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第142話 凱旋

第135話から第142話までの進軍マップを挿入しました。



 救援要請に応じて領都より出撃してきた治安維持部隊を確認し、クロリーネ率いるシュトレイマン派連合軍への挟撃体勢を整えるソルレート領民軍。


「ロック司令官、ソルレート治安維持部隊が出撃してきましたが、兵数は予定より少ない推計2500程度。こちらに接近してきます」


「よし、彼らの攻撃と呼応してシュトレイマン派連合軍を挟撃するぞ。攻撃をそちらに集中せよ」


「はっ! ・・・いや待ってください、少し様子が変です」


「どうしたんだ?」


「シュトレイマン派連合軍が治安維持部隊に対して攻撃を開始する気配がありません。彼らを無視し、依然我々に対してのみ攻撃を続けています」


「どういうことだ?」


「治安維持部隊も・・・シュトレイマン派連合軍に攻撃を行わず・・・そのまますれ違って、こちらに向かって来ます」



「・・・・・」



「治安維持部隊が我々の陣営の前で停止し、隊長が前に出てきました。我々に向かって、対話を求めてきています。どうしますか」


「どうもこうもない。とにかく話をしよう」






 俺は馬から降りて、領民軍司令官のロックと対面した。


「お初にお目にかかります。俺はアゾート・メルクリウス。メルクリウス家の当主です」


「なっ!」


「情報封鎖をしていたので状況はご存知ないと思いますが、領都内では領民たちが反革命政府デモを起こし、政府の幹部は全て領都から逃亡してしまいました。ソルレート城もすでに領民デモ隊の手に落ち、治安維持部隊も武装解除されました。今ここにいるのは、領民たちが再編した新たな治安維持部隊です」


「いつの間にそんなことになっていたのだ」


「ソルレート城を占領したのは昨日ですが、治安維持部隊の再編が完了したのはついさっきです。あなたからの要請に応じて、急遽編成した治安維持部隊総勢2500名。元隊員が大半ですが、レジスタンスやその他の活動家、冒険者なんかで構成されています」


「すると、我々にはもう援軍はいないのか」


「はい。援軍どころか、ソルレート領民はすでにあなた方の敵になり、あなた方には帰る場所すらありません。もう降伏してください」


「降伏勧告か・・・」


「ええ、周りを見てください。南東にはメルクリウス軍11000、北側にはシュトレイマン派連合軍とマーキュリー騎士団の4000、南西にはベルモール・ロレッチオ両騎士団3000。そして我々治安維持部隊2500。総数20000以上の兵力で取り囲んでいます」


「・・・・・」


「我々は強力な魔法を封印して、なるべく領民兵に被害がでないように戦ってきました。そのために、農民兵が反乱を起こすように仕向け、戦線崩壊の隙をついて一気にこの状態を作り上げたのです」


「まさか・・・」


「我々はあなたたち領民軍の背後にブロマイン帝国特殊作戦部隊が控えていたことも知っています。そして、ボルグ中佐と直接対峙し、彼らはもうソルレートからいなくなりました」


「ボルグ中佐のことまで!」


「我々はソルレート領民に対して敵意を持っていません。むしろ革命政府の圧政から領民たちを解放したいと思っています。そして、領都の領民たち10数万人はすでにあなた方を敵と見なしています。これ以上、戦う意味などないと思いますが」


「・・・そうか、我々は本当に戦う意味を失ったのだな」


 ロックは自分たちを取り囲んでいる敵兵をぐるりと見渡すと、タバコに火をつけて一服し、それから一言告げた。


「わかった、降伏しよう」






 全面降伏した領民軍14000の武装解除を終え、敵陣営を接収した。この最終防衛ラインには、10000規模の兵なら短期間滞在できるような設備があり、当面はここに騎士団が滞在できるようにする。


 それと平行してロック司令官以下軍幹部を拘束していた際、司令官から思わぬことを告げられた。


「この基地の地下牢に、ソルレート革命政府のバンス議長以下閣僚を全て拘束している。俺たちを領都へ連れていくなら、彼らもまとめて連行するといい」


「逃げられたとは思っていたが、まさか領民軍に捕らえられていたとは」


「ああ、あのクズ野郎を見逃したとあれば、領民に顔向けができないからな」





 バンス議長以下革命政府幹部を地下牢から連れ出し、拘束具を取り付けていく。


「また会ったな、バンス議長」


「お前は・・・メルクリウス男爵」


「ソルレート城から逃げ出したかと思えば、まさか領民軍に拘束されていたとは、本当に笑えるな」


「くそっ・・・」


「ソルレート城は既に俺達が占領した。革命政府はもう倒され、お前たちはただの犯罪者だ。これから領都に連行されて裁かれることになるが、領民の怒りは相当なものだ。覚悟しておくんだな」


