがお茶会を開催していた。


 どこから持ち込んだのか高級な食器に色とりどりのスイーツ、そして香り高いお茶が令嬢たちに用意される。


 戦いからようやく解放された令嬢たちは、お茶会の始まりと同時に会話を弾ませ、やがて話題は先日行われた戦後処理会議へと移っていく。


「アゾート様があの場で叫んだ「何度も言っているだろう。俺はセレーネのことが好きだからだ!」にはキュンキュンきました。ああ、セレーネ様がうらやましいですわ。わたくしもダン様にあんな風に告白してほしいっ」


 パーラが少し興奮気味に言うと、


「もうっ! アゾートったら、みんなの前なのにあんな大声で私のことを好きって、恥ずかしいのよ!」


 口では恥ずかしいと言いながらも、セレーネの顔は見事なドヤ顔だった。


「それに、セレーネ様のことを賭けてサルファー様と貴族の決闘をなさるなんて素敵ですわね」


「そうなの。アゾートは私のためだと絶対に負けないのよ。これでサルファーもやっと私のことを諦めてくれたし、お父様も認めてくれてアゾートと元の関係に戻れたのよ」


「10年間も婚約者同士だったのですよね。でも親の決めた許嫁なのに、そこまで相思相愛になるなんて本当に珍しいですわね。普通、政略結婚の婚約者同士ってアレンとユーリぐらいの距離感なんですけれど」


「そうよね・・・確かに私たちは普通の婚約者と違ってラブラブだけど、それはきっと親の決めた婚約が、たまたま運命の人だったのよ」




 そんな2人の会話を聞いていたリーズが、どうしても黙っていられなくなり、会話に割り込んできた。


「お兄様は、フェルーム一族の中ではありえないレベルの恋愛脳の持ち主で、妹として見てられないほどの恥ずかしい人なんです。セレン姉様もよくあんな公開告白みたいな辱しめを受けて、そんなドヤ顔ができますね」


「それは私も恥ずかしかったけど、相手がアゾートだからこれは仕方のないことなのよ」


「お兄様だと、どうして仕方がないの?」


「だって、フリュさんなんか生徒会長戦の公開討論会の時に、全校生徒の前でアゾートからプロポーズをしてもらったのよ。これでやっと私も肩を並べることができたわ」


「こ、公開プロポーズ?!」


 すると、フリュオリーネは顔を真っ赤にして、


「あの時は、わたくしもさすがに恥ずかしくて、とっさに舞台裏に隠れてしまいました。その後も、とても公開討論会に戻る勇気は出ませんでした」


「ほらセレン姉様。普通の人の感覚だと、お兄様から告白を受けた人は、ドヤ顔ではなく恥ずかしがるのですよ」


 リーズがセレーネを諭すように言うと、フリュオリーネがさらに話を続けた。


「それから2年生の新学期の教室でのことですけど、アゾート様がクラスメイトの全員が見てる前で、わたくしにこの指輪をつけてくださいましたの」


 そういってフリュオリーネは左手薬指の指輪を令嬢たちに見せつけた。


 その表情は見事なまでのドヤ顔だった。





 それを見たセレーネが頬を膨らませ、


「フリュさんずるいっ! そのきれいな指輪ってアウレウス家のものじゃなくて、アゾートからもらったものだったんだ! 私なんてみんなと同じ超高速知覚解放の指輪しかもらってないのにっ!」


 セレーネの嫉妬を受けたフリュオリーネは、だがその矛先を華麗にかわす。


「セレーネさん、それを言い始めたらマールさんには誰も敵いませんわ」


「マールですって!」


 テーブルの一番はしっこに座りお茶会の間中ずっと気配を消していたマールを見つけ、マールへのライバル心に火のついたセレーネが、ここぞとばかりに噛みついた。


「そういえばマールって、アゾートからいくつも指輪をもらっていたし、よくよく見てみるとマールの装備ってどれもこれもアゾートの手作りよね。どういうことなのよ!」


 セレーネの剣幕にマールはビクッと身体を怯えさせた。


「セレーネさん・・・その、ごめんなさい。私の魔法ってどれも、アゾートが作ってくれた特殊なアイテムじゃないと力を発揮できないの。プレゼントとかそういうのじゃないから、安心していいよ」


