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第14話 ラストスパート

前回はシリアスだったので、今回はラブコメ回です

「今日は勉強会やらないのか?」


「座学はもう十分なので、今日からは上級クラスとの対抗戦のための特訓をすることにしたんだ」


 座学においてもお前には負けられないので、昨日の分の勉強を取り戻そうと考えていた。

 しかし魔法の特訓をするなら、ちょうど都合がいい。


「わかった。俺は寄るところがあるから、先にシュミット先生の研究室にみんなを連れて行っててくれ」


 俺はセレーネを誘って、一緒に魔法の訓練しようと考えている。

 フリュオリーネたちからの嫌がらせを受けないように、セレーネは放課後の魔法訓練棟の使用を避けていたため、訓練場所に困っていたのだ。




「みんな、今日から中間テストまでの間、放課後に一緒に訓練することになったセレーネだ」


「セレーネ・フェルームです。よろしくお願いします」


 シュミット先生の研究室に集合していたクラスの勉強会のメンバーは、セレーネの突然の参加に驚きの声を上げた。


「せ、セレーネ様だ!」


「なんと神々しい、ぼくらの女神」


「やっぱり綺麗ねー。これは絶対に敵わないわ」


「あのっ、ま、魔法実技はフリュオリーネ様を倒して絶対に優勝してください。お、応援してます(キャッ)」


「ありがとう。あなたたちも上級クラスと対抗戦するんでしょ。一緒に頑張りましょう」


 セレーネの勉強会参加により、クラスの士気は格段に高まったと思う。

 セレーネも昨日見せた悲壮な面影はなく、普段通りの明るい感じに戻っている。ここに連れてきてよかった。


 勉強会が始まると、セレーネは早速クラスメイトたちに魔法戦における立ち回りや魔法使用時のちょっとしたコツ、魔力を高めるための訓練方法などを惜しげもなく披露した。


 クラスメイトたちも食い入るように、セレーネの話を聞いていた。


 そして早く実践してみようと、同じ役割同士で集まって、此処彼処で魔法の自主練が始まった。


 俺も早速魔力向上トレーニングを始めようと立ち上がったところ、マールが俺に話しかけてきた。


「ねえアゾート。光魔法の呪文をマスターすれば私も戦力になれるよね」


 自分もクラスのために力になりたい。


 そんな強い意思を込めた目でマールは俺を正面から見つめている。


 実にやる気に満ちた目だ。


 あの呪文か。


 古代魔法文明の悪意さえ感じるあの呪文を詠唱するのは、はっきり言って嫌だ。


 しかしマールの真剣な目を見ると、俺もいつまでも逃げ仰せるものではない。


 それにクラス対抗戦には必ず勝たなければならない。


 そしてマールは騎士クラスでも上位の魔力保有者。


 光魔法の呪文も全て解明されている。


 ならば答えはもう決まっている。


「わかった、やろう!」


「やった!」


 俺はシュミット先生に訓練用の個室を借りることにし、そこで光魔法の練習をすることにした。


 この時代にあの呪文の意味が分かるものは俺以外に誰もいない。


 だがしかし。俺にもプライドはあるのだ。


 人前で何度も何度も、魔法少女の変身シーンのような呪文を詠唱をすることなど、耐えられる訳がない。


 ならば。


 マールと2人でこっそり個室に入ろうとすると、


「どこに行くの?」


 ネオンだ。


 ネオンのやつ、いつも俺の行動を監視でもしているのか、こういう時は絶対に見逃すことがない。


「例の光魔法の訓練だ。この呪文はあまり人に知られる訳にはいかないので、個室でこっそり練習する方がいいのだ」


 だからクラスメイトにも気づかれないようこっそり行動したのに。ついでに恥ずかしいからお前も来るな、と言外に言ったつもりだったが、うまく伝わっただろうか。


「セレン姉様、アゾートがクラスで一番の美少女を個室にこっそり連れ込もうとしています」


「なんですって?」


 全く伝わっていなかった。


 しかもネオンはセレーネを引き連れてこちらにやってきた。


「私たちも一緒に行ってもいいのよね?」


