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第138話 バンスの逃亡

 デモ隊リーダーとの討論に敗北し、治安維持部隊の支持までも失ったバンスは、領都ソルレートに自分の支持者はもはや誰もおらず、自分が完全に追い込まれていることをようやく理解した。


「まさか、あいつ本当にメルクリウス男爵なのか」


 去年ソルレート伯爵を倒したのが、男爵になったばかりの騎士学園の1年生だと聞いていた。だが目立った戦績がなかったため、ボルグ中佐からも大した情報提供はなかった。


 そのメルクリウス領は湖の遥か向こう側に位置しているが、直接領地を接しているわけではなく、現在はベルモール騎士団に僅かな増援を送るのみで、我々とは交戦状態にない。


 仮に参戦するとしても、ベルモール・ロレッチオ両騎士団と連携するか、艦隊を編成して湖を横断してくることを想定していた。なのに、


「まさか当主自らが冒険者として、スラム街の貧民やレジスタンス、それに野党議員を引き連れてデモ隊のリーダーになるなんて、メチャクチャだ」


 あまりに斜め上の展開に、メルクリウス男爵だと言われてもハイそうですかと素直に受け入れられない。しかし、先ほどの討論会の話がバンスの心に重くのし掛かる。


「俺の権力の正当性の根拠が領民たちからの支持。確かに養成所ではそう勉強したが、実感としてはわからなかった。俺は民主主義を表面的にしか理解していなかったのか。だがおかしい。あいつは王国貴族のクセに、なぜ俺よりも民主主義を語れるのだ・・・」


 いろいろと腑に落ちないこともあるが、今さら考えてみても最早手遅れであり、全領民を敵に回した今、このままソルレート城にいても逆転の目はない。


 領都から脱出することを決意したバンスは、急いで執務室に戻り秘書官に脱出の準備を整えるように命じた。




 内務局長たち政府幹部もバンスとは立場が同じであり、デモ隊に拘束されればいずれは断頭台の露と消える運命であることが容易に想像することができた。


 そんな政府幹部たちがバンスとともに、ソルレート城の秘密の脱出通路を使って城外に抜け出す。地下通路をひた走り、着いた先は湖に通じる地下水路だった。そこに脱出用の船が配備してあるのだが、


「艦艇が半数以上なくなっている」


 この時、バンスは悟った。


 ボルグ中佐たち帝国兵は、すでに全員ここから脱出したことを。


 自分が見捨てられた悔しさを感じつつも、今は脱出を急ぐ。


「よし、全員船に乗り込んだら出発するぞ」






 脱出用艦艇で無事ソルレート城を脱出したバンスたちは、地下水路から川の支流へと入り、やがて湖へと到達した。ところが湖の入り口では数多くの艦船が整然と並び、臨戦態勢をとっていた。


「秘書官あれはなんだ」


「あれは我がソルレート艦隊です」


「そんなこと見ればわかる。なぜあんなのが湖の入り口にいるのかと聞いているのだ。俺たちが逃げるのに邪魔だ。なんとかならないのか」


「そんなことを私に言われましても」


「全く役に立たない秘書官だな、お前は・・・いや待てちょうどいい。この船から艦隊の旗艦に乗り換えて、湖からソルレート領を脱出しよう」





 領都ソルレートの騒動がまだ伝えられていない領民軍では、突然のバンス議長他政府幹部の視察に慌てて、幕僚たちが旗艦の艦橋へと丁重に案内した。そこで艦長が、ベルモール・ロレッチオ連合艦隊の接近と、これから始まる艦隊決戦について説明をした。


 これが港湾都市バーレートの守備隊との連携作戦であると聞いたバンスたちは、どさくさに紛れてバーレートから海に逃れるためこの作戦を利用しようと思い、すぐに作戦を開始するよう命令すると、