「・・・俺は処刑されるのか」


「さあな。これからお前の罪状を見て決定する」






 長かったソルレート侵攻作戦も、軍事的にはこれで終了となるが、この後も戦後処理が残されているため、しばらくはゴタゴタが続きそうだ。


 今回は関係者も多いため、まずはソルレートの支配権の所在や戦後賠償を整理しなければ、話が前に進まないだろう。


 そのためまずは、各領地の騎士団の幹部たちを、占領したばかりのソルレートに入城させなければならない。




 俺は城門の兵士に言って城門を開けさせ、各騎士団を順番に通過させていく。


 城門を開くと、領都の中心にそびえ立つソルレート城に向けて、北へと伸びる道幅の広いプロムナードがまっすぐに続いている。


 そのプロムナードを各騎士団がソルレート城へ向けて行進していく。


 プロムナードの両側には、目ざとい領民たちが多数押し寄せていて、ある者は物珍しそうに、ある者は不安そうな表情で、騎士団の行進を見つめていた。


 凱旋パレードのようにも見えなくもないが、領民たちからすれば占領軍の行進なのかも知れないな。




 領民たちにはこの近辺の騎士団の区別はつくようで、最初に入城したベルモール騎士団やロレッチオ騎士団に対しては、歴史的な繋がりから、安心感をもって迎え入れられていた。



 次に入城した我がメルクリウス騎士団やバートリー騎士団、そしてマーキュリー騎士団には全く馴染みがないらしく、領民たちは特に何の反応も示さなかった。


 領地が離れていて普段交流がないし、メルクリウス騎士団なんてまだ出来て1年目だし、知ってる方がおかしいよな。



 だが領民たちが強い反応を示したのは、パッカール騎士団を始めとするシュトレイマン派連合軍が入城した時だ。


 彼らは革命政府が誕生して間もなくこのソルレート領に侵攻し、パッカール領へ撤退した後も半年間戦闘を継続していたため完全に敵扱いだ。あるいはソルレート伯爵時代の記憶を思いだしたのか、シュトレイマン派連合軍へは激しいブーイングが待ち構えていた。


 ブーイングを受けた各当主たちも渋い顔で、足早にソルレート城へと馬を走らせていた。



 最後に行進したトリステン騎士団に対しては、ほとんどの領民たちは無反応だったが、一部貧民たちからは石やゴミが投げつけられた。


 恐らく、トリステン男爵の犠牲者の家族なのだろう。石を投げつけられていたナタリーには気の毒だったが、こればかりはどうしようもないので、我慢するしかない。



 ひとまず全ての騎士団を入城させた俺は、いつまでも騎士団の行進をボーッと眺めているわけにもいかず、兵士に城門を閉めるように命じた。


 そしてバンス議長たち革命政府の幹部達や、ロック司令官たち領民軍幹部を連行して城に戻って行くと、



「メルクリウス男爵万歳!」


「我々のリーダー、メルクリウス男爵に敬礼!」


「ニトロ! ニトロ! ニトロ!」


「我らが同志、革命闘士メルクリウス男爵、万歳!」


「アゾニトロさ~ん」


「ニトロ! ニトロ! ニトロ!」



 沿道につめかけた全ての領民が、俺に向かって拍手や声援を惜しみ無く投げかけてくれた。


 中にはスラム街の顔見知りもたくさんいたが、みんな満面の笑顔だった。


 この領都に来たばかりの頃は暗い表情だった領民たちも、今はみんな笑顔で喜んでくれて、俺も心の底から嬉しかった。 


 最初は俺もみんなに手をふって声援に応えていたのだが、そのうちなぜか涙が止まらなくなってしまい、泣いているところを見られたくなかった俺は、馬の速度を少し上げたのだった。




挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界史のとおり、一度民主制が根付いた地域を貴族が統治するの大変ですよね。 落としどころとしては旧ソルレートのみ立憲君主制ってところですかね。でも民主制って一定の教育水準無いと成立しないので…
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