 セレーネはいつもの笑顔だか目は全く笑っていない。ネオンは悪い笑顔でニヤリと笑った。コイツ。


 俺たちの様子を見ていたネオンファンクラブの女子生徒たちは、女の勘が働き、関わりあいになるのは危険と即座に判断。

 遠巻きに眺めて、勝ってな妄想を膨らますのだった。


「アゾートをめぐるセレーネ様とマールの三角関係?」


「アゾートとネオン様がマールを取り合っていて、婚約者のセレーネ様がそれを諌めている?」


「実は、アゾートとネオン様の禁断の恋?」


「「・・・それだ!」」


 よく分からない「何か」に目覚め、興奮するネオンファンクラブだった。


 そんな女子生徒たちの隣には、血涙にむせぶモテない同盟の姿があった。


「何が政略結婚にモテ要素は関係ないだ」


「ただただ羨ましい、恨めしい、憎たらしい」


「有罪だ、このやろう!」


 ちなみにダンはカインとともに剣術の訓練棟に行っており、今日この場にはいなかった。





【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ】ライトニング



 俺は、セレーネ、ネオン、マールの3人を前にして、ライトニングの詠唱を繰り返ししていた。


 セレーネとネオンは普段から日本語の詠唱をしているため、わりとすぐに詠唱を身につけることができた。


「なんでそんなに早くマスターできるの?」


 なかなか覚えられないマールは、恨めしそうに2人に文句を言っている。そんなマールに気づいているのかいないのか、セレーネとネオンは魔法談義に花を咲かせている。


「このライトニングの呪文ってどういう意味なのか、全くわからないわね。これ日本語なの?」


「セレン姉様でもわからないんだ。ファイアーの【焼き尽くせ】は焼き尽くせという意味で、ちゃんと火属性魔法らしく火に関係する呪文なのにね」


「そうなのよ。【煉獄の業火】とか【無限の炎】とか【爆砕】とか、なんとなく恐そうな雰囲気だけど、どれも火に関係する呪文なのよね」


「それに比べて【ぱぷりか ぽぷりか】は光とどういう関係にあるのかさっぱり分からないよね。ねえアゾート、これってどういう意味なの?」


「俺にもわからん。というか光属性魔法の呪文については俺に聞かないでくれ。正直、心がすり減るから」


「アゾートひどい! 光属性魔法のことをそんな風に言うなんて。せっかくアゾートが私のために作ってくれた魔法なんだよ。私すごく嬉しかったのに」


「どういうことアゾート! 婚約者である私には私だけの魔法を作ってくれたことないのに、なんでこの子には作って上げたの」


 頼むから真面目に練習してほしい。


 そしてさっきから、ネオンが悪そうな笑みを浮かべてニヤニヤと、うすら笑っている。


「そ、そうだ。もう一つの魔法・キュアも練習してみようか」


 こういう状態の女性には、もはや何を言っても自分にとって都合のいい話しか聞いてくれない。


 俺は長年セレーネとネオンに挟まれて同じような経験を何度もしているので、ここは華麗に話題をすり替えるのが吉だ。


 しかしネオンのやつ、もしかして意図的にこの状況を作り出していないか。


 一体何のために。




【キュア キュア キュアリン メディ メディ メディシン プリティーパワーで ナイチンゲールになあれ♥️】キュア



 ライトニングよりさらにひどいキュアの呪文を連呼し、俺は真っ白な灰になった。


「ねえアゾート。【キュア】ってどういう意味?」


「【キュア】はキュアって意味だよ」


「おーー!魔法名と同じだね」


「じゃあ【メディ】は?」


「その後ろに続く【メディシン】が薬っていう意味だ」


「おーー、意味があってる」


「【ナイチンゲール】って?」


「世界的に有名な看護士で衛生の重要性をうったえ、クリミヤ戦争で多くの傷ついた兵士の命を救った英雄の名前だよ、確か」


「すごいすごい。じゃあ【プリティーパワー】は?」


「かわいいちから? かわいいは正義? 俺もよくわからん。と、とにかく意味なんかどうでもいいので、呪文を覚えたなら早速練習してみよう。特にセレーネとネオンは魔力をごっそり消費させられてしまうので、どれかワンフレーズだけ選べ。俺は【キュア】かな」