「司令部からはまだ攻撃指示が出ていません。今確認しておりますので、しばらくお待ちください」





 しかし、領都ソルレートからデモ隊が追いかけて来るのを恐れたバンスは、艦長の意見を無視して直ちに出撃するよう命令する。


「ソルレート革命政府の軍隊の最高司令官は、元首であるこの俺だ」


「いやしかし、現場の指揮権は司令部が持っているはずです」


「黙れ。最高司令官が直接指揮をとるんだから、部下である司令部は俺の命令を覆すことはできない」


「しかしそれでは、現場が混乱すると思いますが」


「司令部には後で伝えればいいだろう。とにかく最高司令官が命令する、全艦発進せよ」


「はっ! 失礼いたしました。それでは、全艦発進致します」





 ソルレート艦隊が基地を出発してしばらくすると、前方はるか先に敵艦隊が確認できた。ベルモール・ロレッチオ連合艦隊だ。


「議長、敵艦隊です。事前の情報通り大型艦6に哨戒艇40。ただし敵艦隊の速度は遅く、恐らくですが揚陸用の騎士団や装備等が多数積み込まれている模様。艦数も我々よりも少ないため、我々は敵艦隊を取り囲む形で遠隔攻撃を主体にし、確実に敵の損耗を強いるよう、艦隊運動へ移行します」


「艦長、それでは時間がかかりすぎる。密集隊形をとり敵中央を突破せよ」


「なぜですか。そんなことをしたら後背のソルレート領ががら空きになってしまいます。敵艦隊に騎士団の揚陸を許してしまいますが、よろしいのですか!」


「その前に一気に敵艦隊を撃沈してしまえばいいではないか。数の暴力で叩き潰せ」


「・・・はっ、全艦密集隊形で敵艦隊に突撃せよ」






 ベルモール艦隊旗艦でソルレート艦隊の突撃を確認したマミーは、連合艦隊全艦に指示を伝えた。


「艦長。敵艦隊は愚かにも密集陣形で我が艦隊に突撃を仕掛けてきたようね。ここからはフリュちゃんが作ってくれたマニュアルの作戦Aでいくわ」


「作戦Aですか・・・ソルレート艦隊は、もう少しまともな艦隊運用を行うと思っていたのですが、まさかこんな作戦を使うことになるとは」


「いいじゃない、わかりやすくて。この作戦は一言で言うと、大型艦3隻による砲撃サイクルね。まずは一番艦である当艦から大砲を発射。発射後直ちに三番艦の後ろまで後退し、二番艦が大砲を発射。二番艦も砲撃後、最後列に移動して三番艦に先頭を譲るの。これを繰り返すだけよ」


「では、ロレッチオ艦隊のエリーネ様にもその旨連絡致します。通信兵、ロレッチオ艦隊へ作戦を通達!」


「よろしくお願いね。さあ、ここからが私たちの戦争よ。火属性魔法がファイアー縛りだから大砲が命。張り切っていくわよ!」





 艦橋で敵艦隊艦隊の様子を確認していたバンスは、先頭の大型艦から何か光が発せられたことに気が付いた。


「おい艦長。敵艦の甲板で何か光らなかったか」


「ええ、確かに光りましたが、あれはなんでしょう」


「俺が聞いてるんだよ! ちっ、知らないのなら別にいい。それよりも我が艦隊の攻撃はまだか」


「あと少しで敵艦隊は、我がボウガン部隊の火矢の射程に入ります」




 ドーン!  ドーン!


「ん、何だ今の音は?」



 バキャッ!


「今度は何の音だ!」


「議長! 我が艦隊の先頭艦が突然爆発し火災が発生しています。また、右翼の哨戒艇部隊付近に巨大な水柱が立ち、複数の艦艇が横転しています」


「何事だ一体!」


「分かりませんが、おそらく敵の攻撃です。敵の先頭艦が後ろへ後退していき、後方の敵二番艦からまた謎の光が放たれました」


「どうなっているんだ! 敵はどんな攻撃をしてきているんだ!」


 ドーン! メギャッ!