「プレゼントじゃなくても私はマールがうらやましいの。そう言えば、その左手の指輪なんかアゾートとお揃いのペアリングだよね。私ずっと気になっていたのよ」




 マールが慌てて指輪を隠すと、クロリーネが懐かしそうに話し出した。


「その指輪は王都での表彰式で魔法協会からもらったものですよね。あの時は本当に素敵でしたね」


「素敵だったの・・・。それ私が王都に連れていってもらえず留守番していた時の話よね。何が素敵だったのか教えて?」


「あれ? セレーネ様はどなたからもお話を聞いていませんでしたの? あの表彰式はアゾート先輩とマール様がまるで結婚式をあげているみたいでしたの。マール様の指にアゾート先輩がその指輪を優しくつけてあげると、その場にいた大勢の観客から一斉に祝福の声が上がりました。マール様は嬉しそうにずっと指輪を見つめていましたよね。・・・うらやましい」


 クロリーネの話を聞いているうちに、セレーネの機嫌はどんどん悪くなっていった。


「・・・そんなことがあったのね。ネオンに聞いても王都での様子は頑なに教えてくれなかったけど、そういうことだったのね。・・・フリュさんはマールのことが悔しくないの?」


「わたくしはアゾート様のお近くにいられればそれでよくて、もう悔しいとかは感じません。この指輪をいただけたし、修学旅行の夜には素敵なお言葉もいただいておりますので、わたくしはそれで十分でございます」


「夜に素敵な言葉・・・い、いつの間にっ! まさかマールも?」


「わ、わたしは何もないよ! むしろ私の方から告白したんだから、修学旅行の夜に」


「あっ! マーキュリー城のあれね!」


 セレーネはようやく、修学旅行でフリュオリーネとマールがアゾートとやたらベタベタし始めた理由が、一本の線としてつながった。




「私の方こそセレーネさんのことがうらやましいのよ」


「マールが私なんかをうらやましく思う理由なんて、どこにもないじゃない」


「フリュオリーネさんもセレーネさんも、アゾートからちゃんと告白してもらえたけど、私にはそんなのがないから。・・・いつか私にもちゃんと告白してくれるかな、アゾート」


「え、そうなの?」


 そういえばマールへの公開告白を見ていないことに気付いたセレーネは、控えめにたたずむマールを見て、嫉妬のレベルを少しだけ下げた。


「セレーネさん、私からも一つ聞いていい?」


「いいわよ、なあにマール?」


「アゾートと二人で領都ソルレートへ向かう途中、どんな風だったのか教えて?」


 するとセレーネの嫉妬心はウソのように消えて、再びドヤ顔が戻ってきた。


「素敵だったわ・・・。宿屋に泊まると必ず盗賊が襲ってくるので、アゾートと二人で農家の納屋にこっそり忍び込んで野営をしたのよ」


「野営だったんだ・・・」


「それでね、それでね!・・・暗い納屋の中でアゾートと私の二人で・・・なんと軍用魔術具の使いっこをしちゃったのよ、キャッ!」


 セレーネは恥ずかしそうに一人で照れていたが、誰も軍用魔術具の使いっこが何なのか理解できず、ただ愛想笑いを浮かべるだけだった。






 女子生徒たちのお茶会に一人だけ大人が参加する形になっていたナタリーは、アゾートを中心にした美少女たちの恋愛模様に強い関心を抱いていた。


 ナタリーは、トリステン男爵やその取り巻きたちによる乱行を長年見続けて来たため、男性に対する不信感が強く、自身はこのまま一生独身を貫くつもりでいた。


 ナタリーにはこれまでにも政略結婚の話がたくさんあったのだが、男性不信からそのどれにも応じることはなく、ただひたすらに武の道をまっすぐ歩んできたのだ。


 そして生来の魔力の強さもあって、他の分家筋の男たちを押しのけて女ながらに騎士団長まで上り詰めていた、真の実力者だった。


 だがそんなナタリーから見ても、フリュオリーネを始め、メルクリウス軍の少女たちの戦闘力には目を見張るものがあり、にもかかわらず自分のように武の道に専念することもなく、年相応の女の子らしい恋バナに花を咲かせているのがとても新鮮だったのだ。