「「「じゃあ【プリティーパワー】で」」」


 お前ら全員、よりによってそれかよ。




 それからも対抗戦の対策は着々と進み、いよいよ中間テストを明日に控えるのみとなった。


 今日は最後の仕上げに全体の動きを確認するため、剣術の訓練棟に来ていた。セレーネは今日も一緒だ。


「それではそれぞれの役割を再確認します。魔法攻撃の中核はネオンで、ファンクラブの皆さんはネオンを護衛する騎士です」


「はーい」


「敵陣に突撃するのはネオンを除く男子全員です」


「おう!」


「俺は前衛から魔法もバンバン打ちまくるので、俺が魔力切れになったら、後の事はよろしく頼むぞネオン」


「了解」




 そうしてしばらくの間、俺たちが練習を続けていると、今一番顔を見たくないやつがやってきた。


 ハーディンだ。


「よう下等騎士ども、お元気かね。明日の対抗戦の練習に必死のご様子だな」


「なんか用か?」


「努力しても絶対に俺たちには勝てない哀れなお前たちが、どんな練習をしているか笑いに来てやったのさ」


「お前、ずいぶん暇だな」


「ふんッ、弱すぎて醜態をさらさないように、綺麗な負け方の練習でもしておくんだな。 ん? お前はっ!」


 ハーディンはセレーネを見つけるなり、怒りの形相を顕にした。


「お前はセレーネ・フェルーム!よくも俺の前に顔を出しやがったな、この死神が!」


 急に何を言い出してるんだコイツ。突然悪意に曝されたセレーネが怯えている。


「2年前の内戦の恨みは忘れない。次の機会があれば真っ先にお前をぶっ殺す! いや、散々オモチャにした後で奴隷商人にでも売りさばいてやる。ヒヒヒヒヒ」


 後ろ暗い妄想に歪めた顔で、セレーネをなめるように見つめるハーディン。


「ふざけるな!お前は自分が何を言っているのか理解しているのか!」


「理解しているさ。この女に殺された一族の恨みは、忘れた事がない」


「なら俺を恨め。セレーネが使った大砲の開発者はこの俺だ」


「あれをお前が作っただと。お前ごときにそんな事ができる訳がないだろう。だがわかったそういうことにしといてやるよ。そして俺は生きている限りお前を徹底的に潰してやるよ。あ、そうだ今度、剣術訓練棟も使用禁止にしてやろうかな。フハハハハハ」


「このやろう!」


 俺がハーディンに掴みかかろうとしたところで、それを制する女性の声がした。


「みっともない争いはお止めなさい」


 訓練棟に入ってきたのは、生徒会副会長のフリュオリーネとその取り巻き令嬢たちだった。


 シンと静まり返った訓練棟を、ゆっくりとこちらに歩いてくるフリュオリーネ。


 全てを見下すような冷たい目でまわりを威圧しつつ、口許を扇子で覆い隠しているため、どんな表情をしているのかはわからない。


 まわりの令嬢たちも同じような扇子で口許を隠しているが、そこから漏れるクスクスという笑い声だけが、静まり返った訓練棟にこだまする。


「これはフリュオリーネ様、ご機嫌麗しゅう」


 ハーディンがフリュオリーネに貴族式の挨拶をした。


「何事ですか」


「この騎士クラスの者たちに貴族の礼儀作法というものを教えていたところです。ただ、この者たちは魔法訓練棟の使用を禁止されてもまだ身分をわきまえないバカの集まりなので、僕もいい加減相手をするのに疲れて果ててしまいました」


 あきれ果てたとばかりにため息をつくハーディンを一瞥したフリュオリーネは、俺たちの方に視線を移し、俺たちの中にセレーネの姿を見つけた途端、何も言わず彼女を睨み付けた。


 それに気づいた取り巻き令嬢の一人が扇子で口許を隠しながら大声で笑い始めた。


「あらあらまあまあ、セレーネ様ではございませんか。ご機嫌麗しゅう存じますわ。さてはフリュオリーネ様との魔法戦に備えて練習でございますね。あらでもここ剣術の訓練棟ですわよ。さては魔法では敵わないから剣術で突撃でもなさるおつもりなのでしょうか。オホホ」


「まあ、嫌ですわセレーネ様、はしたない。魔法戦は剣術で戦うものではございませんわ。そもそもフリュオリーネ様と対戦できるかどうかも分からないのに、ご自分の実力を高く見すぎているのではありませんか」


「まあ、本当のことをおっしゃっては貴族としてはしたのうございますわよ。もう少しオブラートに包んだ表現を心がけないと。あら、でもそれだとセレーネ様には何も伝わらないですわね」


「その通りですわね、オホホホホ」


 いつまでも終わらない取り巻き令嬢の嘲笑に我慢の限界が来た。何か言い返してやろうと口を開きかけた時、


「皆様、時間の無駄ですわ。あなたたちもとっとと解散なさい」


 そう言い残して、フリュオリーネはとっととこの場を後にしてしまった。

 それについて行く取り巻き令嬢たちと、イヤらしい笑みを浮かべながらハーディンがその後に続いて訓練棟を去っていった。


 セレーネが悔しそうにうち震えている。ネオンがそんなセレーネに寄り添い何かを話しかけている。


 クラスメイトの中には落ち込んでいる者、悔しくて泣いているもの、悔しそうに震えているもの様々だが、みんな一様に黙ったままだった。



 あいつら絶対に許せない。


 下級貴族だからって、俺たちの騎士の名誉を踏みにじったことが許せない。


 だがそれ以上に、ここまで悪し様にセレーネを罵った事が許せない。


 今は戦乱の世の中。下克上だ。


 いつまでも今の立場でいられると思うなよ。平和ボケしていたことを、必ず後悔させてやる。



 俺の中で何かがプツリと切れた。



「なあみんな。俺たちをバカにしたあいつらには、いずれきっちり報いを受けてもらおう。それにはまずクラス対抗戦だ。ここで奴らを血祭りに上げてやろう。衆人環視の中で、上級クラスなんて大したことないと、赤っ恥をかかせてやろうじゃないか!」


 うつむいていたクラスメイトたちの目には、闘志の炎が少しずつ甦っていった。



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