「議長二番艦も大破! 敵はかなり射程の長い武器を持っているようで、我々が敵を射程にとらえる前に彼らの的にされています。一旦態勢を整えるために、後方へ下がりましょう」


「何を言っている! 敵艦の足は我々より遅いのだろ。全速力で前進すれば、我々の射程に入るはずだ。全速前進せよ!」


「・・・いやこれは。敵の攻撃の正体がわかった気がします」


「本当か! それでその攻撃とはなんだ」


「敵の連合艦隊にはメルクリウス騎士団の支援がついています。あの騎士団は、ソルレート管理戦争の際に、城塞都市ヴェニアルを陥落させていて、その時に使用した謎の兵器を使用したのではないかと」


「謎の兵器だと?」


「はい。当時の目撃者が少なくはっきりしたことは分からないのですが、先ほど同じような轟音とともに、堅牢な城壁が木っ端みじんに爆発したとか」


「・・・それで? 具体的にはどのような兵器なのだ」


「それが謎でして」


「それでは敵の攻撃の正体が全然わかっていないではないか。もういい、全艦突撃!」


「・・・はっ、全艦隊全速前進」





 ベルモール艦隊旗艦では、マミーが矢継ぎ早に指示を出していた。


「全艦隊後方に下がりつつ、砲兵隊は精密射撃で確実に敵大型艦を沈めて。ロレッチオ艦隊は足の速い哨戒艇を無力化するために、そちらへの砲撃に専念。的の小さな哨戒艇には砲弾を命中させなくていいので、密集度の高いエリアに向けて高軌道から砲弾を落下させて、船を転覆させるよう心掛けてね」


「はっ!」


「よーし、次は私の一番艦の順番ね。どれを狙おうかしら・・・一番奥にいるのが敵艦隊の旗艦か。堅実な戦いはエリーネやみんなに任せてるし、私はここで大穴を狙っても、少しぐらいなら許されるはずよね」


「まさか、ここから敵旗艦を狙うのですか?」


「フッフッフ、ギャンブラーの血が騒ぐわ。旗艦はかなり遠いから、少し強めの魔力で仰角41度にセットして・・・エクスプロージョン!」





「おい艦長! まだうちの射程距離に入らないのか。このままではやられっぱなしだぞ」


「それが、哨戒艇が次々に転覆させられている上、先頭を行く我が方の大型艦が炎上して、前に進めません。密集隊形が完全に仇になっています。敵はわざと我が艦隊の進行を妨げるように攻撃を仕掛けているのです。敵との距離が一向に縮まりません」


「貴様、今俺の作戦指示にケチをつけたな! やられた船などとっとと避けて、全速力で突撃すればいいじゃないか!」



 ズガガーーン! バキバキッ! メギャッ!



「なんだこの大きな揺れと爆発音は・・・まさかこの艦が攻撃を受けたのか。ふ、船が傾いてきたぞ!」


「議長、当艦もやられました。・・・当艦のマストがへし折られて、おそらく航行不能です」


「・・・そんなバカな。俺たちは艦隊の最後尾だぞ」


「・・・脱出のご準備を」


「このまま何もできずにソルレート艦隊が負ける? 俺が余計な事を言ったせいなのか・・・艦長の作戦通りにやれば勝てたのか?」




 やがて船が大きく傾き始め、脱出を急ぐ船員たちにもみくちゃにされながら、なんとか脱出ボートに乗船したバンスが見たものは、次々と沈没していくソルレート艦隊の艦艇と、荒れた湖面にもまれながらなんとか戦場から逃げようとする大量の救命ボートの群れだった。


「助けてくれて~ 俺たちもボートに乗せてくれ」


 湖に投げ出されて助けを求める船員たち。バンスの乗ったボートにしがみつこうとする船員の手ををふりほどき、バンスはボートの漕ぎ手に命令した。


「こいつらを乗せたら、俺たちが逃げ遅れてしまう。早く岸まで戻るんだ」


「いやしかし、ボートにはまだ空きがあるので、助けられるだけ乗せるべきなのでは」


「そんなことをしたらボートが遅くなるだろう。早くボートを出せ」


「・・・はっ」


「待ってくれ! 俺もボートに乗せてくれ!」


 バンスは湖で助けを求める船員たちを見捨てて、湖入り口の基地に向けて、急ぎ逃げ戻っていった。

バンス議長とアゾママしか出てこなかった・・・


次回は頑張ります

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