 ナタリーは、自分と立場の近いマールと友達になろうと、少し話しかけてみることにした。


「マールさん、アゾート様が伯爵になられたら、あなたと私は領地が隣同士になるのよね。これから長いお付き合いになると思うけど、よろしくお願いね」


「ナタリーさん、こちらこそよろしくお願いいたします。年の近い女性領主がお隣にいてくれて、とても心強いです。私のことはマールって呼んでください」


「わかったわ。マールってまだ騎士学園の2年生よね。私は今年で23歳。あなたより6つ年上だから、少し気軽にさせてもらっていいかしら」


「わぁ! ナタリーさんって私のお姉様と同じ年だ。もしよければ、ナタリー姉様って呼んでもいいですか?」


「ナタリー姉様か・・・。私には妹がいなかったから、その呼ばれ方に少し憧れていたの・・・。ええもちろん、そう呼んでもらって構わないわ!」


「やった!」


「それでねマール、ちょっと聞いてもいいかしら」


「なんですか、ナタリー姉様」


「・・・あなたたち3人って、みんなアゾート様とご結婚なさるの?」


「正確には4人です」


「え、まだあと一人いるの! フリュオリーネさんと、セレーネさんとマールと、もう一人誰?」


「・・・今から言うことは、まだ内緒にしてくださいね。実はネオンもそうなんです」


「え・・・アゾート様って男もいけるの? そっか、両刀使いなのか」


「ち、ち、違います。ネオンって実は男装した女子で、セレーネの妹なんですよ」


「ウソ! 全然わからなかった。確かにすごい美少年だとは思ってたけど、女の子だったんだ!」


「しーっ! 声が大きいですナタリー姉様」


「ご、ごめんなさい。・・・でもすごいわね、4人も同時に奧さんを持つなんて、さすが騎士学園の学生にして伯爵位を手中に収めるだけのことはあるわね。しかもみんなすごい美少女ばかり」


「私は美少女ではないですけれど・・・」


「いいえ、十分美少女よ。でもどうしてみんな、アゾート様の事を独り占めしたいと思わないの?」


「みんながどう思ってるのかは私にはわからないけど、私は後からアゾートの事を好きになった一人だから、独り占めなんて気持ちは最初からなかったの」


「・・・それでもいいの?」


「うん。私は彼のそばに居ることができれば、それで満足なんです」


「どうしてそんなに彼の事を?」


「彼は家族仲の良くなかった私を精神的に支えてくれた大切な友人で、私の魔法を開発してくれた師匠でもあるんです。そしてポアソン家をナルティン子爵から守ってくれた恩人で、そして私の初恋の相手。今の私があるのは全て彼のおかげ。だから、私も彼に尽くしたいし、一生離れたくないの」


「そこまで・・・」


「たぶんフリュオリーネさんも私と同じようなものだと思う。理不尽な理由で婚約破棄されて、修道院に入れられそうなところをアゾートが引き取ったの。フリュオリーネさんの才能が勿体無いって。それで平民落ちした彼女を貴族に戻すって言ったんだけど、実はその言葉は中級貴族以上にしかわからないプロポーズの言葉で、アゾートは結局その言葉通りに彼女と結婚するとこに決まったの」


「ああ、平民女性を婚姻で貴族にさせるってやつね。でもそれで思い出した。この前王都に行って騎士学園時代に仲の良かった令嬢たちとお茶会をした時に、ある公爵家の悲劇の姫様の逆転恋愛劇の噂で持ちきりだったのよ。あの話って、フリュオリーネさんのことだったんだ」


「え、王都ではそんな噂になってるの?!」


「令嬢たちの間では人気の話らしく、今度舞台化されるという話もあるぐらいよ」


「え、舞台化?! ・・・それ、本人たちが知ったらどう思うだろう」





 ナタリーが感心してフリュオリーネをマジマジと見ていると、マールもナタリーの事が知りたくなり、少し質問をしてみることにした。


「ナタリー姉様の旦那様はどんな方ですか。シュトレイマン派の他家の貴族か、それともトリステン家の分家の方?」


「実は私はまだ独身なのよ。トリステン男爵のことがあったから極度の男性不信で。だからみんながアゾート様との恋ばなを楽しそうに話しているのがとても新鮮なの。私は恋をしたことがないし」


「そっか、まだ結婚されてなかったんだ・・・でもナタリー姉様は、これからはそうも言ってられないよね」


「え、どうして?」


「だって、ナタリー姉様は当主になるから、トリステン家の家門繁栄のために後継ぎを産まないといけないでしょ。早く誰かと結婚しないと」


「ウソ・・・私が男と結婚して後継ぎを産む・・・。ど、ど、ど、どうしようマール!」


「大丈夫よ、ナタリー姉様。そんなに焦らなくても、美人なんだしすぐにいい人が見つかると思うよ」


「男か、嫌だなぁ。だって、男なんて女を道具か何かみたいにしか考えてない生き物だし」


「そんな人ばかりじゃないよ。少なくても、アゾートは絶対に違うから」


「そうは言っても、男に対する考え方は急には変えられないけど。でも確かに我が主君のアゾート様は、そんなこと絶対にしないよね」

エピローグ後編もお楽しみください

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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界なのに指輪を渡す文化があるんですね。 だとしたらうかつで浅慮ですね。そういう事が余計な事ですね。
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